鏡の中の愛 作:鏡の国のアリス
「「ジャパンアイドルフェス!?」」
「うん。今ガチのプロデューサーがコネを持ってるみたいで……興味あるなら捻じ込んでくれるって…」
苺プロダクションに2人の少女の声が響く。
声を上げたのは苺プロ所属のアイドルグループ・B小町のメンバーである星野ルビーと有馬かな。2人は目を剝いて、声を荒げる原因となった人物―同じくB小町に所属するMEMへと目を向ける。
「無理無理!JIFって来月でしょ!?何も準備してないし!」
そう言って首を振るのは有馬。彼女の言う通り、新生B小町は結成して間もない。JIFに出れるほどパフォーマンスのクオリティは高くない。
しかし、正論を言う有馬の言葉に被せるように、ルビーが口を開く。
「やろやろ!そんなチャンス無駄にするなんて勿体ないよ!」
「あんたねえ……」
キラキラした瞳で言うルビーに、有馬は思わず溜息を吐いた。
「周りの心象最悪よ?絶対コネコネ言われるわ」
「大丈夫!私たちはあの伝説的グループ【B小町】の後継者だから!」
「それ、あんたが勝手に言ってるだけでしょ?」
「でも、実際やらない手は無いよ。こんなチャンス滅多にない」
ルビーの言うことも一理ある。こんな滅多にないチャンスを不意にするのは勿体ない。
「はあ…分かったわよ、やればいいんでしょう?」
「よしっ!そうと決まれば決めなきゃいけないことがあるよね!」
「うんうん!アレは決めないとねぇ!」
有馬が渋々といった様子で承認すると、残りの2人が声を上げる。
2人が言う"アレ"が何か分からない有馬は首を傾げた。
「おっ、有馬ちゃんはピンと来てないみたいだねぇ?」
「アイドルグループで一番大切な要素だよ!」
MEMとルビーがテンション高く言うが、アイドルには疎い有馬はピンと来ない。
そんな様子を見てか、2人は声を合わせて高らかに宣言した。
「「そう!センター決め!!」」
「センターねえ……誰でもよくない?」
「「よくなーーい!」」
冷めた様子で言う有馬に、ドルオタ2人はセンターの大切さを説き始める。それでも有馬はピンと来ていないようで、溜息を吐きながら適当に受け流した。
「私はセンターはいいわ。やりたい人がやれば?あんたたち、どうせやりたいんでしょう?」
「別にやりたいってわけじゃないけど……皆が言うなら…」
「やりたくないけどぉ……ここはやっぱり私の人生経験が活きるのかなぁって……」
「滅茶苦茶やりたそう顔だな、お前ら」
ルビーとMEM、どちらも口に出している言葉と表情が真逆だった。センターやりたい欲が滲み出ている2人の論争が始まる。
「ここはやっぱり私じゃない!ダンスも上手いし!」
「いやいや!ここはメディア経験豊富な私が!」
「それいったら先輩になるよ?ピーマン体操でオリコン1位取ってたし」
「人の黒歴史を掘り返すな!」
唐突に黒歴史を掘り返された有馬が怒号を上げる。
結局、センターに必要なのは歌唱力という結論になり、カラオケで点数が一番高い人がセンターという事になった。
「先輩も来るよね?」
「私はいい」
「なんで?」
しかし、有馬はそれを拒否した。ルビーが理由を問うと、ポツポツと語り出す。
やれ私をセンターにしたら人気が出ないやら、やれ私は人に好かれる性格じゃないやら、卑屈で面倒なことを次々と宣う有馬。流石に聞いてられなくなったのか、ルビーが口を挟んだ。
「最近の先輩、卑屈じゃない?なんかヤなことあった?」
「べつに」
口では否定しているが、顔はそうは言ってない。嫌なことがありました、と顔に書いてあった。
流石のルビーも、ここは有馬を慰めることにする。
「先輩は自分を卑下してるけど、そんなことないと思うよ。お兄ちゃんだって先輩のこと可愛いって言ってたし」
「でもそれ、MEMちょにも言ってたし……」
「うわ、面倒で捻くれた女だ……」
慰めようと声をかけたはいいものの、あまりの面倒臭さに思わず本音が漏れてしまった。心無いセリフを吐いたルビーに代わって、MEMが持ち前の姉力で有馬を慰める。
結局、ルビーとMEMが先にカラオケへと行き、後から有馬が合流する運びになった。
ーーー
「……急に呼び出されたと思ったらカラオケかよ」
「うん。待ってたよ、リオン」
今日の撮影が終わったタイミングでフリルに呼び出され、送られてきた位置情報の場所へと到着すると、そこは何の変哲もないカラオケボックスだった。
