私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
5分後、何もなかったかのように教室へ戻る。今日で初対面の子たちと連絡先を交換しておきたい人が多いのか、もう放課後であるのに帰宅した生徒はほとんどおらず、周囲の喧騒ももとに戻っていた。
ほっと一安心して、朱莉の元へ帰る。
「ごめんごめん、突然お花を摘みに行きたくなってさ」
そう言う私を朱莉は微妙な顔で見つめる。
「……ユズってそんなに手が出るタイプじゃなかったと思ってたんだけど」
「え?なんのこと?さっき何もなかったよね?」
朱莉の後ろに回り込んで、隠れていた優奈の目の前まで移動する。猫みたいにシャー!って威嚇された。なんか友達が退化してる。
「…わかった。何もなかったことにするからお願いだから優奈から離れてあげて。今扉を開かないように必死なの、彼女」
一体どんな癖の扉なんでしょう。私には全然分からないなぁ(すっとぼけ)。
優奈が落ち着くまで朱莉と喋ったり、他のクラスメイトと自己紹介しあったりして時間を潰す。みんな私のことを見てなんとも言えない顔をしてた。それは失礼じゃない?
でも一緒に話してるとあちらの謎の緊張も解けてきて、好きなアーティストの話題で盛り上がる。今度カラオケ行こって誘われた。もちろん了承。とても楽しみだ。
それにしても。と、以上な群がりを見せる3つの人溜りに目を向ける。
男子が1人につき10人くらいの女子に囲まれていた。今日登校して来た私たちのクラスの男子生徒は、在籍4人中出席3人。そこそこ偏差値の高い高校だからか女子生徒たちも多少は慎まやかさを持っておりそこまで過剰に攻めたりしないが、やはりライバルへの牽制も兼ねて全員がグイグイ男子生徒に迫ってる。
男子って大変だなぁ、と他人事のように眺めてしまう。まぁ他人事ですし。
「優奈、大丈夫?」
「正直大丈夫じゃない。ねぇ、朱莉。ユズって何者?男ムーブは可愛いだけで死ぬほど下手くそだったのにママムーブがうますぎる。前世お母さんだったりしない?」
「…正直ちょっとだけ疑ってる」
カラオケの約束をした新たな友達に一言詫び、なんだか失礼なことを言っている優奈に近づく。
「お、優奈復活したんだ。じゃあ帰ろっか」
すぐさまヒュバッと朱莉の後ろに隠れる優奈。
「あんまり優奈をいじめてあげないでよ…」
?
いつ私が彼女をいじめたというのか。ねぇ?
それにしても、私に怯えてびくびくしてる優奈を見ると、なんだか背中がぞくぞくとする。……ん?っておい!!これ伊織にこじ開けられた(自分で勝手に開けた)ライトSな癖じゃないか!!!
全く伊織は…すぐに私に迷惑をかけるんだから。とりあえず一階下の2年生の教室へ適当に非難の目線を送っておいた。
流石にそろそろお腹が空いて来たので、3人で教室を出ることにする。優奈も朱莉を間に挟めば私と普通に喋れるほどに戻った。いやこれ戻ったって言っていいの?
お別れの挨拶をしようと、先ほど遊ぶ約束をした友人を探す…って、男の子の取り巻きの1人になってる。じゃあ邪魔するのも悪いし、そのまま帰っちゃうか…
あ、そういえばあの子って男子の中で誰がお気に入りなんだろ。軽く背伸びをして、目的の男子を……見えねえ。男子生徒を取り囲むみんな、私よりも10cm近く身長が高いからね。
「ごめん朱莉、ちょっと抱っこ」
「はいはい」
朱莉に体を持ち上げてもらい、囲まれている男の子を見る。あっ、目が合った。というか
へぇ。あの子って氷鉋くんの見た目が好みなんだ。まぁ彼女の気持ちも理解できなくはない。
一応顔見知りとなったので、目が合った瞬間に彼にひらひらと手を振り、口パクで「ばいばい」って言っておいた。ふふ、気づいてくれてたらいいな。
「ありがと」
「ユズが学校で男を一目見たいって言うなんて珍しいね」
「氷鉋くんだったから一応挨拶しておこうと思って」
「あー、さっきの。…ってまたポイント稼いでるじゃん!!」
「…いや、挨拶しただけだよ?」
朱莉、結構本気で氷鉋くんのこと狙ってるのかな。それだったら応援したいけど。でもまずはその剥き出しの欲をなんとかした方がいいと思います…
「あ…
◇ ◇ ◇
上靴を靴箱に入れて、下履に履き替える。今日は運動する予定もないのでローファーだ。やっぱり制服と合わせると可愛いよね。
まだちょっと余所余所しい優奈と、彼女にしがみつかれることにすっかり慣れた朱莉と3人で、帰ったら何をするか話しながら外へ出る。
「ん…?」
校門前が異常に騒がしかった。周りの生徒たちが皆一点を凝視している。……凄まじく嫌な予感。これ、なんかデジャヴを感じるな。いやデジャヴどころの話じゃない。今朝に見た景色とひどく似て…
「あっ、ユズ。遅かったな」
おい!!!!!!何のために今朝学校から少し離れたところで別れたと思ってるんだ!!!!
