百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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海戦

 歴史を学ぶ。それは、過去から現在、未来を積み立てる足跡を見つめる事である。

 

「――――この資料から、ここには本来島は無かったと思うの」

「根拠は何だ?」

「こっちの資料よ。ここ見て頂戴。海岸線と島の植生、それから地形を照らし合わせると、こっちの資料から百年ほど離れてるの。この間に大規模な海底噴火が起きたとすれば、島がせり上がっても不思議じゃないでしょう?」

「……なるほど。だが――――」

「ええ、そうよ。机上の空論を出てないわ」

 

 そこで、ニコ・オルビアは机に乗り出していた体を椅子へと戻し、大きな息を吐いた。

 “全知の樹”内部のとある一角。幾つかのテーブルと椅子の置かれたこの場所で、オルビアとカイドウの二人は討論を交わしつつ本をひっくり返して知識を身に着けていた。

 

「いっその事、島その物をその環境に持ち込む方が楽な気がしてきたな」

「そうね。出来る出来ないは別にしても、島その物を動かしたっていう歴史は幾つかあるもの」

 

 眉間を揉むカイドウへと、オルビアは一冊の本を示した。

 

「コレね。“国引きオーズ”。古代巨人族の一人で、討ち取った国を島ごと自分の領地へと持ち込んで、そこに悪党たちの国を築き上げたってお話よ」

「…………案の一つにはなる、か」

「でも、お勧めはしないわよ。このオーズも周りからは、魔人や狂戦士、なんて呼ばれていたみたいだもの」

 

 オルビアからの苦言は、しかしカイドウにしてみれば今更というもの。

 彼は既に賞金首だ。それも億越え。世間一般で見れば凶悪も凶悪で、自分たちの平和を乱す大悪党の一人なのだから。

 

 それからしばらく続いた勉強会。その時間も、唐突に終わりを告げる。

 

「おう、カイドウ。そろそろ出港するぞ」

 

 がっしりとカイドウの頭が後ろから掴まれる。

 見れば、常の笑みを浮かべたロックスがいつの間にかそこに立っていた。

 

「分かった」

「早く来いよ」

 

 ひらりと手を振って全知の樹の入口へと向かう背中を見送りつつ、カイドウもまた席を立つ。

 元々、オハラに来たのもロックスの野暮用の為。ログを辿る必要もない為、数日で用事が済めば後は長々と居座る必要も無かった。

 

「……行くの?」

「船長の命令だからな」

 

 不本意だが、とは口には出さない。あの決闘の勝敗には、納得しているのだ。我儘も押し通している手前、最低限顔は立てる。

 

 一方で、黙り込むオリビア。

 本を片付けようとしているカイドウを少し見つめ、そして意を決したように口を開いた。

 

「私も、いつか海に出たいと考えてるの」

「……なら、少しは荒事に慣れとけ。海は弱肉強食の世界だ。弱けりゃ奪われるだけだぞ」

 

 カイドウ自身、己を最強などとは思っていない。だが、一定以上の実力を有しているという自負はある。

 何より、四つの海と比べて偉大なる航路は月と鼈。

 目まぐるしく変わる気候情報から出鱈目な海流。更に巨大な海獣や海王類などなど。挙げ出したらキリが無く、弱者では到底踏破は不可能。

 

「そうね……少し、鍛えてみようかしら」

「偉大なる航路に行くつもりなら、そうしとけ」

「…………カイドウは、歴史の本文(ポーネグリフ)を知ってる?」

「何だそれ」

「この世界の歴史を記したとされる石の事よ。私は、何時かソレを探しに行くの」

 

 それは、この世界の禁忌に触れる事。世界政府は、その黒い石を解読する事を禁じていた。

 だが、考古学者というのは海賊と同じく、いや海賊以上にロマンを追い求める人々でもある。

 たとえその結果として自身を、そして周りを破綻させる事になろうとも彼らは容易には止まれず、止まる気が無い。

 

 本を返却し、纏めた紙束をオルビアへと預けて、カイドウは数日ぶりの船へと足を向ける。

 

 そして、この日事件は起きるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全艦、準備完了いたしました!」

「よし。では、奴らが島を出た所で奇襲をかける!」

 

 オハラから十数キロ先。その海上に浮かぶのはニ十隻以上の軍艦。

 現状の西の海において用意できる軍艦数であり、これらを引きつれるのは海軍本部大将“灰鹿”だ。

 彼だけではない、名うての中将の多くが同乗しており今回の作戦における海軍側の力の入れようというものが良く分かる。

 

