I will always love you!   作:リアム

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A ragged victory.

 

This is your power.

 

「Have a blast」と言われ、持ち上げられたトレーナーの手に合わせる様に、わたしの手を持ち上げる。

風も無く、晴天の中ゼッケンを付けた15人のわたし以外のウマ娘達。

わたしとは違う身体付きで、わたしとは違うやる気に満ちた表情で、数度しか無い気温の中ゲートに向かう。

地下道から出て、芝生の上に脚を置く。沢山使われて、ボロボロの所もあるけれど、ぬかるんだりはしておらず問題無い。

 

「頑張れー!デイヴー!!」

 

耳が動く。

視線を動かして、お客さんの中にお母さんとお父さんを見つけて、ふわふわと不思議な気持ちになる。気合いを入れる為に小さく頷いて、ゲートへと向かう。

その途中、わたしを助けてくれた八百屋さんのおじさんが見えてもっとほわほわした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5番のゲートに入って、目の前が開けた瞬間に一歩を踏み出す。

同級生らしき子達や、お姉さん。沢山のウマ娘達に囲まれながらトレーナーから教えられた通り、前の方で位置を取り坂を登る。

グンと脚に負荷が掛かるのを感じながら焦らず、確実に乗り越えて最初のコーナーを回る。

 

「(ロスを、最小限に……!)」

 

ほんの少しスピードを緩めてキツいコーナーを超え、目線を動かして周りを確認する。

大逃げをしているウマ娘が一人、それに続く子が一人、後は距離が開いてわたしのほんの少し前と、ほぼ並んだ状態の子が合わせて三人。残りはわたし達より後方にいる。

 

「(次のコーナーを回ったら、下り坂になる)」

 

ゴウゴウと風を切り裂く音が頭に響いて、辛うじて聞こえるのは近くにいるウマ娘の呼吸のみ。

フッ、フッと息を整えながら長く続いた上り坂を越え、二つ目のコーナーに入る。

誰もがロスを無くそうと身体が近くなる。鍛えられた身体が迫って来る、それだけで身体の小さいわたしには大きな圧力となって襲い掛かる。

コーナーを回って、下り坂。

 

「(まだ、動かない。焦らないで、大丈夫……!)」

 

スピードが乗り、わたしを追い越して行くウマ娘達の背中を見ながら必死に脚を制御する。

直線。小さくなった背中しか見えない大逃げのウマ娘、それを追うウマ娘と、下り坂でスピードに乗ったウマ娘。

わたしの前は6人くらいのウマ娘が走っている。

 

「(1000メートルを切って、タイムは多分1分丁度くらい。逃げている子がいるから、少し早い)」

 

それでも、焦らない、虎視眈々と教えられた通りに走る、

トレーナーが“君は強い”って言ってくれたから、その言葉を信じて、ひたすらに走る。

直線コースを進んでじわりじわりと隊列に動きが生まれる。トレーナーが、「ナカヤマのコースは早めに動く子がいるかもしれない」と教えてくれた通りの動き。そして、それと比例してわたしも先程以上に囲まれる。きっと、こうなっても大丈夫かをトレーナーは確認したんだ。

でも、わたしは大丈夫。

三つ目のコーナーを曲がって視界の右側に残り600メートルを伝える印が見えて、それを通過する。

 

「(この辺りで前へ動く!)」

 

溜めていた脚を動かして隙間を縫い先頭集団に加わる。

最後のコーナーを超えて、見える後ろ姿は沢山じゃ無くて、スタートしてからずっと見ていた2人と下り坂で先頭に進んだもう1人。

 

「(あと3人、抜けば良い)」

 

脚にグッと力を込める。

ナカヤマの短い直線。ラストスパート。

 

リトル・レッドはTHxと鳴く

 

 

 

左脚、強く強く芝を蹴り前へ飛ぶ。

右脚、着地したそのままにもう一度芝を蹴って前へ飛ぶ。

左脚、一瞬の違和感。

 

力が抜けるでも無く、着地を失敗したでも無く、筋肉が攣った痛みも無く、ただ一瞬の違和感。

その一瞬は、勝負の世界において、何十秒、何百秒にもなり得る隙。

 

4番目だった立ち位置が、別のウマ娘のものになる。

 

「(どうして、なんで、踏み込みが変。あれ、可笑しい)」

 

順位を抜かされる。

頭の中がぐちゃぐちゃして、ラストスパートのやり方が分からなくなる。

 

