鏡の中の愛   作:鏡の国のアリス

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23話

 

 「【今からガチ恋始めます】全収録終了です!お疲れ様でした!」

 

 【今からガチ恋始めます】最終回の収録後、関係者たちは都内のダイニングバーにて打ち上げを行っていた。

 スタッフの音頭と同時に皆がグラスを掲げ、互いを労い、番組の成功を祝う。

 今ガチのメンバー達もグラス片手に乾杯し、会話に花を咲かせていた。

 

 「いや、思い返すとあっという間だったな」

 

 「うん、楽しかった!」

 

 「あかねも最後は良い感じだったしな!」

 

 「みんなのおかげだよ」

 

 「フリルさんの新たな一面も知れたしね」

 

 「テレビのイメージと全然違ったよねぇ」

 

 「おもしれー女でしょ?」

 

 「自分で言う人初めて見たよぉ!」

 

 今ガチを彩り、盛り上げてきた7人の若者達が番組の感想を言い合い、思い出を振り返り、声を上げて笑い合う。

 会話も盛り上がり、徐々に場が温まってきたところで、ゆきがあかねに向けて疑問をぶつけた。

 

 「ね、あかね、結局、アクアくんとは本気で付き合うの?」

 

 鋭く切り込んだ言葉に、周囲のメンバー達は息を飲む。誰も口には出さなかったが、誰しもが気になっていたことだからだ。

 

 「……わかんない。仕事だってあるし……!」

 

 「じゃあ、あかねさん自身はどう思ってるの?」

 

 「え?何が?」

 

 「アクアさんのこと」

 

 切り込み隊長であるゆきが開けた穴に飛び込んでいったのはフリルだ。キラキラとしたシャム猫のような瞳があかねを射抜く。

 

 「え…えっと…」

 

 あかねは質問の答えを出すため、必死で頭を回す。

 アクアの顔や性格、番組内で間一髪救われたことなどを考慮し、あかねは答えを導き出した。

 

 「正直、まだわかんない。けど、本気になっちゃうのも……アリ、かも…」

 

 徐々に小さくなっていくあかねの声と、少しずつ染まっていくあかねの頬を目撃した女子達は、各々が多種多様な反応を見せる。

 

 「きゃーーーー!あかね可愛い!」

 

 「アクあか尊い…これでご飯3杯はいける。神様ありがとう…」

 

 「若いっていいねぇ」

 

 ゆきは可愛らしい悲鳴を上げ、フリルは米と神に感謝し、18歳JK(?)は温かい目で見守る。

 そこで、気配を消していたアクアに対しても白羽の矢が立った。

 

 「そ・れ・でぇ!アクたんはどう思ってるのかなぁ?」

 

 MEMの首が素早く動き、アクアに視線が向けられた。先ほどのあかねと同様に、全員の視線を一身に受けながらアクアは口を開く。

 

 「…正直、今あかねのことを好きかって聞かれると……まだ好きではないんだと思う」

 

 「……そ、そっか。じゃあ……私たちの関係はビジネスって…」

 

 「でも」

 

 アクアが、しょんぼりとした様子を見せるあかねの声を遮った。

 

 「あかねに惹かれてるってのは本当だし、興味があるのは噓じゃない。だからこれから、もっとお互いを知っていけたらいいなって思う」

 

 「あ、う、うん。私も、アクアくんをもっと知りたいなって思うから……」

 

 「あっ、やば…尊すぎて死ぬ。」

 

 「フリたん!?死なないでぇ!」

 

 アクアとあかねは互いに頬を染めながら見つめ合う。初々しいカップルと言われても違和感のない雰囲気を醸し出していた。

 幸福そうな表情で昇天するフリルをMEMが介護する中、ゆきの口角が上がり、ニヤニヤしながらアクアを煽る。

 

 「それってつまり~?アクアも本気になる可能性は~……?」

 

 「…………なくはない」

 

 「きゃーーーー!」

 

 顔を背けながら言うアクアに、ゆきが再び悲鳴を上げた。これ以上深堀りされたくないアクアは、苦肉の策として話題を逸らすことを選択した。

 

 「そういえば、不知火さんとリオンはどうなんだ?」

 

 「アクたん、露骨に話題逸らしたねぇ?…でも私もそれ気になるぅ!」

 

 「俺も気になる!本気なの!?」

 

