百獣と呼ばれぬ男   作:八海山

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頂点

 “ハチノス”。海軍ですら迂闊には手を出す事の出来ない、海賊たちの島。

 

「ウオオオオオッッッ!!!」

 

 咆哮とも雄叫びとも取れる大声と共に、島のメインストリートが大きく弾け飛ぶ。

 

「ば、化物かよ!?」

「言ってる暇があったら止めろや!」

「無茶言うんじゃねぇよ!?あの化物に突っ込むなんざ、嵐に小舟で突っ込むようなもんだぞ!?」

 

 喚く海賊たちも、次の瞬間にはぶっ飛ばされた瓦礫や地面の一部、他の海賊たちに巻き込まれて面白いように吹っ飛んでいく。

 そんなどったんばったんな大騒ぎの中心で、カイドウは金砕棒を振り回していた。

 

 恐ろしいのは、暴れ狂っているように見えて尋常じゃない程に冷静な点か。

 カイドウにとって“怒り”というのは、そのポテンシャルを十二分に発揮するために必要な重要なトリガーだ。

 だからといって、()()()()()というのは戦闘という行為において効率が悪い上に燃費も動きの質も悪くなってしまう。

 ソレを、カイドウは灰鹿との戦闘で学び、そして()()()()()という技法を自然と編み出していた。

 要は、“心は熱く、思考はクールに”という奴である。

 

 そして、ここまでの大騒ぎを起こせば、当然ながらこの島に、とある理由から集まっていた強者たちの耳にも届く。

 

「ジハハハハ!随分と活きのいい奴がいるじゃねぇか!」

「活きが良いで済ましていい問題じゃねぇだろ…………街が滅茶苦茶だ」

「マンママンマ!どうせ街はぶっ壊れるんだ。今更じゃねぇか!」

 

 ハチノスのシンボルである、髑髏の見た目をした巨大な岩の砦。

 その一室は、迂闊には足を踏み入れれば、まず間違いなく命が助からないであろうメンツが揃っていた。

 白い髭が印象的な、金髪の男。同じく金髪だが、こちらは獅子のような印象を受ける男。それから、人並み外れた長身の女。

 

 

 “白ひげ”エドワード・ニューゲート――――懸賞金13億4600万ベリー

 

 “金獅子”シキ――――懸賞金10億8000万ベリー

 

 “国落し”シャーロット・リンリン――――懸賞金9億ベリー

 

 

 何れも、四つの海、そして偉大なる航路でも有数の海賊たち。

 それぞれがそれぞれに、船長としての器を持つ者達なのだが、現在彼らは己の海賊団を率いている訳では無かったりする。

 その理由は、

 

 

「――――グルハハハハハハハハハ!!!面白い奴が来たなァ?」

 

 

 この男。

 白ひげよりは背が低いモノの、それでも威圧感を与える上背と不敵に吊り上がった口角。ドレッドヘアをオールバックの様に纏め、フロックコートに左腰にサーベルを差した厳つい人相の男。

 

 

 ロックス・D・ジーベック――――懸賞金20億6900万ベリー

 

 

 怪物とも称せる海賊たちへと“儲け話”を持ち掛け、この“ハチノス”へと多くの荒くれ者を集めた張本人でもある。

 彼はズカズカと部屋に入って来ると、窓より暴れ回る一人の男へと目を向けた。

 

「ほう………アレが、カイドウか」

「知ってるのか?船長」

「ああ、勿論だ。アイツは、自分の故郷と海軍の軍艦を一隻沈めて賞金首になった。何よりおもしれーのが、シャボンディ諸島で天竜人をぶん殴ってる」

「そいつは………」

「ああ、イカレてるだろ?その他にも、海軍、海賊問わずに襲って、オマケに移動は専ら泳ぎ!その癖に堅気には手を出さねぇから、一般人共にはいまいち脅威度が広まってない奴さ」

「…………随分と、詳しいねぇ?」

「当然だろ?情報ってのは、鮮度が命だ。網を張っておくに越した事はない。何より馬鹿をやらかした(天竜人を殴った)奴は調べておいて損はねぇ」

 

 ニンマリと笑ったロックスは、徐に窓を開けた。

 