「(ど、どう、すれ、わたし、あれ、負け、い、や)」

 

「いや、だ……!!」

 

感じた事も無い焦燥と不安に襲われて、ラストスパートを掛ける時と同じ様に地面を強く強く脚で未来を考えずただ我武者羅に蹴り上げ、目の前に見えた隙間を無理矢理縫い上げる。

走れ、走れ、走れ、走れ、走れ。

脚を地面に叩き付けて、芝を抉る。

回転数を上げろ。前と距離があろうが、上り坂があろうが、全てを燃やせば、前に届く。

 

「……あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!!」

 

ほんの少し、大きなレースと比べてシンプルなゴールを通過したのが見えて、ガクガクと揺れる脚を緩める。

人生の中、怖い夢を見た時以外ではやった事もない激しい呼吸。頭も、肺も、全身が酸素を求めて心臓がバグバグと音を立てている。

見上げた掲示板、Iの部分に映し出されたのは「5」。

 

それだけを見て、震える脚で、ユラユラと揺れる視界を携えて地下道へと歩く。無理矢理走ってしまったから、控え室に戻って脚を冷そう。

そして、作戦を忘れてしまった事を謝ろう。

 

カコン、カコンとバランスの悪い脚が音を奏でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デイヴッッッッ!!!」

 

控え室に向かう最中、トレーナーが叫ぶ。

どうやら、わたしの事を先に待っていてくれたらしい。

 

「トレー、ナー。か、かっ、勝った「そんな事より脚は!?!!?」……よ……」

 

肩を掴まれ、見た事も無い表情で言われ、気圧されながら首を振る。

でも、トレーナーの顔は晴れなくてごめんねと言われて優しく脚を触られる。

 

「問題は、無さ、そう……良かった。あぁ!本当に、良かった……!!」

 

最後のコーナーの前で一瞬可笑しくなったから心配した。らしい、場違いでもよく分かったなと思った。

問題が無いのなら、この違和感は何なのだろうか。

走っている途中で靴の中に石でも入ったのかと仮定して控え室の中で靴紐を解く。

 

「……これは」

「こわ、れ、てる……」

 

靴の裏、蹄鉄を打ち込んだそこに本来の形で銀色は無く、折れた様に千切れた様に、使い古された様相で存在していた。

 

「これ、前に打ったのはいつ?」

「ほ、本番の、ま、えだと……な、れなくて、ダメかな、って……きのう、トレー、ニング、まえに……」

「でも昨日のトレーニングは蹄鉄がこんなになるキッカケを作る程の負荷なんて掛けてなかった。つまり、今日のレース、あの一瞬でこの状態になるまでに、したのか……」

「ど、ど、とうし、よう」

「いや。蹄鉄自体は大丈夫だよ。問題は、途中で蹄鉄が不揃いな状態であの走りをした君の方だ。俺が触診した感覚では特に問題は無かったけれど、大事を見てこのまま病院に行こう。良いかな?」

「あ、で、でも……お父さんとお母さん、いた。おじさんも……」

「それなら俺が連絡を入れておくよ、大丈夫」

「わ、分かっ、た」

 

トレーナーが頷いて、何処かに電話を掛ける。

暫くして車椅子を押したヒト達がやって来て、わたしはそのまま病院に運ばれ、検査を受ける。

少し長い時間を掛けた後、お医者さんが口にしたのは「問題無し」の6文字。そして、凄い筋肉痛が来るよという怖い囁き。

 

トレーナーと一緒に診察室を出れば、最初に目に入ったお母さんの涙。

心配したと抱き締められて、御免なさいと手を回す。

心配したよと肩に手を置かれた後、おめでとうと言われ有難うと返す。

トレーナーから手紙を渡されて宛名を見れば少し特徴的な「千萱」の文字。ちゃんとお返し出すんだよと言われ、頷く。

 

わたしはこんなにも沢山の人を心配させた。

だけど、皆に見せたかった一番は獲れた。

 

「ぼくは、強かった?」

 

勿論よ。と頷かれる。

レースの途中でトレーナーから教えられた作戦は全部頭から消えていた。

ただ、何も考えず必死に走っていた。

 

「僕の……力……?」

 

勿論だよ。おめでとう。

と、トレーナーに頭を撫でられた。

 

次は無理しないでね。という声が、静かな廊下に響いていた。

 

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