 アクアの魂胆はMEMにはバレバレだったが、逸らした話題が皆の興味を惹きつける内容だったため、アクアは事なきを得た。

 皆の視線がアクアからフリルに移る。フリルは恥ずかしそうに、ゆっくりと舌に音を乗せた。

 

 「えと、私は元々本気だったし……リオンの告白も、本気だったと思う……」

 

 「きゃーーー!」

 

 「初々しいねぇ!フリたん可愛いよぉ!」

 

 ゆき、本日3度目の絶叫。女子高生らしい黄色い悲鳴の合間を縫って、MEMの興奮した声が響く。

 普段テレビで見ることは出来ない、フリルの初々しい様子に皆が興奮(主にゆきとMEM)している中、ケンゴがフリリオを構成するもう1人の姿が見えないことに気が付いた。

 

 「あれ?そういやリオンは?」

 

 「あ、いつの間にか消えてる。どこ行ったんだろ」

 

 「むぅ、リオたんにもいろいろ聞きたいのにぃ…!」

 

 忽然と姿を消したリオン。彼を探すために皆が周囲を見渡すも、店内に姿は見えない。そこでふと、アクアが思い出したように口を開いた。

 

 「ああ、そういやさっき、店の外に出てたぞ」

 

 「えぇ!?なんでぇ?もしかして帰っちゃった?」

 

 「いや、流石にそんなことしないだろ……多分」

 

 「多分なんだ……」

 

 自信なさげに答えるアクアにゆきが呆れたような声を出した。アクアは「冗談はさておき」と続ける。

 

 「鏑木Pと一緒に出てったから、何か話してるんじゃないか?」

 

ーーー 

 

 「今回はありがとうございます。無茶なお願いだったのに聞いていただいて」

 

 打ち上げ会場の外、灰皿がポツンと置かれている寂しい喫煙所にリオンはいた。彼の隣には番組のプロデューサーである鏑木が煙草に火をつけている。

 

 「いや、礼を言うのはこっちだよ。君とフリルくんのお陰で、番組が過去一盛り上がったからね」

 

 鏑木が煙草の煙を空に向かって吐く。メンソール特有の鋭い匂いが、リオンの鼻腔を貫いた。

 

 「それで、役作りは出来たのかい?」

 

 「恥ずかしながら、それはもう完璧に」

 

 「それは結構」

 

 鏑木は静かに頷くと、まだ半分ほど長さが残っている煙草を灰皿に押し付ける。念入りに火種を消し、会話を続ける。

 

 「今回は新しい原石も発見できたし、番組も大盛況。良い仕事になったよ、君らのお陰でね」

 

 「恐縮です」

 

 「また一緒に仕事をする機会があればよろしく頼むよ」

 

 「はい、是非」

 

 リオンの前向きな返事に、鏑木は満足そうに頷いた。鏑木としては、今回の番組でリオンとコネクションを結ぶことが目的の1つだった。結果として、その目論見は成功といっていいだろう。

 

 「おじさんとの話はこれくらいにして、若い子は若い子同士で楽しんできなさい」

 

 「ありがとうございます。失礼します」

 

 リオンが一礼し、その場から立ち去る。鏑木は懐から煙草を取り出すと、それを口に咥えて再び火をつけた。

 

ーーー

 

 「あ、リオンくん!やっと帰ってきた!」

 

 「あ、うん。って、え、なに?なに?」

 

 リオンが皆の前に姿を現すやいなや、メンバー達によってあっという間に周囲を包囲されてしまう。

 急に囲まれて戸惑うリオンに、MEMがニヤニヤしながら問いかける。

 

 「リオたんはぁ……フリたんとは本気なのぉ?」

 

 「本気って?」

 

 「本気で好きなの!?」

 

 「うん」

 

 ゆきが質問を重ねるも、リオンは即答した。女子たちのテンションはうなぎ登りだ。

 

 「本気なんだって!フリルさん、良かったね!」

 

 「えと、うん。嬉しい…」

 

 女子たちは恥ずかしそうにしているフリルに群がり、キャッキャッとハイテンションで騒ぐ。

 そこからは、男子達によるリオンへの質問攻めが始まった。

 

 「で、リオン。フリルさんのどこが好きなん?」

 

