鏡の中の愛   作:鏡の国のアリス

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こんにちは
土日更新できずすみません。雨がやばすぎてくたばってました。


4 一番星と鏡

 

 俺の名前は星野愛久愛海、通称星野アクア。自分でもやばい名前だとは思う。

 最初は滅茶苦茶に嫌だったが、今ではそこまで嫌に思わなくなってきた。慣れって怖い。

いや、怖いのは時間の流れの早さか。この名前に慣れてしまう程の月日があっという間に流れ……。

俺がアイの子供として生まれ変わってから、既に3年以上が経過していた。

 2年前に俺が出演した五反田監督の映画はそれなりにヒットし、映画の賞にもノミネートされたらしい。

 今思い返してみると、俺の演技は初めてにしてはまあ上出来だったと思う。

 それでも、あの映画はアイとリオンが全てを持っていった。

 

 アイはあの映画をきっかけに徐々に仕事が増え始め、アイドル活動以外にもバラエティー番組やドラマ等の仕事が増えた。アイは現在、売り出し中のアイドルタレントといったところだろう。

しかし、そんなアイ以上に、石動リオンの躍進は凄まじい。

リオンはあの映画での化け物染みた演技が評価され、端役にも関わらず世間の話題を全てかっさらった。地上波であのワンシーンが公開されたことにより、石動リオンという才能を世間が認知し、知名度を確固たるものにした。

 更に、あの天才女優・石動玲奈と、今は亡き名優・石動健栄の息子というネームバリューがさらに話題を呼び、芸能界という階段を数段飛びで駆けあがっていった。

 現在のリオンはというと、ドラマから映画、バラエティー番組などに天才子役として引っ張りだこ。名実ともに子役界のトップといっても過言ではないだろう。

 アイとは畑が違うのは不幸中の幸いだったかもしれない。もしも、リオンがアイと同年代だったら、アイのことは話題にすら上がらなかった可能性がある。

 それほどまでに、石動リオンという人間の存在感は凄まじい。

 

そんなリオンに対して思うところがないわけではないが、何かを言う気にはならない。

 石動リオンの才能と実力は本物だ。間近で目撃したあいつの演技は、今も俺の脳に焼き付いて離れない。

それにあいつは、基本的にいい奴だ。人気があってプライドが高い子役にありがちな横柄な態度も一切取らず、物腰も柔らかく礼儀正しい。関係者から気に入られていて、実力も知名度も抜群。こうして売れているのも必然といえるだろう。

 

アイとリオン。映画では同じ画面に収まることはなかった2人だが、同じ作品をきっかけにして売れ始めているあたり、天才同士何かを通ずるものがあるのかもしれない。

 

「お兄ちゃん!ママが出るバラエティー始まるよ!」 

 

俺がクッションの上に寝転びながらそんなことを考えていると、隣の部屋から双子の妹であるルビーが顔を出した。

ちなみに、こいつの本名は星野瑠美衣。まあ何というか、なかなかな名前だとは思うが、俺の名前と比べたらダメージは少ない。俺も愛久愛だけだったらまだなあ……。

 

「ああ、今いく」

 

妹に呼び出されたので返事をし、アイの雄姿を見届けるために隣の部屋へと向かう。

あの天才バケモノ子役のことは一旦忘れよう。今はアイの推し活に励まなければ。

隣の部屋――リビングに到着すると、既に番組のオープニングが始まっていた。テレビに食い入るように座っているルビーの隣に腰を下ろし、同じように画面へと目を向ける。

 

『本日はですね、超豪華なゲストがいらっしゃるということで、早速紹介させていただきましょう!最近話題沸騰中の人気アイドルグループ、B小町の皆さんです!』

 

『よろしくお願いしま~す☆』

 

「ぎゃああああああ!ママきゃっわいい~~~!まじ世界国宝~~~!」

 

司会進行の言葉に合わせ、テロップと共にB小町のメンバーがテレビに映し出される。その中でもやはり、アイは特別目を引く存在だ。太陽が咲いたような笑顔は相変わらず魅力的で、見慣れているはずの俺でさえ見惚れてしまう

