君 想 う ~メモリーズー春ー   作:飛鳥 螢

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「桜の花さく頃に」より後の話です。


回 想

 ぽつり、ぽつりと公園の外灯に()(とも)る。

 空がまだ赤味を残していた頃は、この公園にも家路を急ぐ人の姿が見えたが、今は誰一人いない。

 ただ、俺だけが取り残されていた。

 公園の池が見えるベンチの背に肘を乗せて座り、俺は外灯の微かな明かりを弾いて吹き上がる噴水をぼんやりと眺めていた。

 この町は嫌いだ。忘れたい想い出が染みついた場所だから。毎日学校に通い、授業を受け、友達とだべり、そして帰りたくもない家に帰る——

 いい事など何一つない。そんな代わり映えのしない日々を、ただ惰性で送り続けていた。

 ——あいつと出会うまでは……

 長期療養でダブり、話のできた友達は皆卒業してしまい、何一つ楽しい事がなくなってしまった学校の校門前の坂道の下であいつは立ち尽くしていた。ただ独り、授業が始まってしまっていても、動けずに。

 そんなあいつに声を掛けたのは、ほんの気紛れだった。真面目そうで俺みたいな不良には見えなかったから。ただそれだけだったのに、あいつはこんな俺なんかを頼りにして、一生懸命頑張って前に進もうとしていた。

 そのあいつの姿を見て、もう学生の義務さえ放棄してしまい、不良と後ろ指さされるこんな俺でもこいつの力になれるなら、それは少しだけ贅沢な事だと思ったんだ。

 だから、あいつが前向きに廃部になった演劇部を再建したいと言った時、俺は手伝うと、つい約束してしまっていた。

 今はまだ学校で話せる相手は少ないが、演劇部が復活して部員が集まれば、俺にすがる必要なんてなくなるだろう。

 だけど、気が付けば俺自身も何時の間にかあいつの存在によって救われていた。出会ってまだ二ヶ月も()ってないけど、それでもその短い間に俺達は互いに助け合ってきた気がする。

 そう、笑ってるあいつが傍に居てくれるだけで、俺はどんな嫌な事があってもクサらずに心穏やかでいられた。

「——渚……」

 そっと俺はあいつの名を呟いた。

 それだけで心に灯火(ともしび)(とも)ったように温かくなる。

 ふと俺は腕時計に目を留めた。何時の間にか七時を過ぎていた。

「もうこんな時間か……」

 今日もコンビニで弁当を買って、春原の部屋に行くか……

 俺はベンチから立ち上がり、公園を後にした。

 道路の分かれ道、向こうの方に行けば渚の家に着く。俺は暫しそこで(たたず)んでいた。

 相変わらず演劇部の部員集めは前途多難だったが、俺があちこち知り合いに声を掛けたのが切っ掛けで部室に人が集まるようになり、渚も俺以外に話ができる人間が増えた。春原だけは余計だったが。

 だが、たとえそいつらが演劇部員でなくても、渚が笑いながら話のできる人間ができたのなら、もう俺など必要ないのかもしれない。最初から手を貸すのはそこまでだと、俺自身決めていたのだから。

 小さく息をつくと、俺は渚の家に向かう道に背を向けて歩き出した。

 自分でそう決めていたのに、俺はまだ渚の傍に居続けていた。もう少しだけあいつの傍に居たかった。渚の傍はとても居心地が良かったから。あそこなら俺は俺のままで居られたから。

 演劇部が復活して渚が立派な部長になり、いつか本当に俺なんかを必要としなくなる日が来るまで——と、自分自身に言い訳して。

 そして、その「いつか」はできるだけ先の「いつか」であって欲しいと願いながら。

 

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