私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
ということで伊織視点です。読まなくても本編の理解に影響はないよ
「俺、柚月」
貞操逆転世界に迷い込んだと思ったら、美少女になった元の世界の幼馴染と再会してた。何を言っているかわからないと思うが、俺もよく分からない。
しかし、ユズ以外に俺をあそこまで滑らかに煽れる人間を俺は知らない。そもそも自分のおすすめのラノベとかネット小説を教えてたのあいつだけだし。
隣を歩く見慣れない姿の幼馴染を見つめる。その視線に気づいたのか、ユズはきょとんとした顔で俺の顔を覗き込む。
そして数瞬俺と目を合わせた後、少し頬を染めて慌てたように前に向き直った。
……あざとい。
こいつわざとやってるのか?胸に感じたことのない変なむかむかと言うかぽかぽかというかよく分からない感情が広がった。
肩に少しかかるくらいの、緩くカールしたダークブラウンの髪が歩くたびに微かに揺れる。そんな彼女の姿につい見惚れていると、交差点に差し掛かったところで急にユズがすごい勢いで辺りを確認しだした。
「なにしてるんだ?」
「他の女の人がいないか確認してる。今の伊織を見られたら多分道ゆく人が正気を保てないと思うの」
伊織は私が守るから安心して、とドヤ顔でこちらを見上げるユズ。……正直、頼りない。ユズは昔から自信まんまんの時に限ってポカをやらかすのだ。
そんなことを思い出して、ユズを呆れた目で見てしまう。それに気づいたユズもなんとも言えない顔をしていた。
俺の予想に反して、何か問題が起こることもなくユズの家に着く。……ここ、俺がお世話になっている施設とずいぶん近いな。まさかこの世界でもご近所さんだったとは。
「……よし、OK。バレてない。伊織、こっちこっち。音を立てずに来てね」
家の中でもまだコソコソとしているユズを怪訝に思いながらも、彼女に従ってユズの部屋までこっそりと移動する。
扉を閉めた瞬間、ユズがやっと安堵の息をはいた。
「っふぅー!やっと着いた〜!」
達成感に浸るユズ。結構体力と精神力を使ったのか、額には汗が滲んでいた。
「…流石に用心しすぎじゃないか?」
「いやいやこれでも不用心な方だったよ?」
これで不用心?思わず笑ってしまう。こいつ、本当にスパイでも目指してるのか?そう思ってユズの発言を軽く流すと、なぜか呆れたようにジト目で見られた。
解せぬ。
「それで?なんで伊織がこの世界にいるの?」
ユズの、ミルクティーを溶かしたような甘い色の目が俺を見据える。こいつ、本当に見た目がいいな…
俺は至って平然な風を装ってユズの疑問に答える。動揺したのがバレてないといいが。
「ああ、そうだな。話すと長くなるんだが、いいか?」
ユズがこくりと頷いた。
…えーーっと、何を話せばよかったっけ?ユズにくりくりとした目で見つめられると不覚にも言うべきことを忘れてしまい、彼女に呆れられてしまった。こいつ……誰のせいだと……
話していると、どうやらこの世界のユズは俺より年下らしい。むしろこっちの方がしっくりくるな、と思う。
「……まぁ、お前が男だった時からお前のこと頼れる兄貴として見た事なかったけど」
「だから心を読むなよ!あと今の台詞は聞き捨てならないんだが」
「だってお前、今も昔も背ちっちゃいし」
「それだけは禁句だろ」
ユズが突然俺の口を塞いできた。と思うと、すぐに飛び退いて顔を真っ赤にして俯いている。恥ずかしそうにしながらも、その口角は上がっていた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
急にカーペットの上を転がり回るユズ。正直めっちゃ心臓がうるさいが、ここまで狼狽えてくれるとこっちは冷静になれる。顔の熱が冷めたことに安心していると、ごろごろと転がるユズのワンピースがはためき、中の下着が見えた。
白。脊髄反射でそう脳内で呟いてしまうのは男の性なので許してほしい。
色気のかけらもないパンチラ。それがこの少女がただの女の子ではなく『ユズ』なんだということを体現していて、なんだか気まずくなって目を逸らした。
「…それで?どうしてあんな人の多い喫茶店に1人でいたの?しかもこんなにえっ…じゃなくて無防備な格好で」
「俺からしたら、今のお前の格好の方がよっぽど無防備に見えるんだが」
もうこれ以上会話を止める訳には行かないので、ユズの言い間違いはスルー。俺の発言に、ユズはきょとんとして自分の服装をざっと確認し、一言。
「どこが?」
それが分かってない時点で人のこと言うのは無理だろ!肩見えてるし!ワンピースの丈短いし!そんなんじゃ下着見えるぞ!いや見えたし!