 「そうだなぁ……。俺を見上げるときの力強い瞳、声のトーンの変化が意外と分かりやすいところ、送迎の車に乗ってる時の横顔、アクセサリーを付けるときの仕草、積極的に見えて逆に押されると弱いところ、おにぎりを食べる時両手で持つところ、あんまり使わないラインのスタンプを沢山買っちゃうところ、テンションが上がるとちょっと早口になるところ、あとは……」

 

 「ぐおっ……も、もうわかった……俺が悪かったから許してくれ……!」

 

 フリルの好きなところを淡々と述べるリオン。彼の言う"フリルの好きなところ"はかなり細かく、本当に好きだという事がひしひしと伝わる内容だった。

 リオンが恥ずかしがる様子を一切見せないために、質問した側のノブユキが一方的にダメージを受けてしまう。そしてダメージはノブユキだけの留まらず、周囲を取り囲む人間にも余波を与えていく。

 

 「ぐうぅ……!甘すぎるよぉ…!」

 

 「聞いてるこっちが恥ずかしくなる…」

 

 「……安易に全部、とか言わないのがリオンって感じだな…」

 

 MEM、あかね、アクアが深刻なダメージを受ける中、それ以上にダメージを受けている人間がいた。

 そう、不知火フリルである。

 

 「…フリルさん顔真っ赤じゃん」

 

 「……言わないでっ」

 

 ゆきが指摘すると、顔をゆでだこのように真っ赤にしたフリルは恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 付き合いが長いリオンでさえ、彼女がここまで分かりやすく狼狽えているのは初めて見た。見慣れないフリルの姿に、リオンは愛おしさを感じる。好きなところがまた1つ増えた瞬間だった。

 

 「あーあ、青春って感じで羨ましいなあ」

 

 息を吐きながら言うゆき。すると、あかねがその発言をバッサリと切り捨てる。

 

 「え、ゆきもノブくんと付き合い始めたでしょ?青春じゃん!」

 

 「ちょっ、あかね!?」

 

 見るからに慌てているゆきに、小悪魔のような笑みを浮かべるあかね。そのやり取りを聞いて、アクアが驚きの声を出す。

 

 「え?収録じゃ振ってたよな?」

 

 「テクニカルだよねぇ……ま、そこがゆきのイイとこだけど」

 

 表では振り、裏で付き合う。まさに小悪魔チックで、ゆきらしい立ち回りだ。

 しかも……。

 

 「ゆき、マジで人生初カレらしいよ」

 

 「へえ……わかんねえもんだな」

 

 「お前も初彼女だろ。今まで告られても全員振ってきたもんな」

 

 感心したように言うアクアに、リオンが口を挟むと、それにMEMが悪ノリした。

 

 「へえ?アクたん、今まで何人の女の子を泣かせてきたのかなぁ?」

 

 「別に泣かせてない。というか、リオンだって初だろ」

 

 「へえ、リオンの初めての相手は私なんだ」

 

 「言い方やば。誤解を生むからやめてね」

 

「誤解?ファーストキスでしょ?」

 

 ︎︎「まあ、そうだけど」

 

 相変わらずのフリルに、リオンは小さく笑みを零した。

 すると、何かを思い出したフリルが「そういえば……」と口を開く

 

 「リオン、前に私のキス拒否したよね。ファンに殺されるからって。今回の全国放送だけど、大丈夫なの?」

 

 「あ~…」

 

 数か月前、送迎の車内での出来事を思い出す。寝起きでフリルにキスされそうになった際にリオンが発した言い訳が「キスしたらフリルのファンに殺されるから」というものだった。

 それなのに今回、全国放送の番組という場で思いっきりキスをしている。過去の発言との矛盾が起こっていた。

 リオンは数秒考えた後、柔らかな口調で言う。

 

 「お前と結ばれるなら殺されてもいいから」

 

 あの時の意趣返しのようなセリフにフリルは目を剝いた。それと同時に、今のリオンの言葉が本気であることを感じ取り、むず痒くも嬉しい気持ちになる。

 そんな2人のやり取りを間近で目撃したMEMとアクアは、あまりの甘さに砂糖を吐き出せそうだった。

 

ーーー

 

 打ち上げも終わり、各々の帰路につく。他の面々がタクシーを呼ぶ中、アクアとリオン、そしてMEMは徒歩で帰宅していた。

 アクアとリオンの自宅は近くにあり、MEMも同様らしい。タクシーを呼ぶほどの距離でもないため、3人は雑談をしながら夜道を歩く。

 

 「寂しいなあ。私、この現場めっちゃ好きだった」

 

