I will always love you! 作:リアム
単純で、明快だった。
牧場に見学へ行った時、リアムさんから教えて貰ったデイヴィッド君のことを録音させて貰ったデータを聞きながら思い出す。
デイヴィッド君とリアムさんの出会いは偶然で、彼の持つ綺麗な栗毛と瞳に一目惚れをしたのだと照れた様に口にしたのを皮切りに彼と彼の物語は始まった。故郷であるアメリカでは、100を超えるレースにダートと芝を問わずに出走して勝ち星は2勝。
2着、3着を含めても片手で収まる程で一見したら長く走った以外は殆ど成績を出せていない。しかし、リアムさんが言うにはデイヴィッドは調教も、体調面のケアもまともに出来ず勝利できたのが奇跡なのだと苦しそうな顔でリアムさんは肩をすくめた。
だが、とリアムさんは続ける。
デイヴィッドの成績は一般人からしたら目にも止まらない、強いとも言われない。けれど、リアムさんにとっては格付けと栄誉が無いだけの涙が出る程嬉しかった奇跡だったと。
レースでの話が終われば、日常の話もリアムさんは教えてくれた。
デイヴィッドはブラッシングをする時、身体は大丈夫だけど顔にブラシを使われるのが苦手だったから、顔に掛かる鬣を整える時や砂埃を払う時などは近場で買った櫛を使ったこと。
数日に一回という周りと比べても多い頻度では出来なかったけれど、水浴びがとても好きで時々ホースを上に向けてシャワーみたいにしながら一緒に水を浴びた事。
ある日、ブラッシングをしていたらデイヴィッドの右耳にてんとう虫が止まって「君は幸運の子だ」と笑ったこと。
「デイヴはとても表情が豊かな馬なんだ」と、リアムさんはまるで恋人に向ける様な、酷く愛おしそうな顔で語った。
アメリカから住居を移してこの牧場に来てからは、手綱を持たずともリアムさんの背を追い掛け、足音で誰が来るのかを理解し、晴れた日には一緒に寝転んで空を眺める。そんな些細な毎日を楽しんでいた。
「どうやって、そこまで仲良くなったんですか?」
ウマ娘に携わる様になって馬と人を調べて沢山の絆の形を見てきたけど、リアムさんとデイヴィッド君はその中でも特に絆が強いと思って、下心もなく私の口にした質問に、リアムさんは少し困った様に笑って「付き合いが長いからね」なんて小さな言葉で言った。
その時は「そうなのか」と頷いて終わってしまったけれど、ウマ娘となったデイヴィッドのストーリーや、また行きたいとあの後家に戻ってから調べた牧場のホームページにあったブログの中で読んだ文章から「付き合いが長い」と簡単にまとめたその言葉に、あの表情にどれだけの感情が込められていたのかを少しだけ察することができた。
「……あなたは、幸せだった?」
たった一人の部屋で呟いてみても、画面の中で私と同じ声で話すデイヴィッドは答えてなんてくれない。ただ、機械的に[あた、た、かい……ですか?]と何回も聞いた台詞を口にするだけ。
でも、その、10文字にも満たない暖かいですか?という言葉を純粋な気持ちで話せる様になるまで、どれだけの時間が掛かったのだろうか。
育成中、お正月のストーリーで帰省したデイヴィッドの姿を見て涙ぐんだ姿無き両親は、娘の成長にどれだけの感情があったのだろうか。
元の馬、デイヴィッドに引っ張られて突然感情を失くした愛娘がもう一度笑った顔を見せた時の感動は、どれ程だったのだろうか。
「どうして、あなたはウマ娘になったの」
はっきり言って競走馬としてのデイヴィッドはウマ娘に選ばれる程の成績は無い。ハルウララの様な一つの競馬場を救ったエピソードだって存在しない。
あるのは、リアム・ベネットという世を彷徨っていた厩務員に愛されていた事と、アメリカで一人の男と日本の牧場で大勢の人から大切にされていた事実だけ。
そんな馬がどうしてだろう。
考えて、考えて、分からないなりに考えた末、出てきた私の答え。
それは会社の方に「誰かからの推薦」があった。これしか思い浮かばなかった。
現に、日本の競走馬で関係者サイドからウマ娘へ逆オファーと取れる動きがあったという事実がある。だから、デイヴィッドだって登場して不思議じゃない。
「あなたは、愛される為にうまれたんだね」
きっと、そうだ。
優しい夢を見た人が、きっといたのだ。
これが辿り着いた私の答え。
画面の中のデイヴィッドが柔らかい表情で笑っていた。