百獣と呼ばれぬ男 作:八海山
ロックス海賊団VS海軍。
西の海にて始まった大規模な海戦は、数の上では圧倒的に後者が上であった。
加えて、
「うざってぇな」
飛んでくる砲弾を振り回した金砕棒の衝撃で撃ち落とすカイドウの呟きは、船に乗る者たちの総意でもある。
通常の大砲よりも威力のある砲撃。
船員たちに通じずとも、彼らの乗る船ならば話は別だ。船底に穴が開くか、もしくは竜骨をへし折られたならば航行不能。沈むしかない。
厄介なのは、悪魔の実の能力者の存在。
彼らは戦力として申し分ない処か、場合によっては過剰ともいえる力を発揮するが水上戦の場合は彼らがカナヅチな点が非常に厄介。
魚人や人魚ならば未だしも、海に沈めばそのまま水底までサヨウナラ。助けが無ければ浮かぶ事もない。
「おい!シキ!リンリン!お前らは上から回れ!」
ロックスからの指示に、うんざりしていた二人は嬉々として空へ。
「ジッハッハッハ!サイクロンでも起きてるならまだしも、この温い環境じゃあおれの的だな!!」
空を舞う獅子。
「マンママンマ♪的でしかないねぇ」
天候を操る女。
砲撃が絶えず行われているものの、それでも簡単に撃ち落とせる筈もなく六式と覇気を体得している将官たちが砲撃の隙間を縫うように突撃する事でどうにか空は拮抗状態。
では、海はというと、
「グルハハハッ!その鎌は新品みてぇだな、灰鹿ぁ」
「貴様の気にする事じゃないな」
海軍側の人手がとられた事で海賊側は軍艦へと乗り込んでいた。
軍艦の上で睨み合うのはロックスと、灰鹿。そして、
「おれも行くぜ、灰鹿のオッサン!」
拳を掌に叩きつけるガープ。
また別の軍艦では、
「乗り込んできたか、“白ひげ”」
「ああ。うちの船を壊されちゃ敵わないんでな」
センゴクとニューゲート。
更に更に別の軍艦。
「子供とはいえ、手加減するほどおれは甘くないぞ、カイドウ」
「知らねぇな」
カイドウと海軍本部中将ゼファー。
主戦力は互いが互いに食い合うような状況へと陥っている。
海賊団の他団員は、それぞれがそれぞれに軍艦へと襲い掛かるか、或いは船へと乗り込んでくる海兵を薙ぎ倒している状況だ。
金砕棒を肩へと担ぎ、カイドウは目を細める。
「おい、一つ聞かせろ」
「なんだ?」
「今回のテメェらの出動は、通報か?それとも、テメェらの主動か?」
「ソレを聞いてどうする?仮に通報だったとして、通報者を潰すか?」
「質問を質問で返してくんじゃねぇよ。単なる興味だ」
言って、カイドウは僅かに腰を落とす。
「さっさとおっぱじめるぞ」
「来いッ!!」
横薙ぎ一閃と拳がぶつかる。
「グルハハハッ!」
「ぬぅぅぅぅ……!」
武装色をそれぞれ纏ったサーベルと大鎌がぶつかり合う。
火花が散るが、それだけではない。
「
灰鹿の背より、犬の頭部を模した灰の塊が牙を剥いて複数体、ロックスへと襲い掛かる。
「芸達者だなァ、灰鹿ァ!!」
大鎌を弾き、サーベルが閃くと同時に灰の犬は小間切れとなって霧散する。
直後に鋭い突きが見舞われ、これを防いだ灰鹿だったが大きく後方へと押し飛ばされてしまう。
「くっ……!」
牽制として放たれる灰の連打。その質量と衝撃は、決して無視して良いモノではない。
迫りくる灰の群れを切り払うロックス。そしてその中に紛れる様にして、
「
六式の“月歩”による加速を乗せて突っ込んできたガープ。
彼の代名詞ともなりつつある武装色の覇気によって硬化した右拳が溜を挟んで放たれた。
「まだまだ甘いぜっ!」
ガープの右拳骨とロックスの突き出した左拳が衝突。その衝撃によって、大きく軍艦が揺れて周囲の海をかき混ぜた。
一瞬の拮抗。それを崩したのは前へと踏み込んだロックス。
押し合いになるかと思えば、拳のベクトルを直線から下へと落ち込む軌道へと変更。これによって真っすぐ突き進んでいたガープの拳の軌道も下へと動かされ、その拳に引っ張られる様にして僅かに体勢も崩れる。
そこに迫るのは、ロックスの浴びせ蹴り。
「
「ぶっ!?」
武装色を纏った右踵が、ガープから見て右斜め上から襲い来る。
反射的に右頬に武装色の覇気を纏う事で最低限の防御を成功させるが、空中では踏ん張る事など出来ない。
一瞬の間を開けて、ガープの体は大きく吹き飛ばされると軍艦の船首に設けられた三門大砲へと勢いよく叩きつけられる事になる。
「良い覇気だ!力も強い!だが、まだまだ青いなァ?」
大砲の残骸へと埋もれるガープへと追撃に走るロックス。
そこに割り込む灰鹿。
「行かせはせんぞ!」
「ハッ!
