鏡の中の愛   作:鏡の国のアリス

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はい、ファーストステージ編です
りおんくんの出番をどうするかが課題


第4章 ファーストステージ編 andmore
24話


 

 とある日。

 苺プロダクションの事務所にて、妙齢の女性が溜息を1つ。

 彼女の名前は斉藤ミヤコ。苺プロダクション社長代理である。

 そんな彼女は何やら複雑な面持ちで、目の前に立つ少年少女を一瞥する。その中の1人、自らの息子といっても良い存在へ向けて言葉を落とした。

 

 「貴方はスカウトとして雇うべきだったかもね?アクア」

 

 「俺は役者だ。つーか、社長は?」

 

 「壱護は今日、アイさんの付き添いで地方ロケよ」

 

 アクアと呼ばれた美男子はクールな面持ちを崩さないまま、姿の見えないグラサンヤンキーについて問いかける。

 ミヤコによると、グラサンはアイと主に地方に出張中らしい。質問に答えたミヤコは彼から視線を外し、その隣に立つ少女(?)に目を向ける。

 

 「MEMちょ。人気ユーチューバーにしてインフルエンサー。まさかアイドルに興味があったなんてね」

 

 金髪のボブカットに、あどけない顔、頭に角を生やした少女は無言のまま頷いた。

 彼女の名はMEMちょ。チャンネル登録者数30万人を超える人気ユーチューバーである。

 何故彼女が苺プロの事務所にいるのか、その理由は簡単。隣に立つイケメンに「お前もアイドルにならないか?」と唆され、ホイホイ事務所についてきたのだ。

 有馬かなにMEMちょという、知名度のある2人を簡単に連れてくるアクアの手腕に、ミヤコは内心で引いていた。

 とりあえず、ミヤコはMEMに対して諸々の確認を行っていく。

 本気でアイドルになる気があるのか。事務所との契約は大丈夫なのか、そういった重要な質問を行った果てに、ミヤコはMEMの核心を思いきり突いた。

 

 「貴女、年齢サバ読んでるでしょ?」

 

 「……わかりますか?」

 

 「ええ、私の目は誤魔化せないわ。本当は何歳なの?」

 

 ミヤコに近づき耳打ちで本当の年齢を伝えるMEM。それを聞いたミヤコは、思わず驚愕の表情を浮かべた。

 

 「がっつり盛ったわね!?」

 

 「申し訳ありませんんんん!」

 

 何歳なのか気になったアクアが「何歳なの?」と聞くと、公称年齢+7歳という盛り盛りチョモランマな数字がMEMの口から飛び出し、クールなアクアも流石に驚きを隠せない。

 アラサーがアイドルなんてダメですよね……と落ち込むMEMに声をかけたのは、この場に新たに表れた美少女達だ。

 新生B小町のメンバーであるルビーと有馬。ルビーは持ち前の眩しい笑顔でMEMを照らし、何故か有馬は号泣。

 なんやかんやあったものの、MEMちょの新生B小町入りが決定したのだった。

 話が纏まったタイミングで、アクアが有馬に声を掛けるが……。

 

 「有馬。妹とMEMを頼んだ。お前になら……」

 

 「うるさい、気安く話しかけんな」

 

 何故か死ぬほど不機嫌な有馬によって言葉が遮られ、親の仇でも見るような目で睨まれてしまう。

 

 「あんたは黒川あかねとよろしくやってなさいよ。このスケコマシ三太夫」

 

 有馬はそう言い捨て、ルビーとMEMの輪に入っていく。

 何故ここまで言われるのか、心当たりのないアクアはその場に呆然と立ち尽くしていた。

 

 こうして、新たなメンバーが加わった新生B小町は、正式なスタートを迎えることになった。

 

ーーー

 

 「今ガチ終わってもうたな~」

 

 「そうだね~」

 

 陽東高校芸能科。昼休みで賑わう教室にて、クラスメイトである星野ルビーと寿みなみは2人で仲良く雑談に花を咲かせていた。

 2人が今話しているのは、このクラス中で今一番熱い話題である【今からガチ恋始めます】の最終回についてだ。

 というのも、このクラスから3人も出演者がいるうえ、内2人はカップリングが成立し、更に最終回でキスまでしている。話題にならない方がおかしいだろう。

 

