I will always love you!   作:リアム

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 厩務員は最初、サラブレッドに興味はありませんでした。
 仕事がなかったからやっているだけ。ただ、それだけの理由です。
 いつも同じ言葉を吐いて、目の前のデイヴィッドへブラシを滑らせます。
「金の為だからな」
 そう口にする割に、デイヴィッドに触れる手は、出会った瞬間から最期までずっと、ずっと優しかったのです。
 


 What are you doing?

 

 

This is a study to get started.

 

 リアムは仕事の合間、貴重な休憩時間を使い偶然にも知ってしまった『ウマ娘プリティーダービー』の文字を、英語と日本語が履歴に混在する検索エンジンに打ち込む。

 待つ事なく表示される検索結果の一番上、ウマ娘をリリースしている会社が作った公式のWebサイトを開けば、可愛らしいキャラクター達が表示される。サイトの中にあるキャラクターページを更に開き、少なからず競走馬に関係する牧場に身を置く中で過去にその活躍が耳に入ってきた名前を目で追いながら、俗におじさんと呼ばれる自分が可愛らしいキャラクター達が並ぶ画面を眺めている事実を居心地悪く感じながら、知識を頭に入れていく。

 暫く画面をスクロールし、大切なデイヴィッドの名前を眺めた後、ハヤタがどこか首を傾げながら教えてくれた「アプリゲーム」の『ウマ娘』を調べた時、リアムは思わず天井を見上げた。

 年齢的にはおじさん、もしかしたらそれを飛び越えてジジイなんて呼ばれる年齢かつ、生まれてこの方娯楽らしい娯楽とは無縁だったリアムに、育成のあれこれ、継承と呼ばれるもの、サポートカードの種類や編成、言語としての日本語を理解出来ても、ゲームの説明としての日本語を理解出来なかった。

 デイヴィッドが登場するのなら少しならば触れたいと思った矢先、想像以上の難問が出されてしまって「ウマ娘のデイヴィッドに会う事が出来ない」という思考に頭の中が支配される。

 どうするか、どうすれば良いのかを、ひたすら考えて、リアムは昔を思い出す。あの時のリアムは今よりもずっと若かったとはいえ、無鉄砲でしかない行動を起こした。年老いてはいるが、あの時のリアムと今のリアムは同一人物で、変わっていない。

 それならば、両頬を叩いてリアムは覚悟を決める。直ぐに理解する事は出来ないが、何時もの様に時間を掛けてゆっくりと進めればどうにかなる筈だ。

 リアムはもう一度ウマ娘の遊び方を目で追った後、一度ページを戻してから他のWebサイトにも目を向ける。初心者向けと題されたものを選び、書かれている内容を読んでいく。

 

「……これは?」

 

 遊び方を調べる中で辿り着いた動画共有サイトに表示された、とあるチャンネルに投稿されていた動画。

 再生回数が多く人気の人なのだろうとリアムは思うが、再生時間は気が遠くなる様な時間を示していて内心で溜め息を吐く。しかし、タイトルには『謎のウマ娘!デイヴィッド育成!』と書いてあったので、序盤だけでも参考に見てみようとサムネイルに触れる。

 読み込みが終わり、投稿した人間のものであろう声が楽しそうに話した後、キャラクターガチャと呼ばれるものを引き始める。銀色や金色、虹色のゲートからウマ娘が飛び出し、10回程「もう一度引く」を繰り返してからの虹色のゲート。開いた先に見えるシルエットに、スピーカーから響く声が興奮に染まる。

 黒髪を揺らした少女が、少しぎこちない笑みを此方に向けている。

 

「やっぱり、慣れないな」

 

 自分の知っている馬がこんな可愛らしい姿になっているなんて。

 リアムの純粋な戸惑いとは正反対に、動画の中からは喜びに染まった声が止まる事なく聞こえてくる。

 慣れた手付きで画面が移動され、デイヴィッドにも与えられた個別のストーリーが流れ始める。

 画面上部、動くデイヴィッドにどこか照れ臭さを感じた。

 

ー酷い夢を見る。残酷な夢だ。地獄の様な夢だ。

 

 BGMもない画面の中に文章が表示され、同じ文章を淡々と、静かな声が読み上げる。

 楽しそうにしていた動画の声が、一転、困惑した様に「え?」と言った。

 だが、リアムは与えられた文章と声を誰よりも深く理解して、誰に聞かせるでも、返事が返ってくる訳でもない1人の空間で頷く。

 

「あぁ、そうだな。お前は酷い場所にいた」

 

ー眠る度、見る夢に怯えて、いつしか自分の心を守ろうと何も感じなくなった。

 

「……お前は、いつからか俺の言葉にも反応しなくなった」

 

ーだけど、ひとつだけ、地獄の底で見えた暖かい光があった。

 

「優しい人達に助けて貰えた。だから、もう一度青空の下をデイヴは歩けた」

 

ーわたしは、彼に、有難うを、言いたくて。

 

「彼? あぁ、あの時に助けてくれたのは男の人だったからな……有難うを言いたいのは、俺の方なのに」

 

 クールな見た目に合った、落ち着いた声。

 儚さを感じさせる絹糸の音。

 一瞬たりとも忘れた事がない思い出が、声に導かれる様にして溢れ出す。

 

「デイヴィッド……俺の、デイヴ。そっちのセカイなら、また明日(・・・・)が来てくれるのか?」

 

 理解は出来なくても、嫌悪感は持っていなかったからか、リアムはストーリーが始まってから直ぐに主張し始めた涙腺を無視するのに必死になっていた。

 どんな世界になっても、どんな姿になっても、リアム・ベネットがこれまでも、これからも変わらずに願うのは一つだけ。

 

 デイヴィッドに、沢山の幸運が降り注ぎます様に。

 

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