I will always love you! 作:リアム
牧場に一人の人間が見学に来ました。牧場は、予約の無い人間の見学を受け入れていないので、一度は断りましたがその「名前」を聞いて快く「男」を牧場に入れました。
競走馬を引退したサラブレッドが伸び伸びと草を食む。群れの中には何度も見た、何度も触れた、栗毛の馬もいます。
静かな光景を男は満足そうに笑い、牧場のスタッフは男に言います。
「名前を、呼んであげて下さい」
Small and big footprints.
「夏合宿も終わったし、メイクデビューに登録しよう」
愛以山が書類をまとめながらデイヴィッドへもう一枚のプリントを差し出す。
合宿での一件があってから、二人の距離はまた一歩、更に進んで、十歩程進んだ様に感じる。
何がそこまでデイヴィッドの心を解したのか愛以山にはとんと検討も付いていないのだが、あのパニック症状から悪い方向に向かわなかったのでまぁ良いかと気にしない事にした。
メイクデビュー 2000メートル
福島民友カップ 1700メートル
中山金杯 2000メートル
宝塚記念 2200メートル
有馬記念 2500メートル
「今までの記録を元に、マイルからロングの距離で目標を組んでみた。君はどんな距離でも万能にこなせるけれど、100%を超えた完璧なパフォーマンスを魅せられるのはきっと、この辺りだと俺は感じた」
「こ、れ……勝つ?」
「トレーナーの立場では、勝つなんて無責任な言葉は使えないかな」
「か、てる……?」
「様に俺は最大限の努力をする。だから、デイヴィッドも何かあったらどんな小さい事でも言って欲しい」
「わ、かっ……た」
「デイヴィッドは出たいレースはある?」
首を振る。
それを見て愛以山も頷き、トレーニングを始めようと席から立ち上がる。
何時も使っているバインダーに、筆記用具を使い古したプラスチック製の籠に入れる。
昔は「着替えておいで」と言わなければ席から立つ事の無かったデイヴィッドは、自ら立ち上がりジャージに着替える為更衣室へと向かう。
普通のウマ娘ならば特に珍しくも無い光景、だが、デイヴィッドを見ている者からしたらとてつもない進歩。
「……よしっ!」
デイヴィッドが退室した部屋の中で愛以山は頬を叩く。少し赤みを帯びた顔を携えて、デイヴィッドが“忘れて行った”ドリンクボトルとタオルを追加で籠に入れる。
クラシックには出走出来ないと言われた日から数ヶ月、思い出してみれば出会いだって自分の偽善で、相手の特性を利用したもの。
それなのに、今では見てくれだけでも「トレーナーと担当ウマ娘」になってきた。
「後は、あの子を歓喜の真ん中に連れて行く」
周りからは数段遅れたデビュー。
それは言わば、小学生の徒競走に高校生が混じっている様なもの。何か理由があるのなら仕方は無いが、デイヴィッドに理由は無い。
デビューの瞬間から奇異の目で見られるだろう。
だけど、それを跳ね除けて、グランプリを獲るなんてとんだ大番狂わせ。
G1を獲るなんて難しいの一言では形容できない程の偉業。本来はメイクデビューを問題無く終えられる方が稀。
色々と頭で考えながらグラウンドに出る。
遠くでデイヴィッドがウォーミングアップに走っているのが見える。
きっと、あれが終わっても今のデイヴィッドは立ち止まらない。俺の目を一瞬見つめて、考えて、汗を拭き始める。
「君が、沢山祝福されるセカイ」
あの子が叶わなかった。俺が叶えられなかった未来。
叶えられなかった?
「……叶えるのは、これからだろ」