鏡の中の愛 作:鏡の国のアリス
こんばんは
推しの子の二次創作を色々読み漁ってるんですけど色々な展開があって全部面白い。
こうなったら俺も書くしかねえ!って事で筆を取った次第です。
暖かい目で見守っていただけたら幸いです。
1 ミラーニューロン
ミラーニューロン(英: Mirror neuron)とは、霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように"鏡"のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられている。
引用:Wikipedia
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幼い頃の俺は父さんが大好きだった。
父さんは俳優で、色々な作品に出演していた。
母さんも女優をやっていたけれど。俺は父さんが出演している作品ばかりを見ていた。
時には悪役、時には刑事、熱血教師、性悪な弁護士、はたまた極道の若頭まで、まるでカメレオンのように、色んな人間に変身する父さんはカッコよかった。
俺は父さんと一緒に、父さんの演技を見るのが大好きだった。
俺のせいで、頻繫に自分の出演作を見る羽目になっていた父さんは恥ずかしいな、なんて言って笑った。
けれど、俺が褒めると誇らしそうに笑いながら俺の頭を撫でてくれた。
父さんの大きくて優しい手に撫でられるのが、俺は大好きだった。
俺も将来、父さんみたいなカッコよくて優しい人になりたいと思った。
ある日、大好きだった父さんが交通事故で死んだ。
その頃の俺は幼く、まだ死ぬという意味がよく分かっておらず、あまり悲しいとは思わなかったし、涙も出なかった。
父さんの葬式で、母さんが泣いていた。父さんが眠る棺に縋りつくように、行かないで、目を開けて、と嗚咽を繰り返していた。
「母さん、だいじょうぶ?」
俺が声をかけると、母さんはゆっくりと顔を上げて、俺の目を見た。
母さんの泣き腫らした瞳と、俺の瞳が交差する。
幼い俺の前で泣いてる姿は見せたくなかったのか、母さんは涙を堪えていたけれど、結局堪えきれずに大粒の涙を零した。
涙を流す母さんに優しく抱き寄せられる。胸の中で暖かい温もりを感じていると、母さんは抱きしめる力をさらに強め、言葉を絞り出した。
「大丈夫よ。貴方は、私が守っていくからね。あの人の分も、私が……!」
母さんが俺を抱きしめていた手を緩め、再び俺と目を合わせる。母さんは相変わらず泣いていたけど、俺の顔を見た瞬間、泣きながら優しく微笑んだ。
母さんの瞳を見つめていたら、
父さんが死んで悲しいという気持ちで、胸が溢れて苦しくなった。
でも、悲しいという気持ちだけじゃなく、私が父さんの代わりにこの人を…母さんを守らないといけないと、強く思った。
私は母さんの瞳を見つめたまま、同じように泣きながら微笑んだ。
「母さんは、私がまもるから。だから、泣かないで」
そう言って、母さんの頬を流れる涙を小さな手で拭う。
「ありがとう…リオンは優しいね」
母さんは柔らかい表情を浮かべて、私の頭を優しく撫でた。私も手を懸命に伸ばして、母さんの頭を撫でる。
私の頭に乗せられた母さんの手は、父さんの手よりは小さかったけれど…同じくらい暖かくて優しかった。
父さんはもういないけど、父さんが生きた証なら残ってる。
出演した映画に、ドラマに、観客の心の中に。そして…私という存在に。
父さんはもういないけど、父さんの意思はここに残ってる。
この日、私の目標が決まった。
「母さん。私、決めた」
「なにを?」
「父さんみたいな俳優になる。…ううん、父さんを超えるような俳優になる」
私がそういうと、母さんはキョトンとして目を丸くする。数秒の沈黙の後、優しい表情で口を開いた。
「…リオンならきっとなれるわ」
「きっとじゃなくて、絶対なるの」
母さんと目が合った。2人して笑って、瞳から大粒の涙を零した。
ーーー
リオンの父の葬式が終わり、諸々の手続きが済み、世間のざわめきも漸く落ち着いた頃。
リオンは母親が所属している事務所に子役として所属することになり、子役として毎日、レッスンに明け暮れた。