「ッ!」
閃くサーベル、回転し勢いを増す大鎌。
二度、三度、四度。火花を散らして衝突する回数は加速度的に増していく。
「うぉらぁあああああああああああ!!!!!」
灰鹿の傷が増えてきた所で、突如両者の真上に影が差す。
見れば、頭から血を流しながらも大砲の残骸である鉄塊を頭上に掲げたガープが降って来るではないか。
どちらからともなく退避し、そのスペースへと着弾。大きく軍艦が前のめりに揺れる。
「ぬぅ、外したか」
「油断するな、ガープ!!」
「その通り!油断大敵だ!」
灰鹿の声が飛び、同時に舞い上がった粉塵より右手を引き絞ってサーベルの切っ先を前へと向けたロックスが飛び出してきた。
「D・スパイクッ!!」
「ぐぬおぉ!?」
間一髪。肩の辺りを切り裂かれるも、ガープはその突きを躱す。
だが、被害はそれだけに留まらない。
「軍艦が……!」
海兵の一人が呟く。
なんと、放たれた突きは飛んだ先にあった軍艦の一つを強襲。巨大な穴をその堅牢な外装と船底に穿たれる事になり沈む。
海軍の軍艦は、海賊船と比べてもかなり頑丈だ。
ソレを、ロックスの突きは一撃で粉砕する。
「グルハハハッ!そんなもんかよォ!?」
突きを躱したガープを蹴り飛ばし、ロックスは吠える。
事実だ。大将と大将クラスかそれ以上の中将二人がかりで攻め切れないのだから。
オマケに、ロックスはまだまだ余裕を滲ませる。
同時に、近くの軍艦で大きな衝撃が爆ぜた。
見れば黄金の光と空中を伝う亀裂が真正面からぶつかり合っているではないか。
「ニューゲートの奴も盛り上がってんな――――こっちも、ギア上げていくか?」
「「ッ!!」」
変化は突然だった。
一回り大きくなる体。同時に体表に現れる
太く強靭な一本の尾が揺れ両手の先には鋭い鉤爪。
歯が鋭い牙へと変わり、その瞳は小金の獣へと変化する。
「これは……
「ああ、そうだ。リュウリュウの実 モデル“ギガノトサウルス”!オレも結構気に入ってるんだぜ?」
牙を剥き出しに笑うロックスだが、灰鹿とガープにしてみれば地獄の様相という他ない。
悪魔の実の中でも、
それらの中でも特殊なのが、古代種、並びに幻獣種と呼称されるもの。
前者は、名前の通り古代の生き物の特性を発現し。後者は、空想上の生き物の能力を得る。
ロックスは、前者。それも陸生恐竜の中でも最大クラスの体躯を誇るギガノトサウルスの能力を得るというものだ。
「行くぜ?」
(ッ!先程よりも、速い……!)