「ぶわっはっはっは!大戦の前だからか、体が滾って仕方が無いな!」

「油断するな、ガープ。相手は、これまで拿捕してきたクズ(海賊)共とは訳が違うぞ」

「ンなこたぁ、お前に言われなくても分かってんだよセンゴクぅ!」

 

 これから始まるであろう戦闘を前に余裕とも油断とも取れる態度のガープを窘めるのは、海軍本部中将の地位にあるセンゴク。

 常日頃から厳めしい顔の彼だが、今は常以上に眉間の皺が深くへの字口だ。

 

 ロックス・D・ジーベック。この名は、世界政府並びに海軍におけるここ数年にわたる圧倒的なまでの厄ネタに他ならない。

 実力は、世界でもトップクラス。タイマンならばまず誰も勝てないだろうとさえ言われている。

 そしてそんな怪物の率いる海賊団もまた、怪物揃い。

 億を超える賞金首たちの中でも、更に上澄み。

 海賊、兵隊、賞金稼ぎ、海軍。いずれの勢力からの干渉も、暴力によって払いのける。

 

 そして、

 

(奴らを英雄視する声がある、か)

 

 センゴクの懸念材料が、ソレだった。

 ロックス海賊団が滅亡させた国は、複数ある。

 何れも世界政府加盟国であり、内政不干渉を利用した()()()()()()()()()()だ。

 

(王侯貴族が殺され、そして噂に関与した商人含めた連中までもが殺された。残ったのは、国民のみ。そして彼らは、政府に対する不信感を募らせている)

 

 滅ぼされた国々の主な支出は、天上金だ。

 誰もが疑問に思うだろう金の出方だが、しかしその疑問を口に出し、そして正そうとする者達は早々には現れない。

 何故か。一つは、世界政府の権威。もう一つが、海軍の存在だ。

 

 ロックス海賊団が特殊なだけで、海賊、そして世界政府に目を付けられた者(賞金首)にとって海軍という存在は脅威以外の何物でもない。

 この世界における“正義”とは世界政府の意向であり、海軍はこの“正義”の実行役。

 この実行役が世界政府の意向(大義名分)を背負ってやって来るのだ。抗える筈もなく、立ち向かえる筈もない。

 

 だからこそ、小さいながらもロックス海賊団への期待の声(革命の種)が生まれようとしていた。

 

(………だが、正義は果たさねばならん)

 

 やるせなくても、それでも海軍が矢面に立たねばならない瞬間というのがある。

 たとえ何度矜持を踏み躙られたとしても。

 

 相方がムッツリ黙り込んだのを尻目に、ガープは前を見る。

 彼はどちらかというと、猪突猛進。自身の感情のままに突き進むタイプ。妙に頭が回る所はあれども、基本的に壁は殴ってぶっ壊せ、といった感じだ。

 

「ガープ中将!先制攻撃の準備をしろ、との大将“灰鹿”からの指示が出ています!」

「おおっ!やっとか!ぶわっはっはっは!砲弾(たま)を持ってこい!」

 

 拳を鳴らして、ガープは運び込まれた大砲の砲弾を一つ手に取った。

 

「拳骨隕石(メテオ)ッ!!」

 

 彼の投球は、通常の大砲を遥かに凌駕するスピードと破壊力、そして射程距離を有していた。

 凶弾、駆ける。

 

 

 

 

 

 

「――――グルハハハッ!派手な挨拶だなァ、オイ!」

 

 突如飛来してきた砲弾を飛ばした斬撃によって撃ち落としたロックスは、上機嫌に獰猛な笑みを浮かべて遠方を睨みつける。

 

「海軍の艦隊か」

「ああ、そうらしい。ニューゲート派手にやり過ぎるんじゃねぇぞ?」

「んな事は、分かってる。だが、このままなら揃って海の藻屑にされるだけじゃねぇか?」

「その通りだ。まあまあな威力の砲撃を、ほぼ寸分違わずに連続で撃ってきやがるってんなら、こっちから近付くのはリスクがデケェ…………だがよォ」

 

 ニヤリと、不敵な笑みを浮かべるロックス。

 

「安全策は、面白みが欠けるよなァ?」

 

 ニューゲートは、頭を抱えた。

 リスクジャンキーではないが、その実力からかロックスは何かと危ない橋を渡ることに抵抗が無い。そして抵抗が無いからこそ、()()()()()()()()()()

 

「野郎共ォ!帆を目いっぱいに張れェ!風を逃がすんじゃねぇぞ!?」

 

 言うなり、引き抜かれるサーベル。

 

「開戦だァ!!!」

 

 史上最悪の海戦勃発。

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