百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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多勢

 戦争の始まり。その先手を取ったのは、カイドウだった。

 彼は、得物である金砕棒の柄を両手で握り野球のバットのように振り被ったのだ。

 どれだけいるのか分からない大軍を前にして、態々突っ込むような愚を犯すのは馬鹿のする事だ。

 

 故に、一発目からぶっ放す。

 

玄天(ゲンテン)・――――」

 

 両腕の筋肉が大きく膨らむ。

 左足を踏み込み、腰の回転をバネにして放つのはとある女海賊の得意技。それを、自身の技として昇華させた一発。

 

「――――斗海(トカイ)ッ!!!」

 

 振り抜かれる金砕棒と共に、衝撃の極大砲が放たれる。

 衝撃は物理的破壊をもって緩い曲線を描きながら空へと昇りシキの背に浮かんだ船団の一席を飲み込んで粉砕し雲へと届く。

 同時に、前へと飛び出した。

 カイドウは巨体だが、そんなものが一切の障害にならない程に彼は速い。接敵と同時に放たれる金砕棒によって雑兵たちは木の葉のように空を舞う。

 余りにも現実離れした光景。だが、

 

「ハァッ!!」

 

 その程度で、揺らぐ大群ではない。

 上空からの急襲。振るわれる剣の刃と金砕棒がぶつかり合う。

 

「おい!カイドウ!」

「なんだ」

「お前も、()()()()()()?」

 

 言いながら、シキは鍔迫り合いに参加していない左手の剣を掲げる。

 武装色を纏った時のように黒く染まる剣身。更にそこに、黒い雷が走った。

 その剣を確認し、カイドウは一度シキを振り払うと金砕棒を振り被り、()()()()()()()()()()()

 右手の剣にも覇王色の覇気を纏わせたシキは、その二振りを勢い良く振り下ろす。対するようにカイドウの金砕棒が振りあげられた。

 

 両者の得物は衝突――――しない。まるで、見えない壁でもぶつかり合っているかのような空白がぶつかるという奇妙な光景がそこにある。

 だが、ぶつかり合う両者の力は本物だ。それを表すように、衝撃と地響きが響き、足場である岩盤が砕け、大きく空が割れたのだから。

 覇王色の覇気を纏う技術。これを、世界的に見ても一握りの猛者のみが可能とする高等技術であり、強者同士の戦いではこれが出来るか否かで大きく戦況が変わる。

 

 しかし、この戦いは()()()()()()()()

 

「死ねェ!!」

 

 シキが頭の上から抑える様な状況で、カイドウの背へと向けて空に浮かぶ海賊船の大砲や海賊たちの銃が火を噴いた。

 大抵の攻撃が通じないカイドウだが、だからといって爆発などから発生する衝撃の全てを無効化しているかと問われれば、否。

 大砲の直撃を連打されれば押されるし、関節を狙われれば狙いが逸れる事もある。

 

 押し合いの中の横槍。僅かに揺らいだカイドウ。

 その隙を逃がす程、シキは甘くは無い。

 覇王色の鍔迫り合いから剣を振り上げ、同時にカイドウの顔面へと武装色の高等技術を用いた蹴りを見舞ったのだ。

 吹っ飛ぶ巨体。ギリギリで両足を地面について倒れる事こそ拒むが、隙は続く。

 

「ジッハッハッハ!斬波(ざんぱ)!」

 

 突っ込んできたシキの双剣が、二本並んで上から下へと振るわれ海すらカチ割る斬撃を放つ。

 流石に、出し惜しみをしていれば不味い。カイドウは人獣型へとその姿を変えると硬質な鱗に更に武装色の覇気を纏い、左裏拳で迫ってくる斬撃を迎撃。

 同時に、右手の金砕棒を突き出した。

 

瓦乱撞(ガランドウ)ッ!!」

「ッ!おっとぉ!」

 

 しかし、機動力の高いシキ。難なく突きを躱してさらに地面へと上体を低く沈み込ませる。

 直後、シキの背後より砲撃が放たれカイドウへと着弾する。

 ダメージは無いが、衝撃とそれから爆発と煙のせいで視界が潰れる。

 

「チッ……!」

 

 金砕棒を振るって、煙を払うカイドウ。

 暴風の様な衝撃と共に黒煙が吹き飛ばされ、

 

「獅子囲い」

 

 土地が隆起する。

 シキのフワフワの実の能力は、触れたものを浮かせるが一度能力の範囲に収めてしまえば彼が気絶するまでは自由自在に動かすことが出来る。

 その応用で、カイドウの周囲の地面が一気に隆起し獅子の頭部を象ると、四方八方からその人一人容易く呑み込んで余りある大口をもって食らいついてくるではないか。

 無論、ただの土塊程度に屈するカイドウではない。ないが、しかし大質量の土の塊に押し潰されれば振り払うのに時間が要る。

 

 そこに迫る、獅子の一撃。

 

獅子咬兎(シシバクト)!!」

 