どんなに非難の目線を送っても、ユズはこの話は終わりとでも言うように俺に事情説明の続きを促す。彼女が譲らないことを察した俺は、諦めて話し出した。
そして。
「あほ!ばか!おおばか!」
現在めっちゃ怒られてます。ユズ曰く、女性を見下したり恐れたりしないフリーの男はあまりに希少。そんな男がいたら10割が狙っている、か。いくら男性の数が少ないからってそんなことあるか?やっぱりユズが大袈裟に言っているだけのように思える。
……ん?10割?……全員?
「ってことはさ」
口が無意識に動いた。
「?」
「ユズも俺のことをそう言う目で見てるってこと?」
「お前もう黙れよ」
いや本当に何言ってんだ俺!?
◇ ◇ ◇
なんとか先ほどの失言を冗談として流すことに成功した俺は、紆余曲折ありながらも情報共有に成功することができた。
美少女の冷たい笑顔こわい。もしこの世界でも彼女作ったら、美少女モードのユズに絶対零度の視線で見られるのか…俺もう二度と彼女作れないんじゃなかろうか。
過去の俺に対する怒りを収めて怪しい雰囲気を霧散させ、何かを葛藤しているような表情で虚空を見つめるユズ。そんな彼女をぼんやりと見ていると、ふと彼女がユズではなく本当の女の子のように感じてしまう。その理由はユズの口調と仕草。
流石は15年も女子をやっているだけはある。なんならユズは、施設にいるどの女性よりも女性らしかった。
「一回柚葉としてじゃなくて、柚月として喋ってくれないか?」
だからこれは、俺とユズがこれからも親友でいられるための儀式のようなものだ。しかし、俺の言葉にユズは むー、とでも言いたげに唇を尖らせる。その仕草似合いすぎ。
「なんで嫌なんだ?」
「だってぇー。私の見た目で男っぽく振る舞うのは似合わなさすぎるし、変な目で見られちゃうこともあるし」
まあそれもそうか。と1人納得する。俺も前世で見知らぬ美少女が「オレ」とか言ってたらびっくりするだろう。
だがしかし。
「じゃあ俺の前では問題ないんじゃないか?俺はユズが元男だって知ってるから違和感も感じないし、もちろん変な目で見ることもない」
というか今の方が変な目で見そう。
「そう?じゃー、一回そうしてみよっかな」
そう言って咳払いをするユズ。
「…これでいいか?」
「おう、そんな感じだったな」
口調が変わっただけなのに、目の前の少女を一気に幼馴染と認識できるようになった気がする。よし、これなら大丈夫。
「で、俺はなにをしたらいいの?」
そういえばユズに男の口調で話してもらうのが目的で、話す内容は何も考えてなかったな…あっ、そうだ。さっき学年の話もしたし、これから通う高校のことでも伝えておこう。
その高校の名前を伝えると、どうやらユズがこれこら通うところと同じらしかった。え…まじかよ…俺、勉強苦手なんだけど…
ユズが俺をいたわるように肩にそっと手を置いてくる。この世界だと、年下に勉強のことで慰められていることになるのか……流石にちょっと惨めだな。いやいや、中身はユズだし大丈夫、気にしない…気にしない…自分が勉強できないことも気にしない…
「一緒に勉強、頑張るか」
ユズの優しい言葉が、今だけは痛かった。
「その時は私も呼んでね、お姉ちゃん!」
「いいけど、ちゃんと真面目にやるんだよ日向…って日向!?」
