私は貞操逆転世界にTS転生したのに、親友は男のまま転移とかずるい 作:甘朔八夏
撃沈した朱莉を介抱して別れた後、やっと帰路に着く。いや元々帰り道だった気がするんですけど。今日なんかボリュームがすごい…!
「お昼って何食べるかもう決めてる?『わくわく養育園』で溝端さんがもう用意してくれてたり?」
「いや、今日は外食するって言ってきた。なに食べるかもまだ決めてないな」
伊織の言葉にぴくりと反応する。これは好都合だ。
「じゃあまた私の家に来ない?料理練習してるから、できれば食べてほしいな〜って…」
そう言うと伊織が微妙な顔をする。むー、なんでそんな顔するの?
「…親御さんにアポとってからなら」
あっ(察し)。そういえば伊織、前にうちに来た時私の説教に巻き込まれて2時間捕まってたんだった。
今日は仕事で家にいないから大丈夫だと思うけど、一応お母さんにメッセージを送る。前回怒られた時に
もう返事きた。え、お母さん仕事中だよね??
肉親の窓際族疑惑なんて持ちたくないんだけど。
『柚葉、この時のためだったのね。応援します』
……別に、中学の時に購読してるファッション誌に「料理ができる女はもてる」って書いてあるのを見たから練習を始めたとか、そういう事実は一切ございません。
ということで家に着く。まだお昼を食べるには早いので自室に荷物を置きに行った。
「そういえば伊織、転校生って形だっただろうけど大丈夫だった?」
主にクラスメイトから詰め寄られると言う意味で。
「ああ、特に問題はなかったぞ。むしろ気さくに挨拶したつもりだったんだけど、誰にも話しかけられなかった…」
「えっ!?」
それはおかしい。いやあり得ないレベルだ。伊織ほどの好青年に気さくに挨拶されて、喜ばない者など…気さくに……ん?
「あの、伊織。挨拶ってどんな感じ?」
「え?いや、どんな感じって言われても…」
「一回私にやってみて」
「? 別に普通だぞ?」
そう言って私と目線を合わせると、その整った相貌に穏やかな微笑みを浮かべて優しい声で私に語りかけた。
「俺は七瀬 伊織。これから仲良くしてくれたら嬉しいな……ほら、普通だろ?え?ユズなんで下向いてんの?」
あ〜〜〜〜、うん。この距離でこの笑顔か〜〜〜〜。あ〜〜〜かっこいいしかわいいね〜〜〜〜……はっ!私は今何を…?
「………いや、素の時とキャラ違いすぎでしょ…」
「だって最初は好印象を持たれたいだろ?」
誤魔化せたかな。まさか外行き用の伊織がこんなに王子様だったなんて考えもしなかったぜ…よくこれを全員に向けて誰にもお持ち帰りされなかったな。まぁ、私がお持ち帰りしちゃったんですけどね。うへへ……ん?なんか今私やばいこと考えてた? あれ?
「おい、いつまで俯いてるんだよ」
「ひゃっ!?」
そう言って伊織が顔を覗き込んでくる。え、まつ毛なが。目おっきい。くちびる柔らかそう。これガチ恋距離じゃん。え、キス待ちしてる?した方がいい?もうこれ義務じゃない?……って落ち着け!!ファーストキスはもっとムードのあるところでしたいだろ!!!…いや全然落ち着けてない!!!
「ていっ!」
「ぐふっ!?……なんで…?」
伊織の鳩尾に突きを入れる。完全なる八つ当たりである。あまりに突然の攻撃に顔を歪める伊織の顔を見ていたら正気がやっとぶり返してきた。ごめん伊織、そして変顔をしてくれてありがとう。
「それにしても、男の子の転校生ってだけでグッとくる属性もりもりだと思うんだけど、なんで誰も放課後に伊織に話しかけなかったんだろ」
さっきは何もなかった。いいね?伊織が恨めしげにこちらを眺めるのはガン無視。今回に関しては9割は私が悪いが、謝ってしまうと
ちなみに10割ではない。それは断固として譲らない。だって伊織があんな雰囲気出すから———
「それについては私が説明しよう!」
もう驚かない。と言うか気づいていた。前回はちょっと動揺することが多すぎて隙を晒してしまったが、普通に部屋に人が入ってきたら気づくだろう。
「日向、何か知ってるの?」
と言うことで今回も私の部屋に乱入してきた妹に尋ねる。私のレスポンスに日向は満足そうにこちらを見たあと、したり顔で言葉を続けた…とその前に。伊織の隣に座ろうとした日向を捕まえて私の隣へと引き摺る。横取りはしないんじゃなかったのか。全く油断も隙もない。
「あれ?お姉ちゃんと伊織さんって別に付き合ってないんだよね?お姉ちゃんにその権利はないんじゃない?」
日向がすごいニヤニヤしながらそう言ってくる。
………何も反論できない。
でもさー!だからってさー!
