百獣と呼ばれぬ男 作:八海山
激化する戦場。その状況でも脅威となるのは、海軍側の主戦力を抑えるロックス海賊団の幹部たち――――ではない。
いや、脅威ではある。だがこの状況は、裏を返せば海軍側もまた海賊側の主力を抑えているという事でもあるからだ。
では脅威なのは、
「ジッハッハッハ!そぉら、次だ」
やはり空を飛ぶ黄金の獅子。
シキの能力は、能力者の大敵である海水にまで効力を発揮する。
「獅子威し・
白い波を立てて浮かび上がった海水が獅子の頭部を象って咆哮を上げる。
水塊とはいえ、見上げる程の大きさともなればその質量もまた並大抵のものではない。
だが、海軍側もまた有象無象の集まりではなかった。
「ありったけの砲撃を叩き込め!」
「“嵐脚”もしくは斬撃を飛ばせる者は集まれーっ!!」
甲板へと集合する海兵たち。
各々が得物を、或いは振るうべき部位を構え、
「「「嵐脚っ!!!」」」
足を振るい、剣を振るい、ライフルをぶっ放し、大砲を斉射する。
如何に十億越えの賞金首の攻撃だとしても、放つ攻撃は単なる水塊。覇気を纏っている訳でもなく、水の塊でしかない。
大きく弾ける獅子の頭部。同時に、盛大な水しぶきと陽光によって発生した虹の中に紛れる様にして海兵たちは空を跳ねる。
「ジッハッハッハ!」
迎え撃つシキ。その手に握るは名剣“桜十”、そして“木枯し”。
これらをもって迫りくる海兵を切り伏せ、間を埋める砲撃や銃撃を捌いていく。
因みに、フワフワの実の能力にも弱点はある。その一つが、浮かせる対象に直接触れる必要がある点。
だが、
「おれの能力は“
剣戟を弾き、シキの左手の人差し指が海面へと向けられる。
先の様に、獅子の頭部を象った海水。
その牙が狙うのは、軍艦の甲板――――ではなく、軍艦の船底。
大きく船体が揺れるが、しかし転覆するほどではない。そもそも、
「そおら、捕まえた」
再度シキの手が動き、同時に巨大な軍艦が宙を舞う。
悪魔の実の能力は稀に覚醒し、より強大な力を振るえるようになる。
シキの場合は、“浮遊の伝染”。つまりは、自身が浮かせ操作する物体が他の物体にぶつかった際に、ぶつけられた側が無生物ならばこれをまた浮かせるというもの。
やろうと思えば、鼠算式に自身の能力の影響範囲を広げる事も可能だ。
もっとも、悪魔の実の能力は強力な力を振るえば振るう程に、体力の消耗も激しくなるという欠点があった。
如何に大海賊であるシキであろうとも、体力の消耗というものは避けられない事。それでもこの戦いならばガス欠する事はまずないだろうが。
軍艦が制圧されていくその一方で、更に別の軍艦は地獄の様相と呈していた。
「
「くっ……!?」
「な、なんだ!?」
「これが、ソルソルの実の能力……!!」
リンリンの持つソルソルの実の能力は、魂へと干渉する。
その技の一つとして
これは、相手の生への執着へと直接語り掛け、僅かでもリンリンを恐れる、或いは死を恐れればその者の寿命を奪い取ってしまうというもの。
如何にこの場に集められた海兵たちが覚悟を決めた精鋭であろうとも、今を生きる存在が完全に死への恐怖を捨て去る事など不可能。ロックス海賊団内であっても、リンリンの言葉に抗えるのはほんの一握りではなかろうか。
この技の恐ろしい点は、寿命を抜き取る部分だけではない。
というのも、リンリンは抜き取る寿命の量こそ調整出来るものの、その一方で寿命を抜き取られる側の残り寿命量は見えないのだ。
つまり、もしも相手が交渉で十年だけ寿命を取られる事で難を逃れようとしても、その相手自身の寿命が十年以下ならば取られた時点で即死する事になる。
「マンママンマ♪ハ~ハハハッ!取り放題じゃないか!」
上機嫌に寿命を抜き取っていくリンリン。
海賊団内でも、気紛れに船員の寿命を奪う彼女だがやり過ぎるとニューゲートが干渉してくる為、鬱憤が溜まっていたのだ。
そして、
「大・黒・天ッ!!!」
「ぐぅぅぅ……!?」
太陽を背にして高速の前転をもって勢いを乗せた金砕棒の一撃で海面へと叩き落されるゼファー。
軍艦を飛び出して行われていた、カイドウとゼファーの戦いは前者に軍配が上がろうとしている。
これは、単純に覇気の練度の差があった。
ゼファー自身、後の海軍大将候補の一人とされているがその一方で覇気の練度そのものはカイドウに一歩劣る。そして、素の力でも僅かに前を行かれてしまえばじりじりと追い込まれるのも自明の理。
「ッ!」(素の力はおれより上か…!何より、覇気の練度の差!だが――――)
沈んだ海中より、ゼファーは空へと跳び上がる。
「おれに諦めるという選択肢はないッ!!」
