私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
「…
朱莉が闇堕ちしてしまった。中学校からずっと一緒で男っ気のなかった
「あの…
ぴしり。空気が凍りついた。
はい、知り合いじゃなくて一方的に知ってるだけ。家に連れ込もうとする。完全なる不審者。今の私の見た目がゆるふわ系美少女であることを鑑みても逮捕or
……いやそりゃそうだよねーーー!急に初対面の女子に自分の友達の名前を名乗られても、良くて「関係者かな?」最悪「俺に近づくためにあいつを利用した…?」となる。
…いや待てよ。私はこの世界に生まれ変わって姿も名前も別人になった。じゃあなぜ彼は全部前世のままなんだ?
「…伊織」
ありえるのか?そんなフィクションみたいな話。あ、私転生してるわ。こんなんもう確定じゃん!
「この世界、女の人ばかりでびっくりしたでしょ?」
「!」
ビンゴ。こんな当たり前のことに反応する人は、この世界に存在しない。伊織は転生ではなく転移。私たちが元いた世界からここへ迷い込んできたのだろう。
「ほんのちょっとだけ、ハーレムとか考えた?」
あ、目逸らした。逃げた目線の先へ移動する。逃がすか。
「伊織ってリアルだと女の子に対してすごく紳士なのに、フィクションだとオラオラ系の主人公がハーレムつくる作品好きだよね。というか貞操逆転もの教えてくれたの伊織だもんね。せっかく再会できたし感想を——」
「あ"ーーーーー!!!!こんな公共の場で何言ってんだ馬鹿!小声じゃなかったらしばいてたぞ!!………って、え?まじでユズなの?え?どうなってんの?!」
「だからこんな喫茶店で話す内容じゃないから家来るかって聞いたの」
よし、伊織の方はクリア。あとは隣で目を丸くしてる友人をなんとかしたらミッションコンプリートだ。
「…見ての通り私たちはただの友達だよ。関係は…えーーっと…小さい頃に仲が良かった幼馴染?」
「いやどこが『見ての通り』?え?今目の前でいちゃつくの見せつけただけじゃん」
確かに。この世界の価値観で言えば、男の人と軽口を叩き合える女はもうそこまでの仲なら付き合ってるよねって感じだった。
「ちょっと伊織!貴方のせいで誤解されちゃったじゃん!早く否定してよ」
「えぇ…俺なんもしてない気がするんだけど…」
「ここが貞操逆転世界だって分かってるんでしょ!?早く!」
「わかったよ…俺はこいつとはただの友達で、微塵もそういう感情ないから」
張り詰めていた空気が霧散した。気がする。いや〜危なかった。これで死亡エンドは避けられたかな。全くなんてお騒がせ者なんだ、この男は。
「それはこっちの台詞なんだが…というか、なんでそこで崩れ落ちてんの?」
「勝手に心を読むな!あと仕方ないでしょ!男に微塵も興味ないって言われたんだから!」
「いやお前が言えって言ったんじゃん」
「女ってのは面倒くさい生き物なの!」
あ、周りの人もダメージ受けてる。チャンス!伊織の手を掴んで颯爽と喫茶店から出…、出……
「朱莉、殺さないで」
「諦めるの早すぎない?……なんか事情があるみたいだし、今回は見逃してあげるけど、」
微笑む。
「今度全部吐いてもらうから」
捕食者の笑みだった。
◇ ◇ ◇
なんとか自宅まで着いた。喫茶店から私の家まで徒歩5分。この世界で男を連れて外を出歩くなんて、隣の女を無視して男を掻っ攫おうとする歴戦のナンパ師をぼこぼこにするほどの自信がないとできない。無論、私にはそんな力はない。むしろぼこぼこにされるだろう。ってな訳で、誰にも遭遇せずに家まで帰って来れたのが地味に奇跡なのだ。ちなみに、スパイ映画みたいにいちいち曲がり角を確認する私を、伊織は微妙な顔で眺めていた。
そーっとリビング兼ダイニングとなっている大きめの部屋を覗く。台所で洗い物をするお母さん。ソファに寝転んでスマホをいじっている妹。よし大丈夫、バレてない。
伊織を手招きしてそっと自室へ…
「っふぅー!やっと着いた〜!」
「…流石に用心しすぎじゃないか?」
「いやいやこれでも不用心な方だったよ?」
またまた〜って言って笑ってる。え?この人ネタで言ってるの…?まぁ今そこは重要じゃないので無視しておく。
「それで?なんで伊織がこの世界にいるの?」
「ああ、そうだな。話すと長くなるんだが、いいか?」
頷く。
伊織曰く。1ヶ月前にこの世界に迷い込んだ。児童養護施設的なところに保護してもらった。以上。
「長くないじゃん!」
「確かに」
なんだこいつ。こんなにぽんこつだったか?私が知る伊織はスポーツ万能、容姿端麗、温厚篤実。いやこっちの方がなんだこいつだわ。完璧人間か?
