鏡の中の愛   作:鏡の国のアリス

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こんばんは
全話は賛否両論でしたね。そらそうよ。俺だって「これ大丈夫かよ…?」って感じだったもん。
まあ暖かい目で見守ってくだせえ


19話

 

 森林公園での撮影の後、バスに揺られて東京へと戻るメンバー達。何人かは疲れて眠りについているが、俺の隣に座ったアクアは目を開いていた。

 周りにいるメンバーを起こさないよう、隣へ向けて小さな声で言葉を投げかける。

 

 「やってくれたな」

 

 「面白かったぞ、お前の驚いてる顔。で、どうだ?刺された気分は」

 

 アクアは悪い笑みを浮かべ、少し楽しそうに口を開いた。俺の意表を突けたのが嬉しいのか、いつもより上機嫌に見える。

 俺はアクアに対して「逃げんなよ」とか挑発的なことを言ってきたが、まさかここまで刺しに来るとは思っていなかった。

 アクアの策に感心すると共に、この展開を読めなかった自分に腹が立つ。だが、まあ……。

 

 「意外と悪くない気分かも」

 

 「うわ……お前Mだったのかよ」

 

 「違う」

 

 アクアが滅茶苦茶ドン引きしてる。

 確かに今の言い方はMっぽかったかもしれない。ただ、実際に悪くない気分なのは間違いない。

 なんていうか、この弟子を喜ぶ師のような……悔しさと喜びが混ざり合った複雑な感情。

 この感情は今までの俺が知らなかった感情だ。新しい感情を知り、また1つ成長できた。それだけで、この番組に出た価値がある。

 

 「次回からはもっと面白くなりそうだ」

 

 「ああ、そうかもな」

 

 アクアが投げ込んだ色がどう作用するかはまだ分からないが、更に面白くなるのは間違いない。

 その点に関しても、こいつに感謝しないとな。

 

 「ありがとな、アクア」

 

 「は?なんだよ急に。気持ち悪いからやめてくれ」

 

 ただ感謝の言葉を伝えただけなのに酷い言われようだ。こいつもしかして……ツンデレか?

 

 ︎︎「あ、今日飯食い行っていい?」

 

 ︎︎「またかよ。まあいいけど。ルビーに連絡しとく」

 

 ︎︎「ありがてえ…」

 

 ︎︎「感謝しすぎだろ。飢饉かよ」

 

 ︎︎両手を合わせ、まるで神に祈るかのように感謝を告げると、アクアのツッコミが飛んでくる。

 ︎︎本日の夕飯がコンビニ弁当から星野家での食事に変わった。やったぜ。

 

ーー

 

 アクアが水槽に劇薬を投じ、中の水を濁らせた。

 当然というか何というか、その回はSNSを中心に大きな話題を呼び、下手人であるアクアは一気に番組の中心へと躍り出た。

 以下、某掲示板の反応を抜粋したものである。

 

 『アクリオ!?』

 

 『キマシタワー!』

 

 『え、アクアとリオンが幼馴染ってマジなの?』

 

 『流石に適当言ってるだろ。今までそんな素振りなかったし』

 

 『いや、マジかもしれん。調べたら3歳くらいの時に映画で共演してるわ』

 

 『まじ?あの2人幼馴染なんか。知らんかった』

 

 『どっちもスペック高すぎる。それに比べてワイときたらハゲデブニート童貞や……』

 

 『泣くなよ。泣きたいのはお前の親だぞ』

 

 『草』

 

 『つーか高校も同じっぽいな』

 

 『らしいね。ちな、不知火フリルも同じ高校』

 

 『プライベートでも修羅場起きるやんけ』

 

 『クラスメイト気まずすぎる』

 

 『で、アクアくんは結局アーッ♂ってことでいいの?』

 

 『いや、わからん。大事な親友とは言ってたけど好きとは言ってないし』

 

 『親友に対する親愛って感じじゃ?』

 

