I will always love you! 作:リアム
男、リアム・ベネットはよく働きました。
英語に慣れていない従業員が多いその牧場でも機械を頼りながら臆せず話し掛け、日本語を少しずつ理解して口にしていきました。
最初はぎこちなかった人間関係も直ぐに良くなって、リアムはいつしか牧場にいなくてはならない一人になっていました。
デイヴィッドだって、他の馬と走ったり、放牧地の真ん中で並び寝転ぶ事が出来る様になっていました。
もう、昔の様に何かへ怯える素振りは見せなくなり、「愛されるサラブレッド」の一頭として穏やかに呼吸をしていました。
Differences in the way they run.
メイクデビュー、そして休息期間を終え、11月後半に開催される福島民友カップに向けてダートコースでの本格的なトレーニングを開始する。
まずは今までメインに練習していた芝との違い、バ場の感触にビックリしない様、慣れて貰う為にウォーミングアップも兼ねて速度を出さずに緩く走って貰う。
「……お疲れ様」
最初に決めたゴール位置を通過して、取り敢えず動かしていたストップウォッチの表示を見れば走って貰った2000メートルでは当たり前ではあるが、殆ど見ることの無い3分を超えたタイム。
今までの記録として、出走予定の福島民友カップなら1分45秒台、今走って貰った2000メートルなら2分を少し超える程度のタイムが出せる様になればデイヴィッドは勝負の土俵に立つ事が出来る。
「よし。次は福島民友カップの距離、1700メートルを走ってみようか。今度は本気でお願いね」
「わ、かっ……た」
ダートコースの図を見直して、距離を測り、スタート位置とゴールの位置を決める。
俺の掛け声と共に砂を踏み込むデイヴィッド。
しかし、その走り方は芝と比べても拙く、どこかぎこちなさが残っている。
「少し、遅いな」
1分59秒。
1700メートルの場で戦うにはせめてこのタイムより10秒は早くしたい。50秒を切れれば、展開、作戦、やる気の差できっとどうにか出来る。
「トレ……ト……レ、ナー」
バインダーに挟み込んだ記録用の紙にダート一発目のタイムを書き込んでいると、デイヴィッドからの呼び掛け。
どうしたんだ?と聞き返してみれば、デイヴィッドはウロウロと目線を動かして、何度も口を開閉した後に時間を掛け漸くその思いを口にする。
「は、しり……辛い……」
「走り辛い?」
「脚、沈む……芝みたいな、ダートが、良い……」
芝の様なダート。
つまり日本のダートで使用される「砂」で整備された様なバ場では無く、固まった「土」の様な地面。
思い当たる節はある。けれど、その場所はあまりにも厄介な場所にあった。
「アメリカのダート……は、流石に難しいかもしれないね」
「そ、う」
「ごめんね。デイヴィッドを気持ち良く走らせてあげたいけど、流石にこればっかりは」
「うう、ん。良い……へい、き……」
日本のダートで上手く走れない、デイヴィッド的にはしっかりとした地面の方が良いという事を考えると、福島民友カップの後は芝のレースをメインにした、あのレーススケジュールで良いかもしれない。
何より彼女はしっかりと芝を走れていた。
苦手を克服し続けて栄光を手にするのも浪漫だとは思うけれど、やっぱり得意を伸ばして沢山応援される方が良い。と、思う。
「福島民友カップが終わったら、芝に戻ろうか」
俺の言葉にデイヴィッドは小さく頷いた。
あわよくば次のレースが終わるまでに少しでも多くのスタミナや、タフさが得られます様に。