百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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岐路

 発想というのは、凝り固まってしまうと中々いい考えというものは浮かばないもの。

 だからこそ、新たな視点を得るには周りからの意見というのは重要だった。

 

 

 青い海中を、何かが猛スピードで突き進んでいる。

 それは、あまりにも巨大。全長百メートルは下らないであろう、一本の()()()()()()()だった。

 凄まじいスピードで進路を上へと向けている海流は、海面へと向けて勢いよく突き進んでいく。

 

 そして、一本の巨大な渦巻く海流が天を衝く。

 

「――――ハッ……!実験成功だな……!」

 

 海流が晴れ、同時に空に鎮座するのは群青の巨大な龍。

 焔雲に掴まり、僅かに荒れた息を整えながらカイドウは珍しくも興奮によるものか口角を僅かに上げていた。

 

 この男、恐ろしい事に海底一万メートルから海上まで、生身で一気に昇ってきたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 本来、悪魔の実の能力者はカナヅチになる。如何に泳ぎに優れていようとも一定量の水に浸かれば力が抜ける、そこに鍛えているとかいないとか、そんな事は関係ない。

 一応耐性というべきか、慣らす事は出来る。後は、海と同じエネルギーを発する海楼石の場合は純度次第ではあるが、力がある程度抜けても動く事は出来る。

 

 とはいえ深海一万メートル。魚人や人魚でなければ、能力者でなかろうとも死ぬしかない世界。

 能力者になる前のカイドウならいざ知らず、悪魔の実を食べてしまったのだから普通に海中に身を投げれば溺死するだけ。

 別段、海中の移動手段が必須という訳では無い。いや、能力者になる前は専ら泳いでばかりだったがそれも単なる気紛れであっただけ。“月歩”を習得してからは、泳ぐかどうかはその時の気分によって決めていた。

 ただ、能力者だから出来ない、という決めつけにカイドウがカチンと来ただけ。

 

 だが、魚人島から海の森へと場所を移して始めた実験は即座に暗礁に乗り上げる事になる。

 能力を使った状態、使っていない状態。どちらも海水に触れれば瞬く間に力を失って、いつもの剛力など見る影もない。

 ならば、と覇気を纏ってもソレは変わらず。

 武装色、そして覇王色。後者に関しては可能性は感じられたものの、如何せん攻撃のワンアクションに纏うようなモノを常時纏い続けるというのは如何にカイドウといえども難しい。

 

 どうしたものか、と悩んでいた所、一つの可能性を示したのがフィッシャー・タイガーだった。

 

 曰く、能力の使用はどの範囲まで可能なのか。

 

 より詳しく言うと、そもそも“龍”という存在そのものが架空のもの。そんな存在の能力を有した悪魔の実を食べたのだからそれこそ想像次第で何でもできるのではないか、と。

 

 龍。体の細長いものの概念は、アジア圏に広がっている。

 共通するのは、嵐や自然に関連し、水に潜み、春を冠する。

 その一つに、竜巻となって空へと昇る、というのがあった。

 

 同時にカイドウが思い出したのは、自分以外の悪魔の実の能力者たち。

 海中では悪魔の実の能力は使えない。厳密には、体の性質そのものを変化させる超人(パラミシア)系の一部などは外的な力を加える事で体が伸びたりするが、動物(ゾオン)系等は元の体に戻り変身できない。

 だがしかし、水中以外で発動した能力が海水などの水に影響を与える事は出来る。

 良い例は、シキのフワフワの実だろう。

 この能力は、触れたものを浮かせて自在に操る事が出来るが、例えば島などを浮かせれば、その島の周りの海水も一定範囲浮かせることが可能。そして尚且つ、操れる。

 少し変わるが、自然(ロギア)系ならば発生した自然物が海水に触れたとしても唐突にそれらが消える事は無い。氷ならばそのまま凍り、マグマや火ならば蒸気を上げる。光ならばある程度は光が差し込む様に突き抜ける。