 真上から、宛ら獅子が兎を噛み殺すように飛び掛かる上段斬り。

 ご丁寧にも覇王色を纏った一撃は、カイドウを押さえつけていた大質量の土塊を吹き飛ばし彼の巨体を地面へと埋める威力を発揮した。

 舞い上がる粉塵。その頂点辺りより飛び出したシキは、そのまま空中に留まって眼下を見下ろした。

 

「……動物(ゾオン)系のタフさ、か。元々、あの野郎は随分とタフだからな」

 

 冷静に、戦況を俯瞰する。

 押しているようにも見えるが、現状大砲や銃撃による攻撃はカイドウに痛打を与えていない。精々が、シキが攻撃する隙を作り出すぐらいか。

 

 粉塵を振り払い、カイドウはクレーターの中心からシキを見上げる。

 龍の形態には、成れない。

 というのも、シキのフワフワの実の能力には嵐が大敵なのだが、しかしだからといって“金獅子”ともあろう男がただ飲み込まれるような事は無い。

 嵐だろうと竜巻だろうと、二振りの()をもって切り裂くだろう。

 何より、カイドウの龍形態はデカすぎる。

 周りから狙われている現状、下手に的をデカくすれば海楼石を撃ち込まれてしまった場合に致命的なデバフを喰らいかねない。

 

「……ふぅ」

 

 カイドウは、一つ息を吐き出す。その口内には、青白い光。

 

――――青天焦(あおてんじょう)!!

 

 大口(砲門)が空へと向けられ、青白い熱線がシキへと迫る。

 並大抵の、いや現状世界の一握りの者達だろうとも回避を選択せざるを得ない破壊の一撃。

 その破壊の光はシキへと迫り――――しかし、突然ブレる。

 唐突に明後日の方向へと行先を変えた熱線は、雲の一部を切り裂いた。

 

 原因は、カイドウの足元。

 見れば彼の足元は硬い地面から、ぬかるんだ泥濘、いや“()”へとその姿を変えているではないか。

 

「ひっひひっひ……さ、させねぇよぉ?」

 

 白塗りの仮面を付けた黒衣の何者かが、両手を地面につける様な格好でクレーターより少し離れた地点に居た。

 彼は、自然(ロギア)系の悪魔の実の能力者。ヌマヌマの実の沼人間。

 ついた掌より広がった沼が、カイドウの足を取ってしまったのだ。結果、バランスが崩れた事により狙いは逸れる。

 それだけではない。

 

雪颪(ゆきおろし)!」

「ケミカルジャグリング!!」

 

 巨大な雪の塊と、それから薬品調合により生成された火の玉爆弾の群れが足を取られたカイドウを襲った。

 一人は白い髪に土気色とも言える肌色の悪い男。もう一人は、爆発したような青い髪にピエロメイクを施した白衣の男。

 彼らだけではない、シキの配下の海賊には他にも悪魔の実の能力者が居る。

 

 これこそ、数の力。単独では敵わずとも、数があればアリも象を打ち倒す。

 

「……」

 

 雪を振り払い、足元のぬかるみを金砕棒を振るう事で地面を砕いて流し込んだカイドウは、改めて息をもう一つ吐き出した。

 周りが鬱陶しいが、しかしそちらを攻撃すればシキの攻撃が来る。かといって、シキに集中すれば周りからの横槍で一方的に攻撃を喰らい続ける事になる。

 飽和攻撃ともなれば、当然ながら全てを撃ち落とす事など出来ない。そして撃ち落とせなかった攻撃の中に龍の鱗を突破するような覇気を纏ったもの、或いは海楼石の攻撃があればそれだけで傷を負う。

 

 ならば、採れる手段は一つ。

 

「!突っ込んでくるか!!!」

 

 跳躍。月歩を利用した空中機動力をもって、カイドウは空のシキへと直接襲い掛かる。

 素の身体能力が、更に人獣型の影響によって跳ね上げられ、その一撃は正に天変地異の如し。

 如何にシキといえども、真正面からのぶつかり合いとなれば力勝負では押されるのが必定。

 

「チィッ!」(馬鹿力が……!)

 

 振るわれた金砕棒を受け止めたシキは、剣を伝った衝撃によって痺れる両腕に舌打ちを隠せない。

 しかし、それだけではない。

 動いたのは、カイドウの尻尾。それが、シキの左足へと巻き付く。

 

「ぬぅお!?マジか!」

 

 突然の下から引っ張られる力にシキの体勢が崩れ、更に押さえていた金砕棒にも押し込まれる事になる。

 そのまま尻尾が体ごと振り回されて、シキの体は真っ逆さまに投げ飛ばされた。

 自在に空を飛べるフワフワの実だが、外的要因に影響を受けやすいという弱点がある。嵐などに弱いのもソレが理由の一つだ。

 何とか地面に叩きつけられる前に止まるシキ。そこに迫るのは、大上段に金砕棒を掲げて勢いよく回転しながら落ちてくるカイドウ。

 

「大・黒・天ッ!!!」

 

 振り下ろされる衝撃が、大地を砕く。

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