世界はいつだって想像を容易に乗り越えて最悪を運んでくる。
それは事故、災害、人の悪意と様々だ。そんな世の不運が今日、俺の元へやって来たというだけのこと。
遠くなっていく自身の意識を感じながら、俺は自分の人生を振り返ってみる。
なんの面白味もない平凡な人生。学生の頃は適度に友人を作って漫画やゲームに没頭し、社会人になってからは職場の人間と良好な関係を築いて好きな趣味に金を使っていた。
大した面白味はないながも、不満もない充実した人生ではあった。
「けど、願わくば……。せめて、可愛い彼女の1人でも欲しかったな……」
それが俺の最後の言葉となって、俺の人生は幕を閉じた。
だが、それで俺の物語は終わりはしなかった。気がつけば俺はピカソが建設でもしたのかと問いたくなるような抽象画のようなヘンテコな作りの建物の中に俺はいた。
ここがどこなのか? どうして俺はまだ生きているんだ? とか考えたいことは色々とあるが……。
「何なんだコレは?」
今の俺の目の前に鎮座する黄金の天使像がこっちを見ている。
右に移動しても、左に移動しても目の部分が追いかけてくる。
まるで、学校の怪談で登場するような、音楽室の肖像画みたいな不気味さだった。
「あの~、もしもし……」
意を決して黄金の天使像に声を掛けてみると、今まで動かなかった口の部分が腹話術の人形のように動いて返事を返す。
「まさかここに生き物の魂がやって来るだなんて……」
「うおっ! 喋ったぁ!?」
「そりゃ喋るくらいは出来ますよ。なにせ私、神なのですから」
は? いや、まだ100歩譲って天使なら分かるけど、神はちょっとないだろう。
だがそれを否定したところで何の意味も持たないだろうし、俺は素直にその神様とやらの言葉に頷いてここが何処なのかを訊ねる。
「ここは私の世界。私だけが存在し、それ以外は存在しない場所です」
「? だったら俺はなんでここにいるんだ?」
「一種のイレギュラーというやつですね。ここは世界を見守り、世界の流れを観測する場所。様々な要因が重なって君はここへ吹き飛んで辿り着いた。そういったところでしょうね」
「……もしかして、俺はずっとここに居なきゃなんないのか?」
「いえ、君が望むのならば即刻元の世界に戻せますよ」
「え? なら、俺は生き返るってことか!?」
「それは違いますね。今の君は魂のみの存在だ。例え元の世界に戻ったとしても、それは生き返というよりも、転生という形で戻るといった感じです」
転生……つまり、ラノベ小説みたく異世界にも行けるってことか!?
おいおい、だったら生前作れなかった可愛い彼女とかも出来ちゃう可能性もあるってことか!!
「なら、元の世界に戻る前にチートとかつけれますか?」
「……余程現実離れしていなければいけるでしょう。私もちょうど暇してましたし、やってあげなくもないですよ」
「おお! 神様太っ腹だね!!!」
なるほど、だったらファンタジー過ぎずの能力を選べばいいってことか。
なら、特殊能力系じゃなく、そういうのを真っ正面からぶっ飛ばす系の能力の方がいいな。
「だとするなら、フィジカル系のチートが欲しいな。誰よりも強くて頑丈な肉体で転生。これなら叶えられるか?」
「う~ん、ああいけるね。筋肉量や骨密度、血液とか細胞をいじれば常人以上の能力を発揮できるね」
やっぱりいけるみたいだ。ならそれでいいと答えると、神様は俺をその条件で転生してくれた。
新たな転生ライフに俺は心躍らせながら意識を失った。
♦
魑魅魍魎渦巻く裏の世界、そこには妖魔と呼ばれる人に仇なす邪悪な存在がいた。
そんな存在を秘密裏に打ち払い、罪なき人々を遥か昔から陰から救済せし存在を人は陰陽師と呼んだ。
そんな家系に俺は転生した。陰陽師には平安時代から続く名家は現在では4つしかなく、そのうちの1つである鬼龍院家の長男が俺だ。
そして、4つの名家には神具と呼ばれる陰陽師にとって最大の力である神術式を授けることの出来る武具を所有している。
これは最も人が死んでいた戦国時代の頃、その当時の陰陽師が大量の死体を生贄にして作り上げたのが神具であり、これを所有していたからこそ、人を喰らい殺す妖魔を相手に現代まで4つの家が血を絶やさずに生き残れた大きな要因であった。
神具から得られる神術式は炎、嵐、雷、海の人が恐れる自然の力を得られる。
俺の鬼龍院家では嵐を司る神具【
神術式はその家の長男だけが継ぐことを許され、赤子だった頃に俺は神具によって神術式を継承される手筈だった。
しかし、ここで問題が起きた。戦国時代から現代まで、この継承の儀は失敗したことがなく、連綿と続く陰陽師の歴史上で俺は初めて継承の儀に失敗した。
多分だが、俺が神様からフィジカルチートをもらう際に体を弄り回されたのが原因だろう。
