百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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終局

 ここ数年に渡って世界を揺らす、ロックス海賊団。

 海軍も海賊も、各国の軍隊すらも歯牙に掛ける事のない最強の海賊団。

 

 彼らの動向は常に監視されていると言って良い。そして常に、予測が成されてもいる。

 

「――――グルハハハッ!まあ、この程度は読めて当然だよなぁ?」

 

 上機嫌に、ロックスの笑う先にあるのは一つの島。そしてその島を守る様に並ぶ軍艦の群れ。

 既に艦隊を西の海で叩き潰した彼らにとっては、砲門を向けるそれらも恐怖の対象足りえない。

 

「おい、ニューゲート。島を潰さない程度に道を開けろ」

「面倒な指示だな」

 

 顎で示したロックスにため息を吐き、ニューゲートは拳を握って空中を殴りつける。

 白い亀裂が走り、衝撃は伝播する。

 大きく弾ける海面と、その衝撃によって吹き飛ぶ軍艦。そして吹っ飛んだ軍艦が、また別の軍艦へと衝突し壁の一部に大きな割れ目が出来上がった。

 

「よし、全速前進。計画の締めだ!大きくかませよお前らァ!!」

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」」」

 

 前方を指さして咆えるロックスに呼応するように、船のあちこちから雄叫びが上がる。

 そんな中で船室の壁面に背を預けて腕を組んだカイドウは、ジッとその背中を見つめていた。

 

 考えるのは、少し前。船長室での会話。

 ロックスへの違和感と、それから自分の未来について。

 

(あの男が死ぬ姿なんざ、想像も出来ねぇがな)

 

 カイドウの知る中で、ロックス・D・ジーベックは最強だ。

 体格的には、自分やニューゲートに劣るというのにその膂力は凄まじく、剣の腕も生半可な輩では相手にならない。

 圧倒的な覇気を有し、加えて動物(ゾオン)系古代種の能力。

 覇気によって生半可な攻撃が通じない上に、悪魔の実の能力が圧倒的なタフネスと回復力、防御力を与えてもいた。

 にもかかわらず、あの時のロックスは己の終わり()を予見しているかのような口ぶりだった。

 

 カイドウは、考える。

 この船に乗って数年の航海。仲間意識が無い訳では無いが、それでもコイツの為なら命を懸ける!というような相手は居ない。

 強いて挙げれば、まだまだひ弱なリンリンの子供たちか。もっとも、今回は彼らの護衛にリンリン自らが選んだ者が当たる為そこまで心配する事は無い。その他の面子は、助けるという選択肢を持たせない程に強い奴らばかり。

 そんな中でも、やはりロックスが骸を晒す姿というのは想像できなかった。

 

「何を考えてる?」

「……何の用だ、金獅子」

「ジッハッハッハ!そう邪険にすんなよ」

 

 船が進む中、近付いてきたのはシキ。

 常のどこか飄々とした腹の黒さと、戦意に滾った目がギラギラとしている。

 

「これから大戦(おおいくさ)って時に、しけた面をした奴が視界の端に映ったもんだから、ちょいとその面を拝んでやろうと思った次第だ」

「だったら遠目で良いだろ。何で近寄ってくる」

「おいおい。目を掛けてる奴が考え込んでるとなっちゃあ気にもなるだろ?」

 

 ニヤニヤと面白がるような顔で近付いていくシキ。

 性格が悪いと言われそうだが、真っ当な性根をしているのならば略奪上等の海賊などやっていない。

 辛気臭い様子で考え込んでいたカイドウだが、何というか急に馬鹿らしくなり思考を打ち切るとにやついたシキの顔面を掴んで引き摺って行く。

 

「おい!人の顔を掴んでるんじゃねぇ!?あだだだだ!」

「この程度で痛がるほど、お前脆くねぇだろ」

「そういう問題じゃねぇだろ!?」

 

 大海賊を粗末に扱いながら、カイドウは前を見た。

 闘争のお時間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行かせるなァ!何としても死守するんだ!!」

「ぎゃははははは!お前らも憐れだよなぁ、海軍!」

「天竜人なんざ、守らなくちゃならねぇなんてよォ!!」

 

 その島では、後の世に()()()()()戦いが勃発していた。

 ゴッドバレー。神の渓谷などと大層な名のついたこの地こそがロックスの計画の大詰めとしての島だった。

 ぶつかり合う海軍と海賊。何度とない戦いの舞台だが、如何せん海軍側の士気に欠ける部分があった。

 というのも、

 

「おい!さっさと海賊共を片付けるえ!」

「そうあます!出来なければ、おまえたちを処刑するあます!」

 

 コレである。

 海軍は精鋭兵となればなるほど、世界の汚さを見ていくことになるがその中でも天竜人の存在は正に最悪の煮凝りの様な存在だった。

 守り甲斐も無ければ、寧ろ自分たちの存在意義すらも揺らがされる。

 

 一方で、海賊たちはというと、それはもう力の限り暴れていた。

 

「これ以上は行かせんぞ、白ひげェ!!」

「グラララ!止められるもんなら、止めてみやがれ!!」

 