「何より、ロートルとはいえ本部大将の“灰鹿”と正面切ってやり合って生き残った奴だ。手元に置いておくのも悪くねぇだろ?」

 

 そう言って、彼は窓枠へと足を掛けて外へと飛び降りてしまう。

 

 場面は変わって、被害が広がる一方のハチノスの街。

 

(弱い……)

 

 金砕棒で殴り飛ばして、カイドウは目を細めた。

 実際の所、億越えが数人といった内容で後は実際雑魚ばかり。

 それでも油断できないのは、彼の見聞色に引っかかる強大な気配が幾つもあるからだろう。

 百人単位で吹っ飛ばしただろうか、

 

「……ッ!」

「――――良い反応だな!」

 

 不意に上空からの強襲を金砕棒で受け止める。

 

「!」(重い……!)

「グルハハハハハハハハハッ!!様子見とはいえ、俺の武装色を受け止めるたあ、やるじゃねぇか!」

「…………」

 

 上機嫌に笑う男、ロックスを前にカイドウは厳しい表情で黙り込む。

 受け止めた一撃は、あの男(灰鹿)よりも上だった。重く、鋭く、ほんの少しでも気持ちが緩めば受け止めた金砕棒ごと真っ二つにされていたであろう斬撃だ。

 

「なら、次だ……!」

 

 瞬間、ロックスより発せられるのは覇王色の覇気。

 格下では僅かに触れただけでも気絶する。現に、周りで動向を窺っていた下っ端たちは一瞬で意識を失い崩れ落ちていく。

 ビリビリと肌を焼くような威圧感。

 

「チッ!」

 

 対抗するようにカイドウもまた、覇王色の覇気を発する。

 ぶつかり合う覇王色の覇気。空間は軋み、火花が散った。

 

「ッ……!」

「どうした?その程度じゃあ、ねぇだろォ!?」

 

 押しているのは、ロックスだ。押し合っている割合とすれば、7:3といった所か。それに加えて、ロックスはまだまだ余力がある。

 このままでは埒が明かない。そう判断したカイドウは、温存していた力を全て使いきるつもりで前へと飛び出していた。

 得物である金砕棒へと覇気を纏わせ、その柄を握る右手もまた武装色の覇気を“硬化”させる事で黒く染め上げる。

 対するロックスも覇王色の覇気による威圧を止め、得物であるサーベルの刀身を漆黒へと染め上げた。

 ぶつかり合う両者。それだけで周囲の地盤は砕かれて隆起し、原形を辛うじて保っていた家屋は木っ端みじんに吹き飛ばされていく。

 

 そこから何度もぶつかり合う、金砕棒とサーベル。

 普通ならば、前者が勝つ。普通ならば。

 

「グルハハハハハハハハハ!!」

「ぐぅぅぅおおおおおおおおおッ!!!」

 

 片や笑い、片や咆える。

 武器の打ち合う回数は加速度的に増していき、同時に振るう速度と威力、キレも増す。

 だが、

 

「チィッ……!」

 

 傷を負うのはカイドウばかりだった。

 細かい傷ばかりだ。それもこれも、ロックスの振るうサーベルは、受け太刀をする度に僅かな飛ぶ斬撃が纏わされているから。

 巨岩すらも、宛ら溶けかけたバターの様に切り裂く切れ味だ。寧ろ、人体で僅かであろうともこの攻撃に晒されて紙で指を切る程度のダメージで済んでいるのがおかしい。

 とはいえ、一方的な状況だ。このままでは、消耗量の大きいカイドウの方が先に倒れるだろう。

 故に、

 

「蒼天・――――」

 

 手札を切った。

 覇気と魚人空手の同時併用。

 

「――――瓦乱撞(ガランドウ)ッ!!」

 

 振り回していた金砕棒を、踏み込みと共に渾身の力で相手の胴目掛けて突き出した。

 当然、ロックスはこの攻撃を防ぐ。いや、迎撃するようにしてサーベルを左下から右上への軌道で振るう。

 本来の力量差ならば、そのままロックスが押し切っただろう。だが、今回は違った。

 

「おお?」

 