演技のレッスンは厳しく、泣いてしまうこともあったが、実力派俳優の父と天才女優と呼ばれている母の遺伝子を確実に受け継いだリオンは、教わること全てを吸収し、みるみるうちに上達していった。
レッスンの先生も日に日に上達していくリオンを褒め、母親も「うちの子は天才よ!」と言って歓喜の涙を流していた。
少し大げさだなあとリオンは思ったが、母が喜んでいるのを見ると自分も嬉しくなり、一緒になって涙を流して喜んだ。
演技のレッスンだけではなく、礼儀作法の勉強や、コミュニケーションなど、リオンはいろいろなことを学び、持ち前の才能でどれも凄まじい速度で吸収してきた。
しかし、演技の才能があるリオンだったが、なかなか大きな仕事は貰えずにいた。
天才女優の息子という肩書があるとはいえ、業界からすればリオンはただの新人子役。そのネームバリューのお陰で度々オファーが来ることもあったが、主役などの大きな仕事を貰うことはなかった。
オーディションを受けさせてほしいと、母に直談判したこともあったが、リオンはまだ幼稚園に通うような年齢だ。母に「焦らなくていいのよ」と諭され、リオンもそれに納得した。
レッスンを繰り返すだけの毎日が過ぎていく。
リオンはレッスンは好きだったし、特に不満はなかった。だが、同年代の子役が「10秒で泣ける天才子役」などとテレビで持て囃されているのは、少し気に入らなかった。
俺の方がもっと上手くできると思っていたが、芸能界は実力だけで全てが決まる世界ではない。そのことを子供ながら何となく理解していたリオンは、不貞腐れずにレッスンを続けた。
そんなある日、母の撮影を見学しに行ったリオンに転機が訪れる。
母の演技を間近で見学し、天才女優から何かを盗もうと集中しているリオンに、その現場の制作陣の1人が声をかけた。
「よう、坊主。随分熱心に見てるな」
リオンを見下ろすように声をかけてきたのは、口周りにポツポツと髭を生やし、髪の毛をミディアムロングに切り揃えた男性だった。
傍から見れば子供にガラの悪い大人が絡んでいるようにしか見えないのだが、リオンは特に臆することなく言葉を返す。
「はい。母さんが演技しているので」
「母さん?…ああ、お前、石動玲奈さんの息子か。名前は?」
「石動リオンといいます。いつも母がお世話になってます。ええと、貴方は…五反田監督、ですよね?」
リオンが母に仕込まれた通りに礼儀正しく挨拶すると、五反田と呼ばれた男は目を丸くする。数秒呆けた後、気を取り直した男は口を開く。
「よく知ってたな」
「主要な関係者の方々の名前は、覚えるようにしてますので」
五反田はその言葉を聞き、再び驚きを露わにする。
今回撮影しているのは2時間サスペンス。主要な人物限定といえど、出演する俳優陣に裏方も含めれば、関係者の数はかなりの数になる。それを全員覚えていると年端のいかない子供が豪語したのだ。例え大人の人間といえど、この現場に携わる主要な人間全員の顔と名前を覚えるのは苦労するだろう。驚くな、というのが無理な話だ。
「滅茶苦茶に礼儀正しいな。最近のガキってのはみんなこうなのか?」
「自分以外はどうか分かりませんけど、自分は母から色々と指導されてます」
「なるほどねえ…英才教育ってやつか。じゃあお前、演技もできるのか?」
「はい。演技も母から仕込まれてます」
「へぇ、あの天才女優仕込みの子役か。面白い、なんかやってみろ」
「…なんかと言われても…」
あまりにも無茶振りがすぎる。
リオンの演技力は母親も唸らせるほどだったが、それは定められた役がある場合の話だ。その場で何かやってみろと言われて直ぐに実行できるような即興性は、まだ身につけていない。
「あー…急に何かやれって言われても困るよな。んー、そうだな…」
「そんなことねえよ。やろうと思えばできる」
「…は?」
──────今、この瞬間までは。
リオンに無茶振りを投げ付けた五反田は、目を見開いて固まる。
目の前にいるのは、先程まで会話をしていた少年。見た目が変わった訳でもない。声も先程と同じだ。しかし、纏う雰囲気が先程までとは全く違う。
細かい仕草が、雰囲気が、目線の動かし方が、何もかも違う。そしてそれは、五反田が1番よく知っている人物のものと全く同じだった。
ここにいるのは、本当に無名の子役か?