突然会話にぬるっと入り込んできた女の子にかなりびっくりした。どうやらユズの妹のようだ。
「ずいぶん楽しそうに話してたね。お姉ちゃんってどうして男の人にあんなに穏やかに接することができるんだろうって思ってたけど、やっぱりいたんだね、彼氏」
「…いや、あのね?信じてもらえないかもだけど、本当にただの友達なんだよ」
速攻誤解を受けている。男女2人でどちらかの家の自室にこっそり入り込んだだけでその判定はいささか早計では?……いや、そんなことないか。改めて字面にすると結構やばいことしてたな、俺たち。
「そうやって人払いしておっぱじめるつもり?下にお母さんいるし、流石に不味いんじゃない?」
「ほんとに違うから!」
ユズ…お前まさかそんな奴だったなんて…
ユズの妹が完全にふざけていることに気づいた俺は、悪ノリをして少し怯えた顔でユズから後ずさった。
焦りからか、頬を少し赤らめてわたわたと手を動かすユズの姿に癒されていると、ユズの妹がふっと表情を崩した。おや、ユズで遊ぶのはもうやめるのか。
「冗談冗談、まさか家族が家にいるのにそんなことするとは思わないよ」
「日向…」
「本番する時は言ってね?協力するから」
「日向!!」
……ずいぶん強烈な妹をお持ちで。
ユズは前世の記憶のことは家族には隠してあるみたいで、俺との関係を誤魔化したいようだ。まあ俺がユズの立場でもそうする。時々会話の中に矛盾点を作ってしまい、その度に捨てられた子犬のような目でうるうるとこちらを見つめるユズをサポートしながら、なんとか説明に成功する。
「ふーん…小学校の時に仲のよかった男友達ねぇ…あ、改めましてこんにちは。私は柚葉の妹の柊 日向です」
「ご丁寧にありがとう。改めまして、俺は七瀬 伊織。ユズのおさな…友達だよ」
おっと。初っ端のユズに対するドギツイいじりで誤解していたが、意外と礼儀正しい子らしい。丁寧な挨拶に答えるように、こちらも柔らかく返答する。
すると、彼女は突然凄い勢いでのけぞった。
……やっぱり初っ端の印象の方が正しかったりする?
「え?え?え?なに彼。笑顔可愛すぎか?え、伊織さんって私のこと好き?お姉ちゃん付き合ってないんだよね?ね?私がもらってもいいよね?と言うかこれもう脈ありだよね?」
「え、駄目」
ぽつりとその言葉をこぼし、自分の発言にぽかんとしていたユズの顔がみるみる熟れていく。
「やっぱりそうなんだね。私に略奪趣味はないし、ぞっこんの彼と2人でゆっくりしてなよ」
「〜〜〜っっ!?」
混乱と羞恥でいっぱいいっぱいになり、目に淡く涙を浮かべている姉をほったらかしにして、最後に爆弾を捨ててから部屋を出る日向ちゃん。
……本当にやってくれたなぁ!!気まずすぎるんだが!!
「……今日はもう帰るわ」
「…そうだね」
その空気に耐えられなかった俺は撤退を選択した。
ユズが扉を開けると、そこには30代半ばくらいの見た目の、エプロンをつけた家庭的な雰囲気の女性。
ユズの顔がさっと青くなった。
「…お母さん」
お母さん!?それにしては随分若いな、なんて呑気なことを考えていたら、隣でユズがめっちゃ怒られてた。
ユズの母親に謝り倒される形で親子の説教に巻き込まれ、結局
…今度ユズの家にお邪魔する時は、絶対にアポを取ってもらってから行こう。俺は固く決意した。
次回は土曜日!