 ロックス自身、カイドウを舐めてはいないがそれでも大きな力量差がそこに横たわっている事は誰の目から見ても明らか。

 だからだろうか、油断があった。

 ぶつかり合った切り上げと突きによる衝突は、後者に軍配が上がる。

 直撃こそ無かったモノの、ロックスの体は三メートル程後方へと押し下げられてしまった。

 一瞬の隙、カイドウは空へと一気に跳び上がる。

 頭の上で金砕棒を掲げ、落下。“月歩”を利用して連続で前へと回転しつつ加速しながら落ちていくのは、ロックスの真上。

 

「ほお……面白いじゃねぇか」

 

 迫る一撃を前に、男は不敵に笑う。

 サーベルに覇気が纏わされ、更に黒い稲妻がその刃を激しく彩る。

 

「大・黒・天ッッッ!!!!」

 

(ディ)・ガンマッ!!」

 

 回転しながらの振り下ろしと、下から上へと振り上げる軌道の漆黒の斬撃がぶつかり合う。

 その衝撃は、“ハチノス”に大きな亀裂を刻んでも余りあるもので、()()()()()()()()()()()

 チラリと、割れた空を盗み見てロックスは更にその笑みを深くした。

 

(ポテンシャルは申し分ねぇな。覇気も強い上に、伸びしろが見えねぇほど!現に、無意識だろうが俺の覇気の扱い方を見様見真似で学習してやがる!ああ、良いぜ!()()()()()()()()()()!!)

 

 拮抗は、僅かに崩れ始める。

 両腕に加えて、回転、落下と威力を上乗せしたカイドウの一撃に対して、ロックスは右手一本。

 純粋な力量差と覇気の習熟度。要するに、実力を隔てた壁が今まさにこの場の差を諸に反映しているのだ。

 案の定、衝突はロックスの勝ち。大きな手傷こそ負わなかったものの、カイドウは大きく弾かれて地面に着地する事になった。

 

「ダメか」

「グルハハハハハハハハハッ!いやいや、結構良い線は行ってたぜ?俺が集めた情報よりも遥かにツエーじゃねぇか。なあ、“憤怒”のカイドウ?」

「情報だ?」

「ああ、そうさ。表立っちゃいねぇが、お前を英雄視するような奴らも居る。こっちの業界でも結構な盛り上がりだぜ?」

 

 両腕を左右に開いて笑うロックスに、カイドウの眉間の皺が深くなった。

 周りからの評価など知った事ではないが、しかし好き勝手に言われるのは気分が良いモノではない。

 

 何より英雄(生贄)など御免被る。

 

「なあ、カイドウ!オマエ、俺の船に乗れ」

「あ゛?」

「海賊をしようじゃねぇか!お前は既に、賞金首。そしてその力があれば、世界が取れる!儲け話があんだよ」

「…………断る」

「なに?」

「断るって言ってんだ。そもそも俺は、堅気に手を出す気はねぇ」

 

 言って、カイドウは金砕棒をロックスへと突きつける。

 

「俺は、自由にやれればそれで良い。儲け話なんぞは、勝手にやってろ」

「……ふっ………グルハハハハハハハハハッ!!やっぱり、面白れぇぜカイドウ!だったら何で、お前は海軍や世界政府にも喧嘩を売ってる!?奴らは、堅気の盾だろう!?」

奴ら(海軍・世界政府)も、一般市民を食い物にしてるだろうが。テメェら海賊とやってる事の本質は変わらねぇ」

「グルハハハハハハハハハッ!!」

 

 中々の極論に、ロックスは上機嫌に笑う、嗤う。

 カイドウの在り方は、歪んでいる。しかしどこか真っすぐだ。

 

 ロックスは、サーベルに覇気を纏わせる。

 

「気に入ったぜ。是が非でも、お前は連れていくとしよう」

「!」

 

 より濃密な覇王色の覇気を前に、カイドウは構えなおす。

 明らかに、先程とは違う。いや、先程までよりも上。

 

 逃げる選択肢はない。そもそも、ここで背を見せて逃げた所で逃走が成功する確率は万に一つもあり得ないのだから。

 勝機は前にしかない。

 気合いを入れ直し、カイドウは前へと疾駆する。

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