I will always love you!   作:リアム

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 デイヴィッドの周りには怖い大人が沢山いました。
 調教だと言いながら、ただの暴力を振るう調教師。
 不調だと分かり切っていながら身の丈に合っていないレースにデイヴィッドを出走させ、負けたら手を上げて暴言を吐く馬主。
 我関せずで助けてくれない騎手。
 デイヴィッドは地獄の様な場所に生きています。
 唯一、厩務員から与えられる温もりだけが、心の拠り所でした。
 


Who are you?

 

I am a trainer.

 

 府中に存在する日本ウマ娘トレーニングセンター学園は、日本屈指の教育機関であり、日々トップを目指し切磋琢磨する個性豊かなウマ娘が集まる場所だった。

 しかし、その場所には個性豊かなウマ娘達とはまた違った意味で有名な、端的に言えば悪名高いウマ娘がいた。

 ウマ娘は先生の言う事をしっかりと守り、素行にも問題がない。性格面や態度に癖のある気性難とはお世辞にも言えないウマ娘の悪名は、ただただ「怖い」という一点のみの簡単な理由から広がり、年齢を同じくするウマ娘達と件のウマ娘を隔てる溝となっていた。

 悪名高いウマ娘の名は「デイヴィッド」と言って、黒髪のショートカットに茶色のインナーカラー。青空の瞳を持つ美しい容姿を持っていた。

 だが、デイヴィッドは授業中、担当する教師から「ノートと教科書を開いて」と言われない限り机の上は真っ新のままだった。

 デイヴィッドは授業後、「帰りなさい」「練習は?」と言われない限り座ったままだった。

 デイヴィッドは寮の部屋の中、「学校に行くよ」「そろそろ寝たら?」と言われない限り立ったままだった。

 デイヴィッドは食堂で、「食べなさい」と言われない限り空腹を訴える音を無視したままだった。

 デイヴィッドという名前を持ったウマ娘は顔に能面を貼り付け、動かない。病的なまでに1人では行動を起こせない究極の「指示待ちウマ娘」だった。

 

 

 春。

 ウマ娘とトレーナーが出会いと別れを繰り返す季節に、新しくトレセン学園の敷居を跨いだ1人の男は、全身を夕陽に照らされながら敷地内をトボトボと歩き、これからの未来に強い焦りを覚えていた。

 男は並々ならぬ努力でもってこの春より新人トレーナーとしてトレセン学園で活動する事が許され、まずは経験を積もうとベテラン・中堅と関係なく先輩達へサブトレーナー希望で声を掛けたが、相手からは悉く三行半を突き付けられていた。

 資格取得までに主席と呼べるものではなかったが、最上位に近い成績を保ち続けた頭脳があれば直ぐにトレーナーとして活動する事は出来なくても、サブトレーナーにはなれるだろうと考えていた中、蓋を開ければこのザマである。

 一年目の春とは言え、初心者らしい未熟な心持ちに連続して失敗が重なると流石に気持ちが沈んでいく。今後一生トレーナーとしてもサブトレーナーとしても芽が出ないのではという焦りと、こんなペーペーな人間に選手生命を託してくれるウマ娘も簡単に現れる筈がないという現実的な諦観。

 溜め息が出てしまいそうになる気持ちを必死に隠して噴水の縁に座る。緑豊かな風景に、心地良い気温。気を張り詰めていた所為か視界が歪み、ゆっくりと頭が上下に揺れ始める。

 何処か深い所へ引っ張られそうになる感覚と格闘していれば、男の頭の中にふと、とある言葉が頭に浮かぶ。

 

「まだ、諦めるのは早い」

 

 このままでは駄目だ。

 こんな所で休憩している暇はない。

 男は頭を振り、心を鼓舞して顔を上げる。消えゆく青空と、積極的に主張する夕陽が混ざり合って綺麗な紫色が出来上がっていた。

 暗い網膜に、その色が焼き付く。

 

「……って、こうしちゃいられない!」

 

 今は、見惚れている場合ではないのだ。

 脳味噌が覚醒すれば、今日はウマ娘のレースを見返して作戦について、位置取りについてを重点的に学ぼうと考えていたのだと思い出す。

 男は、名残惜しさを感じる事なく腰を上げる。両頬をパンパンと強く叩き気合を入れ、歩き出そうとした瞬間、意識が向いていなかったが為に男の視界からは外れていた場所、しかし、極めて近い距離にウマ娘が座っていた事に漸く気付く。

 その瞬間、男は驚きで声にならない声を上げる。気配の「け」の字すら感じなかったその事実に内心で怯えながらも、ゆっくりと視線を動かしウマ娘を捉える。

 個性に比例して感情表現も豊かなトレセン学園の生徒にしては珍しく、頭の上に生える見慣れた耳には筋肉がないかの様に動く事を辞め、眉毛の一つすら変化を見せない。

 

「ご、ごめんっ!」

 

 ウマ娘は純粋な人間と比べると、ちょっとした刺激に酷く驚いてしまう子の割合が多い様に感じる。だからこそ、自分の行動も驚かせてしまっただろうと、その結果、動けなくなってしまったのだろうと思い謝罪の言葉を口にする。

 だが、座ったままのウマ娘は目線をゆっくりと男に向けるだけで、何も反応はしなかった。勿論、二つの耳も不動のままである。

 楽しそうな日常の音が世の中に響いている筈なのに、この場所だけは重苦しいと感じる空気が流れ、男は空気に耐えられずどうせこれっきりの縁なのだから逃げてしまおうと思い至る。

 

「……あ、えぇと、私はここら辺で」

「…………」

 

 顔を強張らせた男は裏返りそうになる声で言うが、矢張りウマ娘から何かしらの反応が帰ってくる事はなかった。

 これを、運命の出会いとするのならロマンチックの欠片すら落ちてはいなかったが、それでも、男にとって己の全てを捧げてでも黒髪のウマ娘が走る先にある未来を、強く強く願ってしまう毎日への始まりだった。

 




 
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