百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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新鋭

 カイドウは、海賊団を率いない。そもそも、彼は海賊ではないのだから。

 団を率いないという事は、彼の戦闘は常に単独であるという事でもある。

 絶大な武力を誇る彼からすればちょうど良い事なのだが、しかしだからといって“数の暴力”というものを軽視しても良い訳では無い。

 

「……」

 

 幾つ目かは数えていなかったが、幾つかの工場を潰して練り歩いていたカイドウの足が唐突に止まる。

 向けられる銃口、砲門、切っ先、穂先etc.。空に浮かぶのは、巨大なガレオン船とそれから幾つもの海賊船たち。

 その島船に、カイドウは思い当たる節がある。同時に、その視界に金色が入り込んできた。

 

「ジッハッハッハ!久しぶりじゃねぇか、カイドウ!!」

「……“金獅子”か」

 

 腰に二振りの剣を携え、腕を組んで空に浮かぶ男を見上げてカイドウは眉間の皺を深くする。

 並大抵の輩ならば相手にならない。しかし、元ロックス海賊団の面々ならば話は別だ。

 

「何しに来やがった?なあ、おい。お前のお陰で、こっちは大損こいたんだが」

「知らねぇな。俺はただ、気に入らねぇからぶっ壊しただけだ」

「ハッ!相も変わらず、愛想のねぇ野郎だ」

 

 葉巻を吸い、見下ろすシキ。眉間に皺をよせ、金砕棒を担ぐカイドウ。

 そして、どちらからともなく覇王色の覇気が放出されぶつかり合う。

 押し合いは、ほぼ互角か。工場が幾つか破壊されても直ぐには晴れない鉛色の雲が漂う空が、強すぎる覇気の衝突によって真っ二つに割れた。

 

「おい、カイドウ。お前、おれと組まねぇか?」

「あ゛?」

「お前の武力と、おれの兵力!組み合わせりゃ、世界を獲れる!!」

「……ふんっ」

 

 両手を広げて宣うシキを、カイドウは鼻であしらった。

 

「ロックスが獲れなかった物(世界)を獲れるって言うのか?」

 

 誰よりも強かった男は、運命の前に敗れ去った。その男が成し遂げられなかった事を、誰が成せるのか。カイドウには想像がつかない。

 そもそも、

 

「俺は、支配に興味ねぇよ」

 

 カイドウに支配欲は無い。

 支配される事は大嫌いで、その大嫌いを誰かに押し付ける気は毛頭無いのだから。

 変わらぬ男に、シキは笑った。

 

「ジッハッハッハ!変わらねぇ、変わらねぇなァ!おいッ!!」

 

 シキは、一度気に入った相手には寛容さが出る。

 何より相手が、()()()()()()()()()気に入っているのだから。

 とはいえ、今は喧嘩を売られているような状態。気に入っているからと言って、はいそうですか、と無傷で送り返せる筈もない。

 

「――――時にカイドウ。お前、随分とちいせぇガキが居るらしいな」

「……」

「ジッハッハッハ、そう睨むな。ちょいと、()()()()姿()って奴を見せてやろうと思ってなァ?」

 

 葉巻の灰を落として、更に言葉は続く。

 

「ここワノ国では、上質な海楼石が手に入る。元々、対能力者用の石だったがこいつを船底に敷き詰める事で海王類の目を欺ける。上質な石は、それだけ隠蔽性が高い。“凪の帯(カームベルト)”でも安全な航海が可能になるのさ」

 

 言いながら、シキは懐から取り出すのは一匹の電伝虫。

 着信を伝え、受話器がとられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その海賊たちが命令で向かうのは、とある偉大なる航路に存在する島。

 うようよと居る海王類も、上質な海楼石が迷彩となって気付かれる事無くその上を通過する事が可能。

 彼らの仕事は、この島に居る子供の誘拐。その際における()()()()()()が認められていた。

 

 如何に、世界最強の一角の身内であろうとも相手は年端の行かない子供。加えて、島に居るのは戦闘経験のない一般人ばかり。

 楽な仕事。

 

 その筈だった。

 

「お前たちの好きにはさせねぇ!!」

「「「ぎゃあああああああ!?!?!?」」」

 

 業火と共に、炎を纏った燃え盛る槍が海賊たちを切り伏せる。

 槍を振るうのは、頭の先から爪先まで全身真っ黒な装備に、黒い一対の翼と炎を背負った人物。

 そして、彼と同じく海賊たちが上陸してきた浜には、別の人影が三つあった。

 

