私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
もうなんか現場が混沌としているので、とりあえずみんなで学校を出る。逃げるとも言う。伊織についてなんの事情も知らない優奈に、帰りながら説明することになった。
伊織の背中に隠れているとおそらく朱莉に
そんな私を優奈が澄んだ瞳で見据える。その相貌からは私に対する畏敬は完全に消えていた。やり返されたと言ってもこれで一勝一敗だしまだ対等だ!って思ってたけど、普通に背も胸も力も優奈に負けてるんだよね… けっ、ボンキュッボンガールめ。え?もうその言い方古い?そっか……
優奈をジトっとした目で見つめていると、彼女がずいと体を寄せて来る。
ひぇっ、食べないで…
「ユズ。そろそろ隠れてないでこの男性のことを説明して。いや説明しなくていいから紹介して」
くっそぉ…この大喰らいが。私の耳だけでは飽き足らず、伊織に対しても舌なめずりをしているのが見え見えである。そんなにガツガツ行ってると男の人に引かれちゃうぞ〜(笑)……あっちょっとこっち来ないでごめんってあっ!
「耳を!触るんじゃない!!」
まだ余韻が抜けきってないの!!ニヤニヤしている優奈をひと睨みする。こいつ…伊織のこと一切を秘密にしてやろうかな…
そう思った瞬間、優奈の顔が急にキリッとして伊織の方を丁寧に指し示した。
「くだらない話は終わり。彼はユズとどんな関係?流石に校門前で待たせるのはユズと言えども舐めすぎだと思う」
……思考盗聴防止グッズとか買おうかな。
まあそれは置いといて、優奈の発言は紛れもない事実である。百歩譲って男の子の下校を校門前で出待ちするならまだしも、先に行かせて待ってもらうなんて言語道断な行いだろう。…って言っても私待ってくれなんて一言も言ってないんだけどね!どうせ前の世界のノリでやったんだろうけど、そろそろこっちの常識を理解してほしい。
もう一日に二度も伊織と私の出会い(でっちあげ)を説明するのはしんどかったので、優奈への説明は伊織に任せる。ほら、伊織が事態をややこしくしたんだから、きちんと責任とりなさい。
そんな意思をもって彼を見ると、伊織は一瞬きょとんとした後、両手を軽くあげて呆れたように首を振った。口パクだったが、確実に「やれやれ…」って言ってた。
「…は?」
………うっぜぇぇ〜〜〜。なんでこの人仕方ねぇなって顔してるの?今回に至っては別に私なんも悪くなくない?おい、手の動きと首の振りに緩急をつけるな。
「極刑に処す」
「ユズ待って待って全然状況が理解できない。今のいお…七瀬くんとのやりとりでなんで一触即発になってんの?」
なんてことはない。昔からのじゃれあいだ。どっちかがふざけて、どっちかが怒って。くだらないことだけど、私はそれが好きだった。それを、邪魔された。朱莉は私たちの過去を知らない。揉めているように見える私たちを止めるのは当然だろう。それはいい。だが、まだろくに喋ったこともないのに朱莉が伊織を名前で呼ぼうとしたのだけは見逃せない。
「また私から伊織をとるの?」
「え?なんの話?いや取れるなら欲しいけど…って怖い怖い!え?ユズそんな威圧出せたの!?それになんか情緒バグってない!?ちょっ、冗談だから!落ち着いて!」
私は至って冷静なんですけど。ねぇ?朱莉の発言が理解できなくて、ずいと詰め寄る。ごめん、聞こえなかったからもう一回言ってもらっていいかな?
パシャリ。
朱莉を追い詰めていると、突然優奈が写真を撮ってきた。突然の友人の奇行に毒気が抜ける。
「あとでこれをユズに見せよう。きっとめっちゃ悶えるはず」
なんか黒い笑顔をしてたけど、なんなんだろ。
校門前で騒ぐと迷惑なので下校を始めたはずなのに、結局道路でも関係なく騒いじゃいました。えへへ、すみません…え?ごまかせてない?…ともかく通学路沿いの公園に逃げ込んだ。
「あー…自己紹介した方がいい?」
カバンからお茶を取り出して一息ついていると、朱莉と優奈の視線に耐えきれなかったのか伊織がそう申し出た。
「ぜひお願いしたい。ちなみに私はユズの大親友の新木 優奈。気軽に優奈ちゃんって呼んでほしい。スタイルには自信があるので触りたかったらいつでもどうぞ。ちなみにスリーサイ…いっ!」
優奈のお尻を叩く。何を言っているんだこいつは。優奈がお尻をさすりながら私を睨む。
「…同性でもそれはセクハラ」
「今の優奈の発言の方が遥かにセクハラだったと思うんだけど」
さっと目を逸らす。って自覚してんじゃん!なんてタチの悪いやつなんだ…
しかし伊織は優奈の結構攻めた自己紹介にも怯まない。笑って流している。
やはりやべー女の対処は『わくわく養育園』で慣れたのだろうか。それよりもこの世界の常識に早く慣れてほしいものである。
「俺は七瀬 伊織。まあユズとは腐れ縁って感じ。これから仲良くしてくれたら嬉しいな、優奈ちゃん」
あっ。
優奈が固まった。まさか本当に優奈ちゃんなんて呼んでもらえるとは思わなかったのだろう。それに加えてあの爽やかな笑顔。堕ちたな。
「あ、あの…はぃ。よろしくお願いしましゅ……」
チラッ。伊織の微笑みによって、くそざこモードになってしまった優奈がなぜかこっちを見てきた。
「……伊織くんって呼んだら怒る?」
「? なんで私に聞くの?」
急にどうしたのだろう。皆が彼を伊織と呼ぶのは私だけの
きょとんとしていると、優奈が含みのある笑みでおもむろにスマホを取り出した。それを朱莉が制止する。
「待って優奈。このカードはかなり威力が高い。もっとここぞと言う時に使おう」
「…なるほど。流石は朱莉。ではヤンデレ柚葉ちゃんのお披露目はまた今度と言うことで」
なんかごにょごにょ話してる。
「なんの話?私も混ぜてよー」
「ユズには秘密!」
なんて良い笑顔。満面の笑みにどことなく不安を感じる。…まぁ、私たち中学の時から仲良いし!私を陥れようなんて考えてるわけないか!友達を信じることはとっても素敵なことだしね!……あとで問い詰めよう。
「じゃあ改めてよろしく、伊織くん」
「おう、よろしくな。優奈ちゃん」
おっとぉ!伊織選手、優奈選手に手を差し伸べたぁ!これは握手の申し出だああああ!!!優奈選手固まっている!震える手をどうする?その手で伊織を…握ったああぁ!顔がゆるゆるです!