それより聞き捨てならない情報があった。
「え!?伊織って春から高2なの!?」
「ああ。高1が終わった後の春休みに転移してきたからな。どうやら季節のタイミングは同じみたいだ」
「…私、春から高1なんだけど」
悔しい!!!前世では私は5月生まれで、伊織は12月生まれ。半年以上も年上なんだからと伊織を言いくるめて兄貴風を吹かせていたというのに!!
「……まぁ、お前が男だった時からお前のこと頼れる兄貴として見た事なかったけど」
「だから心を読むなよ!あと今の台詞は聞き捨てならないんだが」
「だってお前、今も昔も背ちっちゃいし」
「それだけは禁句だろ」
伊織の口を手でふざく。手でふさぐ?当然手のひらに感じる、
すぐさま飛び退いた。
「…ごめん」
「…おう」
自分の顔が異常に熱いのがわかる。恥ずかしすぎてたまらない。でも絶対今ちょっとニヤけてる。そんな顔を伊織に見られたくなくて、手で顔を覆った。伊織の口に触れた手で。…あっ、やばい。
「〜〜〜〜〜っ!!」
カーペットの上でごろごろと転がる。だって仕方ないじゃん!伊織があんまり普通に接するから!前世と同じ軽い雰囲気になっちゃうじゃん!
「ちょっ、ユズ!見えてる……って聞いてないな」
自分のことでいっぱいいっぱいになっていた私は、伊織が頬を染めて私を見ているのに気づかなかった。
閑話休題。
「…それで?どうしてあんな人の多い喫茶店に1人でいたの?しかもこんなにえっ…じゃなくて無防備な格好で」
「俺からしたら、今のお前の格好の方がよっぽど無防備に見えるんだが」
伊織の指摘を受けて、改めて自分の服装を確認する。この部屋は日当たりが良いので先ほどまで羽織っていた大きめの黒いシャツを脱いでおり、今の装備はノースリーブのベージュのワンピースにくるぶしまでのソックス。
? どこが?
呆れた目をする伊織をぽかぽかしたい所存であるが、ここはグッと堪える。私は同じ轍を踏まない女なのだ。しばらく謎の拮抗状態が続くと、伊織は諦めたかのように語り始めた。
・ ・ ・
「…はぁ?つまり伊織はどこに行くにも着いてきてくれる施設の職員さんに辟易して、こっそり入るのを禁止されていた喫茶店に1人で突入したってこと?」
「……そうなります」
「あほ!ばか!おおばか!!」
「…そこまで言わなくたって」
なんかいじけてる。可愛い。じゃなくて!こいつ…この世界での男性の価値を全然わかってない!
「いいや言うよ!伊織って本当にこの世界で1ヶ月生活したの?全然前の世界の感覚抜けてないじゃん!あのね、この世界では男——特にフリーなのに女性と関わっても怯えたり見下したりしない男性はすっごく希少なの!そんな人がいたら…っていうか貴方のことなんだけど。全女性の9割、いや10割が伊織のことをどう食ってやろうかって虎視眈々と狙ってるんだよ!」
私の言葉に、伊織は俯いて何か思案している。わかってくれただろうか。ため息が溢れそうになる。しかし、恐らく彼の無知の原因は彼の楽観的な思考だけでなく、施設の職員さんにもあるだろう。おおかた安心させたところをパクリっ…って寸法か。まったく、油断も隙も無いよ。
「…ってことはさ」
「?」
「ユズも俺のことをそう言う目で見てるってこと?」
「お前もう黙れよ」
否定できなかったのは許してください。