I will always love you!   作:リアム

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Festival.

 

Best Appeal.

 

ファン大感謝祭。学園内に沢山のお客さんとウマ娘が混ざり合いながら溢れて、色とりどりの音がそこらじゅうで奏でられている。

屋台が開かれ、イベントが開催され、様々な笑顔が溢れている。

 

そんな騒がしくも楽しい世界からは一転、盛り上がりのある中心地から外れた場所にあるベンチに1人のウマ娘が座り、困惑で顔を染めている。

 

「……わた、しは……何、する?」

 

そのウマ娘はとあるトレーナーと契約を結んでいるウマ娘、デイヴィッド。彼女は少し前まで自己の主張が苦手で、また協調性というものも全くと言って良い程に希薄だった。

トレーナーや、デイヴィッドに目を掛けてくれる友人、練習を共にした他のウマ娘達のお陰でその「悪癖」とも呼べるそれは随分と解消されているが、仕方の無い事だったとはいえ今までの行動の所為でデイヴィッドがこの大感謝祭で何かを頼まれる事は無かった。自分から「やります!」と声を上げようと思った時には既にコミュニティが完成し切って、全てが回り始めてしまっていた。

 

「何、も……しない?」

 

少し耳を澄ませば幸せな音が聞こえてくる。デイヴィッドは感じた事のない胸の違和感から意識を無理矢理逸らして、無意識に畳む様にした耳を治す事も無くその音へ意識を向け続けた。

怠惰と言われようが、何もしない。デイヴィッドがトレセン学園に入学した時から変わらない。今更「何かをしたい、できるかもしれない」という考えになるのはきっと、遅過ぎた。

しかし、何かをしたいという気持ちが湧いてくるだけデイヴィッドからしたら成長である。

 

「今、更、わたしの手……なんて、必要、無い」

 

ベンチの上で身体を小さくして、目を閉じる。

今なら、楽しい夢が見られる気がする。とデイヴィッドは期待を込めた。

 

 

 

学園の端に設置されたベンチの上で眠るデイヴィッドの身体を揺するウマ娘がいる。騒がしい場所から離れ、静かな場所でおーいと声を掛けながらデイヴィッドが目を開けるのを期待しながらそのウマ娘は肩に手を置き続ける。

そして、少しして眠っていたデイヴィッドが空色の瞳を見せる。

デイヴィッドを起こそうとしていた芦毛のウマ娘は嬉しそうに「起きた!」と声を上げ、パーソナルスペースを気にせずに顔をずいと近付ける。デイヴィッドの身体が背もたれに止められながらもほんの少し後ろに下がった。

 

「あの!突然こんな事言うのも失礼なんですけど、今暇ですか!!!」

「暇……?や、ることは……何、も、無い……です……」

「良かった!あの、私は向こうでイベントを主催しているのですが、ちょっと人数が足りなくなっちゃって、失礼ですが手伝って貰えませんか!」

「え、あ、わたし、が……?」

「はい!!!お願いします!!」

「あ、えっ、と……分かり、ました……?」

 

勢いは強かったものの、案外不安だったのか芦毛のウマ娘はデイヴィッドからの言葉にガッツポーズをして、勢い良く頭を下げてお礼を言う。

そのまま同じ勢いで一瞬だけ離された手をもう一度掴み、デイヴィッドの手を引く。

 

「それじゃあ行きましょう!」

 

勢いに負けたのと、緊張のお陰で「名前はなんですか?」という簡単な一言も言えないままデイヴィッドは手を引かれるままに走って行く。人間では少し驚くくらいのスピードで尻尾を揺らし、とある部屋へとデイヴィッドは招き入れられた。

 

 

 

広い土地を使って、設営された大きなステージ。明るい時間ではあるが、惜しみなく沢山のライトを使い飾り付けられた長方形の場所をドレスやスーツ、勝負服とはまた違う煌びやかな衣装を身に纏ったウマ娘達が歩く。

所謂ファッションショーと世間で言われるイベントは今年の大感謝祭でも特に注目がされている目玉であり、観客には学園に属するウマ娘は勿論、人間のお客さんで大いに賑わっている。

 

