鏡の中の愛   作:鏡の国のアリス

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21話

 

 「じゃあ、もう大丈夫なんだね?私もごめんね。発破かけるつもりが、焦らせちゃったね」

 

 「ううん、ゆきのせいじゃないよ。私も心配かけてごめんね……」

 

 「あかねぇ!相談してよぉ!」

 

 他のメンバーが入室してきてから数分後。

 そんな中、ようやく泣き止んだあかねにゆきとMEMが近寄り、よしよしと2人してあかねを慰める。

 2人に囲まれたあかねは少しむず痒そうにしていたが、ふと思い出したかのように顔を上げ、とある人物の方へと顔を向けた。

 

 「リオンくんも、ありがとう」

 

 「俺はほとんど何もしてないけど……感謝は受け取っておくよ」

 

 周囲であかね達を見守っていたリオンは優しく微笑み、あかねの言葉に応えた。その様子を見て疑問に思ったらしいノブユキが首を傾げた。

 

 「え?なにが?リっくんなんかしたん?」

 

 いつの間にか勝手につけられていた渾名(リっくん)で呼ばれたリオンは「別に何もしてないよ」と言ってはぐらかそうとしたが、幼馴染のイケメンがそれを許さない。

 

 「リオンが収録前に頼んできたんだよ。今日の収録で何か起きそうだから、そん時は止めてくれ、って」

 

 「なるほど……ん?なんでリオンは今日何か起こるって分かったんだ?」

 

 ノブユキに続き、ケンゴも首を傾げた。彼の言葉にその場にいた全員が同意を示す。

 

 「確かに!なんでわかったの?」

 

 「リオたん!教えてよぅ!」

 

 「俺も気になるわ!」

 

 ゆきにMEM、ノブユキから説明を催促される。アクアとフリルも無言ながらも、その目は「説明しろ」と言っているように見えた。

 リオンは小さく溜息を吐き、渋々といった様子で説明を始める。

 

 「いや、まあ……黒川さんの気持ちというか、感情を考えたら何となく分かっただけだよ」

 

 「そうなん?けどドンピシャだな。すっげえ」

 

 実際はあかねの感情を考えたのではなく、あかねの感情に共感し、完璧に理解したからこそ成し得た推理だ。

 しかし、これを言うと再び首を傾げられるのは目に見えているので、リオンは適当に誤魔化した。結果として、納得は得られたようだった。

 例外として、リオンの才能を知っているアクアとフリルは、何やら複雑な感情を内に宿していそうな表情をしていた。

 

 「まあ、偶々だよ。……さて、黒川さん」

 

 「……っ」

 

 リオンの瞳があかねを射抜く。真摯な視線を向けてくるリオンに、あかねは息を飲む。

 

 「何であそこまで焦っていたのか大体想像はできるし、焦るのも無理はないと思う。アドバイスを求めるのも別に悪くない……けど、他人に言われたことを自分の全てにするのはよくない。他人に言われるがままで上手くいくわけがないから」

 

 「うん…」

 

 リオンが放つ言葉は鋭いものだったが、あかねとしてはぐうの音も出ないほどその通りだった。彼女は何も反論せず、しょんぼりとした様子で頷いた。

 

 「目立ちたいのは分かる。けど、自分の苦手なところで勝負しちゃダメだ。小悪魔ムーヴでゆきに勝てるわけがないでしょ」

 

 「……これ褒められてる?」

 

 「さあ?」

 

 リオンの言葉にあかねが頷き、褒められているのか微妙な物言いにゆきとケンゴが首を傾げた。

 

 「勝負するなら自分の強いところで勝負しないと。黒川さんの強みは何?」

 

 「えっと……その……」

 

 あかねは自分より格上の役者が2人もいるこの場で、強みとして演技を出すことを一瞬躊躇う。しかし結局、自分には演技しか取り柄がないことを思い出した。

 例え実力で負けていても、演技に関して噓はつきたくない。故に彼女は覚悟を決め、力強い口調で言葉を放つ。

 

 「演技は得意」

 

 「よし。じゃあ、そこで勝負しよう」

 

 あかねの言葉に満足そうに頷いたリオンは、ニヤリと口角を上げた。

 その笑顔に、アクアは見覚えがある。入学式の時にも見た、リオンが何かを企んでいるときの表情。アクアの背筋に強烈な嫌な予感が走った。

 

 「え、でも、リアリティショーで演技って……それに、今更演技したって……」

 

 あかねの問題点はそこだ。真面目過ぎるが故に、リアリティショーという言葉を額面通りに受け取ってしまっている。

 リアリティショーと名乗ってはいるが、テレビ番組であることに変わりない。素の自分で勝負するのも1つの手ではあるが、演技をし、仮面を作るのも自由。

 しかし、あかねはリアルという言葉に捕らわれ、素の自分で勝負をし、慣れないことをしてしまい、失敗した。

 

