百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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 食べる事で不思議な能力が付与される悪魔の実。

 しかし、その能力は食べた直後から最大限発揮される訳ではない。

 

「慣れねぇな」

 

 呟くのは群青の鱗に覆われた巨大な一頭の龍。

 焔雲(ほむらぐも)と呼ばれる揺らめく炎の様な雲を掴み、ユラリユラリと空に浮かびながらカイドウは自身の能力を理解しようと四苦八苦している所だ。

 

 ロックス海賊団は、解散した。トップである船長(ロックス)が消えたのだ。その後に残った自我の強い濃いメンバーを纏められる者など居なかった。

 ある者は、海賊団に所属する前より率いていた面子を連れて離れ。

 ある者は、利害が一致したメンバーで船団を。

 ある者は、己の野望を果たすために家族を連れて。

 

 そして、カイドウもまた海賊団を離れて一人で行動していた。

 今は、手頃な無人島で自身の得た能力、ウオウオの実 モデル“青龍”の実験中。

 

「…………ふぅ」

 

 一つ息を吐いて人型へと戻ったカイドウは、近くの手頃な岩の上に腰を下ろして空を見上げた。

 能力の触りは、直ぐに理解できた。動物(ゾオン)系の特色である変形に関しても、頭の中のスイッチを切り替えるイメージで割とすぐに習得していた。

 そして今、能力そのものの力を引き出している所。

 

(龍……東洋の、龍か)

 

 海面に映った自身の巨体を思いだしながら、カイドウは考える。

 

 西洋と東洋によって、龍やドラゴンと呼称される幻想の存在は大きくその在り方を変えると言って良いだろう。

 前者の場合は、炎や毒を吐き、翼で空を飛び、財宝に執着し、その最期は英雄によって討ち取られる。

 後者の場合は、風や水と深い関わりがあり、風水術の奥義、春の化身、そして人々に寄り添う側面もある。

 

 カイドウの能力は、後者に近い。

 しかし同時に、誤りもあったりする。

 

 というのも、悪魔の実の能力というのは出鱈目なのだ。

 

 一例としては、ボムボムの実。こちらの実は、食べる事で全身起爆人間となる超人(パラミシア)系の能力なのだが、火薬を食べることが出来る。

 確かに、内臓各種も爆発できるのかもしれないが、だからといって火薬を摂取できるようになる理由にはならないだろう。

 

 カイドウの話に戻せば、彼の解釈次第で能力の応用の幅は大きく広がるという事。

 

 因みに、空を真面に飛べるようになったのは、能力を得て数日経ってからだったりする。

 というのも、彼の能力そのものは飛行能力が無い。あくまでも、焔雲を生み出してソレを掴んで、或いは乗って浮かんでいるのだ。

 

「…………」

 

 能力の考察を一旦おいて、カイドウは今後の動きを考える。

 目下の目標は、フィッシャー・タイガーとの約束である第二の魚人島を見つける事。

 これに追加して、自分の得た能力をより引き出して極める、というのもある。

 別段強さの頂点を目指している訳では無いが、しかし折角能力者になったのだから真面にその力を使えないというのは避けたかったから。何より、()()()()()

 

 とりあえず、能力で出来る事の確認を兼ねてこの島にしばらく滞在し、ある程度把握できたのなら先ずはフィッシャー・タイガーの下へと向かう。

 まだまだやるべきことは、山の様にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックス海賊団の解散。その結果として海軍の仕事は多少楽になる――――筈も無かった。

 というのも、ロックス海賊団という存在は世界における一つの重しだったのだ。

 彼らは強かった。他を寄せ付けない程の個としての強さを持った面々が、一つの集団を形成していたのだから当然か。

 チームプレイ等は欠片も出来ないが、ワンマンプレイ一本で他を圧倒出来るのだから理不尽だった。

 

 他の海賊たちも、この海賊団に睨まれれば沈められるほか無い為どうしても大人しくせざるを得ない。

 この時期に募ったフラストレーションが今、爆発してしまっていた。

 

「センゴク()()!報告書をお持ちいたしました!」

「ああ、そこに置いておけ」

 

 部下へとそう言葉を返しながら、新たな海軍本部大将として就任したセンゴクは頭を悩ませていた。

 

「白ひげは、早々動かんな。だが、金獅子と国落し。この二人は不味い」

 

 自分から世界をどうこうするタイプではない者は、まだいい。

 問題は、“金獅子”のシキとそれから、“国落し”のシャーロット・リンリン。

 どちらも危険である事は変わりないが、特にシキの方は年単位の潜伏、からの馬鹿でかい計画を発動する可能性すらある。

 一方でリンリンはというと、彼女も彼女で菓子一つで国を亡ぼす始末。

 それから、

 