位置情報と共に書かれていた部屋番号の扉を開けると、白いワンピースに身を包み、サングラスをかけたフリルの姿が目に入った。
「嫌だった?」
首を傾げるフリル。あざとい所作だが、相変わらず様になっている。
「嫌じゃないよ。カラオケは好きだし。ただ、俺が来なかったらどうするつもりだったの?ヒトカラ?」
「……考えてなかった。リオンが私の誘いを断るわけないし」
さすがに信頼しすぎじゃないかな?とも思うが、フリルの考えは間違いではない。
実際、フリルの誘いを断るという選択肢は俺にはなかった。場所がどこであろうと断ることはしなかっただろう、多分。
「もし来なかったらインスタライブでもしてたかな。リオンに振られたってみんなに教えないといけないし」
「危なかった。来てよかった」
もし来てなかったらファンの皆さんに対して大変な誤解を生むところだった。
「というか今思ったけど、個室の中なのになんでサングラスしてるの?」
フリルはいまだにサングラスをかけている。有名人ゆえに変装は必須だが、個室の中まで変装を続ける必要はない。
「……リオンもしてるもん」
「今来たからね」
そう答えると、フリルは僅かに顔を赤らめ……。
「……外すの忘れてた」
と零した。あまりの可愛さに抱きしめたくなったが何とか堪えた。危なかった。
フリルは素早く立ち上がり、赤らめた頬を隠すように俯いたまま言う。
「ドリンクバー頼んでるから、一緒に取りにいこ?」
「うん、いいよ」
フリルと共に部屋から出ると、丁度部屋の前を歩いていた2人組とサングラス越しに視線がぶつかる。
互いの顔を認識した瞬間、全員が目を見開いた。そして、俺たちが声を上げるよりも早く、相手の2人組が声を上げる。
「えっ!リオン!?それに不知火さん!?」
「リオたんにフリたん!?」
思いっきり俺たちの名前を呼んでいるが、周りに他の客はいなかったのでセーフだろう。
知り合いとの思わぬ邂逅に、僕もフリルも流石に驚きを隠せない。
「ルビーにMEMちょ。何してるの?」
「私たちは、ほら、グループのセンター決め!」
「ああ。MEMって結局、苺プロに入ったんだ」
「入ったっていうのは少し違うけど、大体合ってるよぉ」
今ガチの収録最終日、アクアに「ウチでアイドルにならないか?」と誘われていたMEMは、どうやら苺プロでアイドルをすることになったようだ。
話を聞く限り、ルビーと同じくB小町に所属しているらしい。
「そっちこそ、何してんの~?デート?デート!?」
ニヤニヤしながら口を開くルビー。煽るような顔がムカつくが、何故か憎めない。
そんな彼女に対し、言葉を返したのはフリルだった。
「うん、デート」
淡々と答えるフリルに、女子2人から黄色い声が上がる。事実とはいえ、少し恥ずかしい。
そこでふと、B小町のメンバーが1人足りないことに気が付いた。
「そういえば、B小町って有馬かなもいるよね?今日はいないの?」
「有馬かなって、あの天才子役の?アイドルやってるんだ」
俺の言葉に真っ先に反応したのはフリルだ。どうやら、フリルは有馬かながアイドルをしていることを知らなかったらしい。
「うん、そう。あの有馬かな。アクアに誑かされてアイドル始めたらしい」
ってルビーから聞いた。やっぱりアクアは女誑しだ。
「いや、言い方……」
「けど間違ってないんだよねぇ…」
ルビーとMEMが何やら苦い顔をしているが、訂正はしてこない。つまり、アクアが女誑しなのは周知の事実ということだ。
「そうなんだ……。あ、折角だし4人で歌う?リオンはそれでもいい?」
「俺は別にいいけど」
そう提案するのはフリルだ。僕は了承したが、B小町の2人の反応は微妙だ。
「ええっ!?いやいや、折角のデートなのに邪魔できないよ」
「そうだよ!2人で楽しんでよぉ!」
どうやら俺たちに気を使ったみたいだ。僕とフリルから誘ってるんだし、別に気にしなくていいのに。
そう思っていたのは俺だけではないようで、フリルが再び口を開く。
「正直に言うと、現役アイドルの生歌聞きたい。あと、私達の邪魔とかそういうのは気にしなくていいよ。カラオケ終わったらリオンと2人で私の家に行くし」
「「「えっ!?」」」
フリルの爆弾発言に3人が驚愕の声を上げる。次の瞬間、ルビーとMEMがこちらを向いた。
「なんでリオンも驚いてんの?」「なんでリオたんも驚いてるの?」
「いや、だって初耳だし」
この後フリルの家行くの?聞いてないんだけど?
