I will always love you! 作:リアム
君によく似ている。
ゲームの中で繰り広げられるレースではない本物の競馬を見た。その次は、ありきたりではあるが芝の上を走り抜けたサラブレッド達が生まれる牧場に行ってみたいと思った。連想ゲームの様に頭に浮かぶ「やってみたい」に、インターネットで見たウマ娘から競馬を知り、そのまま牧場へ転職をしたファンの方の行動を気持ちを少し遅れて理解する。
私も、『ウマ娘プリティーダービー』という作品に関わらせて頂く中で、キャラクターのモチーフとなったサラブレッドが過ごす牧場がある事を知った。
でも、北海道は少し遠くて私にはまだ手が届かない。だから、今は無理だけれどいつか必ず遊びに行こうと心に決めて、元々競走馬をしていたサラブレッド達を紹介するサイトを見つけて事前準備としてリンクを開く。
紹介されている牧場の一覧を見て、私は何となく自分の中に持っていた偏見である「馬の牧場は北海道、あっても青森まで」が大きな間違いであり、実際は日本全国に沢山の牧場があって、私の地元にもいくつかの牧場がある事が分かった。
見学のマナーを見て、サラブレッドのストレスになる事をしない為にも頭の中で復唱して、地元にある牧場の情報を開く。
何となく時計を見てみれば13時を短い針は指していて、牧場の説明欄には「前日予約可」の文字が見える。
これまでは自分の興味関心が向いていなくて知らなかったけれど、牧場は私の家からそこまで離れている訳でも無く、もし明日行けるのなら明後日東京に戻る為のバスに間に合う。
「……でも、いくら前日予約可でも本当に前日予約をするのは迷惑じゃない……?」
だけど、ウマ娘として、一度本物に触れておくのも学びになる。
変に感じる得体の知れないナニカと戦いながら時計の針が14時近くに進むまで考えて、私は結局キーパッドを震える指で叩いていた。
面倒臭がらず、後回しにせず免許を持っていて良かったなと運転をしながら何度か考えて、もっと乗っておけば良かったと緊張しながら道路を進んでやって来た牧場。
2、3回切り返してやっと駐車場に車を止められて息を吐く。車のエンジンを切り、鍵を掛けた瞬間にドッと汗が出るのと反対に緊張感が引いていく。
微かに輪郭と色だけは見える馬の姿を見ながら、受付を済ませ、記念に人参が入ったカップを買って放牧場に脚を進める。買ったは良いものの誰も寄って来てくれなかったらどうしようかと思っていたら、偶々柵の近くにいた子が私の手に持った物を見つけてゆっくりと近付いてきてくれた。
オレンジ色のそれを慣れない手付きで差し出して食べさせて、ゴリゴリと咀嚼する音を聞きながら思わず触りそうになった手を理性で押さえ付けて引っ込める。
「見学者の人?」
焦茶色でおでこにチャームポイントの丸くて白い毛がある子に二本目の人参を与えた所で、突然声が掛かり、振り返る。
目に映ったのは一人の日に焼けたおじさんで、牧場のスタッフさんだと思い挨拶をするが、彫の深さや顔付きからして海外の人だという事に気付き緊張して声が裏返った。
「すまない、突然話し掛けて。この牧場はあまり見学者は来ないから珍しくて」
「そうなんですか?良い所なのに、勿体無い、ですね?」
「あはは!……そう言ってくれて嬉しいよ。まぁ、今生活しているのはウマ娘と関係が無いからね」
「ウマ娘……知っているんですか?」
「我々の所でも時々話に上がるからね。もしかして、君もウマ娘から知って来てくれたのかい?」
「はい!プレイヤーとして、後は、ちょっとだけ勉強の為に……!」
おじさんは手に持っていたタンクを傾けて柵に掛けられていたバケツの中へ水を補充する。
たったそれだけの行動ではあるけれど、おじさんが馬達に慕われているのかおじさんの姿を見て水を飲みにきたとは違う様子で柵を隔てたサラブレッドの集まりができる。おじさんは律儀に一頭一頭を撫でた後、私へ向き直る。
「“勉強”って事は君、もしかして動物のお仕事を始めるのかい?」
「あ、えぇと、仕事を始める訳では無くて……なんていうか、一応広義的には関係者?っていうか……キャラクターの声優をやってます……」
「Oh My God……驚いた。まさかこんな夢みたいな事が起こるなんて!大丈夫なら、誰の声なのか聞いてみても?実は、俺もゲームをやっているんだ」
「そうなんですね!えっと、デイヴィッドという最近登場した子を担当しています」
「……おや。そう、なのか」
豪快に笑うおじさんはなんだかお父さんを思い出して、初対面ではあるがとても話し易い。
だけど、私がデイヴィッドの名前を出した瞬間に、なんだか雰囲気が変わる。
「デイヴィッドか……そうか、君が」
「?……デイヴィッドの事、もしかして育成してくれたんですか?」
「いや、それだけじゃないよ。これでも俺は、関係者なんだ。デイヴィッドが最期を過ごしていたのもこの場所だよ」
おじさんが徐に目線を動かす。私達の直ぐに横にある放牧地とは別の放牧地。
もしかしたら、彼の目線の先にいつもデイヴィッドはいたのかもしれない。
「あの!私達は初対面ですし、失礼を承知で聞くのですが、私にデイヴィッドの事を、教えて頂けませんか!」
「それは、いいけど……デイヴィッドの話は、長くなってしまうから」
「構いません!
必死になった私の言葉に、少しだけ驚いた顔をしたおじさんはもう一度笑って、長い夜になるぞと戯けた様に言った。
休憩用に設置されたベンチに座って、ポツリポツリと私の知らないデイヴィッドとの思い出へ耳を傾ければ、彼がどれだけデイヴィッドの事を愛していたかが伝わってくる。
私なんかが聞いて良かったのかと不安になる気持ちと、少なからずデイヴィッドへ関係する私だから話してくれたのかな。なんて、都合の良い考えが頭に浮かぶ。
どこの媒体へも渡さないと約束をして行なった会話の録音画面が3時間を記録するほんの少し前、青色の傾きと共に見学者は帰らなくてはいけない時間になる。
本当はもっと聞いていたかったけれど、このまま居座ったら只の迷惑者になってしまうから、後ろ髪を引かれながら牧場を出る。
「気を付けてね」
見送りまでしてくれたリアムさんに言われて、頷く。
またおいで。と言われてまた来て良いのかと嬉しくなる。
「今日は本当に有難う御座いました!」
「いや、俺の方も久し振りに沢山話せて良かった」
頭を下げる私と、同じく頭を下げるリアムさん。
側から見たらなんだか面白い光景に一瞬笑いそうになりながら頭を上げる。
「えっと私は部外者なので、今から言うのはリアムさんにとって失礼な事だと、承知で言うのですが
デイヴィッドちゃんは……貴方の愛したデイヴィッド君は、幸せだったと思います!」
だって、リアムさんやこの牧場にいる優しい皆に愛されていたのだから!
「……あぁ、そうだと、信じているよ」
私の言葉へ穏やかに笑うその顔が酷く私の目に焼き付く。
次来る時は、あの子が眠るお墓へ手を合わせられるか聞いてみよう。
もし許可を貰えたらアナタの一部を担当させてくれて有難うと、生まれてきてくれて、出会ってくれて有難うを伝えられたら良いな。
そんな事を思いながら、車の鍵を開ける。
見上げた空はオレンジ色になり始めていて、デイヴィッドのチャームポイントでもあるインナーカラーと同じ色だな。なんて、漠然とそう思った。