 「リアルを謳ってはいるが、結局は演出ありきのバラエティ番組だ。本当の自分で勝負する必要はない。素の自分で勝負するも、作った仮面で勝負するも、本人の自由だ」

 

 リオンはそこまで言うと一旦言葉を区切り、アクアを指さした。

 

 「ほら、アクアを見てみろ。最初はあんなに爽やかなイケメンを演じてたくせに、限界が来たんだろうな。化けの皮が剝がれた今となっては、陰のオーラを発する偽物のイケメンになっちまった。悲しいなぁ…」

 

 「偽物のイケメンってなんだよ。顔の良さは本物だろうが」

 

 「うわあ……ナルシストだぁ……けど否定できないのがムカつくぅ…!」

 

 「何も反論できねえよ…」

 

 悲しげに言うリオンにアクアがツッコミを入れ、それに対して更にMEMとノブユキが言葉を漏らすと、今までやや暗い表情をしていたあかねが破顔した。

 実際、アクアの言う通り彼の顔面偏差値は日本トップクラスなので、彼がナルシズム発言をしたとしても誰も反論はできないだろう。アクアの顔面は、日本で最高級の美少女であるフリルとも勝負できるレベルにあるのだ。

 

 「要するに、アクアが演技を途中でやめたのとは逆に、途中から演技しようが何も問題ないってことだ。演技っていう長所を活かして勝負するべきだと俺は思う」

 

 「でも……何の演技をすればいいのかなあ……?」

 

 モジモジとするあかねに対し、口を開いたのはフリルだ。

 

 「結局この番組は恋愛がメインになるから、恋愛に繋がりやすいキャラが良いと思う」

 

 「フリルの言うとおり、恋愛リアリティショーで視聴者が求めているのは恋愛だ。カップリングが出来ればキャラも立つし人気も出る」

 

 フリルの言葉を引き継いでリオンが告げる。あかねは2人の言葉に納得しだが、同時に問題点があることにも気づいていた。

 

 「でも恋愛って言っても、もうほとんどカップリングは出来てるよね?結局、前と同じような動きをするしかないんじゃ…」

 

 あかねの言葉に、リオンは口角を上げた。アクアの背筋に冷や汗が流れる。

 

 「いや?よく考えてみなよ。まだフリーの男がいるだろ?」

 

 リオンに言われ、あかねは優秀な頭脳を回して思案する。

 この番組には、ノブユキ、ゆき、ケンゴの三角関係と、リオンとフリルのカップリングが存在している。そして、リオンの親友枠であるアクアが……。

 

 「あっ」

 

 そこまで考えたところで、あかねは小さな声を上げた。どうやら、答えに辿り着いたようだった。

 リオンの笑みが深まると同時に、何かを察したアクアの表情が渋くなっていく。

 

 「そう、アクアは俺の親友って立場を確立してるが、特定の女子とのカップリングはない」

 

 アクアの嫌な予感がまたしても的中してしまった。アクアは静かに頭を抱えるも、それを無視してリオンは続ける。

 

 「黒川さん、アクアを堕とそう。勿論、やるか決めるのは黒川さんだ。嫌だと思ったらやらなくていいし、俺の言葉はあくまで選択肢の1つだって思ってほしい」

 

 あかねが自らの言葉を盲信しないよう、リオンは念のため釘を刺す。とはいえ、あかねは聡明で頭脳明晰だ。同じ間違いを繰り返すことは無いだろう。冷静になった今となっては、しっかりと自分の頭で考えて結論を出すことができる。

 そんな彼女が出した結論は……。

 

 「私、やる。アクアくんを落としてみせる」

 

 あかねの瞳からは強い意志が感じられる。

 やはり、他人に言われるがまま行動するよりも、自分で行動を決める方が遥かにやる気が出る。あかねの瞳にもやる気が満ち満ちていた。

 そんな彼女とは対照的に、死んだ目をしているイケメンが1人。

 

 「……おい、リオン。お前……」

 

 「え?何か問題ある?話題にもなるしデメリットなくない?」

 

 アクアは怒りを込めた言葉を放つが、リオンは飄々と言葉を受け流し、逆に正論をぶつけてきた。

 リオンの言う通り、デメリットはない。むしろ、カップリングが成立すれば様々なメリットが考えられる。

 反論が思いつかなかったアクアは深く息を吐き、せめてもの抵抗にと言葉を吐いた。

 

 「……まあ、好きにすればいいけど……俺は簡単に落ちないぞ」

 

 「アクアくん大丈夫~?それ完全に分からせられる側のセリフじゃ~ん」

 

 リオンの挑発的なセリフに、アクアの額に青筋が浮かぶ。アクアが怒りを鎮めようと深呼吸をする中、あかねが不安げに口を開いた。

 

 「でも、落とすってどうすればいいのかな。私、恋愛なんてしたことないし……」

 

 「分からないなら、まずはアクたんの好みのタイプを演じればいいんじゃないかなぁ?」

 