 ふと、MEMが感傷的な言葉を零した。声に出しはしなかったが、アクアとリオンも概ね同じ気持ちだった。

 

 「ま、俺はフリルがいるし、アクアにも黒川さんがいるからな。そんなに寂しくはないかも」

 

 「ぐぼあっ……くそぉ……リア充どもめぇ!独り身は私だけかよぉ!」

 

 リオンの言葉がMEMにクリティカルヒット。効果は抜群だった。

 

 「俺は別に、まだあかねのことを好きってわけじゃない」

 

 「またまたぁ~。あかねがアイの真似してる時、タジタジだったじゃん~!好きになるのも時間の問題なんじゃないのぉ?」

 

 ツンとした態度のアクアにMEMがダル絡みする。アクアは鬱陶しそうな表情でMEMを適当にあしらう。

 

 「そう簡単に好きになるかよ。本物に会おうと思えばいつでも会えるしな」

 

 「……あ、そっかぁ。アクたん、苺プロだっけ?」

 

 「ああ、そうだ。アイは先輩だよ」

 

 「ふ~ん?……事務所の大先輩が理想の相手なんだ?それを堂々と言うなんて、アクたんも中々やるじゃん~」

 

 ニヤつきながら言うMEMに、アクアは露骨にウザそうな表情を見せる。そんなアクアの表情を変えるため、リオンが会話の舵を切った。

 

 「それにしても、黒川さんの真似、凄かったな」

 

 「ほんとだよねぇ。実は私、アイのファンなんだけど、そっくりすぎてビックリしちゃった」

 

 アイのファン、という部分にアクアは露骨な反応を見せる。母親のファンがいるのはやはり嬉しいのか、わずかに声のテンションが上がった。

 

 「MEMは、アイのファンなのか?」 

 

 「うん。B小町の……アイドルの時代からファンなの。アイドル卒業した後も追ってて、今でも大ファン」 

  

 「アイドル時代からって……凄いな」

 

 「まじか。古参ファンじゃん」

 

 アイがアイドルとして活動していたのは10年以上も前。リオンの言う通り、MEMはファン歴10年を超す古参ファンということだ。

 自らの母親が長い間愛されていると知り、アクアの頬が僅かに緩む。それを見ていたリオンは、誰にも聞こえない小さな声で「マザコン……」と呟いた。

 

 「まあ私、初めはアイドル志望だったからね!アイに憧れてたんだけど色々あって挫折しちゃって……結局今は楽しくユーチューバーやってます!」

 

 快活に笑いながら言うMEMだが、その背中には悲壮感が漂っているように見えた。恐らく、まだ夢を諦めきれていないんだろう。

 そんな彼女に、アクアは1つの提案を持ち掛ける。

 

 「なら、ウチ来れば?」

 

 「え?」

 

 唐突なアクアの発言に、MEMだけでなくリオンも目を剝いた。続く言葉に、更に驚きは大きくなる。

 

 「新生B小町、現在メンバー募集中だけど」

 

 MEMの動きが驚きのあまり固まる。数秒後、ようやく絞り出した声は震えていた。

 

 「えっと……本気で言ってるの?」

 

 「冗談でこんなこと言わない」

 

 「……私が、アイドル?……はは…そんな…」

 

 MEMの表情に少しずつ光が落ちていく。最終的には、暗闇の中で太陽を見つけたかのような、希望に満ち溢れた表情になっていた。

 そしてその表情は、目の前にいるアクアに向けられている。まるで、アクアが自分にとっての太陽だと言わんばかりに。

 そんな2人の様子を見ていたリオンは、心の中で苦言を1つ。

 

 ―この女誑し、と。




原作読んでてちょっと分からなかったんですけど
 この辺の時系列って
 収録終了→そのままの流れで打ち上げ→帰り道にMEM勧誘→苺プロ事務所へ って感じですよね?
 となると、MEMを持ち帰った(意味深)時に重曹ちゃんがアクアに対して「スケコマシ三太夫」って言ってるの違和感ありませんかね?
 だって収録当日なのに最終回が放送されてるわけねーもん。最後のキスシーン見てないのに重曹ちゃんはスケコマシとか言ってたんですかね?ちょっと当たりきつくない?
 けどよく考えたら女の子を何人も落としてるアクアが悪いわ。有罪で。

追記・別日らしいですね。皆さん教えて頂きありがとうございました
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