「ゴール・D・ロジャー…………またしても、“D”か」

 

 現在、センゴクの同期であるガープが執着しているロジャーの存在。

 略奪などはしないがその一方で、海軍には喧嘩を売ってくる。オマケに、強い。というか、現状の海で目立つ者達は、総じて強すぎた。

 天変地異を起こす事も出来る。ぶつかり合えばそれだけで空が割れて、海が荒れる。正しく怪物揃い。

 更に、そんな怪物たちへと対抗する、或いはその傘の下に入ろうとする海賊たちも増えている。

 

 不意に、センゴクの執務室に足音が近づいてくる。

 襖が開かれ、入ってきたの紫の短髪をした男。

 

「ゼファーか。どうした」

「至急、お前の耳に入れておきたい情報が上がって来たんでな」

 

 そう言って、ゼファーが手渡してくるのは一枚の報告書だった。

 受け取って視線を落とし、そして眉根を寄せた。

 

「龍、だと?」

「ああ。群青色の鱗を持った巨大な生き物が、空を渡ったという報告がチラホラ上がっている」

「…………」

「おれの見解では、何らかの悪魔の実によるものだろう。動物(ゾオン)系であり、尚且つ幻獣種。オマエと同じようにな、センゴク」

「そうか。ゼファー、何か思い当たる節があるんだな?」

「……恐らくは、カイドウだ。あの男は、ゴッドバレーで悪魔の実を手に入れていた…………すまん、あの場でおれが奴を止めきれていれば……」

「自分を責めるな、ゼファー。自己嫌悪は、終わりが見えんぞ。それよりも、カイドウが能力を得たとするならば、厄介だが同時に動きが分かりやすくもなった」

 

 資料を置くセンゴク。

 

 海軍内におけるカイドウの厄介さは、単独で世界のあちこちに現れる点だ。

 海賊団を結成しようと思うならば直ぐにでも可能であるにも関わらず、一人のまま。加えて、体得されてしまった“六式”の“月歩”によってどこにでも行ける。

 

 しかし今回、巨大な龍の姿を取って彼は世界を渡っている、という情報がもたらされた。そして、悪魔の実の能力者と成ったのならば、海中移動という線はほぼほぼ消していい。

 問題は、

 

「奴の目的が何なのか、だな」

 

 センゴクの懸念は、そこだった。

 海賊ならば、金銀財宝。或いは略奪、冒険。とにかく目的自体も推察しやすい。

 だが、カイドウは違う。目先の利益に飛びつかず、しかしどこか目的意識を持っている様な、いない様な。とにかく、センゴクがこれまで相手にしてきた賞金首の中でも異質。

 

 センゴクの言葉に頷いたゼファーもまた、言葉を繋ぐ。

 

「ああ。状況から見て、ロックスの下についていたメンバーの傘下に入っている様子もない。つまり、単独である事は変わらない。だからこそ、分からん。底知れない強さだが、かといって一般人に手を出す様な奴でもない」

「ロックス海賊団襲撃の中でも一般人への被害が少なかったのはこの男の手腕による所が大きい、と報告も上がっていたな」

「苛烈な側面と慈愛の側面を持つ……宛ら、明王か」

「だが、奴は賞金首だ。如何なる理由があろうとも、捕えなければならん」

 

 気が重い、というのが正直な所。

 現状カイドウを相手取れる海兵など、センゴクかガープ位か。ゼファーも彼らに迫る実力だが、二戦全敗。鍛え直しているが、この間にも加速度的に強くなり続ける化物を相手に何処まで抗えるか分からない上に、捕らえる事など夢のまた夢。

 幸い大きな事件は、

 

「報告します!!」

 

 駆けこんでくる一人の海兵。

 

「何があった」

「新世界側、レッドライン上空にて巨大な龍の姿が確認されました!」

 

 センゴクとゼファーは眉間を揉んだ。

 今まさに話題としていた男が、かなり厄介な事をしでかしているのだから。

 

「……政府からは?」

「ハッ!大将の出動要請が、既に出ています!」

「分かった、私が行こう。ゼファー、悪いがこっちの案件を任せるぞ」

「ああ」

 

 正義のコートを羽織り、センゴクは出撃準備へと取り掛かる。

 

 余談だが、()()()カイドウは世界政府には用事が無い為センゴクが到着するころには影も形も無く、徒労に終わる事をここに記す。

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