「カイドウ()()には、ガキの頃からの恩がある」

「ああ、その通りだ。ママの件に関してもな」

「故に、お前たちに慈悲は無い!!!」

 

 キングと同じく槍を振るい、()()()()()()()()()三又槍を持つ男。体を擦り、大きな魔人を出現させ戦わせる男。膨大な熱を発揮し、触れただけで砂をガラス質に、迫る剣を溶かしてしまう男。

 

 シャーロット家の三つ子兄弟。カタクリ、ダイフク、オーブンの三人である。

 彼らがこの島にやって来ていたのは、あの日リンリンが島を訪れてから始まった交流によるところが大きい。

 というのも、健康に気を配り、自身の態度をある程度改めたとはいえ、リンリンの甘い物が大好きという味覚の好みは変わる事は無い。

 そして、この常に領土拡大が行われる島において特産品というものも幾つかある。

 その中には、菓子作りに欠かせない小麦粉と砂糖も含まれていた。

 “天候を操る女”とも呼ばれるリンリンだが、カイドウもまた風雨などを操る事が出来る。これは、龍が嵐の化身とも称される存在でもあるからだ。

 これによって、必要な時に必要な量の雨と日差しを与えることが出来、結果的に毎年の豊作へと繋がる。

 三人がやって来たのも、この豊作となった穀物や砂糖、塩などの取引の為。特にカタクリは、二十二歳の若さながら、団内における序列はナンバースリー。参謀的役割であるのがシュトロイゼンならば、対外的武力の一端を担うのがカタクリだ。

 

 僅か四人。その実力は、まだまだ伸び代があり今も戦いの中で成長し続けている。

 

「ち、ちくしょう……!」

「カイドウは、海賊団を率いてないんじゃないのか!?」

「シャーロット・リンリンの所のガキ共だけでも強いってのに……!」

「あの黒い奴は能力者なのか!?何の能力だよ!?」

 

 新世界にも進出した海賊たちだが、全員が全員元ロックス海賊団の船員のように強かったりするわけではない。そも、強さだけでは渡っていけない世界だ。どれだけ強かろうとも、“運”が無ければ海の藻屑と消える事になる。

 そして、彼らの命運は今日この日に尽きる。ただ、それだけだった。

 

 乗り込んできた船も壊された頃、キングはとあるモノを拾い上げる。

 電伝虫。世界的に通話可能である特殊な生物であり、能力でもない限りホイホイと動き回る事の出来ないこの世界において貴重な相手の状況を伝えてもらえる或いは伝える手段。

 掌のソレを見下ろして、キングは徐に受話器を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――残念だが、お前らの作戦は失敗だ。攫おうってんなら、カイドウさんクラスを連れて来い』

 

 電伝虫から響く低い声に、シキは眉を上げた後頭を掻いて懐へと電伝虫を収める。

 

「ハァ……しくじりやがって。――――まあ、良い」

 

 引き抜かれる二振りの名剣、“桜十”そして“木枯し”。

 元より、成功しようとしまいと戦闘になる事は必定。その流れの中でアドバンテージが取れればその方がましだろう、といった行動でしかなかった。

 故に、落胆は無し。寧ろ、カイドウの部下に有能な者が居ると知れた事で、ますます自身の手駒の一人に取り込みたいと考えている始末。

 

 一方で、カイドウもまた状況を冷静に見ていた。

 シキの一手には少々むかっ腹が立ったものの、ソレは島に残していたキングの実力によって退けられた。

 しかし、今現在彼の置かれた現状が改善しているのかと問われれば、ソレも否だ。

 

 一対数百から数千。加えて、敵は新世界の荒波を超える猛者の船長達と、このワノ国において将軍の権力の傘の下で刀を振るう侍たち。

 特に後者は、このワノ国における独特な覇気の扱いを体得している場合が多く、カイドウにもダメージを通す事が可能な者も居るかもしれない。

 

 何より、“金獅子”のシキが厄介。

 三色の覇気を高水準で扱い、剣術、体術共に高レベル。悪魔の実の能力も覚醒段階へと至っており、このワノ国そのものが敵となる、と考えて相違ないだろう。

 だからといって、逃げる選択肢も無いが。

 

「圧倒的な兵力と、ワノ国に製造された高品質の武器!言っておくが、一騎討ちをするつもりは、おれにはねぇぞ?」

「ごちゃごちゃとウルセェな。来るなら、来やがれ」

 

 再度ぶつかり合う、覇王色の覇気。

 世界屈指の猛者の激突が始まる。

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