 『ワイトもそう思います。まあアクアたそがアーッ♂でもワイは一向に構わんけどな。あの顔面なら掘られてもいいし何なら掘りたいまである』

 

 『ワイもアクアきゅんの顔見てたら本来子宮があったはずの場所が疼くわ……』

 

 『やべえやつめっちゃ沸いてて草』

 

 『きも。氏ね』

 

 『辛辣ゥ!!』 

 

 『僕はアクアくん♂説を押すけどね(激ウマギャグ)』

 

 『は?』『は?』『黙れ』

 

 『まあ流石に恋愛ではないだろ。想像してみろよ、家族同然の幼馴染に彼女ができるって何か寂しいだろ?そういうことだ。俺、友達も親友もいないからわかんねえけど』

 

 『涙拭けよ』

 

 『リオン×フリル×アクアの三角関係か。この展開は予想できんかった。ゆきユキのカップルもあるし、今後もマジで先が読めんな』

 

 『やべえ、次回が楽しみだわ』

 

 このようにネット上ではアクアに対する言及が多数見られ、SNSの各所で恋愛派と親愛派による熾烈な議論が繰り広げられていた。

 また、今後の展望に期待を膨らませている視聴者も多くおり、番組事態の注目度も大幅にアップ。過去最高に混沌を極めるシーズンではあるものの、今番組史上最高の人気を誇るシーズンとなっていた。

 番組の中心では、アクアとフリルがリオンを奪い合う。その裏ではゆきとノブユキのカップルが仲を深めていくが、そこにケンゴが嫉妬心を見せ、こちらでも三角関係が発生。MEMはカップリングこそないものの、おバカキャラ系癒し枠として上手く立ち回り、着実に人気を稼いでいる。

 様々な思惑が交錯する恋愛リアリティショーは、これから更に熱を帯びていき、視聴者のボルテージも右肩上がり。

 しかし、その熱に乗り切れていない少女が1人。彼女の心は、焦燥感に苛まれていた。

 

ーーー

 

 「私、リオンとは5歳の頃から知り合い」

 

 「俺は確か3歳の時かな」

 

 「私、リオンの家がどのへんか知ってる」

 

 「俺も知ってるし、何なら俺ん家のすぐ近く」

 

 「リオンのお母様と知り合いだし、演技教えてもらったこともあるよ」

 

 「俺も知り合い。昔はお互いの家族が集まって、皆でご飯食べたりしてたな」

 

 「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 アクアが爆弾を投下した次の収録。早速、アクアとフリルはリオンを巡ってバチバチに争っていた。

 マウント合戦のような何かが始まっているが、優勢なのはアクアのようだ。フリルは苦い顔をしてアクアを睨みつける。

 一方、2人が(勝手に)奪い合っているリオン本人は、幼馴染2人に挟まれて気まずそうにしていた。

 

 「リオたん、微妙な顔してるねぇ」

 

 「まあ……」

 

 そこにMEMがやってきてリオンに声をかける。その間にも、アクアとフリルの一騎打ちは続いたままだ。

 

 「あーあと、あれ。前に銭湯行った」

 

 「えっ!?」

 

 何気なく言ったアクアの言葉にフリルは大きな反応を見せた。声を上げながらリオンの方へと顔を向け、「本当に?」と言わんばかりの視線を向けてくる。

 フリルに見つめられたリオンは溜息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。

 

 「いやまあ、行ったけど、小学生くらいの話だぞ」

 

 「私も行く」

 

 それに即答で答えたのはフリル。冗談を言っているようには見えない真剣な表情だ。

 

 「……別にいいけど」

 

 「あ、じゃあ折角だしぃ……今度メンバー皆で行かない?」

 

 「いいんじゃないか?」

 

 MEMの提案にアクアが賛同すると、リオンとフリルも同じく賛成の意を示した。

 