 「なあなあ、お兄さんが彼女作ったん、どんな気持ちなん?」

 

 みなみは興味津々といった様子でルビーに問いかける。

 何を隠そう、ルビーの兄であるアクアも今ガチに出演しており、最終話で他校の女子である黒川あかねとカップルになっているのだ。

 

 「う~ん……複雑だけど、あかねちゃん良い子そうだし……許してあげても良いかな……」

 

 「うわあ、厄介な妹やぁ…」

 

 相変わらずのブラコンムーブを見せる友人に、みなみは苦笑いを零す。

 

 「まあでも、あかねちゃんには一回会ってみたいなあ」

 

 「お兄さんの彼女なんやし、いつかは会うんちゃう?」

 

 「どうかな~。うちの兄ってほら、陰キャじゃん?だから家に連れてきたりしないと思うんだよねぇ…」

 

 「今ガチの話?」

 

 2人の会話に、凛とした声が割って入る。振り向くと、そこには今最も話題を集めている大人気タレント・不知火フリルの姿があった。

 

 「あ、不知火さん」

 

 「せやで。今ガチ、めっちゃキュンキュンしたわぁ。不知火さんも可愛かったぁ」

 

 「ありがとう」

 

 出演者の1人であるフリルが現れたことで、更にトークは盛り上がる。特に、最終話にキスをしたフリル×リオンのカップリングについて、ルビーとみなみは興味津々だった。

 

 「不知火さん、リオンとは本気で付き合うの?」

 

 「うん、本気」

 

 フリルがルビーの質問に淡々と答える。みなみが「ひゃ~~!」と声を上げる中、ルビーは微妙な表情を見せていた。

 

 「……幼馴染と兄、2人同時に彼女ができるって何か複雑……」

 

 「あ、そっか。ルビーさんもリオンと幼馴染なんだ」

 

 アクアとリオンは幼馴染、つまり必然的に、アクアの妹であるルビーもリオンの幼馴染となる。

 彼女と幼馴染という、脚本家によっては修羅場になりそうな組み合わせが揃ってしまった

 

 「うん、そうだよ」

 

 「手出すときは言ってね?リオン、もう私のだから」

 

 「出すわけなくない!?」

 

 フリルが淡々と言うと、ルビーはツッコミの声を上げた。

 ルビーはリオンのことを異性として見ていないし、それはリオンも同様だ。そんな相手に手を出すなど有り得ない。

 

 「みなみさんも、手出したくなったら教えてね?」

 

 「えっ!?ウチ!?いやいやいや、出さへんって!」

 

 フリルがもう1人の友人に目を向ける。淡々とした視線を受けたみなみは、驚愕の表情と共に似非関西弁で言葉を紡いだ。

 ――え!?許可取ったら出していいん!?いや出さへんけど!ウチ、ビッチだと思われとるん!?と心中で叫ぶみなみをよそに、フリルはフッと小さな笑みを浮かべた。

 

 「なんてね、冗談だよ。2人ともそんな人じゃないと思うし」

 

 フリルが冗談だと告げると、ルビーとみなみはホッと息を吐く。

 

 「なんだ…冗談か。びっくりした~」

 

 「ほんまになぁ…心臓に悪いわぁ」

 

 「ごめんごめん、気にしないで」

 

 噓である。この女、2人を思い切り警戒している。

 先程の発言は、2人の反応を見るために撒いた餌のようなものだ。餌を撒いて2人の反応をチェックし、怪しい反応があれば何か手を打つつもりであった。

 しかし、2人の反応を見るに、どちらも今のところ手を出す気はなさそうだと判断。しかし油断は禁物だ、とフリルは自身に言い聞かせる。

 

 幼馴染で距離の近いルビーはともかく、フリルがみなみまで警戒する理由は何か。それは大きく分けて2つある。

 まず1つ目は、みなみがリオンのファンであること。とはいっても、そこまで熱狂的なファンではないようだが、一応警戒には値する。

 そして2つ目。それは…遠回しに言えば、胸部についた大きくて柔らかいメロン。端的に言えばおっぱいだ。

 おおよそ女子高生とは思えない、圧倒的なバストサイズ。控えめな大きさであるフリルとは比べ物にならない。

 その大きさと存在感は、女子であるフリルから見ても大変魅力的で、一度でいいから揉みしだきたいと思っている。同性のフリルですらこうなのだ、異性がどう思うかなど、想像に難くない。