「死ぬっていったじゃん!!!!」
おっと、声に出てしまった。周りの注目がさらに集まる。やっべ。でも今はそれどころじゃない!
「伊織、私言ったよね??一緒に登校してる時の視線が痛くてこのまま登校したら私死んじゃうってさぁ!!」
「え?そんなこと言ってたっけ?単純に一緒に行くのは途中まで、としか言ってなくなかったか?」
朝の会話を思い出す。……言ってなかったわ。
「ごめん伊織、言ってなかった」
「えぇ…」
予想外の出会いに混乱して理不尽な怒りをぶつけてしまったぜ。反省反省。右手をピシッと後頭部に置いて舌をぺろっと出す。いわゆるてへぺろポーズである。
どうだ!この完璧なてへぺろは!!
少し自慢げにポーズを維持する私を呆れた目で見つめる伊織。……そういえば、伊織って私の行動を男の時の見た目でも想像してたりするのかな。だとしたら相当しんどい絵面になってない?流石の私も前世の自分の姿に発情するほど終わってはいないからそれくらいは分かる。えらいぞ、私!
現実逃避をやめて、おずおずと舌を戻して手を下げる。伊織はその間終始無言だった。
はっっっっず。
やめて!黙らないで!せめてなんか罵ってよ!いやそう言うプレイではなく。
顔の体温がみるみる上がっているのを自覚していると、結構強めの力で私の肩が掴まれた。ちょっといたい。
振り向くと、先ほどまで私に怯えていたとは考えられないほどの怒気をまとう優奈の姿。
「ユズ。それは反則。ママムーブしてるからって人妻になることを許したわけではない」
何言ってるんだこの友人は。周りの人の視線がそろそろ威殺せそうなほど膨れ上がってるんですけど。
それと同時に優奈からも放たれる圧倒的な威圧感。
以前朱莉に向けられたものに負けず劣らず恐ろしいそのオーラ。だがしかし。私は前のようにビビり散らかしていなかった。なぜなら、つい先ほど優奈を倒したばかりだからである。
「ふっ、優奈。私にそんな口聞いていいの?また私の右手が火を吹くよ?」
そう言って手をわきわきさせる。こうすればさっきのように彼女も怯むだろう。ふはは、勝利の確定している戦いのなんと気持ちの良いことか。
優奈の方へじわじわ近づけていた手が、容易に掴まれた。すぐさま壁際まで詰められる。
「えっ?」
「ねぇユズ。あんなに女もいける感出しといて彼氏いたの。それは駄目。それはライン越え。勝ち組の領域から撫でる私の頭はどうだった?」
「いやちょっと待って待ってそもそも私たち付き合ってな———」
「黙って」
あちゃーって顔をしている朱莉と完全に野次馬化して私たちの様子を伺う伊織。さっきと逆の立場。背中を冷たい感覚が伝った。
「ちょ、伊織、朱莉!見てないでたすけ——」
「ねぇユズ。今私と話してるよね。なんで他の人の方を見るの?」
やばいやばいやばい!!!
優奈がアホほど顔を近づけて来る。あーもう顔が良い!!!これでスキンケア何もしてないのはおかしいだろ!!
「おしおきだね」
耳元でそう囁く。ぞわぞわする感覚が消えるよりも早く、突然優奈は私の耳朶を甘噛みした。
「んひゃんっ!?」
優奈の奇行に崩れ落ちる私。完全敗北だった。
かろうじて顔だけを上げると、気まずそうに顔を背ける伊織と朱莉に向かってVサインをする優奈の姿。
「ぶい。これで一対一。私は負けてない」
その言葉を聞きながら、私は羞恥心に押し潰されて意識を手放したのだった。がくっ。
次回から伊織くんとの絡みに戻るからユルシテ…