これはその後の母に聞かされた話しだが、その頃は鬼龍院家は荒れに荒れており、神具が力を失っただの、母が出来損ないの無能を産み落としただのと、まさに嵐のような大事だったという。
幸いなことに、その2年後に生まれた俺の妹が神具から神術式を継承され、神具が力を失ったという騒ぎは静まり返った。
しかし、それでは俺の処遇がどうなるかといえば、結論として前代未聞ではあるが、俺は鬼龍院家の当主剝奪されて、神術式を継承した妹の方へと移り変わった。
これで俺が前世の記憶を持っていなければ妹に嫉妬や憎しみでも抱いたであろうが、あいにくと人生は2度目で大人になるまで酸いも甘いも小さいながらに経験してきた。
だからこそ、目の前にあるものだけが幸せとは限らない。少し周りに目を向ければ、案外身近なところに趣味に出来るような小さな幸せはゴロゴロ落ちているものだ。不要な妬みや嫉妬は身を滅ぼすと知っている。
家族から無能と蔑まれ、家の中ではいない者扱いを受けている。
幼少期はその態度が屋敷を手入れするお手伝いからも馬鹿にされてきたが、前世の頃から同僚や先輩に「お前は心臓に毛が生えている」と言われるほど能天気で楽天家な性格で日々を過ごしながら、時たまお手伝いの仕事を手伝ったり、家名で調子に乗ってる家族をたしなめたりしているうちに、今では家族の誰よりもお手伝いの者達に信頼されている。
「うっし、これで夏休みの宿題も終~了! 残りの1ヶ月は丸々遊び放題だぜ!!」
現在、中学3年生まで成長した俺は早々に学校から課された宿題を全て終わらせた俺はカレンダーの日付を確認して笑みを浮かべる。
いくら俺が家族内からいない者扱いされているとはいえ、完全な放任主義ではない。
っというか、俺がそれをさせなかった。ようするに、子供の我儘をきかせる為の最終兵器である駄々をこねるを使用したのだ。
その内容は至ってシンプル、俺に金をよこせ! の1点のみだ。
昔から国の暗部たる妖魔の退治に関わってきた名門の家。たかが子供が満足するだけの金を放り投げることくらいは楽勝だったのだろう。
俺が大声で喚けば即座にポンと札束を投げつけるくらいはしてくれた。
まあ、最初は無能の癖にとグチグチと嫌味を言われもしたが、子供特有の甲高い声で泣き叫べばすぐにうんざりした顔になって金を投げてくれるんだから、名家の大人って本当に雑魚だよねぇ♡
その貰った金は何に使っているかと言われると、基本的にはファッションや趣味に使用している程度なので預金通帳から数字が目減りすることは滅多にない。
「う~ん、もうそろそろ夏本場だし、ここらで新しい夏服でも買いに行くとするか?」
自身の部屋に置いてある鏡で自分の姿を確認して、今年の流行色を頭の中で計算する。
ちなみに、鏡に映る俺の容姿だが、黒髪のツンツンヘアーで理知的な顔立ち、目元はクール系キャラを思わせる切れ長な目、身長は中学生ながらに既に190に届きうる長身だ。
肉体もがっしりとしていながらも細見がある。
「ふむ、イケメンだな……」
自画自賛ながらも、まるでアニメに出てくるイケメンキャラの容姿そのもの。実際、クラスでも俺に好意を持った女子は数多い。
クラスメイトの男子に嫉妬の目線を向けられるのも多々あり、自身の容姿が優れているのは自覚している。
「今日はどこの店に行こうかな?」
出掛ける準備をしながら行き先を考えていると、突然部屋の扉をノックする音がした。
誰かと思い入室の許可を出すと、妖魔関連の仕事を任されているお手伝いが扉を開けて入ってきた。
「失礼します、刹様」
おっと、そういえば今世の俺の名前を名乗っていなかったな。鬼龍院 刹が今の俺の名前だ。
名前の意味は刹那のうちに死ね無能って親父が名付けたんだよね。
まあ、そんな意味を跳ね返すレベルで日々健康優良児として育ったんだけどもね。
「皐月様からの伝言でございます」
あっ、皐月は俺の妹の名前な。俺の代わりに神術式を継承したお陰で随分と両親に期待されちまったからか、俺の事を無能のクズ兄と乏したりする生意気な妹だ。
そんな妹から一体何の用かと首を傾げたが、どうやら内容は今夜の儀式に遅れるなと言う釘刺しだった。
あいつも既に中学生にまで成長したから、次期鬼龍院家当主として実戦経験を積ます為に鬼龍院家の本陣ともいえる鬼龍院神社、そこで夏の夜に集った妖魔と戦うことになっている。
俺はその付き添い。神術式も持っておらず、妖魔と戦う際に必須ともいえる霊力も人並み程度しかないから、中学生になっても実戦には連れてこられなかったが、今回連れられるということはせめていざという時の妹の肉壁にでもなれという意味なのだろう。
「用件は分かった。お前はもう下がってもいいぞ」
「はっ!」
