百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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粉砕

 悪魔の実。それはこの世界における、一種の外付けパワーアップアイテム。

 クソ不味い実ではあるが、一口食べれば悪魔が宿り、不思議な能力を得ることが出来た。ただし、海に呪われ泳げなくなる。

 悪魔の実の能力者は、一人につき一つの能力を得ることが出来た。因みに実を二つ以上食べると、体が爆散する、と言われている。

 

 “全殺し”のフーリッシュ。彼もまた、能力者の一人だ。

 彼の喰らった実の名前は、“キラキラの実”。肉体をダイヤモンドへと変換し、硬質化。弾丸は言わずもがな、並大抵の業物ですらも傷一つ付ける事は出来ない。

 弱点とすれば、能力発動時には関節が固定されてしまう点か。

 しかし、フーリッシュはこの関節の固定化を逆に攻撃能力へと転用していた。

 五指を僅かに曲げて能力を発動すれば、即席のダイヤモンドの鉤爪の完成。ただ振り回すだけでも、そこらの刃物を上回る。

 この能力を得てからフーリッシュは、その体に傷を負った事が無かった。

 無傷、という事実と自信。彼の精神的柱。

 

 だが、彼は()()()()()には出会った事が無かった。

 

 “()()()()()”というものを知らなかった。

 

「うぉおおおおおおおッッッ!!!!」

「ぐ、おぉぉぉ!?」(俺のダイヤモンドの体を、()()()()()()!?)

 

 ぶん回される金砕棒を、硬質化した両腕で受けたフーリッシュだが、その体は踏ん張る事すら許されず、加えて防御した装甲には亀裂が走り吹っ飛ばされていた。

 そのままヤルキマンマングローブの木の幹へと叩きつけられて、視界が明滅する。

 しかし、悲しいかな相手は待ってくれない。

 

「オオオオオッッッ!!!」

「カッ!?」

 

 木の幹へと磔の様になったフーリッシュの下へと、黒い塊が突っ込んできた。

 金砕棒で相手の胴を潰すようにして突きを放ちながら突っ込んできたカイドウだ。

 突きにより、胴を中心に幹へとめり込むフーリッシュの体。

 その胴体を跨ぐようにして、両足の指で木の幹を掴んで垂直に立つカイドウ。

 

「テメェが始めた戦争(喧嘩)だろうが。オラ、来いよ」

「あ……ゆ、ゆるひて(許して)……」

「聞こえねぇなァッ!!」

 

 懇願する命乞いも意味は無し。叩きつけられた金砕棒により発生した衝撃が、ゴン(ぶと)の木の幹を貫いて砕く。

 正しく、化物。正しく、怪物。

 

 何より恐ろしいのが、この怪物には、()()()()()()()()()()()()()という点。

 

 ここまでド派手な戦闘、もとい一方的な蹂躙劇を行いながら、カイドウが破壊した民家の数は、ゼロ。

 自身の癇癪に、堅気は巻き込まない。それは、彼が無意識の内に己の内に定めた一つの法であり、規範だった。

 

「う………あ……………」

「……」

 

 ヤルキマンマングローブの幹を突き破って、複雑に絡み合った根によって構成された地面に大の字で倒れるフーリッシュ。

 最早、戦えないだろう。そもそも、復活できるかも怪しい。

 肩に金砕棒を担ぎ上げて、カイドウは目を細める。

 怒りはある。腹の底に沸々と滾るマグマの様に、どろりと滞留している感覚だ。

 だが、この目の前のボロ雑巾をこのまま更にズタボロにしたとして、気は晴れるだろうか。

 

「……ああ、イラつくな」

 

 苛立ち混じりに、頭を掻く。

 目の前の男を挽肉にしたところで、晴れるものでもない。

 

 何より、彼の苛立ちを加速させるのはこの島で聞く事の増えた“声”に因る所も大きかった。

 

 三色の覇気。その中で、見聞色の覇気はその適性と練度によって大きくその効果範囲と深度を変える。

 カイドウの場合は、現状百メートル単位で周囲の生物の有無、気配、内心の感情などを把握できる。これは、視界の通らない海中において、巨大な海獣や海王類を相手取ってきた結果、自然と磨かれた部分。

