百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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赫天

 前へ、前へ、前へ。それしか、道は無い。

 そう言わんばかりに、カイドウは只管我武者羅にロックスへと挑みかかっていた。

 

 恐るべきは、やはりロックスか。

 

「グルハハハハハハハハハッ!良いぞ!もっと向かって来い!」

 

 まるで鉄砲水の様に襲い掛かってくるカイドウの攻撃を真正面から、それもその場から動くことなく捌いていく。

 その動きは、宛ら()()()()()()()()()()()()

 カイドウの方も、二度も三度も受け止められて相手の動きを見ていれば先読み?をされている事は分かった。

 分かったが、しかしどうにもならない。

 

(どうなってやがる?)

「不思議か?カイドウ」

 

 振り下ろされた金砕棒をサーベルで受け止め、その下より覗くようにロックスは笑った。

 

「お前なら、直ぐにその領域に辿り着くだろうが教えておいてやる。覇気には、上のステージがある」

 

 より強くサーベルが押し込まれ、カイドウの体が後方へと突き飛ばされる。

 

「その一つ!見聞色は、鍛えれば鍛えるほどにその見える範囲、そして規模を広げ。その目はいずれ、未来を捉える事になる!」

「未来、だと?」

 

 ロックスの言葉に、カイドウの足が止まる。

 見聞色の覇気は、使えない者にとってはまるで心を見透かされたように感じるものだ。ある意味では、ロックスの言う未来視のよう。

 だが、一度見聞色の覇気を使える者達がぶつかれば、勝るのはより深く、より広く、より早く、覚ることが出来る側だろう。

 

 この観点からすれば、カイドウはロックスに勝る事は無い。彼の見聞色は、新世界の猛者と比べても遜色ないかもしれないが、それでも一握りレベル。

 指の先(頂点)には届いていないのだから。

 

 カイドウは、考える。()()()()()()()

 

(未来……未来だと?)

 

 たとえ数秒だろうと、コンマ以下の秒数で勝敗を決する事もある戦闘においては圧倒的なアドバンテージだと言えるだろう。

 それに、相手は格上(ロックス)だ。攻撃を全て対処されてしまうのなら、意味がない。

 カイドウが、思考を回す間にもロックスは攻めては来なかった。

 

 ただただ、笑っている。不敵に、そして愉しげに。

 強者故の、余裕。

 

 考えて、考えて、考えて――――

 

「――――フゥーーーーー…………」

 

 カイドウは、思考を打ち切った。

 考えても意味が無いと思ったからだ。そもそも、見聞色の覇気に因る未来視というのは他の創作物にある未来視とは少々毛色が違う。

 あくまでも、“()()”なのだ。周囲の状況と、相手の無意識の覇気などを見聞色の覇気で読み取り超高度な予測を可能として、ソレが具体的な映像などとして視ることが出来る。

 要は、通常の見聞色の覇気の効果である“先読み”をより発展させたようなモノ。

 

 突破方法は、相手の消耗、或いは冷静さを失わせる、などだろうか。若しくは、あくまでも予想でしかなく、そして数秒先でしかない事を逆手にとって、()()()()()()()()()というのもある。

 

 上記の手段をカイドウは取れない。相手がどれだけ余力を残しているのか分からない上に、仮に数秒を踏み潰したとしてもロックスならば、その前提で対処してくるだろう。

 

 だからこそ、カイドウは思考を止めた。七面倒に考えこむ事を、止めた。

 

「…………」

 

 目を閉じて、思い出す。自分自身の、始まり(根源)を。自身の力の根元を。

 

「ほう?」

 

 ロックスは、目を細めた。

 彼からのカイドウに対する評価は高いが、その一方でやはりまだまだ未熟というのは拭い様の無い事実でもあった。

 金砕棒による一撃の破壊力や、その合間の隙を埋める体術など、高水準と評しても良いのかもしれない能力はあれども、それでも後塵を拝す現状。

 

 だからこそ、()()()()()姿()()()()()()

 

 見聞色に引っかからなくなった、カイドウの思考の渦。

 その代わりに灯るのは、“()()”。

 

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!」

 

 溢れ出る、いや爆発する膨大な覇気。

 

 カイドウの力の根底は、やはり“怒り”だ。そして今回、彼はこれにひと手間を加えた。

 思考を、体内を、全て怒り一色に染め上げたのだ。

 

 軽く前傾になりながら金砕棒を担ぎ、目元まで垂れた前髪の隙間から覗く眼は爛々と輝き、口の端からは蒸気が上がる。

 角も相まって、その様相は“鬼”のソレ。

 

(来るか……!)

