百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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始まり

 

 少年は、力が欲しかった。

 

 ありふれた理由だ。

 

 彼にとって、家族は家族ではなかった。

 

 彼にとって、友達は友達ではなかった。

 

 彼にとって、教師は教師ではなかった。

 

 殴られ、蹴られ、罵倒され、搾取され続けるサンドバッグの様な人生。いや、最早人として生きていると称する事すらも烏滸がましい地獄に居たから。

 

 少年は、(自由)が欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路(グランドライン)、ウォッカ王国。

 この国に、一人の少年が生まれた。

 

 名を、カイドウ。赤子の頃より、常人とは一線を画すどころか、最早次元が違う強靭さを有していた子供。

 ウォッカ王国は、貧しい国だった。それ故に、国力を増強する手っ取り早い手段の一つとして取られていた方針が、“戦争”。

 カイドウは、この王国の戦争において少年兵として従軍していた。

 

 少し話は逸れるが、カイドウは転生者である。

 その前世は、お世辞にも良い人生とは口が裂けても言えない様な凄惨なものだった。

 己の最期は、覚えていない。余程酷かったのか、それとも()()()()()()()()()()()()。兎にも角にも、彼は気付けば赤ん坊となり、カイドウという名前と共にこの世界に生を受ける。

 

「潰れろッ!!」

「ぎゃああああ!?」

「おお!カイドウが、敵大将をぶっ倒したぞ!」

「総攻撃だ、なだれ込め!!押し込めば、こっちの勝ちだ!!」

 

 身の丈程の金砕棒を振るうカイドウの後ろより、兵士たちが我先にと首級を挙げんと前へと駆ける。

 その背を見送り、カイドウは肩に金砕棒を担ぐとその目を細めた。

 

 戦争に足を踏み入れたのは、偏に食い扶持を稼ぐために他ならない。

 齢一桁の少年でありながら、大の大人が数人がかりでも敵わない彼であっても食わなければ腹も減る、喉も乾く。

 それら飢えや渇きを満たそうとするならば、必要なのは衣食住だ。そして、それらを享受するにはどうしても金が要る。

 その点、強い彼にとって戦争に従軍する事は全てを一度に賄える方法の一つとしてうってつけだった。

 

 もっとも、

 

(……下らねぇ)

 

 強者故の、退屈は如何ともしがたい。

 食うに困らず、周囲からの感触も良い今の状況というのは恵まれているのだろう。少なくとも、カイドウの前世に比べれば遥かにマシだ。

 

 だが、()()()()()()

 

 強くは、なった。生まれつき、最早同じ人間として括る事すらも難しいほどに圧倒的なまでの強者。それが、今の彼だ。

 加えて、その伸び代にまだまだ先は見えない。

 金砕棒を振るえば、一切技術などは習っていないにも関わらず、最適な体の動かし方というものを理解できた。因みに、この金砕棒を得物としているのは、その他の武器が彼の怪力に耐えられず一振りで壊れてしまうから。

 

 話を戻すと、カイドウは退屈していた。

 ふと、遠くを見ればどこまでも広がる青い海と、その類稀なる視力によって僅かに見える島影が確認できる。

 世界は、広い。それこそ、前世よりも更に広いかもしれない。

 だが、カイドウの世界は狭かった。動ける範囲も、触れる事が出来る範囲も、あまりにも狭かったのだ。

 時が経つにつれ、渇望は増していき、同時に彼の内側にはフラストレーションが溜まっていく。

 

 事が起こったのは、彼が十三歳になった時の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見た若い海兵は、後にこう語る。

 

 アレこそ、“力”の具現だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

「――――ふざけるんじゃねぇ!!!!!!」

 

 まるで言葉そのものが衝撃波となったかのような大喝と共に、周囲の人々が幾人も崩れ落ちた。

 その中心にいたのは、珍しくもその目を血走らせて、怒りによって髪を逆立たせた角のある少年だ。

 

 この日、ウォッカ王国は世界政府、並びに海軍との取引を行い、その履行のためにこの地に海軍の軍艦がやって来ていた。

 彼らの約定、それは既に国内は愚か周辺諸国でも並ぶ者の居ないカイドウを、海軍へと引き渡し、その代わりに世界会議(レヴェリー)への参加権を得るというもの。

 荒々しく、そして戦力として並外れているが、世界的な発言力の一端を得られるのなら安い物。国王は了承し、カイドウにも伝えられる事になる。

 

 結果が、コレだ。

 

 常日頃退屈そうにしている彼とは比べ物にならない程の圧倒的なまでの気迫と怒気。その気迫がそのままに人々を襲うというこの状況。

 国王は、彼の地雷を踏んだのだ。

 

 即ち、一方的な搾取。己を道具の様に扱い、剰え甘い汁を啜ろうとするその行為。

 

 最早、カイドウにはこれまでの恩だとか、仲間意識だとか、そういうものは消え失せていた。

 怒り、怒り、怒り。忿怒、赫怒。兎にも角にも、怒髪衝天。

 

 得物である金砕棒を片手に、それはもう暴れに暴れ回った。

 止めに入った王国の兵士も、そして引き渡しに訪れていた海軍の海兵たちも。

 一切合切が、風の前の塵に同じ。

 

 その日、一つの国が滅び、一隻の軍艦が海の藻屑となって消える事になる。

 

 生き残りは居れども、その数は国一つの生存者として見るならば余りにも少なかっただろう。

 

 そして、忿怒を孕んだ明王は、青い海へと消えていった。

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