 「まあ確かに、みんなで行った方がいいよな。俺とフリルで行っても結局1人で入ることになるし」

 

 「えっ?」

 

 「「「え?」」」

 

 リオンの発言に素っ頓狂な声を上げたのはフリルだ。その声を聞き、周りの3人も同じような声を返す。

 まさか…と思ったアクアが、恐る恐るフリルに質問を投げかけた。

 

 「もしかして、リオンと入るつもりだった?」

 

 「えと、うん」

 

 「……あの、一応言っておくけど、不知火さんはリオンと一緒には入れないよ」

 

 「物理的には入れますけど?」

 

 「おいリオン、この人色々ヤバくねえ?」

 

 アクアがフリルを指さして言うと、リオンは適当な愛想笑いを浮かべる。リオンからすればいつも通りのフリルなので、特になんとも思わなかった。

 素の不知火フリルは、おもしれ―女なのである 

 

 「じゃあ、こうしよ。私とリオンが一緒に入る、他は男女に分かれて入る。つまり、挟み撃ちの形になるってこと」

 

 「なってないねぇ!?2人が混浴する形にしかなってないよぉ!?」

 

 「リオンと風呂入りたいだけじゃねえか!」

 

 ギャーギャーワイワイと騒がしくなってきたタイミングで、MEMが「あ、そういえばぁ!」と口に出し、アクアの方へと顔を向けた。

 

 「アクたんはぁ、リオくんのことどう思ってるのぉ?」

 

 「どうって?」

 

 「だからぁ……その、恋愛的に好きなの?」

 

 少々興奮気味なMEMが告げた問いかけは、視聴者が一番知りたがっている質問だった。これが放送されるとき、視聴者は息を飲んでいることだろう。

 そしてついに、アクアの口から答えが紡がれる。 

 

 「いや、違う」

 

 「あ、違うんだぁ…」

 

 呆気らかんと答えたアクアに、MEMの肩がガクッと落ちた。それに構わず、アクアが言葉を続ける。

 

 「まあ、恋愛じゃなくて……家族に対する親愛っていう感じかな」

 

 「なるほどぉ?」

 

 「兄弟が恋人作ったら気まずいし、何となく寂しいし、ちょっと嫌だろ。それと同じだ」

 

 「あ~……その気持ちわかるかもぉ」

 

 少し恥ずかしそうに話すアクアの言葉に、うんうんと頷くMEM。アクアの言葉、弟妹が多くいるMEMにもよく理解できる感情だった。

 

 「ああ。それに俺、大事なものは手元に置いときたいタイプだし」

 

 「そうなんだ。あ、じゃあ~……MEMもアクたんにとって大事な人になったら、手元に置いてもらえるのかなぁ?」

 

 ニヤニヤとニヤケながら言うMEMに、アクアは冷たい瞳でMEMを見ながら口を開く。

 

 「……粗大ごみって処分に金かかるんだよな。このサイズだと結構……」

 

 「ごみ扱いは酷すぎるよぉ!」

 

 あまりにも心がない発言に、MEMは思いっきりツッコミを入れた。そのツッコミを飄々と受け流し、アクアは再度口を開く。

 

 「まあ、リオンが本気で惚れた相手ならしょうがないかなって思うけど。その時は許してやる」

 

 「お前は俺の何なの?」 

 

 「私、アクアさんに認めてもらえるように頑張るね」

 

 「なんで?」

 

 まるで親のようなセリフを放つアクアと、それに乗っかるフリルに対してリオンが鋭くツッコんだ。しかし、そのツッコミに動じることなく、アクアは告げる。

 

 「お前の何って……飼い主だろ」

 

 「それ、俺のことペットって言ってる?」

 

 「ああ」

 

 リオンが少しキレ気味に言うが、アクアは誤魔化しもせず、普段通りの口調で即答した。

 家族ならまだしもペット扱いは許しがたいので、リオンは撤回させるために言葉を続ける。

 