そんな思いを込めてフリルを見つめると、彼女はいつも通りの薄い表情で答えた。
「言ってないからね」
「そっかぁ」
言ってないのか、それは知らないわけだ。納得した。
「じゃあ知らないのもしょうがないか」
「納得しちゃったよぉ……」
MEMの困惑した声が響いた。何故かルビーは俺のことを細い目で見つめている。
なんだか冷たい視線だ。ちょっと怖い。
「とりあえず、部屋に入ろ。ここにいても邪魔なだけだし」
フリルの一声で、俺たちは移動を開始する。
こうして、4人でのカラオケパーティーが始まった。
ーーー
カラオケパーティーという名目ではあるものの、一応はB小町のセンター決めという目的がある。
というわけで、まずはルビーとMEMそれぞれにB小町の楽曲を歌ってもらうことにした。
その結果は、ルビー:43点、MEMちょ:57点。お世辞にも良いとは言えない点数に、誰もが言葉を失った。
そんな微妙な空気の中、気を使ったフリルが静かに口を開く。
「えと、2人とも味があっていいと思う……よ?」
「気使わないでいいよぉ!?」
「うう……優しいのが逆に傷つく…」
しかし、フリルの最大限言葉を選んだセリフは逆にダメージが大きかったらしい。2人はメンタルにダメージを負ってしまう。
「リオたんは!?どう思った!?」
「正直に言って!」
「え、正直に?いいの?」
正直に言ったら滅茶苦茶厳しい評価になるけど……。
「いいよ!率直な意見が欲しいの!オブラートに包むとかは考えないでね!」
「リオたん!正直に言って!」
どうやらいいらしい。じゃあ遠慮なく……。
「クソ下手。アイドルとは思えない。アイドルやってる他の人に謝ってほしい」
「ぐはっ!」「ぐぼあっ!」
正直に言えと言われたので、歯に衣着せない率直な感想を告げると、2人に深刻なダメージを与えてしまったようだ。おおよそアイドルとは思えない汚い声と共に、血反吐を吐いてしまう。
「もう少しオブラートに包んでよ、この馬鹿!」
「人の心とかないのぉ!?」
「さっきと言ってることが違くない?」
オーダーに応えただけなのに酷い言い草だ。掌にドリルがついてそうだ。
「そ、そこまで言うなら、リオンさんは相当上手いんですよねぇ!?聞かせてもらっても良いですかぁ!?」
大人気なくムキになったMEMが顔を赤くして言う。どんだけダメージ受けてんだ。
「私もリオンの歌、久々に聞きたいな」
「……わかったよ」
フリルにも言われてしまえば断れない。とりあえず全員が知ってるであろう有名な曲を予約する。
イントロが流れ始める。俺はマイクを手に取り、メロディーに乗せて言葉を紡いでいく。
数分の曲を歌い終えた。結果は98点。久々に歌ったにしては良い点数だろう。点数を確認してルビーとMEMに目をやると、2人は口をあんぐりと開けて呆けていた。
数秒後、ようやく正気を取り戻したルビーが震えた声を零した。
「う……うっま……なんでそんなにうまいの!!?」
「音程を真似して、メロディをちゃんと聞いて、感情を込めてるだけ」
曲を聞けば音程とメロディは真似できるから、後は歌詞に込められた感情を読み解くだけでいい。そんなに難しいことはしてない。
していないのだが、音痴2人衆にとっては衝撃的だったようだ。MEMが愕然とした表情で告げる。
「B小町のセンター……リオたんにあげますぅ……」
「いや、いらないけど」
まずB小町のメンバーじゃないし、そもそも男だし。センターをやれる理由が1つもない。
「私も歌っていい?」
俺に続き、フリルがマイクを手に持った。フリルの可憐で美しい歌声が部屋を彩っていく。
結果は俺と同じく98点。流石は歌って踊れるマルチタレント。相変わらず綺麗で丁寧な歌声、惚れ惚れする。
「綺麗だったよ」
「ありがとう」
フリルに向けて率直な感想を告げる。すると、視界の端に打ちひしがれているルビーとMEMの姿が見えた。
「あ~…私ってやっぱり歌下手なんだぁ……もうやる気なくなっちゃった〜…」
「有馬ちゃんも自分で歌下手って言ってたし、B小町のファーストステージは終わりだよぉ……」
︎︎話を聞く限り、B小町は全員が歌下手らしい。よくそれでアイドルやろうと思ったな、とは口に出さないでおく。
︎︎「あーあ。どうせなら先輩のピーマン体操でも歌おうかな〜」
︎︎「お、いいねぇ!」
︎︎本人がいない所で黒歴史を掘り返すな。最低かよ。
︎︎「あれっ…?」
︎︎曲を予約しようとしていたルビーの動きが止まった。何事かと思い画面を覗いてみる。
︎︎検索欄には有馬かなの名前があり、その下に大量の曲がズラっと並んでいた。
︎︎「先輩、ピーマン体操以外にも曲出てたんだ。知らなかった」
︎︎「そうなんだ。……あ、調べたらMV出てきたし、見てみよっか」
︎︎MEMがスマホで有馬かなのMVを再生する。俺たちは全員でその画面を眺める。
︎︎澄んだ歌声に、しっかりとしたリズムキープ。どれだけ低く評価しても、下手だとは絶対に言えない歌声だった。
︎︎「有馬さん、歌上手いじゃん」
︎︎フリルの言葉に、この場にいる全員が同意する。ルビーがやれやれといった感じで口を開いた。
︎︎「これで歌下手って…先輩自己評価低すぎでしょ…」
︎︎ルビーの言葉通り、有馬かなの歌に下手だと言える要素はほとんどない。
︎︎MEMとルビーの瞳がキラリと輝く。恐らく、B小町のセンターが今この瞬間に決定した。
次回、お家デート(多分)