隣のルビーがくっそうるさいが、いつものことなので全力で無視だ。今はアイを目に焼き付けることに集中する。

その後もアイが映る度、ルビーはぎゃーぎゃー騒いでいたが、気持ちはわからんでもないので放っておく。

 番組がいったん途切れてCMに入ると、有名な清涼飲料水のCMが流れ始める。そのCMでは美味しそうな表情で喉を鳴らす石動リオンの姿が流れていた。

 

「あ、リオン」

 

「うっ……」

 

リオンが映し出された瞬間、ルビーはあからさまに嫌そうな声を上げた。横目で表情を見ると、苦虫を噛み潰したような表情をしているが、まあいつものことだ。

こいつはリオンに初めて会った時からこんな感じだ。テレビや映画にリオンが映ると、苦い表情になる。

以前、なんでリオンを嫌っているのか聞いたことがある。曰く「別に嫌いじゃないよ?むしろ、同い年なのに凄いって思ってる。ただ、なんていうか……底が知れないっていうか……とにかく、苦手なの!」とのことだった。

俺としては、リオンのことをいいやつだと思っているが、ルビーの言わんとしていることも理解できる。あいつの才能は恐ろしく、底が見えず、得体が知れない。他人の才能に恐怖を覚えるなんてこと、前世を含めても初めての経験だ。

 

「アイとリオンは今度ドラマで共演するんだし、あんま嫌ってやるなよ」

 

「別に嫌っては……って、えっ!共演!?なにそれ聞いてない!」

 

俺が言うと、ルビーが思いっきり驚愕する。

こいつ…この前ミヤコさんが話してたのに聞いてなかったのか?

 

「アイ、再来週からドラマの撮影だろ?そこで共演するらしい」

 

「ふ~ん、ママと共演するなんてね。リオンもやるじゃない」

 

なんでお前が偉そうなんだよ。

 

「まあ、アイはメインじゃないらしいけど」

 

「えっ、なんで!?」

 

「なんでって……俺に言われても知らん」

 

「なんでママがメインじゃないの!まじ許せない!テレビ局のやつら見る目なさすぎでしょ!」

 

「まあ、主人公役はリオンらしいし、仕方ねえだろ」

 

「くっ……石動リオンめ……」

 

ミヤコさんから聞いた話によると、リオンは主人公の1人で、アイは主人公と関わる人間といった立ち位置のようだ。どちらも主演ではあるものの、やはり主人公であるリオンの方が出番は多くなるらしい。

とはいえ、連続ドラマの主演に選ばれるだけでも凄いことだ。このドラマを機に、アイは更に伸びていくだろう。

 

「石動リオン……あいつ相手なら仕方ない……いやでも…」

 

未だに納得がいってないルビー。だが、不本意ながらも実力を認めているリオン相手となると流石に全否定はできないらしく、しかめっ面でブツブツと独り言を零している。

相変わらずガキだな…という言葉を溜息に変えて吐き出し、言葉を続ける。

 

「はぁ……お前どうせ、アイの撮影見に行くんだろ?」

 

「当たり前でしょ」

 

ルビーはさも当然のように言い放つ。いや今までも見に行くことはあったけど、普通はダメだからな?

とはいえ、この超絶厄介アイドルオタクに言っても素直に聞くわけがない。となると、こいつが問題を起こさないか見張る意味でも、俺も現場についていかないとな。

断じて、アイとリオンの演技を間近で見たいとか、ドラマの撮影を見学したいとかは思っていない。妹が粗相をやらかさないように見張りに行くだけ。邪な気持ちは皆無だ。

 

「リオンに会うかもしれないけど、本人の前でそんな顔すんなよ。」

 

「うん、わかってる」

 

念のためルビーに釘を刺して、再びテレビへと意識を向ける。

CMが明けるとアイが再び映り、2人して熱狂する。特にルビーは凄まじく、声が枯れるんじゃないかってくらい叫び散らしていた。

そんな愚妹の様子に苦笑いを零しながら、俺もアイの活躍を見守る。その頃にはもう、リオンのことは頭から消えていた。

 

ーーー

 