 リオンが胸の大きさに流されるとは思わないが、みなみは容姿のレベルも高い。リオンも健全な男子高校生なので、おっぱいとの相乗効果で流されてしまう可能性は0ではない。

 

 「あ、そういえばリオンは?今日休み?」

 

 「あ、ほんまや。おらんね」

 

 「最近あんまり来てないよね。忙しいのかな」

 

 リオンの話題になったからか、思い出したかのようにルビーとみなみが教室を見渡す。しかし、リオンの姿は見えなかった。

 ルビーが口にした疑問に答えたのは、リオンと同じ事務所に所属するフリルだ。

 

 「リオンは今日、映画の撮影で休みだよ」

 

 「はえ~売れっ子は大変やね」

 

 「あ、もしかして、その撮影って例の恋愛映画?」

 

 今ガチの番組でリオンが言っていた「恋愛映画の役作り」という言葉を思い出したルビーは、すぐさまフリルに問いかける。

 するとフリルの表情が急激に下降線を辿り、今までに見たことが無い程に暗い顔になってしまった。

 

 「うん…そう。恋愛映画だよ…」

 

 「え!?どうしたん!?急に元気なくなったやん。なんかあったん?」

 

 テンションが急激に下がったことを心配したみなみが、話を聞こうと身を乗り出す。ルビーも同じようにフリルを心配し、優しい声音で語りかける。

 

 「大丈夫?私達でよければ相談に乗るよ?」

 

 「……うん、ありがとう。えと、じゃあ、ちょっと聞いてもらえる?」 

 

 平常よりも数段低いテンションで、フリルはポツポツと語り出す。

 

 「その、恋愛映画の撮影ってことはさ、リオンが他の人と恋愛するってことでしょ?仕事だって分かってても、光景を想像したらもやもやするっていうか……」

 

 「ああ……そういうこと」

 

 「わかるかもなぁ……確かにちょっと嫌やわ」

 

 その吐露を聞いた2人にも、その気持ちはよく分かった。演技だとわかっていても、仕事で仕方ないとしても、恋人が他の女に恋をする様子など、恋する乙女としては看過できない。

 

 「…リオンが他の子と恋愛なんて演技でも嫌なんだけど、仕事だししょうがないって思ってる。そこはプロとして割り切らないとって」

 

 フリルもプロの女優として、ある程度は割り切っている。完全に不満は消えないが、仕方のないことだと理解はしている。だが…。

 

 「それでもやっぱり、嫌だって思っちゃう。今すぐリオンに連絡して、そんな映画バックレてって言いたくなる。例え演技だとしても、恋の感情を他の女に向けないでって言いたくなる」

 

 理解はしていても納得できるかと言われれば否だ。人間は合理的ではない。フリルも例外ではなく、理屈で感情を抑えられない時はある。

 例え日本を代表するタレントでも、心のある人間なのだ。嬉しいときは喜ぶし、しんどい時は病むこともある。

 もし、感情を切り捨て合理性だけで動く人間がいるのなら、それはもはや人ではないだろう。

 

 「そして何より、そんな醜い感情を持ってる自分が嫌になって、全然可愛くないって思って……病む」

 

 「うん……わかるよ、その気持ち」

 

 自らの感情を吐き出したフリルを前にして、ルビーは神妙な面持ちで告げる。吐息と共に舞い散る言葉には、心から共感する気持ちが込められていた。

 フリルが吐露した感情は、ルビーが幾度となく経験してきた感情に酷似していたからだ。

 前世の病室。誰も見舞いには来てくれない。母親がくれた"愛してる"に縋り、良い子を演じる日々。

 たまにふと、あの"愛してる"は噓なんじゃないかって思ってしまう。そして、母親を疑う自分が嫌になる。

 自己嫌悪というのは中々に厄介で、一度陥ってしまうと抜け出すのに苦労する。

 自己嫌悪に陥るとまず、自分が嫌になって、自己評価が下がる。そして自分に自信が無くなり、失敗が重なり、更に自分が嫌になる。

 そんな負のスパイラルから抜け出すにはいくつかの方法があるが、代表的なものとしては3つ程度に分けられるだろう。

 時間をかけて少しずつ自信を積み直していくか、一発逆転で何かしらの成功を収めるか、もしくは……。

 

