I will always love you!   作:リアム

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 今から少し昔の時間に一頭のサラブレッドがいました。
 栗毛の身体に白い脚先、周りと比べたらちょっとだけ小柄な男の子。
 その子はアメリカで生まれて「ガーベジ」という名前を貰いましたが、お世話をする厩務員さんが勝手に「デイヴィッド」という名前に変えてしまいました。
 


 Who are you?

 

My name is David. 

 

 日本国内某所に存在する牧場で、何十年も昔に日本へやって来たアメリカ人の男が働いている。

 男は長年真面目に働いてきた証である黒くなった手で、飼料を袋から掬うと決められた量をバケツに移し、かき混ぜる。そして、デザート代わりの林檎を小さなナイフで切り分け、同じ様にバケツへと放り込む。

 出来上がった食事を一つ一つ馬房に取り付け、待ってましたと言わんばかりに頭を入れる馬の額を何度か撫でると、男は台車を押しながらまた次の馬房へと歩いた。

 

 

 食事の準備を終わらせ、牧場にいる馬達へと配り終わった後、男は少しの休憩時間を取る為に休憩室へと入る。そこには、男よりも歳上で上司となる日本人がいて男に気付くと軽く手を挙げる。

 

「おぅ! リアムさん、良い所に来やがった! これ、見てみな」

 

 リアムと呼ばれた男は、何やら興奮した様子で向けられた携帯の画面を首を傾げながら覗く。

 画面の中に表示されていたのは明るい茶色のインナーカラーが入った黒髪のショートカットに、模様が入った瞳。そして、何よりも目を引くのは見慣れたサラブレッドの耳を持った女の子だった。

 日本にやって来てから随分経ち日常の中でリアムはこういったイラストを何度も目にし、特に偏見やマイナスの感情を持つ事もなかった。しかし、何故、前触れもなく画面のイラストが自分に見せられたのかが不可思議だった。

 

「ハヤタさん、これがどうしたんだ?」

 

 母国語である英語に加え何十年という月日と毎日必死に勉強したお陰で、殆ど日本人と変わりなく扱える様になった第二言語でもって思いのままに疑問を口にすれば、リアムがハヤタと呼ぶ男は携帯を持ったまま、リアムの「どうしたんだ?」の答えを教えてくれる。

 今の日本には、『ウマ娘プリティーダービー』という作品があるのだとハヤタは言う。曰く、歴史に名を刻んだ数々の名馬を主役に感動のストーリーや、ファンが「見たかった」と望むIfを見る事が出来る、と。

 そんな説明にリアムはぶっきらぼうにへぇと相槌だけを返す。

 リアムは所謂オタクコンテンツ、サブカルチャーに対し悪印象や偏見はないものの、生まれた時代はずっと昔でそういったものを楽しんでいる層とは年齢的な隔たりがあり、自らが触れる事はない。だからこそ、コンテンツに対して成る程と思えど、心が動かされる事はない。

 だが、ハヤタの説明によればウマ娘によってモチーフとなった競走馬の物語が知られ、それを起点に引退したサラブレッド達への支援の輪が広がり始めているらしい。

 リアムは支援される側に立つ人間として、支援の話にだけは有難い事だと、顔も名前も知らない「ウマ娘を好きな人」に向けて頭の中でお礼を言った。

 

「完璧に理解は出来ないけれど、素晴らしい作品ではあると思うよ。うちにも昔走っていた馬がいるし、いつかウマ娘? になれると良いな」

 

 馬房がある方へと目を向けながら、年季の入ったソファに座って、水を飲む。

 休憩室の中で唯一綺麗さを保っているテレビの電源を入れれば、タイミング良く再放送の刑事ドラマが流れ始める。リアムは直ぐに意識を向ける方向が変わり、昨日の内容を思い出しながら画面を見つめるが、ハヤタが再び声を上げる。

 

「リアムさん! その、ウチの馬が、ウマ娘になったんだよ!」

「……へ? あぁ、そうなのか、それはすまないな。どの子だ?」

 

 ハヤタがリアムに向け、突然ウマ娘なんていうものを紹介したのかを漸く理解する。説明だけでは関係のない世界だとリアムは思っていたが、雇われている牧場の馬が主題となるのならば強い縁があり、ゲーム自体は出来なくても、情報を入れるくらいならばとポケットに手を入れる。

 

「デイヴ……デイヴだよ! あのデイヴィッドだ! 画面に書いてあっただろ!」

 

 カラン。と、ポケットから取り出した携帯が地面に落ちる。ハヤタの興奮する声に反比例して、酷く軽い音が地面で鳴る。導かれる様に、リアムは大きく目を見開いたまま携帯を見る。

 先程は表示された女の子のキャラクターをチラリと見ただけで気付いていなかった画面の下。書かれていた「デイヴィッド」の文字に目が止まる。

 

「……こ、れが……デ、イヴィッ、ド?」

「あぁ。デイヴィッドだよ。本当は、紹介するのも迷ったが、でも、紹介したかったんだ。どんな形であれリアムさんに、もう一度会って欲しかったんだ」

 

 昔、リアムの隣を歩いていた愛する馬(デイヴィッド)とは全く似てもいない姿。種も性別すら根本的に違うイラスト。

 でも、黒の中に隠れる明るい茶色は何よりも見覚えがある色で。

 でも、瞳の色は一緒に見た青空と同じ色で。

 でも、リアムという男が生きていたアメリカから海を越えてでも会いに来たサラブレッドと同じ名前で。

 嘘ではないと証明する様に再生された動画。トレセン学園生徒紹介と称された、明るいBGMを背景にする20秒に満たない映像の中でデイヴィッドというウマ娘が動く姿にリアムは思い出を重ねて、無意識に鳴った喉を誤魔化す。

 

 日本のとある県、とある場所に存在する牧場で働く男、リアム・ベネット。

 ウマ娘、デイヴィッドと同じ名前を持つ馬と「また明日」を約束していた厩務員である。

 









新しい年になったので、記念として1話が少し読み易くなりました。
コメントは今年も変わらずに愛のあるものを宜しくお願いします。
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