 

 その覇気の範囲に混じる、嗚咽と、悲鳴。

 華やかな部分の多いシャボンディ諸島だが、他の島々に比べて闇の深い部分があった。

 

 その一つが、“人間屋(ヒューマンショップ)”。

 

 人攫い屋と呼ばれる者たちが、種族問わずに攫ってきた人々を奴隷として売り払う場所で、形式はオークション。

 この店の客に含まれる、世界貴族“天竜人”。

 世界的に見ても嫌われる彼らだが、その纏った権力と、彼らの気紛れで派兵される海軍大将(海軍最高戦力)という物理的な圧力によって、世界政府にも黙認される負の側面。

 主な()()は、政府非加盟国の人々、魚人、人魚、元海賊、犯罪者などなど。

 何より恐ろしいのが、政府加盟国の人間であろうとも、人攫い屋に攫われて売られてしまえば奴隷へと身を落とす事になる点だ。

 

 カイドウは、己を善人であると思ったことは一度もない。前世含めて。

 人を手に掛けているし、海賊や犯罪者などの悪人のみならず、海軍からも略奪を繰り返してきた。

 だが、善人ではなくとも、許容できない悪というものが存在していた。

 

「オマエ、何だえ」

「あ゛?」

 

 フーリッシュの懐から迷惑料をごっそりと徴収し、何をしようかとぶらついていたカイドウだが、そんな彼はとある一行と出会う事になる。

 頭部を覆うシャボンに、独特の白い衣装。そして、その豪華な衣装に反してボロボロで今にも崩れ落ちそうながらも四つん這いで時折血を吐きながら進む男の上に座った醜悪。

 天竜人。彼らの前の権力には、各国の王族すらも等しく塵芥でしかない。

 

 カイドウの蟀谷に、青筋が浮かんだ。

 話には聞いていたが、面と向かって理解する。相容れない相手であると。最早、如何なる言葉も不要である、と。

 元より、今の彼は虫の居所が悪かった。

 

「退くえ!」

「…………」

「貴様、この方を誰とブッ!?」

 

 無言で歩を進めてくるカイドウに並々ならぬ何かを感じ、割り込んだ護衛は、しかし次の瞬間物言わぬ肉塊へと成り果てる。

 

「な、あ、わ、わちきを誰と思ってる!?」

「…………」

「~~~~~ッ!か、海軍大将を呼べ!!オマエの様な塵芥、直ぐに――――」

 

「――――それまでに、テメェを生かしておく理由があるのか?」

 

 喚く天竜人の前で持ち上げられる金砕棒。

 それ以上の会話は不要。横一線に振り切られる。

 

 鈍い音と共に血が舞って、その不細工な面はその場から消え近くのヤルキマンマングローブの幹に粉塵が上がった。

 そちらを一瞥する事も無く、カイドウはその場に膝を突くと蹲って動けない男の首輪へと手をかけた。

 覇気を手に纏い、引き千切ると同時に投げ飛ばす。

 

「失せろ」

「うっ…………す、すまない…………」

 

 最後まで面倒を見るつもりはない。そもそも、カイドウには奴隷となっていた男を助けたつもりなど無いのだから。

 金砕棒を担いで、向かうのは悲鳴の少ない方向。これはイコールとして、人が少ないという事でもあるからだ。

 

 シャボンディ諸島でも無法地帯のとある一角。

 広々としたその場所の中心で、カイドウは一人金砕棒を肩に担いで立っていた。

 

 そんな彼の前に現れるのは、黒と灰色のストライプスーツに背に大きく正義と書かれたコートを羽織った中年の男。

 

「……ふぅ、随分と面倒を起こしてくれるな、懸賞金9600万ベリー“憤怒”のカイドウ」

「…………」

「まだ若い……が、その悪の芽は潰さねばならん。この“灰鹿(はいじか)”が狩らせてもらうとしよう」

 

 言いながら、彼、灰鹿は羽織った海軍コートの下より一振りの大鎌を取り出した。

 

「行くぞ、“憤怒”よッ!!」

「うぉおおおおおおおアアアアアアッッッ!!!」

 

 後に海軍内にて苦い記憶として語られる決闘が始まった。

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