 「よしよし、いいこやね、不知火さんは」

 

 ――誰かに慰めてもらい、自分を認めてもらって心を癒すか、この3択だ。

 そして奇しくも寿みなみは 、最も効果的且つ最も容易な方法である3つ目の選択肢を取った。

 みなみはフリルの頭を優しく抱き、自らの胸元に引き寄せる。暖かい抱擁に包まれたフリルは、普段のクールさからは考えられない可愛らしい声を上げた。

 

 「ふぇ…?」

 

 胸元に抱かれたことでダイレクトに伝わる柔らかい感触、みなみの甘くて心地良い匂い、温かい体温、落ち着く優しい声。彼女の全てがフリルの心を癒し、トロトロに溶かしていく。

 みなみはフリルの頭を優しく撫でながら、穏やかな声音で語りかける。

 

 「不知火さんはかわええし、リオンさんを気遣える優しい人やで。そういう気持ちは誰だって持つもんやし、気にせんでええと思うわ」

 

 「……みなみさんも?」 

 

 「せや。ウチだってフリルさんと同じ状況になったら同じこと思うで。気持ちが爆発して、邪魔してまうかもしれん。でも、不知火さんはリオンさんを想って自分抑えてるやろ?めちゃくちゃいいこやん。そんなこと普通は出来へんて」

 

 心優しい慰めの言葉が、フリルの心にすっと溶け込んでいく。少しずつ、フリルの心を癒していく。 

 

 「リオンさんだってちゃんと不知火さんを想っとるやろし、撮影から戻ってきたら目一杯甘やかしてもらおうや」

 

 「……うん」

 

 寿みなみの圧倒的な母性と包容力にフリルは成すすべがない。されるがままに慰められて、頭を撫でられ、まるで子供のように優しく抱擁される。

 そんな様子を見ていたルビーは、場違いにも「私もしてもらいたいなぁ」などと考えていた。

 

 「ありがと、みなみさん。元気出た」

 

 「よかったわぁ」

 

 「それで相談なんだけど、おっぱい揉んでいい?」

 

 「なんでなん!?」

 

 先程と比べ、表情がだいぶ明るくなったフリルがセクハラを開始した。みなみの大きな胸に頭を埋めながら、もごもごと口を動かす。

 

 「だって、こんな、もご、おっぱい初めて、むぐ、見たし。揉んだらもっと、元気になる、もご、と思う」 

 

 「ひゃっ、顔埋めながら喋らんでや!く、くすぐったいわぁ!は、離れてぇ…!」

 

 みなみがフリルを引き剥がそうとするも、胸に顔を埋める少女の体幹は強く、みなみの細腕では動かすことが出来なかった。

 

 「……ここ、とってもいい匂い……くんくん」

 

 「きゃっ!嗅がんでやぁ!」

 

 同級生の胸に顔を埋めたまま、思いっきり匂いを嗅ぐ少女。どっからどう見ても変態にしか見えないが、不知火フリルの素は大体こんな感じである。

 

 「いいなぁ……」

 

 「ルビーちゃん!?」

 

 そんな様子を見ていたルビーが思わず零すと、みなみが驚愕の声を上げた。みなみが依然として胸に引っ付く変態(国民的美少女)と格闘していると、その変態が思い出したように声を上げる。

 

 「そういえば、今日アクアさんいないね。仕事なのかな?」

 

 「いや?学校には来てるよ。お兄ちゃん陰キャだし、どっか1人でご飯食べてんじゃない?」

 

 ︎︎「アクアさん陰キャなんだ」

 

 ︎︎「酷い言い草やな…」

 

 フリルは相槌を打つと、苦笑いを浮かべるみなみの胸に再び顔を埋めた。

 

 「ああ……柔らかい……気持ちいい…」

 

 穏やかな声がみなみの胸から響く。ルビーはそれを見て、再び「いいなあ……」と呟いた。

 後日、ルビーがみなみに、「私にもおっぱい枕してよ」と頼んでいたらしい。

 

 

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