「……」
腕を黒く染め、向かってくるゼファーを見下ろしカイドウは金砕棒を一度振り回す。
海軍の掲げる“正義”。カイドウ自身は否定するつもりはないが、しかしもし仮に自分がその言葉に殉じる事ができるのかと問われれば、直ぐに首を横に振る事になるだろう。
彼は、ある意味で海軍における“正義”という言葉は一種の宗教且つ自己催眠の一種なのではないかと考えていた。
“正義”という言葉の定義は実に曖昧だ。正義の味方という言葉は、一見正しいように見えるが実際の所は彼らの指針における正義という存在の味方でしかない。
彼らの正義が、大衆を悪だと断ずれば容易に敵対するだろう。最愛のモノを悪と断ずれば、討たねばならないだろう。
結局のところ、“正義”とはそういうものなのだ。
そして海軍の正義は、世界政府の意向。これに則っていなければ正義とは言えない。
「ブラック・インパクトォッッッ!!!」
迫る右ストレート。
対応するように、カイドウは金砕棒の柄を両手で握り、右肩に担ぎ上げる様に構えると空を蹴って落下。
「
その瞬間、ゼファーは己が相対する敵が唐突に巨大化したかのように錯覚する。
振り下ろされるは、十の厄災の一つを冠する一撃。
「――――殺・生」
「!?」
拮抗は、無し。
振り落とされた金砕棒の一撃は、容易く黒腕の一撃を押し返し、いや押し潰した。
真っ逆さまに叩き落とされるゼファーの体。
丁度真下に停泊していた軍艦へと叩きつけられ、その衝撃と共に
更にその下の海面すらも叩き割り、この海戦の一つの戦いに決着がついた。
そして、
「グルハハハハハハハハハッッッ!!!!」
海上に木霊する咆哮の様な笑い声。
ロックスを相手としていた灰鹿とガープの戦闘は、最早戦闘としての体を成していない。
巻き添えにされた海兵は、海の藻屑になるか甲板の上で亡骸を晒して海へと還って行った。
「ハァ……!ハァ……!くっ…………!」
「ぜぇ……ぜぇ……」
灰鹿は砕かれた鎌の柄を支えに漸く膝立ち。何より、
ガープの方も、仰向けに倒れ白目を剥いて頭から流れる血の量は増す一方だ。
「まあ、頑張った方じゃねぇか?
「ッ、まだ、終わっていないぞロックス……!」
「勘違いするんじゃねぇよ、灰鹿。態と終わらせてねぇんだからな。お前らの命は、俺の匙加減で決まる。それに、見てみろ」
腕を振るい、ロックスは周囲へと視線を移させた。
「真面に戦えてる奴なんざ、あの
「なっ……!?ゼファーを……!」
「グルハハハッ!テメェらを潰すのは簡単だが……
言いながら、ロックスはサーベルを鞘へと収め能力を解除しながら踵を返す。
「ッ、待て!ロックス!!貴様は――――」
「精々、次の襲撃ではこの三倍は最低でも準備しとけよ!詰まらねぇからなァ!!」
覇王色の覇気を放ちながら、ロックスの姿はその場より掻き消える。
西の海にて発生した大規模な海戦は、海軍側の大敗として幕を下ろす事になる。
このニュースは瞬く間に世界へと広がり、同時にロックス海賊団という一団の強大さを喧伝する事へと繋がった。
場所は変わって、新世界。
「お前が、ロックスか?」
「ああ、そうだ。テメェの名は?青二才」
「おれは、ロジャー!ゴール・D・ロジャーだ!!」
後の伝説がぶつかり合う。
前話で賛否両論あったロックスの能力に関して
結論から言えば私の趣味ですが、理由もあります。
考察などで多い、ヤミヤミの実の前任者説を採用しなかったのは、そもそも私自身がヤミヤミの実の能力が果たして最強なのか、と疑問を覚えるからです
確かに、悪魔の実の能力者相手ならば能力を消せることは強みです。そしてだからこそ、非能力者のガープとロジャーにロックスが負けた、とするのが説の根っこだと思います
ただ、能力を消すだけで“白ひげ”以下、シキやリンリンに勝てるのかどうか。
後者二人は兎も角、全盛期は覇気も極めていたであろう白ひげに、ヤミヤミの実のプラス覇気で勝てるかと考えた時、いまいち勝利姿が浮かばず。ならばもう、相手をフィジカルで押し切る能力者にしてしまえ、と考え動物系の悪魔の実を採用
ギガノトサウルスなのは上記のとおりと、それから獣脚類で最強だっただろうティラノサウルスに次ぐ二番手という立ち位置のイメージから
王者に成れたかもしれない敗者、という面もあったりします
あともう一つ。
シャーロット・リンリンの笑い方に関してですが、こちらはアニメ準拠となっています
理由は単純で、私が本文内で原作の笑い方が使い難いからというだけです
それでは、読了感謝。次回もお付き合いいただければ幸いです
ゼファー先生は死んでおりませんのでご安心を