I will always love you!   作:リアム

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ある日の朝。
いつも通りの時間にリアムが牧場へやって来て、一番にデイヴィッドの馬房へと向かいました。
寝藁に身体を預け、静かに眠るデイヴィッドの姿。
リアムは愛おしそうに笑って「おはよう」と声を掛けた後、その真実に気付きます。
デイヴィッドは例え、眠っていたとしても、リアムの足音が聞こえてくれば目を覚まします。それは何年も同じ、変わらない行動で、リアムは全身に酷く冷たい汗を流して叫びました。

全身から血の気を無くし、焼けた肌を白くしたリアムの目を真っ直ぐに見て、早い時間でありながら駆け付けてくれた懇意にしている獣医は静かに、静かに、首を横に振りました。
 


I dedicate my victory to you.

 

No thanks. You keep that.

 

用意された控え室の中でデイヴィッドに不調が無いかを確認して、もう一度靴紐が緩んでいないかを確かめる。

『福島民友カップ』は、オープン戦に指定されていて勝負服の用意は無いが、それでも充分に力を発揮出来る様に確認する事は大切だ。

 

「蹄鉄はしっかりと打ってあるか?」

「だい、じょ……ぶ」

「よし。それじゃあ、作戦は教えた通りに」

「うん」

「で、でも!無理はしないでね。無理して身体を痛めたら元も子もないから……!」

 

デイヴィッドが頷いたのを見て、自分の心を落ち着ける。

ダートのトレーニングを積んでからデイヴィッドのタイムは縮まったが、結局、日本のダートを走る事を苦手としているのは変わらなかった。

それを踏まえ、普段は後方で脚を溜めて最終直線で全力を出すという走り方を教えているが、今回はデイヴィッドのスタミナを加味して「逃げ」での走り方を教えていた。

そうすれば上手く走れないが故に何時もの末脚が発揮出来なくても、逃げていた分少しばかりの余裕がある。

 

扉がノックされ、デイヴィッドが呼ばれる。

相変わらずデイヴィッド以上に緊張している心臓を落ち着かせ、拳を上げる。

 

「Have a blast.だ。デイヴィッド」

 

俺の拳を見つめて、数十秒程考えて、コツンと小さな拳が軽く合わせられる。

 

「……Have a……bla、st……で、す……」

 

今日も無事に、走り切れます様に。

 

 

 

蹄鉄が歩く度に軽やかに音を奏でる。

日の当たる場所へと出れば、お客さんがいて。時々頑張ってね、と声を掛けられる。

私はヒトが怖くて気の利いた言葉なんて出なくて、精一杯の頷きだけで返す。

 

相変わらずサラサラとした砂の上を小走りで進んで、ゲートへ向かう。

今日のレースは前回と違って同い年くらいの子も多くて、幾分かリラックスして挑戦できる。

 

ゼッケンの番号と同じ番号のゲートに入り、目の前が開けた瞬間に一歩を踏み出す。

理由も分からず、ただ違和感を感じるバ馬。

脚が沈み、細かい粒子を巻き上げるダート。

 

初めての先頭を走る感覚。

滑りそうになるのを蹄鉄で押し留めて、スタミナを使いながら一番前を走る。

私以外の子が視界に映る事はまだ無い。多分私の後ろにいる。

でも、ゴウゴウと風を切る音が邪魔で実況もヒトの声も聞こえなくて、どういった状態なのか全く分からない。

だから、精一杯、直向きに走る。

 

第3コーナーを回った所。

後ろから初めて声が聞こえる。

 

「やっっっと!!!!追い付いた!!!!」

「アンタだけに良い思いは……させないッ!!!」

 

体力を奪う様に感じる威圧感。

不慣れな地面と相まって、急速に体力が奪われる。

視界の中に一人、もう一人、ウマ娘の姿が映る。

後ろ姿を見つめながら、負けじと沈む地面へ脚を強く踏み出す。

 

「ぼ……くも、まけっ!ないんだぁ!!!」

 

歯を食いしばって、ギュッと閉じた目を開ける。

あの人へ勝利を届ける。

身体に絡み付く鎖を断ち切る様に、腕と、脚を振るう。

 

リトル・レッドはTHxと鳴く

 

スピードを上げながら第4コーナーを回って、最終直線。

このレース場はナカヤマと似て300メートルくらいしか無い短い直線だから、後はもう考えない。

 

「僕が、勝つッッッ!!!!!」

 

 

 

目の前の掲示板に自分の応援していた数字が表示される。

2着のウマ娘との差は半バ身。道中では6バ身程あった差も苦手があったとは言え、ここまで縮められてしまった。

 

「お疲れ様、デイヴィッド」

「おつかれ……さ、までし……た……」

 

珍しく息の上がった担当を労いながら、インタビューへと呼ばれ、デイヴィッドを台の上に誘導する。

相変わらず大勢の前だと固まってしまって、後ろから俺がそれとなくフォローをする。

 

「では、最後の質問なのですが、レース中どんな事を思いながら走っていましたか?」

 

レース後にはよく聞かれる質問。

流石にこれは本人に答えて貰いたいといつもより高い目線にいるデイヴィッドへ顔を向ける。

沈黙と、動き回る視線。

やっぱり難しいか。なんて、思いながら口を開こうとした瞬間に、聞き慣れたデイヴィッドの声が小さく響く。

 

「……と、トレー……なー、みつ、みつ……みつけて……く、くれた……から。あ、え、っと……とれー、なーが……みんなから……ほ、め、られ……たら、いいな……て……」

 

落ち着かない手の動きと、地面を見つめながら動く視線。

吃るそれはお世辞にも「良いインタビュー」なんて言えない。

それでも

 

「何言ってんだよ。褒められるのは、デイヴィッドだろ?」

 

インタビューの終わりも待たずに飛び出てしまった言葉。

沢山の視線が身体中に刺さって、気不味さを覚えるけれど、勢いを止められず驚いた顔のデイヴィッドと目を合わせて、言葉を掛ける。

 

「走ったのはデイヴィッドだ。頑張ったのもデイヴィッドで、勝ったのもデイヴィッドなんだよ。俺はちょっと手を出しただけ……それに、俺が見つけたんじゃない……君を、デイヴィッドを……俺は、利用した、だけなんだよ……」

 

デイヴィッドは納得いかないように首を振る。

違う。と言いたげな表情。

 

「……お願いだよ、デイヴィッド。君の力を、君自身の力を、今すぐじゃなくても良い。誇れる様になって。今の君なら、ちゃんと走れるから」

 

俺なんかに勝利をとかはいらないから。

大きく見開かれる目。

そして、デイヴィッドはたっぷりと間を置いてぎこちなく小さく頷いた。

 

良かったぁ!

 

肩を落としながら気の抜けた、間抜けな声を出して漸く現実に意識が戻る。

握っていたデイヴィッドの手を離して、視線を横に向ける。

 

「え、えっと、宜しいですか?」

 

困惑した顔のインタビュアーさんと、複数のカメラ。

サラサラと手帳の上で動くボールペン。

 

「……失礼しました」

 

誰にも見せられない様な顔になっているのを自覚しながら、デイヴィッドをおいて一人、控え室へと急いだ。

 

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