連続ドラマ『背反する欠片』

石動リオンが主演を務める連続ドラマで、正体不明の連続殺人鬼とそれを追う刑事の物語となっている。

リオンが演じるのは殺人鬼の正体である少年、藍川透哉。小学1年生の少年で温厚で心優しいという一面を持ちながらも、裏には無慈悲な殺人鬼の一面を隠して持っている。

背反する2つの顔を1人で演じなければならず、1人2役を務めるといっても過言ではない難しい役だ。

リオンは台本を片手に、自宅にあるスタジオにて稽古を行っていた。

まずは、表の顔である心優しい少年。これの役作りは簡単だった。過去に自分が与えられ、そして人に与えてきた優しさを自分に映し出し、演技に落とし込む。

 

『おはよ!』

 

登校し、教室に入る透哉。愛想のいい笑みを振り撒き、多くの友達と楽しそうに談笑する。

リオンの演技はどこからどう見ても、明るく優しい小学生にしか見えない。

一通り演じ終え、役作りと演技が問題ないことを確認したリオンは次のシーンへと移る。

次は、主人公のもうひとつの顔である殺人鬼。こちらは台本を何度も何度も読み込んで漸く役が出来てきたところだ。

持ち前の才能を存分に生かして殺人鬼の感情に共感し、自らに落とし込んでいく。

台本の中にいる主人公と、少しずつ1つになっていく。

演技という名の、深くて暗い海の底へと、沈んでいく。

 

『ねえ。お姉さんは、愛がどこにあるか知ってる?』

 

リオンが口を開く。そこには既に石動リオンは存在せず、冷たく哀しい雰囲気を漂わせている別の誰かがいた。

 

『お姉さんなら…きっと、愛を持ってるよね』

 

丸めて持っている台本を刃物に見立て、思いっきり突き立てる。虚ろな目で刃物を振り下ろす姿は、シリアルキラーそのものだ。

被害者などいないというのに、刃物に刺されて倒れている被害者がいるように見えてしまう。それほどまでに、リオンの表現力は高いレベルに達していた。

 

「リオン、夕飯にするわよ~!」

 

扉の方から女性の声が届き、スタジオに響く。リオンの母親である玲奈の声だ。

母親の声を耳にしたリオンは意識を海面へと引き上げる。そこには、先程までの冷たい雰囲気は残っていなかった。

時計に目をやると、稽古を始めてから既に2時間が経過しており、時刻は19:00を回っている。リオンは自分が空腹であることに気が付いた。

リオンは母親の声に対して「今行く~!」と返事をし、スタジオの照明を消した。

 

ーーー

 

『背反する欠片』の撮影日初日。

現場に到着したリオンはいつものように関係者に挨拶回りを行っており、共演者であるアイにも挨拶のため声をかけていた。

 

「アイさんですよね?初めまして、東プロ所属の石動リオンです。よろしくお願いします」

 

リオンがいつもと同じ挨拶をすると、目に星を秘めた偶像は、誰もが目を奪われる美しい笑顔で言葉を返す。

 

「初めまして、アイです!リオンくん、すっごい礼儀正しいね!今日からよろしくね!」

 

「はい。よろしくお願いします!」

 

「そういえば、リオンくんも監督の映画出てたよね?ほら、あのホラーの!」

 

「はい。アイさんとは撮影日が違ったのでお会いできませんでしたけど」

 

「あの時の演技もすごかったよね!私、映像見たとき鳥肌立っちゃった!」

 

「アイさんも素晴らしい演技でした!オーラが凄くて、気づいたら目で追ってました!」

 

「ほんと?え~?照れちゃうな~」

 

リオンとアイはその後も仲睦まじく会話を続けていく。初対面のはずなのに、まるで年の離れた姉弟のように仲が良い。

周囲の人間は仲睦まじい2人の様子を温かい瞳で見守っていたが、そうではない人間が約1名。

 

「石動リオンッ……!私のママにィィ……!」

 

物陰に隠れ、まるで親の仇を見るような表情で2人の様子を見ている人間がいた。

流れるようなきれいな金髪に、宝石のような輝きを持つ紅玉の瞳。

幼い見た目の少女は、子供がしていけない表情でリオンのことを睨みつけている。

 彼女の名前は星野ルビー。アイこと星野アイの隠し子である。

 