伊織は何回同じ人を堕とせば気が済むんだろう(冷静)。
……って優奈、伊織の手触りすぎ!すりすりすんな!早く離して!
無理やりひっぺがしたのにまだトリップしてる。あと何分か余韻が続きそう。まぁそうなる気持ちはすごくわかる。
「ふぉぉぉ…!これが、男の手…!はっ!これで自分の体を触れば…私、天才か?……ん?…ユズ。その手に持っている消毒液は何?なんで私に近づいてくるの。……させるか!あっちょっと待ってせめてこの右手だけはあ"っ」
邪なことを考える友人の手を入念に拭いてあげる。私ってば優しいね。
「あれ?そういえば伊織ってまだ朱莉のこと知らない?」
「ん、そういや初対面だな。…ん?もしかして、前に喫茶店でユズと一緒にいた子?」
おっ。伊織ご明察。一言も会話してないのによく覚えてたな。…私と再開したとき、周りを見る余裕あったんだ。ふーん。私は伊織しか見えなかったのに。
まぁ、あそこまで殺意マシマシだったら印象に残るよね。あっ、思い出したらまた寒気が。朱莉には何をしても敵う自信がない。
「……え?伊織くん、いや伊織様私のこと覚えてくれてたの?少しすれ違っただけくらいの関係なのに。運命?伊織様もまんざらではない?え、嬉し。え、え、え」
「まあ喫茶店の中では結構目立ってたと思うぞ」
その言葉にピタッと体の痙攣を止める朱莉。目立ってた?確かに朱莉はその胸で私を無自覚に煽ってきたが、何も人の迷惑になる行動はしていないはずだ。伊織の発言の意図がわから——
「だって朱莉さん、背も高めだし、かわいいし」
「えっ」
「なっ!」
「は?」
硬直する朱莉。仰天する優奈。心の冷えていく私。そして私たちの反応に心当たりがないかのように不思議そうにする伊織。朱莉の顔が秒読みで赤くなっていく。
「…ぇ。…あ、の。伊織くん、今私のこと可愛い、って…え?」
「? 可愛いと思うけど」
「!?!???!!!!?!?!」
混乱している。朱莉はその場に崩れ落ちて無意識に伊織に伸びる右手を必死に左手で押さえ込んでいた。
「……伊織くん、私は?」
「優奈ちゃん?優奈ちゃんは可愛いというより綺麗系だよな。モデルさんみたい」
「ん"っっっ!!!!………よし、録音完了。ありがとう、伊織くん。私は緊急の用事ができたから今日は帰る。じゃあね」
スマホを操作した後それを後ろ手に隠し、伊織に褒めてもらってから速攻帰宅する優奈。彼女の顔もまた、興奮に頬を染めていた。
「…伊織?自分が何したか分かってる?」
できるだけ声が固くならないように、冷たくならないように努めて平静に語りかける。
「やっぱり初対面で容姿を褒めるのはよくなかったか?」
彼女たちからの印象が心配なのか、少し不安げに私に的外れの疑問をこぼす。
本当に、この男は。
「ねぇ冗談抜きで分からないの?」
「それじゃないのか?…え、ユズ怒ってる?なんで?……あっ」
私と目線を合わせ、一歩後ずさった伊織は何かに気づいた様子で気恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いた。怪訝に思う。今照れる場面は微塵もなかったと思うが。
「あー…ユズ。お前もめっちゃ可愛いと思うぞ」
「………………ふぇ?」
?????
なんで?え?口説かれた?え?伊織に?なんで今?朱莉と優奈を褒めたからか。いやでも伊織って私が元男なの知ってるよね?どういうこと?
「…なんで?」
あぁだめだ。顔が熱くて思考がまとまらない。伊織の発言の意図がわからない。私も伊織のことかっこいいと思うよって言えばいいの?言って良いの?あぁあぁあああ!!待って待って落ち着け私!
「…だって、ガチっぽくなったら恥ずいだろ」
「え、すき」
ガチってなに?手を顔で覆う伊織が本当に可愛い。なんでそんな照れながら言うの?ああ、私の顔は彼以上に真っ赤だろう。なんでこんなことさらっと言えるの?
耐えきれなかった。カバンで自分の顔をばしばし叩く。熱が冷めない!!
ふと伊織の方を視界に入れると、彼の顔はすでに平静に戻っていた。
本当にッ……!この男はっ…!!!!