これはまるで……。
「俺みたいじゃねえか」
「……っ!」
五反田の思考を読んだかのようなタイミングでリオンが言い放った。自らの思考を先読みされた五反田の背筋が凍り、嫌な汗が背中を伝う。畏怖にも似た感情が、五反田の全身を駆け巡る。自分の中にあるもの全てが見透かされていると、そう思ってしまう。
「そんなビビんなって。取って食おうってわけじゃねえさ」
なんだ、こいつは。
仕草も、雰囲気も、言葉遣いも、果てには思考パターンまでも、この短時間でトレースしたというのか。
目の前にいるのはただの子供。見た目も、身長も、声の高さも、先程までと全く同じ、石動リオンのもの。年端もいかない少年のもの。それは疑いようもない。
ただ、目の前にいるのは少年ではないと、五反田の本能が理解する。
纏う雰囲気が、仕草が、この子供が放つ全てが。ここにいるのは石動リオンではなく、五反田泰志だと訴えかけている。
鏡の前に立っているかのような錯覚。そう思わせるほどに恐ろしく、圧倒的なオーラ。
それを放っているのが、幼稚園に通うような子供だというのだ。五反田は脳みそが破壊されそうだった。
「はは…」
五反田は天を仰ぎ、乾いた笑い声を漏らす。
何でこんな子役が無名なんだ。何だこの子供は。何だこの人間は。
こいつは天才なんてもんじゃない。
──────バケモノだ。
「こんな感じでどうでしょう?すみません、演技とはいえ生意気な口をきいてしまって」
「…あ、ああ。大丈夫だ、気にすんな」
リオンの口調が元に戻ると同時に、先程まで纏っていた"五反田泰志"としてのオーラが霧散した。
その様子を間近で目撃した五反田は、ただ引き攣った笑みを浮かべることしか出来なかった。
今のが演技だと?ふざけるな。演技なんてレベルじゃない。何をしたらそんなことが出来るんだと、叫び散らしたい気分だったが、理性を働かせて何とか堪える。
「いや、なんつーか、圧倒された。すげえな、お前」
「ありがとうございます」
こいつは、将来化ける。いや、もう既に化け始めている。将来は芸能界最高峰の俳優になる。これは予想ではなく、確信だ。このままいけば、確実にそうなると、自信を持って言える。
こいつを使ってみたいという欲求が、五反田の中で渦巻く。
自分の作品で、自分の世界で、こいつを彩りたい。…否、自分の世界を、こいつに彩らせたい。
五反田にそう思わせるには、先程の衝撃は十分すぎた。
「…ふー…」
五反田は自らの腰に手を当て、深く息を吐く。数回の深呼吸で自分の中の昂りを抑え付け、極めて冷静に言葉を発した。
「いいね、気に入った。今度俺の映画を撮影するんだが……良かったら出ねえか?」
五反田の発言に、今度はリオンが言葉を失う番だった。あまりにも急な話に、思わず疑いの目を向けてしまう。
子供であるリオンを通して、母親の玲奈に近づこうとする輩は少なくはない。
今までも何人もの人間が母親目的にリオンに近づいてきたが、その企みは全てリオンによって阻止されていた。
リオンは幼いが、他人を見極める目には誰よりも長けていた。
今回も、そういった類の話かと、リオンは疑ってかかる。疑われていることに気づいたのか、男は頭を搔きながらため息交じりに言葉を吐いた。
「そんなに怪しむなよ。映画といっても超低予算の小さい現場だ。キャスティング権は監督の俺にある。俺がお前を使いたいと思ったからオファーしてるだけだ」
胸を張って言う男からは、噓の色は見えなかった。リオンは一先ず、目の前の男を信用することにした。
「ありがたいお話ですが、自分だけでは決められないので…」
「ああ、返事は後日でいい。ほれ、これ連絡先」
男はそう言い、リオンに名刺を手渡す。
名刺には五反田泰志という名前と、電話番号が書かれていた。
「ありがとうございます」
「おう、良い返事待ってるぜ。じゃあな、坊ちゃん」
五反田は軽く手を挙げ、持ち場へと戻っていく。リオンは五反田の背中に向けて会釈をし、再び母親の演技に目線を向けた。
母親の一挙一動を見逃さないように、目を光らせる。母親の全てを、天才女優・石動玲奈の全てを観察し、自らに落とし込み、血肉へと変えていく。
リオンの意識は、底知れぬ集中の海へと、深く沈んでいった。
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