「おい、顔ヤバいぞお前」

 

そんなルビーに、呆れた様子の少年が声をかけた

ルビーと同じくサラサラの金髪に、海のように蒼く綺麗な瞳。

ルビーの双子の兄である星野アクアだ。

この双子は今日も、アイのマネージャーである斎藤ミヤコに無理を言い、撮影現場に連れてきてもらっていた。

 

「だってお兄ちゃん!ママが石動リオンに手出されてるよ!」

 

「出されてねえだろ。よく見なくてもただ話してるだけだ」

 

アクアが宥めるように落ち着いて話すと、ルビーはようやく正気を取り戻した。

 

「あ、ほんとだ」

 

「そもそも、リオンは大人っぽいけど俺らと同い年だぞ。心配する必要ねぇって」

 

「そ、そうだよね。ごめん」

 

「ほら、今だって楽しそうに話してるだけ…」

 

アクアがそう言ってアイたちの方へと目を向けると、丁度そのタイミングでアイがリオンの頭を撫で始めた。リオンは恥ずかしそうに顔を赤く染めているが、特に抵抗はしていない。そんなリオンの様子を見たアイは更に笑みを深める。その後も両手を使ってリオンの頭を撫でたり、もちもちのほっぺたを揉んだりしていた。

 

「うわ~、石動リオンのやつ、ママにデレデレしちゃって。普段は大人っぽくても、結局ママのバブみには勝てないのよ。ね、お兄ちゃん」

 

「このクソガキィ……アイに手出しやがってェ…!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

先程までの落ち着きはどこに行ったのか、アクアは般若のような顔でリオンを睨みつけている。

ルビーは兄の豹変ぶりに思考を停止させていたが、今すぐにでもリオンに殴りかかっていきそうなアクアを宥めるため、何とか言葉を吐き出す。

 

「お兄ちゃん落ち着いて、相手は子供だよ!手を出すもクソもないってば!」

 

「大丈夫だ、ルビー。ガキ相手だからな…半殺しだ」

 

「全然大丈夫じゃない!?」

 

ルビーがアクアの両腕を取って羽交い絞めにする。ルビーは全力で力を籠め、リオンへと突撃していこうとするアクアを必死で抑える。

やいやいわいわいと双子が取っ組み合っているところに、この原因となった2人が近づいてきた。

 

「2人とも?どうしたの?」

 

「マ…アイおねえちゃん」

 

「アイ…」

 

唐突にアイに話しかけられたアクアとルビーは正気を取り戻し、いつもの落ち着きを取り戻した。

 

「あれ、アイさん。アクアと知り合いなんですか?」

 

「うん。2人とも苺プロの社長の子でね、仲良くさせてもらってるんだ。今日は見学だって」

 

「あ、そうなんですね」

 

アイはリオンの疑問に対し、設定通りの説明を返した。

アクアとルビーはアイの実子だが、それが世間にバレてしまうのはマズイ…いや、マズイなどという言葉では済まない。下手すれば会社は倒産、全員路頭に迷うことになる。

それを防ぐため、アクアとルビーは苺プロ社長夫妻の子供という設定になっている。

この設定であればアイと2人が親しくても違和感はないはずだ。実際、リオンはすんなりと納得している。

 

「リオンくんも、アクアくんと知り合いなの?」

 

「はい。さっき話した映画の現場でアクアと会ったんです」

 

「あ、そうなんだね!よかったらこれからも仲良くしてあげてね!」

 

「はい、もちろんです」

 

そのタイミングでアイとリオンがスタッフに呼び出された。アイとリオンがこの場を去っていき、再び双子だけが残された。

 

「お兄ちゃん、落ち着いた?」

 

「ああ、もう大丈夫だ」

 

短い会話が終わり、2人同時に溜息を吐いた。まだ撮影すら始まっていないにも関わらず、どっと疲れたのを感じる。

撮影が始まるまでは大人しくしていようと、2人の意見が珍しく完璧に一致した瞬間だった。

 

 




アイ生存ルートにするか、原作ルートにするか迷ってるのでアンケします

ルート選択

  • アイ生存ルート
  • 原作ルート(アイ死亡)
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