「…もやもやするもん」
本音がこぼれ出る。それを聞いた日向は露骨に嫌そうな顔をして唾を吐くふりをした。
「けっ、惚気やがって。ねぇ伊織さん。この人こんな清純で清楚そうに見えてくっそむっつりだし愛が重いですよ」
「知ってる」
おい妹よ!なに荒唐無稽なこと…言っ…て……あ、伊織さん。ばれてたんですね。せっかくあふれ出す衝動を必死に押し留めてたのに、筒抜けだったんすね。
「日向ちゃん、俺がクラスメイトにスルーされた理由知ってるのか?」
無言で布団に潜り込んで丸くなると、私はいない者として扱われはじめた。ありがたいんだけど、それはそれでちょっと寂しい…めんどくさすぎるな私。
「伊織さんが転入したクラスって、もしかして5組じゃない?」
「え、なんでわかったんだ?」
伊織が驚いた声を上げると、日向は再びしたり顔を作って言った。
「雲州高校2年5組にはね、あの
「えっ、藍良ちゃん!?」
聞き捨てならない妹の言葉に思わず布団から顔だけを出す。北村 藍良ちゃんとは、私のお気に入りのファッション雑誌の人気読者モデルである。身長は高めなので彼女のファッションを直接自分に取り入れることは難しいが、色合いやアクセサリとの組み合わせのセンスが良くて私も何度か参考にしている。
全然知らなかった。まさか藍良ちゃんが同じ高校だったなんて…
「…誰?」
まあ伊織は知らなくてもしょうがない。日向に目配せをして説明の権利を求める。やっぱり好きなことは語りたい。すると日向は何故か呆れたような、少し馬鹿にするような目でこちらを見てくる。
ん?なに?……話していいってこと?…いいの?
日向の心中が読めない。
まぁいっか。
「北村 藍良ちゃんはね、人気の学生モデルなんだよ!私もファンなんだぁ」
「へぇ、そんな人がいるのか。ん?でもそれと
ぴしり。伊織の発言に硬直した。人気モデルである彼女の世間での評判は、誰に対しても優しい、人を惹きつける魅力がある、そして——生粋の
「……ねぇ日向。もしかして今日、藍良ちゃん休みだったんじゃない?」
「お姉ちゃんもやっと気づいたみたいだね。その通り、彼女は今日は撮影で欠席だよ」
なんのこっちゃ分からない伊織を置いてけぼりにし、日向が少し遠い目をして言った。
「どうせ転入生だろうが北村藍良と同じクラスになった男子はみんな彼女に惚れるだろうから、他のクラスメイトは変に話しかけて希望を持ちたくなかったんだろうね。伊織さんと関わりを持っちゃうと
……惚れる…惚れ…2-5の男子全員?
………伊織も?
「伊織も藍良ちゃんに惚れちゃうの?」
「え?いや、俺そもそも藍良って人知らないし。…ってなんでにじり寄ってくるんだよ!圧が、圧が強い!!」
きっとクラスの皆が伊織を狙っていたのだろう。その全員が諦めるほどの相手が、伊織と同じクラス。胸がぎゅっとなった。
「おいユズ、お前『
袖をきつく握ると、伊織が少し焦ったように耳打ちをしてきた。
「あ」
そうだった。私、元男じゃん。うーん…でも、まぁ。
「もういいかな」
「何が!?」
そのあとも袖を掴み続けて、折れた伊織と二人で猫カフェデートを取り付けることに成功した。
えへへ〜、嬉しいなぁ——
「それ以上私の前でいちゃつかないで。なんかドス黒いモノが口から溢れそう」
「——ッ!?」
「え、何その反応。本当に忘れてた?それはいくらお姉ちゃんでも絶許なんですけど」
意識外から飛び込んできた日向の言葉に、きゅうりを前にした猫のように飛び上がってしまった。
日向にじゃれているのを見られた。そんな割と致命的に恥ずかしいことが、頭から吹き飛んでしまうほどにやらかした。
伊織のことは好きだ。親友としてじゃない。異性として好きだ。これはもう無理。自分を誤魔化せない。
でも私は、
ここで完堕ちするのは、「柚月」と「伊織」の関係を
だから私は伊織に負けるわけにはいかない!
私は完堕ちしない!!……まだしない!……少なくとも、今日のところは——
「だーかーら、トリップするなバカ姉!!」
「ひぅっ!?」
とうとう日向に頭を叩かれる。
また考え込んでしまっていたようだ。この癖もなんとかしなければ…
課題が、課題が多い……!
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話を進めよう。カラオケ
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まだ一日は終わらない。お昼ご飯