 

 ロックスが次の動きを察知した直後、カイドウが()()()()()()()()()()()

 先程までよりも、更に速い。

 技もへったくれも無いが、

 

「さっきよりも、重くなったなァッ!!」

 

 受け止めたロックスの足が、地面に半ば沈む。

 カイドウは、この間に左拳を握り武装色による“硬化”を敢行。

 振るわれる拳の圧力は、まるで巨岩が目の前に落ちてくるかのようだ。

 

「良い圧力だが…………ダメだな!」

「ぐぅ……!」

 

 拳が着弾するより前に、ロックスの右前蹴りがカイドウの腹へと突き刺さる。

 一瞬の間を置いて、吹っ飛ぶカイドウの体。だが、十メートルも飛ばないところでその両足は地面を捉えて引っかかり、五メートルも進んだところでその体は止まった。

 蹴られたダメージが無い訳では無い。が、今のカイドウにとってはダメージというものは怒り(燃料)を追加する事にしか繋がらない。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

 再び、突っ込む。さっきよりも更に速く、鋭く、強く。

 そして放たれるのは金砕棒の一撃――――ではなく、

 

牛突(ゴヅ)きッ!」

 

 角含めた頭部を武装色の覇気“硬化”で黒く染め上げた突進頭突き。

 この頭突きを、ロックスはフロックコートの裾を揺らしてひらりと躱す。当然躱されたカイドウは、その勢いのままに突き進み隆起した岩へと突っ込む事になる。

 粉砕される岩。それだけでは勢いが止まらず、辛うじて原形を留めていた家屋数件と、その他の残骸を幾つも撥ね飛ばしていくことになった。

 その残骸から巻き上がる粉塵を突き破って再び現れたカイドウ。

 

「オオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

「気迫は増した!覇気もな!だが、暴れ回るだけなら猿でもできるぞ!!」

 

 振るわれた金砕棒が躱され、カウンターの左拳がカイドウの顔面へと突き刺さる。

 だが、

 

「ガァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 獣の様に咆えたかと思えば、その体は吹き飛ぶ事無く寧ろ殴り掛かったロックスの拳を押し返さんとしてくるではないか。

 同時に、金砕棒を武装色の覇気が覆い、力任せに振るわれる。

 そして、

 

(ほお?()()で炎を灯したか!)

 

 発火。

 業火を纏った一撃がロックスへと迫り、大きな火花が咲く。

 鍔迫り合い。どちらからともなく離れて距離を取った。

 火が灯っていた金砕棒をチラリと見やり、カイドウはもう一度同じ現象を起こさせるべく、武装色の覇気を使用する。

 そして、覇気を纏った金砕棒を徐に、宛らヌンチャクの様にして振り回し始めたのだ。

 始めは遅く、しかし直ぐに周囲の砂を巻き上げる様にして黒い嵐となった。

 その状態から、金砕棒に火が灯る。

 金砕棒をぶん回しながら、カイドウは前へ。

 

 渾身の一撃が来る。ロックスは笑みを深めると右手のサーベルを高々と掲げた。

 覇気。それも()()()()()()()()()()()()。黒い稲妻が、辺りに激しく弾ける。

 

 踏み込み共に大きなアーチを描くようにして振るわれる金砕棒。合わせる様に振り落とされたサーベル。

 

 

赫天(かくてん)・――――火衝金剛(カショウコンゴウ)ッ!!!」

 

(ディ)・グレイブッ!!!」

 

 炎が弾け、稲妻が大地を砕く。

 

 そして――――重い金属が宙を舞った。

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