 ニューゲートとセンゴクを筆頭として、島のあちこちで戦闘が勃発。

 それだけではない。ここゴッドバレーは、天竜人の地であるからか大量の財宝や希少品、珍しい奴隷など海賊にとっての“宝”がこれでもかと揃っている。

 加えて、奴隷はまだしも天竜人に手を出しても船の暴力装置(カイドウ)からの折檻がない。

 

 そのカイドウは、

 

「おい、さっさと行け」

「あ、ありがとう……」

 

 奴隷の首輪を引き千切り、海楼石の錠を覇気を纏った金砕棒で粉砕して奴隷たちを解き放っていた。

 別に戦う事が、今回の目的ではないのだ。島にある宮殿へと乗り込んだロックスが何かしらの目的を果たせたのならその時点で今回の襲撃は目標達成。

 故に、海軍の強敵たちと戦う必要はない。そもそも、ロックス海賊団のクルーは何れも血の気が多い者ばかり。

 彼らを目隠しに隠密行動に徹すれば奴隷の解放も難しくない。

 

 人間、魚人、人魚、巨人、ミンク族。能力者に、混血。

 

 よくもまあ集めたと言わんばかりの奴隷たちを前に、カイドウの胸の内には沸々とした怒りの種火が燻り始めていた。

 カイドウの怒りは、そのまま力の上昇と覇気の放出に繋がる。

 そして、

 

「――――“指銃(シガン)”」

 

 最悪の“白”が誘われる。

 白いスーツに、顔の分からない覆面を付けた男。その鋭い指先がカイドウの首筋を狙い、

 

「なにっ……」

「やっぱり居るよな、政府の犬。天竜人の盾、CP0」

 

 サイファーポール“イージス”ゼロ。世界政府の諜報機関であるCP(サイファーポール)の中でも最上級に位置し、世界最強の諜報機関或いは仮面の殺し屋とさえ称され政府の都合の良いように世界を変える手足的な存在。

 その実力はかなりのモノで、海兵で言えば中将でも上澄み。海賊ならば億越えの船長クラスだろうか。世界政府の実行圧力の一つとして見るなら十分すぎる力量だろう。

 

 もっとも、今回は相手が悪すぎるが。

 

 突き出した指は、その指先が皮膚を貫く前に手首を握られる事で止められた。

 掴まれた腕を引き抜こうとすれども、まるで万力に固定されたかのように動かせない。

 

「テメェらも仕事だ。あのクズ共のお守りをしなくちゃならねぇってのは分かる」

「ッ、貴様……!」

「でもよォ……」

 

 握られたCP0の腕が軋む。

 

「それで納得して、腹の虫が収まるほど俺は人間が出来てねぇんでな……!!」

「ぐ、あああああああ!?」

 

 握り潰される腕。同時に、カイドウから猛烈なまでの覇気が発せられ奴隷たちを押し込んでいた宮殿を構成する石材に大きな亀裂が走った。

 振り被られる金砕棒。

 

「ッ、“鉄塊 剛”……!」

 

 痛みの中で防御を行う、がそんな物は今の怒れる獣(カイドウ)には薄紙程度の効力しか発揮できない。

 金砕棒が振り抜かれ、CP0の体は大きく吹き飛ばされていく。

 完全な八つ当たりだが、同時にここでカイドウを止められなかった戦犯にも数えられるCP0。

 怒りの化身は、侵攻を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――グルハハハハハハハハハッッッ!!!神の地を守る家といえども、この程度か」

 

 大きく抉れた跡地の中心で笑うロックス。

 海軍とはまた違う、ここゴッドバレーを守護する家がある。

 だが、その存在はロックス・D・ジーベックという厄災を止めるには力不足であった。

 

 止められるとすれば、

 

「来たか」

 

 一人は、海兵。拳を鳴らしながら、厳しい表情を浮かべる。

 一人は、海賊。得物である剣をその手に、覇気を放つ。

 

「テメーは来ると思ってたぜ、ガープ。ロートル(灰鹿)は来ねぇのか?」

「オッサンは引退だ。これからは、オッサンの分までおれが海軍を引っ張っていく」

「グルハハハッ!そりゃあ、良い。世代交代は世の常だからな……で? お前がこの場に来るとは思わなかったぜ? ロジャー」

「デカい喧嘩を仕掛けると思って、お前の周りを張ってたからな」

「成程?で、二人がかりか」

 

 ニヤニヤと嗤うロックスだが、ロジャーもそしてガープも単身でこの男に勝てるとは思っていなかった。

 今この瞬間も、漏れ出す覇気の強さが半端ではない。肌をビリビリと震わせて、自然と脂汗を滲ませる凄味がそこにはあった。

 

 そして、ロックスの姿も変化する。

 

「さあ、始めるとしようぜ。来いよ、青二才ども」

 

 動物(ゾオン)系能力者の最大戦闘形態、人獣型。

 同時に、ロックスのサーベルが漆黒へと染め上げられる。

 

 ()()()ゴングが鳴り響く。

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