 「確かに、それいいね。で、アクアさん、好みのタイプは?」

 

 MEMの言葉に便乗するように、フリルがアクアに質問を投げた。アクアは黙秘権を行使し。唇を固く結ぶ。

 

 「アッくん、教えろよ~」

 

 「俺も知りたい」

 

 「ほら、早く吐いた方が楽になるよ?」

 

 ノブユキ、ケンゴ、ゆきの3人までもが尋問に加わり、もはやこの部屋にアクアの味方はいなかった。

 逃げられないと悟ったのか、アクアは諦めたような顔を見せ、嫌々ながら口を開いた。

 

 「顔がいい女」

 

 「うわっ」

 

 「ルッキズムの権化かよ」

 

 「さいてー…」

 

 「けど、アクアさんらしいっちゃらしいかも」

 

 正直に答えたのにこの言われよう。流石にムカついたアクアはそっぽを向いた。

 ご機嫌を斜めにしてしまったアクアにゆきとMEMが追撃を仕掛け、「もっと詳しく!」とせびる。

 もう半分ヤケになったアクアは、正直に、自分が思うままの理想を告げた。

 

 「太陽みたいな笑顔、完璧なパフォーマンス、無敵に思える言動、吸い寄せられる天性の瞳」

 

 「抽象的…」

 

 あまりにも抽象的で、イマイチ要領を得ない。しかし、リオンの脳内では、アクアの語る理想像が確かな像を結んでいた。

 浮かび上がってきたのは、彼の母親の姿。太陽みたいな笑顔、完璧なパフォーマンス、無敵に思える言動、吸い寄せられる天性の瞳、これらを全て持ち合わせていた、元完璧のアイドル。

 このマザコンが……とリオンが心中で呟くと同時に、MEMもリオンと同様の答えに辿り着いたらしい。

 

 「もしかして、アイみたいな?」

 

 「アイって、女優の?」

 

 「まあ……そうだな」

 

 MEMとゆきの言葉にアクアは同意する。

 

 「へえ…アクアさん、ああいう人がタイプなんだね」

 

 「アイは美人だよな。俺も結構好きだわ」

 

 アクアの好みのタイプが判明し、教室はワイワイと盛り上がりを見せる。そんな中、あかねは何時ものようにメモ帳を取り出し、何かを書き込んでいた。

 

 「アクアくんの好みのタイプ、頑張ってやってみるね…!」

 

 やる気満々な様子のあかねを見ていたアクアは、心の中で断言した。アイの……母さんの真似なんかできるはずがない、と。

 あれは天性のもので、誰かに真似できるような代物ではない、そのことはアクアが一番わかっている。

 唯一可能性があるとすればリオンだが、リオンとは違った天性の才を持つアイを100%トレースするのは難しいだろう。…不可能と言い切れないのが、リオンの恐ろしいところだが。

 そして、無理だと思っているのはアクアだけではなくリオンも同じだった。

 しかし、彼ら2人の予想は裏切られることになる。

 

ーーー

 

 今ガチで、アクアがあかねを間一髪で止めた回が放送された。

 実際に傷つけることは無かったものの、アクアが止めていなかったら大惨事になっていた。その事実によりネットは大炎上……とはならなかった。

 アクアがあかねを止めた後も撮影は継続されており、ゆきがあかねを抱きしめる姿、アクアがあかねを慰める姿、他のメンバーが全員であかねの元へ向かう姿など、メンバー間の仲の良さを裏付ける映像が多く放送された。

 それにより、あかねの過失を責める声はほとんどなく、SNSの話題はメンバー達の仲の良さについて言及するものがほとんどだった。

 特に、泣いているあかねの頭をアクアが優しく撫でて慰めるシーンは大きな反響を呼び、このシーンによってアクア×あかねのカップリング―通称アクあかが生まれ、大きな話題となった。

 しかし、あかねを責める声は完全に0ではない。ごく少数ではあるが、あかねを批判する声もあった。

 だが、そんな少数の声は大きく話題にはならず、アクあかの話題に呑まれて消えていった。

 

 そして、続く次話の撮影日。

 番組も終盤という事で、出演者たちにも慣れが見える。滞りなく、スムーズに撮影がスタートした。

 

 「おはよっ、アクア」

 

 すっかり見慣れた現場に、見慣れない雰囲気を纏う人物。

 青みががった濡羽色の髪を持つ彼女は、天真爛漫な様子でアクアに声をかけていた。

 

 「か……あかね?」

 

 その声に反応したアクアは、思わず目を見開く。条件反射で母さん、と呼びそうになり、咄嗟に言葉を軌道修正した。

 太陽みたいな笑顔、完璧なパフォーマンス、無敵に思える言動、吸い寄せられる天性の瞳。

 目の前の少女が纏う雰囲気は、完全に……彼の母親、星野アイのそれだった。

 

 

 

 

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