「着、ました……」

「うん!!やっぱり私の目に狂いは無かった!もう少しで……えぇと……御免なさい、名前をまだ聞いてませんでしたね。私はヒメヤブラン!」

「あ……わたし、ガー……違う、デイヴィッド。デイヴィッド、です」

「宜しくね、デイヴィッドさん!それで、もう少しで順番がくるからデイヴィッドさんの番になったらランウェイを歩いて、一番前まで行ったらクルッとターンして戻って来て欲しいです。あ!ターンの前後ではアピールとかしても大丈夫だからね!ガチガチのコレクションって訳じゃ無いし、そこまで気張らなくて大丈夫です!ピースとかして良いし、なんなら衣装を壊さなかったらアクロバットとかもして大丈夫なので!」

「はい。分かり……ました……」

 

一人、また一人衣装を身に纏ったウマ娘がランウェイから戻り、入れ替わる様にして待機していたウマ娘がランウェイへと歩いて行く。

デイヴィッドの隣に立っていた栗毛のウマ娘が刺繍が美しい淡いオレンジ色のドレスのスカートの裾を軽く持ち上げランウェイへと上がる。日常的に行なっているトレーニングのお陰か、はたまた慣れているのか高いヒールでも真っ直ぐに背筋を伸ばして惚れ惚れする姿で歩いて行く。

ヒメヤブランと名乗ったウマ娘から小さな声で「次だよ」と言われて頷き、デイヴィッドは見様見真似で身に纏った衣装を整える。

深い青色を基調としたコミックの中の王子様にも見える、恐らくロリィタに分類される衣装。小さな帽子の位置を整えて、胸のリボンタイが曲がっていないのか確認してデイヴィッドの1人前、栗毛のウマ娘が戻って来たのを確認して、入れ替わる様にデイヴィッドがランウェイへ上がる。

真っ白なステージに脚を踏み出した瞬間に感じる沢山の視線。裏側からでは見えなかった情報量に思わず脚が止まりそうになるのを抑えて、平静を装いながら長い道を歩く。

 

デイヴィッドは考える。

こういう時、どんな顔、どんな動きをすれば良いのかを必死に探し回って、小さい時に見たニュース番組で流れていたどこかの国で行われた大きなランウェイの映像を思い出す。

背筋を伸ばし、目線は真っ直ぐ、衣装を纏うマネキンとして慣れないながらも精一杯を果たそうと努力する。

テレビの中で歩いていたモデルの女性はどんな衣装でも似合う格好良いヒトだった。

デイヴィッドは、記憶の中にいるヒトを真似する様に脚を進める。

先頭に辿り着いたら、アピールをしても良い。

 

(何を、しようか)

 

緊張の波が引いて、デイヴィッドはほんの少しワクワクした気持ちで考えていた。

 

 

 

トレセン学園、ファン大感謝祭。

予告された瞬間からイベントの目玉とされていたイベントの一つ、『ウマ娘プリティーファッションショー』。集められた数十人のウマ娘達がランウェイを歩き、様々なブランドから寄贈されたり、手作りされた衣装を身に纏ってアマチュアながらも本物のランウェイの様な本格的な形に、観客は盛り上がり、時々見惚れた様に息を吐く。

プリティーファッションショー、名残惜しくも最後の出演者とされていたウマ娘がステージ上に姿を現す。

コツコツと太いヒールの音を響かせてランウェイの真ん中を歩く黒髪と空色の瞳を持つウマ娘。

その姿はまるで御伽噺の王子様で、中性的な見た目と相まって観客の誰かがホッと息を吐く。

糸で吊ったかの様なブレない体幹、真っ直ぐな瞳は揺れる事がなくミステリアスで惚れ惚れする格好良さを表現する。

BGMと共に学園内から届く楽しそうな声が混ざり合っている筈なのに、ランウェイが行われているステージだけは酷く静かである。

歩いて来たウマ娘は、世界の真ん中で立ち止まり、襟元に付けられた小さなマイクで大勢に声を届ける。

 

「あの、ぼく。は、デイヴィッド……です。6月の、宝塚、記念に出たいです。一着も、取りたい……応援、宜しく……お願いします」

 

見た目から受け取るイメージよりは少しばかり幼い雰囲気を感じさせる声で、恥ずかしそうに蝶にも見える瞳孔を揺らしてその一言だけを言うと、美しいターンを見せて少しばかり早くなった足取りでステージ裏へと戻って行く。

 

いじらしい姿、見た目と反する可愛らしい挙動、そして興味を持った人間の心を奪う強い勝ち方のレース映像。

現代らしくSNSの力でデイヴィッドが歩いたランウェイの動画が拡散されると、静かにゆっくり、名前と存在を広めていった。

 

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