ウマ娘 プリティーダービー GTR最速伝説 作:frostvernt
■トレーナー視点
幽霊だとしても、もう1度見てみたものだ。それほど衝撃的だった。
アナウンスの声が聞こえる。
俺は意識を現在に戻した。
次の出走者の名前を読み上げているらしい。
そして、見た。
あの娘だ。あの日見た幽霊。
もしかしたら間違いかもしれない。顔は見ていないし、髪色だけで判断するのは危険かもしれない。だが、周囲の出走者の寸評する声を聞き流しながら、俺は彼女を見ていた。
位置について。よーい、ドン
合図とともにウマ娘たちが飛び出す。ばらついたスタート。
彼女の出は悪くない。いいスタートを切り、減速してバ群の中に埋もれていく。
そのままレースが進む。バ群の中、中段にいる彼女は掛かっているのだろうか。
走りにくそうに位置を前後させている。そのうえ途中で入る減速のせいか、だんだん位置が下がっているように見える。
そして、そのまま走り抜けた。
バ群から抜け出すのに失敗し、バ群がばらけた後も順位に大きな変化はなかった。
脚は残っていたようだが、速度がいまいち。。。というより、終盤途中で挟んだ減速のせいで間に合わなかったというべきか。
先ほどのレースと同じように順位が高いものや、見るべきものがあったウマ娘にトレーナーが向かっていく。彼女のレースは決して、良いものに見えなかった。9頭立ての7番手だった彼女のもとに向かうトレーナーはいない。
彼女は顔を下げ、レース場から立ち去ろうとしている。
俺は駆け出した。彼女だ。間違いない。レース中の不自然な減速。それが、幽霊な彼女にかぶって見えた。
「そこの君!」
レース場を出た彼女に声をかける。しまった。。。名前を聞き逃していた。
だが、幸いなことに周りに誰もいなかったおかげか、彼女が振り返ってくれた。
「なんだ。。。なんでしょうか?」
途中で言い換えたのが分かる。
「私は桜井といいます。トレーナーをやっている者です。」
彼女に見えるようにトレーナーバッチを指さす。
「トレーナーさんなのは見ればわかります。私に何か御用ですか?」
「君をスカウトしたい。」
即答だった。そのために追いかけてきたのだ。
彼女は少し面食らったようだが、口を開こうとするのを止め、何かを抑えるように問いかけた。
「スカウトする理由がわかりません。」
確かに先ほどのレースを見て彼女をスカウトしようというトレーナーはいないだろう。
私も幽霊のことがなければ、見ていなかったかもしれない。
だが、今は違う。俺は担当こそ持ったことがないが、ベテランだ。リギルのサブトレーナーだったこともある。
近くで見ればわかる。レース後と思えないほど落ち着いている。ジュニア期のウマ娘とは思えないほどだ。
そして体つき。。。変な意味ではない。
俺の目には鍛えられているように見える。他のトレーナーではわからないだろう。
鍛え方がアンバランスなのだ。バランスが悪くなることはよくある。
ケガで入院しているとき、患部に負担をかけないようにできるトレーニングだけをしたとき。
遠征や、休養でもバランスが少し崩れることはよくある。
そして、もう一つ感じたことがある。
なんというか直感なのだが、芝を走りなれていないように感じる。
先ほどのレースも、芝のレースをダート走者が。というより、ダートのレースを芝走者が?走っているような違和感があった。
「いや、私には君に実力があるように見える。先ほどのレースで何となくしかわからなかったが、今はそう思っている。」
私はそう返す。
「そうですか・・・」
彼女は何かを考えているようだ。
「今すぐに決めてくれ、というわけでもないよ。」
確かに自分は今怪しいかもしれない。幽霊のことを話すべきか?
「少し考えさせて頂いても宜しいですか?明日までで良いので・・・」
結局、彼女は保留を選んだようだ。
「わかった。では、また明日・・・カフェテリアでどうかな?」
「私はそれで構いません。」
ヨシ!次にはつながりそうだ。。。名前だ!名前を聞いておかなければ。
「そういえば君の名前は?」
「知らないのに声を掛けたのか?」
彼女がジト目になる。呆れて猫が剝がれかけている。まずかったかもしれない。
「はぁ。まぁいいです。私の名前はーーー。」
ようやく名前を出せます。