私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
あまりにも後半に濃い要素が詰まった春休み。そして校長先生の単調な話によって、ついうとうとしてしまった入学式が終わり、今日から高校生活が始まる。
いつもより少し早く起きて、お母さんに買ってきてもらったお気に入りのパン屋さんのベーグルを頬張る。
その後は洗面所を占領して洗顔。そしてヘアアイロンで髪を緩く巻いて、校則に引っかからない程度のナチュラルメイク。うん、今日も可愛い。
そうこうしてると、2階から大きなあくびをして日向が降りてきた。
「ふわぁ…おねえちゃん、おはよー」
「おはよ…って、日向。まだ目が寝てるじゃん。ほら、私のヘアバンド貸してあげるから顔洗ってきなよ」
寝ぼけ眼で私のヘアバンドを受け取り、洗面所へ向かう。再びリビングへ帰ってきた時には、完全に閉じていた日向の目はある程度開いていた。
「ふー。目が覚めた!って、お姉ちゃんもう家出るんだね。ちょっと早いんじゃない?」
「あー…ちょっとね」
「え、何その反応。何隠してるの?あ、わかった。一緒に学校行くんでしょ。愛しのいお———」
ばたん。
ふー。危なかったぜ。
あまりに誤魔化せていない誤魔化しを妹にかました私だが、彼女の言葉は正直めちゃくちゃ図星である。
いつもより早く家を出たのは、高校に通うことに慣れてないであろう伊織を迎えに行くためだ。転入の説明の時に一度行っているから覚えているとは思うが、伊織に頼まれてしまったので、もちろん私に断る選択肢はない。久しぶりに会った親友の頼みを無碍にしたくないしね。
……一緒に登校できるのが嬉しいのは秘密。
「今家出たよ…っと」
伊織にメッセージを送る。いつもの私なら、男の人と一緒に登校するために朝迎えに行く…これもう通い妻では?みたいな意味不明なことを考えてしまうが、今日の私は一味違う!!………はい、前世でも同じことしてたから慣れてるだけですね、はい。
「ここかな?」
伊織から送られてきた住所のメモに従って、施設に着く。かなり大きく、綺麗な施設だ。まさか家の近くにこんな大きな児童養護施設があるなんて思わなかった。
インターホンを鳴らす前に少し中を覗いてみる。
そこには元気にグラウンドを走り回る小学生男児たち………って男児!?
なんとグラウンドには、女の子は1人もいなかった。その場に唯一いた女性は、おそらく先生だろうか、わいわいと騒ぐ男の子たちをニッコニコで見つめる1人のみ。
この施設大丈夫か?あれ、
ここで説明しよう!『養殖』とは、男の子が生まれた時に誰にも渡さないよう女性の知識を一切与えず、食べごろになったところで独り占めする犯罪である!……犯罪である!!
伊織って今16歳でしょ?どう考えても食べごろだよなぁ…いや、あくまで客観的意見としてね?私が食べたいなぁとか思ってるわけじゃないから、ほんとに。
よし、見なかったことにしよう。
かしこい選択をした私は満を持してインターホンをならす。数瞬の後、伊織が1人の女性と一緒に施設から出てきた。
いや早いな。もしかして玄関で私が来るのを待ってた?愛いやつめ。…いや、わんことかに向ける親愛ね?すぐ恋愛と繋げたらダメだよ、全く(震え声)。
「初めまして、柊 柚葉さん。私はこの『わくわく養育園』の園長を勤めております、
そういって穏やかに笑う溝端さん。いや目が笑ってねえわ。もう敵を見る目ですわ。というか
「初めまして。はい、私が柊 柚葉です。それにしても、
ここで牽制。さて、彼女はどう出るのか。と思っていると、溝端さんは急に目を輝かせて凄い勢いで私の手を握ってきた。驚いて喉から声にならない声が漏れる。
「っ!っ!ですよねっ!!ここはお金はあれど一向に男に巡り会えない私が創った理想の地なんです!!いや〜苦労したなぁ!男の子を持つ女どもの警戒を解いてここまで人を集めるのは!!」
やべぇ。同志認定された。この世界で男の楽園を褒めたら、まず皮肉じゃなくて羨ましいのかな?ってなるね。不肖柚葉、一生の不覚ッ…!
