I will always love you! 作:リアム
After the scary face, smile.
中山金杯を明日に控えた今日、グラウンドには6人のウマ娘が集まっている。
1人は俺が担当するデイヴィッド。残りの5人は先輩にお願いして急遽集まって貰ったウマ娘達。
「それにしてもマジのマジで急過ぎるんだよね」
「本当にすみません。有難う御座います!」
隣に立つ、先輩へ頭を下げる。先輩は良いよ〜と相変わらずの笑みで手を振った。
俺はストレッチを終えたデイヴィッドを呼び、今日の目的を伝える。
「分かった」
「よし。って言ってもまぁ、本番は明日だし、駄目だった場合はもうしょうが無いんだけど、宝塚や有馬への準備だと思ってくれれば」
「う、ん、」
俺達の会話が終わった所でタイミング良く先輩がやっていくよと笛を吹く。
スタート位置に並ぶ6人のウマ娘。
デイヴィッドが最内でスタート後他の5人がデイヴィッドを囲んでプレッシャーを与えて貰う様にお願いしている。
デイヴィッド以外は全員が沢山のレースに出走して、経験を積んできた俺達よりもずっと「勝負を知る子達」である。
「それじゃあ、やってくよ〜。えぇと……芝2000。本気で走るというよりも、デイヴちゃんへプレッシャーゴーゴーで宜しく〜」
「「「「「はいっ!」」」」」
揃った挨拶が響き渡った後、スタートの合図で一斉に走り出す。緩めのペースで最初のコーナーを回り、デイヴィッドを他のウマ娘達が囲む。前、横、後ろと抜け出すのも少し苦労する程にしっかりと。
「これで、どうなるか。だねぇ」
「はい。デイヴィッドがバ群に囲まれる事が苦手だった場合、走りの選択肢が狭まってしまう。重賞レースとなれば周りを囲まれるし、集団になっている所へ立ち向かわなければいけない場合だってある。できれば、できれば、苦手じゃない方が良いのですが」
「確かにね〜って、おっ。もう向こう正面、今の所は大丈夫そうだけど」
先輩からの言葉に促され、双眼鏡を覗く。歩様や表情の乱れは無い。淡々と何時もの走りを続けている。
プレッシャーを与えられている中であれだけ変わりが無いのなら、本番への心配はあまりしなくて大丈夫だろう。
そのまま何事も無く3、4コーナーを回ってゴールの線を通過する。
「お疲れ様!どうだった?」
「……だ、いじょう、ぶ……?」
「そっか。良かった。明日は練習した通り、体力を残しながら前目についてラストの直線で爆発!って感じで」
「う、ん!がん、がん、ばる……!」
「頑張ろう!デイヴィッド!それじゃあ、少し休憩してもう一本!……先輩、もう一本お願いしても良いですか?」
「ん〜。いいよぉ、後輩には沢山胸を貸せって教えられてっからね。じゃ、次は明日に影響が出ない程度に本気でやってみっか!デイヴちゃんは大丈夫かい?」
「は、……は、い……!だ、だい、だいじょうぶ……で、す……」
軽い休憩を挟み、もう一度同じ距離を走る。今度は先程よりもスピードを上げ、より本番に近付けた形になる。
それでも、デイヴィッドの様子に違いはない。
「本当はさ、断ろうかと思ったんだよね」
向こう正面、最初と同じタイミングで先輩が口を開く。
そうなんですかと返してみれば淡々と頷かれる。
「君の前で、そして彼女にも失礼だけどデイヴィッドって名前。悪い意味で偶に聞いてたからさ」
「……そう、ですね」
「でも、杞憂だった。というか私は噂に乗せられたダメな人間だった。あの子は、全然普通のウマ娘だ」
ゴールを駆け抜けて、スピードを緩めながら立ち止まった向こうでデイヴィッドは徐に胸の位置にまで手を上げて、指をごちゃごちゃと動かした。
何をしようと思ったのか分からなかったけれど、もしかしてと思いサムズアップをしてみる。そうしたら、デイヴィッドは俺の真似をして同じ形を作った。
「あんな良い顔するんだから、変な事をする様なタイプじゃないもんね」
先輩が笑って、先輩の担当するウマ娘達がお疲れと叫んでデイヴィッドを打って変わって優しい顔で囲む。
彼女の表情は殆ど変わらない。昔と違う所を挙げるのならばほんの少しだけ口角が上がっている事だけだ。
「えぇ。あの子は、昔からとても可愛い子なんですよ」
先輩がもう一度大きく笑って、お前は父親か!と俺の背中を叩いた。