数年前までは俺の事を本家の長男の癖にと見下していたこの男も随分と態度が変わったものだ。
それだけ俺への評価が変わったということだろう。俺もただ怠惰に人生を送っていたわけではない。
神様から貰ったこのチートボディを持て余すことなく鍛え抜いた。
それだけじゃない。いずれ訪れるだろう俺の夢である嫁を迎え入れる。その為に頭頑固な家族は早々に無理だと判断してお手伝いの懐柔に走った。
何度も言うかもしれないが、俺は自身の不遇な境遇を笑って過ごし、自身の価値を生まれや血筋以外で証明し続けた結果、俺はこの家の家族以外から信頼と信用を勝ち取った。
今では刹様と呼ばれるほどに親しまれ、そして敬われている。
「にしても、夜までまだ時間はあるし、予定通り服でも買いに行くか……」
時計を見ればまだ昼頃だ。夜の用事まで時間はまだたっぷりある。適当に外をぶらついて買い物をする程度は出来るだろう。
財布とカバンを身につけて部屋を出ると、ちょうど廊下を歩いている皐月の後ろ姿が目に入る。
「おはよう、皐月。ついに今日の夜から妖魔退治だな……」
「……はぁ、喋りかけないでくださいますか、兄上。それに……、なんですかその格好は? 今夜は兄上も妖魔退治に出向くと聞き及んでおりますが、よもやそのようにチャラついた格好で外へ出向く気か?」
「ああ、最近は滅法暑くなってきたからな。そろそろ新しい夏服でも買いに行こうかと思ってな」
「本当に、兄上には鬼龍院家の血筋の自覚がおありにないようで。ああ、失礼。そういえば兄上は歴代一の無能でございましたものね。そんな御方にそのような自覚もあるはずがないでしょうし、今の発言は撤回してあげますわ」
「まったく、相も変わらずの辛辣な言葉だな。だが、間違っていない。俺は鬼龍院家の自覚もなければ、歴代随一の無能者扱いで当然の男だ。だからこそ、俺は自分の人生は自由に生きる」
確固たる意志を感じさせる刹の瞳に射抜かれた皐月は、くっ! と歯嚙みした表情で顔を逸らして踵を返す。
「これ以上あなたのような無能と口を交わすのも不愉快です。精々、今夜の戦で死なぬことを心から願っておりますわ!」
それだけ言い残して皐月は去っていった。こういった場合は大抵ツンデレなどとからかえるのだが、皐月は本心で俺の事を嫌っているからな。
あまり茶化し過ぎると本気の殺し合いを迫られるだろうから、無理追いかけて喋りかけようとは思わない。
だから俺はさっさと家を出て気に入った服を見繕って買い物を楽しんでいた。
俺自身はあまりファッションセンスに自信があるかと問われればNOだ。だから俺は基本的にマネキン買いか店員からのオススメを聞いて購入している。
今の俺の両腕には大量の服が抱えられており、時刻は既に3時を過ぎていた。
まだ時間的猶予はあるとはいえ、帰って速攻で神社に向かいましょうというわけもなし。
それ相応の服装や、妹以外にも妖魔退治に関わる鬼龍院家の分家の者達との挨拶などもあるからだ。
「ねえ、そこのお兄さ~ん」
「ん?」
そろそろ帰ろうかと思案していると、不意に後ろから声を掛けられた。
振り返るとそこには一人の少女がいた。外見から察せられる年齢は14か15の歳ほどだろうか?
髪の色は金色で肩まで伸ばしており、瞳の色も日本人離れした碧眼だった。服装も今時のギャルっぽいものだ。
総合的な評価は美少女の部類に入るだろう。
俺の記憶にはこの子との接点はない。だとすれば、恐らくはナンパだろう。
夏休みのこの時期に1人で買い物している男、それも外見は紛れもなくイケメンだ。声をかけてくる女の1人や2人はいるだろう。
「なにか用かな?」
「うん! ちょっとお兄さんのことが気になっちゃって。良かったら一緒にお茶でもどうかなって思ってさ~」
「それは嬉しい申し出だな。だが残念、俺もこの後用事があるのでお茶は勘弁かな」
波風立てぬように笑顔で断りを入れる俺に彼女も無理に誘うつもりはないのか、あっさりと引き下がる。
「そうなんだ、ざんねーん。でも、気が向いたらまた誘ってくれてもいいんだよ」
「ああ、機会があれば是非に……」
「うんうん、約束だよ。じゃあ、バイバ~イ」
そういうと彼女は手を振りながらその場を去っていった。
これは偶然の出会いだ。もう二度と会うことはない。
「なんだけどな……。な~んか、また出会いそうな予感」
去っていった彼女の方を見ながら、俺は大人しく帰路へとついた。
そんな俺の後ろ姿を物陰から見ている者が1人。
「ふ~ん、あれが鬼龍院家の無能者ね。中々にいい面してるじゃない。それに、あの風格はただの無能者じゃない。ふふ……、鬼龍院 刹だったかしら、その名前、覚えておくのも一興かもね」
そう言って、妖艶な笑みを浮かべる少女の姿があった。
最近はフィジカル系の作品が減ったけど、誰か書いてくれないかな?