甲板を踏み割る勢いの加速を行うロックス。
対応する灰鹿は、大量の灰を出現させ自身の大鎌へと纏わせて迎撃に動いた。
「ぐっ……!?」(重い……!)
「覇気が温ぃぞ、灰鹿ァ!!!」
火花を散らす拮抗――――とはならない。
遠心力を込めて振るわれた大鎌は、しかしぶつかり合ったサーベルにどんどん押されている。
「クソがァ!!」
そこに割り込むガープ。
その拳骨は正確にロックスの左頬を捉えて、
「――――後で構ってやるよ」
微動だにしない。首が動く様子もなく、ガープの拳に伝わるのはまるで鋼板でも殴りつけたかのような手応え。
思考が空白に染まる。その一瞬の隙は致命的だった。
「ぐあああああ!?」
「ガープ!?」
「余所見してる場合じゃねぇぞ!!!」
鞭のように撓った武装色を纏った尾がガープを強かに叩いて殴り飛ばし、僅かな動揺を見せてしまった灰鹿は押し切られ袈裟切りに体の前面を大きく切り裂かれる。
圧倒的な暴君。最早勝敗は決まったようなものだろう。
時計の針は僅かに遡る。
場面は変わって、ニューゲートとセンゴクの戦う軍艦。
こちらはこちらで、地獄の様相だ。
「ぬぅううううん!!」
「カァッ!!」
黄金に輝く巨体へとその姿を変えたセンゴクの掌から衝撃が発し、対してニューゲートが空間を殴れば発生する亀裂が真正面からぶつかり合う。
ヒトヒトの実 モデル“大仏”とグラグラの実。
前者は
「“仏”のセンゴクとは言ったもんだな。
「貴様こそ、それほどの力を持ちながら海賊か……!」
「……フッ、常套の手段じゃ生きていけねぇんだよ!!」
ニューゲートの振るう最上大業物“むら雲切”とセンゴクの黄金の拳がぶつかり合う。
何度もぶつかり、センゴクの拳が甲板を粉砕し、これをニューゲートは跳躍して回避。
引き絞った拳に白い球形のオーラを纏い振り抜く。
「フンッ!」
これを防ぐのが、センゴクの張り手と共に放たれた衝撃波。
実力は、ほぼ互角か。どちらも、全力とはいかない為にいまいち決定打に欠ける。
その一方で激戦となっているのが、カイドウとゼファーの戦いだった。
「ハァッ!!」
「オオオオオッッッ!!!」
軍艦内に留まらず、二人は“月歩”を用いて空へとその戦場を移していたのだ。
金砕棒と硬化した腕が何度となくぶつかり、その度に空間は軋みを上げて海は荒れ狂った。
「ブラック……」
「
ゼファーは右拳を握り、カイドウは金砕棒を振り被る。
月歩による加速を乗せた衝突だ。
「バスターッ!!」
「
黒腕と金砕棒の突きがぶつかり合う。
押し合いとなり、どちらともなく弾かれ合う事で二人は落下。
そして、どちらもが相手から視線は外さない。
「月歩の練度が高いな、カイドウ!フォイル少将から盗んだ技で、悪事を成すか!?」
「知った事じゃねぇ!!」
叫び、カイドウは前へ。
振るうのは金砕棒、ではなく右足。
「蒼天・」
加速をつけて、魚人空手の神髄と武装色の覇気の合わせ技。
「
「鉄塊!!」
腕を交差させて、蹴りを受け止めるゼファー。
だが、その衝撃と勢いまでは完全に殺しきれる訳では無い。その体は勢いよく空へと打ち上げられる事になる。
(衝撃を操っているのか……?花の国の八衝拳に似た技術か?いや、何か毛色が違うな)
防御技である“鉄塊”を使った上で内臓にまで響く衝撃を受けたゼファーは、冷静に相手の解析を進めていた。
ただ、ソレをおいそれとカイドウが見逃す筈もない訳で。
「オオオオオッッッ!!!」
「ぬぉおおおおお!!」
肘と金砕棒の激突。最早、金属の塊と人体の衝突音ではないのだが今更な事。
そして、戦闘は激化する。