 「撤回しろ。アクアのペットになった覚えはない」

 

 「…お前、今まで俺の家に何回飯食いに来た?」

 

 「えっ?」

 

 唐突に投げつけられた質問に、リオンは頭を捻る。

 リオンは料理がほぼ出来ない。そのため、以前は出前やウーバーがメインの食事になっていた。

 それを見かねたアクアが、食事の際にリオンを家に招くようになったのが始まりだ。

 今となっては、リオンは星野家にしょっちゅう食事を御馳走になっている。

 

 「あ、その……わかりません」

 

 「昨日の夜飯は何だった?」

 

 「ア…アクアさんの家で食べた豚の生姜焼きです……」

 

 「最近は暇さえあれば食いに来てるよな?ペットじゃねえって言うんならもう飯は無しだ」

 

 「くぅん……」

 

 アクアの厳しい言葉に、リオンは撃沈した。子犬のような鳴き声を上げながらしょぼくれてしまう。

 

 「リオン、よわいね」

 

 「いやこれ、アクたんが強すぎるんじゃあ…」

 

 あっという間に倒されたリオンを見ていた2人は、あまりの瞬殺っぷりに苦笑いを浮かべる。

 すると、しょぼんとしているリオンの前に、フリルが掌を差し出した。

 

 「なに?フリル?」

 

 「お手」

 

 「え、嫌だよ。俺犬じゃな」

 

 「飯」

 

 「わんっ」

 

 フリルの躾を断ろうとしたリオンだったが、アクアの一声によって黙らされ、完全に愛玩犬に成り下がってしまった。フリルの掌に自らの手を置き、お手というオーダーに応える。

 最初はリオンを巡ったフリルとアクアの戦いだったのに、いつの間にかフリルとアクアが結託し、リオンが2人に虐められるという状況になっていた。

 MEMは何故こうなったのかは分からなかったが、リオンがよわよわだということはよく理解できた。

 

ーーー

 

 ︎︎今からガチ恋始めます、のメンバーの1人である黒川あかね。彼女は今、忸怩たる思いで収録に望んでいた。もう後がない、何とかしなければ、そういった焦燥感に苛まれている。

 ︎︎彼女がそういう思いを抱えることになってしまったのは、数日前の出来事。事務所で稽古に励んでいたあかねは、自らのマネージャーが事務所の社長に激しく叱責されている場面を目撃してしまった。

 ︎︎あかねが今ガチ内で全く存在感を示すことが出来ておらず、それによって自らのマネージャーが怒鳴られ、クビにするぞとまで捲し立てられていた。自分が不甲斐ないせいでマネージャーが叱られている。その事実があかねを追い詰める。

 ︎︎実際、社長の言う通り、彼女は番組でほとんど存在感を示せていない。序盤はリオンとフリルのお膳立てのお陰でそこそこ出番はあったのだが、番組が進むにつれて徐々に出番は減っていった。

 ︎︎自分以外は番組内での役割を確立し、出番を貰い、視聴者の支持も得ているというのに、自分はこの体たらく。同じようにあまり目立っていなかったアクアでさえ、リスクの高い大立ち回りを演じ、今では番組の中心人物の1人だ。その事実が、あかねを更に焦らせる。

 ︎︎SNSでエゴサをしてみても、自分の話題は全く上がっていないどころか、「存在感ない」などと言われている始末に、自分自身が情けなくて、どうしようもない気持ちでいっぱいだった。

 何か爪痕を残さないといけない、そう思ってはいるものの、何をすればいいか分からない。故に彼女は、他人の助言に自らの行動を委ねる。

 ︎︎彼女の手に握られたメモ帳に、所狭しと書かれた文字。その中にある1文を見て、あかねは小さく呟いた。

 

 ︎︎「今求められているのは…よりカゲキなもの…」

 

 ︎︎彼女の言葉はマイクに拾われることもなく、虚空へと消えていった。

 

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