まくし立てる彼女の言い分を聞くに、この施設は普通に保育所としても活動しているらしい。それでここまで男の子を集めるのだから、溝端さんは猫を被るのが非常に上手いのだろう。いや、私の前でも被っといて欲しかったんですけど… というか隣に伊織いるの忘れてない?って忘れてた!学校じゃん!
「ごめん伊織、忘れてたよ。それじゃ、学校行こっか」
「本来の目的を忘れんでくれよ…」
まだ喋ってる溝端さんのことは聞かなかったことにするみたい。懸命な判断だと思います…って、伊織の後頭部に寝癖発見。
せっかくかっこいい見た目をしてるのに、身だしなみに無頓着な伊織に呆れの視線を送ってしまう。
……これはこれで抜けてる感じがしてありかもしれない。いやいや、やっぱりキチっとしてた方が絶対かっこいいし!
「伊織、ちょっと屈んで」
伊織が頭に疑問符を浮かべながら頭を下げた。後ろに回り込んで、カバンから取り出したヘアローションを髪に馴染ませる。あとはブラシで軽く梳けば…よし、完璧!ふわっとホワイトムスクが香るさらさらヘアーの完成だ。
「あ、すまん。ありがとな」
お気に入りの優しい香りが伊織の頭から漂ってくる。私は無意識に彼の頭に顔を近づけていた。くんくん。うん、やっぱりいい匂いだ。
「ユズ?そろそろ立ってもいい?」
私の目論見通り。伊織って意外と穏やかな雰囲気してるから、このほんのりとした甘い香りがよく似合うと思ってたんだよね。…はっ!?ただでさえ高い伊織の魅力を引き上げてしまった…って、また変な思考が脳内に垂れ流される。なんかちょっと慣れてきたな。いや慣れたらダメなんだけど。
「あの、ユズさん?聞こえてる?おーい」
もう一度伊織の髪の匂いを嗅ぐ。私の好きないつもの匂い。でも、自分がつけた時と少し違うような。なんだろう、これ。いつもの匂いよりも魅力的で、なんだか蠱惑的な————
「柊さん」
「ひゃいっ!?」
絶対零度の声が私の背中に突き刺さった。ギギギ、と錆びれた音を鳴らしながら振り向くと、そこには目を刃物のように細めて笑顔でこちらを見る溝端さんの姿。
「あなたを殺します」
………わかりきっていることだが、あえて言わせてもらおう。
どうしてこうなった!?
◇ ◇ ◇
伊織のオフショットを約束することでなんとか見逃してもらえた私は、やっと伊織と学校へ出発することができた。ごめん、伊織… 命には変えられないや…
で、やっぱり2人きりで歩いていると案の定めっちゃ見られる。流石に通学中にナンパをしてくるような非常識な人間はいないようだが、道ゆく女性たちは全員伊織に見惚れた後、隣を歩く私に露骨に舌打ちをして去っていく。すごくこわいです。
「はいっ!一緒に行くのはここまで!」
遠くに校門が見えたくらいで伊織にそう伝える。今ですらもう視線という名の針のむしろなのに、このまま登校したら私死んじゃう。
「えぇ、なんでこんな微妙なとこで?」
こいつ、さっきの溝端さんとの攻防をもう忘れたのか?いくら他人からの視線をどうでもいいと思ってたって、そこまで鈍感なのは喧嘩を売っているとしか思えない。
特に理由はないが、その場で自身の髪の匂いを嗅いで、ホワイトムスクの香りを探した。…物足りない。
ってこれでいいんだよ!これに何を足そうとしてるんだ私は!!!
伊織と別れて、教室へ着く。なんだかどっと疲れた。え?まだ今日って始まったばかりなの?本当に?
今日の時間割が
「おはよう、ユズ」
そんな私の、のんびりする計画は叶わなかった。
「春休みにユズがお持ち帰りした男のこと、約束通り洗いざらい吐いてね?」
「……おはよう、朱莉」
まさか教室についてからが本番だったとはね。今日の朝、まじでイベント多すぎないか???朝だけで1話分になっちゃったよ、全く。ん?1話ってなんだ?
落ち着け。私。入学式で朱莉と同じクラスになったのを確認した時から、こうなった時の対処法は考えてきただろ。
大丈夫。諸刃の剣であり自分が死亡することは確定しているが、私には秘密兵器がある。これを使って、なんとか朱莉を誤魔化してみせる!!
私たち(?)の戦いは、これからだっ!
ご愛読ありがとうございました!
一応伊織くん視点書いたけど、読む?
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