 

 そこで一つ思い付き、カイドウはフィッシャー・タイガーへと二つほど頼み事をしてシャボンを纏って海中へと飛び出した。

 人獣型の状態で発生させるのは、巨大な竜巻。これで無理矢理周囲の水を押しのけて、そこから獣型へ。

 

 そして冒頭の、巨大な渦を巻く海流となって彼は海を脱したのだ。

 

「……どうやって戻るか」

 

 息を整え、カイドウは焔雲の上で頭を抱える。

 この海中移動方法、かなりの速度で水中を移動できる反面、急停止が出来ない。というか、海中で移動を止めると竜巻の中に海水が入り込んで最悪沈む。そして一度沈めばまず間違いなく溺死する。

 そもそも、この移動法の原理は、海水を無理矢理竜巻で削岩機の様に押し退けながら無理矢理潜行しているというもの。

 一応、荷物その他はカイドウが帰ってこなければフィッシャー・タイガーの好きにしていいと言ってある。

 食料や船に関しても、喪失したとしても大した痛手ではない。そも、カイドウは確りと稼ぐ職に就いている訳でもないのだから。

 であるのなら、やる事は決まっている。

 

「続きと行くか」

 

 海を攪拌するように、竜巻を纏ったカイドウは海へとその巨体を躍らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その島は、貧しいながらも辛うじて血脈を繋いでいるようなそんな島だった。

 マシな点を強いて挙げれば、政府加盟国である点から何かあれば海軍への()()()()()という事だろうか。

 天上金はあまりに高く、しかしこれを払っていかなければ加盟国ではいられない。加盟国でいられなければ、もしもの時の抑止力が無い。

 もっとも、通報したとしても海軍が絶対に助けてくれる訳ではないのだが。

 実の所、政府加盟国といえどもその立場には大きな差があったりする。

 加盟国の代表五十ヵ国が参加できる“世界会議(レヴェリー)”に参加する事が可能な加盟国は何かと政府は気にかけ、その一方で天上金を払う事で手一杯な国への支援は決して手厚いとは言えない。

 

 そして、更なる不幸が島を襲う。

 

「――――なぁに、ほんのちょっとした()()()を用意するだけじゃないか」

「し、しかし……!天上金の支払いですら我々はいっぱいいっぱいなんだ!これ以上は……!!」

「なら、仕方が無いなァ?通報があったとしても()()()()()()()()()()()()

「ぐっ……!」

 

 ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべたトゲトゲとした軍帽を被った男、海軍支部大佐イーゲルを前に島長は言葉に詰まる他ない。

 優先順位が低くとも、海軍の庇護の傘は決して手放せるものではないから。だが、天上金に加えて賄賂まで支払う事になるのなら、最早島民の半数は餓死を覚悟せねばならないだろう。

 

 地獄の二択。どちらに進んだとしても、先に待っているのは破滅だけ。この目の前の嫌な笑いを湛えた男も自分のちょっとした小遣い稼ぎとしてしかこの島を見ていない。

 涙が滲むが、しかし全滅する位ならば採れる選択肢は一つ。

 

「分かり――――」

 

 島長が頷こうとした瞬間、港近くの海面が大きく持ち上がり、爆ぜる。

 より正確には、巨大な渦を巻く水柱が空を衝いて巻き込まれた海水は大きく弾けて軍艦を盛大に揺らし、港の一部を砕いてしまう。

 

「な、なんだァ!?何が起こった!?」

 

 慌てたのはイーゲルだ。

 彼自身は、能力者ではあるものの実力はハッキリ言って大した事が無い。今の地位に居るのも、賄賂と裏工作の賜物であるのだから。

 

 そして、

 

「――――潜水時間は、この程度か。まだいけそうだが、余裕は持たねぇとな」

 

 水柱が弾けて空へと鎮座する巨大な龍。

 その存在感は、宛ら神でも顕現したかのような有様。

 現に、島民もそして海兵たちもその登場には最早声も無くただただ口をあんぐりと開けて見上げるばかり。

 そんな視線を一身に集める龍、カイドウは下の島に気付き人型へと戻って降り立った。

 

 大物賞金首の登場。気付いた海兵たちは血の気が引き抜かれたようにその顔色は、青白い。

 

「け、けけけ懸賞金額20億8000万ベリー。“憤怒”のカイドウ!?な、なななな何でこの島に居やがるんだ!?!?!」

 

 イーゲルが喚く。だが、無理もない。

 この島の近辺に来る海賊など、高くても一億ベリーに届かない程度。仮に通りかかったとしても、何のうまみも無い島に襲い掛かる事もまず無い。

 

 一方で、カイドウとしても特別理由なくこの島には降り立った。ちょっとした休憩だ。

 ただ、

 

「ひぃっ!?ち、近寄るな!」

「……」

 

 クズのニオイがする。

 無言で歩み寄ってくるカイドウに、最早イーゲルは発狂しそうなほどに狼狽えていた。

 当然だろう。元々、正義に殉じる様な男ではないのだから。そんな覚悟も無いし、ましてや鉄火場など駆け抜けた事も無い。格上と相対して、死ぬ気で活路を見出す状況など無縁。

 

「う、うわぁああああああああああ!?」

 

 高まった恐怖は暴走へ。

 イーゲルは、トゲトゲの実を食べた棘人間。体中のどこからでも鋭い棘を生やす事が可能で、棘そのものも石材を容易く貫く程度には鋭い。

 突き出される棘と化した右腕。その鋭い先端はカイドウの腹筋へと突き進み、

 

「~~~~ッ、あぎゃあああああああああああ!?」

 

 皮膚を僅かに押したのみでぐにゃりと折れてしまっていた。

 悪魔の実の能力は、練度がある。初期段階で満足するか否かが、後々生き残れるかどうかに関して大きな影響を齎す。

 

 カイドウとイーゲルの戦力差は、アリと象もしくは鯨。如何なる攻撃も通じず、その一方で相手からは身動ぎの一つでも致命傷。

 ただし、

 

「一発は、一発で良いよな?」

 

 応報刑。

 徐に、カイドウはイーゲルの胸ぐらをつかむ。

 

「ひ、ひぃ…………!」

 

 イーゲルが喉を引きつらせる中、カイドウは反転しながら胸ぐらを握る右腕を振り被り、

 

「ふんっ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

 力任せにぶん投げた。

 鍛えていないとはいえ、数十キロはある成人男性一人を比喩ではなく文字通り空の彼方へと投げ飛ばしたカイドウ。

 その目が海兵たちへと向けられる。

 

「来るなら、止めねぇぞ」

「ひっ……!」

「うわぁあああああ!?」

「む、無理だ!勝てる訳ない、あんな化物!?」

 

 元々、イーゲルからのお零れを期待していた様な者達だ、強敵へと向かっていく度胸など持ち合わせている筈もない。

 蜘蛛の子を散らす様に逃げていく海兵たちを軽く追い立てる様にして、金砕棒を肩に担いでカイドウは港へと歩いて行く。

 慌ただしく出港する軍艦を見送り、カイドウはその場に胡坐をかいて座り込んだ。

 

「あ、あの…………」

「悪いな。面倒に巻き込む事になる」

 

 震えた声で問いかける島長に、カイドウは一瞥する事も無く前を見たままそう返す。

 

「十中八九、この島に海軍の本部連中がやってくる。事を荒立てる気はねぇが……最悪の場合はお前らを別の島に送る事になるかもしれねぇ」

「ええ……!?そ、それは…………」

 

 狼狽える島民たちだが、しかしどうしようもない。

 運命の岐路は、目の前にあるのだから。



















カイドウさんの海中移動のイメージは、某ポケットなモンスターの映画二作目。海の神の渦潮海流ダイビングです。太さと規模は桁違いですけど
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