I will always love you! 作:リアム
My reason for running.
「そういえば、デイヴィッドはどうしてトレセン学園に来たのだ?」
親分がふと、そんな事を口にする。
学園を選んだ理由。周りと比べたら少しタイミングは遅いかもしれないが、至って普通のよくある質問にわたしはどう答えようかと考える。
トレセン学園を選んだ理由。わたしの場合はとても簡単で、深い理由なんて無い。しかし、それをそのまま口にして伝わるだろうかという不安に襲われる。
「笑い、ませんか?」
「なんなのだ。ウインディちゃんとデイヴィッドの仲なのだ、笑うなんて事はしないのだ」
「……そ、う、ですか」
わたしがこの場所に来た理由。
暗い世界、強張る身体、幻肢痛に似た痛み、罵倒の言葉。
頭の中で再生されそうになる苦しい幻を振り切る様に頭を振って、親分からの質問に答える為に思考を変える。
「わたし、は、ずっと痛い事を……されます。打たれて、怒られて、脅さ、れ、て……とても怖い、毎日、でした」
口から出た言葉に、親分の顔が険しくなる。見た事も無い表情にわたしの方が恐怖を覚える。
いや、待って。わたしは今、何を話した?数秒前溢した言葉をもう一度見つめて反芻する。
そうして、いかに自分が愚かな事を口にしたのか認識する。
「あ、いや、ちが!くて……!ゆ、めの話なんで、す!本当に夢の話で……えっと、それで」
親分の表情は晴れない。でも、世界中のウマ娘が時折訴える「非科学的だ」なんて言葉ではどうにも説明ができない摩訶不思議な縁の話が広まっている今、不服そうに一時の頷きをしてくれる。
「その、夢の中……苦しい、だけ、の世界で……唯一、頭を撫でてくれたヒトが、いるんです……“怖がらないで”って、“もう大丈夫だぞ”って……その言葉のお陰でわたしは生き続ける事が、できて……だから、わたしは、そのヒトに何か、したくて……でも、夢の中のヒトに、言葉なんて掛けられないから、現実にいるかも、分からないから……せめて、大きなレースに出て、わたしは大丈夫だぞって、証明、したくて……この学園に、来ました」
言葉を口にする度、声が小さくなる。わたし自身で話し始めておきながら、沢山の記憶を整理する中で作られたツギハギの怖い夢の話を真面目に考えるなんて、あまりにも非現実的な話でうんざりする。
それなのに、親分は怖い顔から一転して凄く優しい顔で「そっか」と言ってくれる。こんな可笑しい話をあたかもあなたは正常なのだと伝える様に、笑って受け入れてくれる。
「じゃあ、出たいって言ってる有馬記念は絶対勝たなきゃ駄目なのだ。有馬記念を勝ったウマ娘として、表彰台の上で勝ったのだ〜って叫ばないと駄目なのだ」
「うん……頑張りたい、頑張る」
「ウインディちゃんも、親分として見ててやるからな!なのだ!」
「あり、がとう。お天気、晴れてたら良いな……青空の下で、やったぞ〜!って、言えた、方が素敵……だもんね」
親分から案外ロマンチストなのだ言われて、そうかなと首を傾げる。
目指すは有馬記念制覇。だけど、今現在の目標はファン投票で選ばれる事。
そして、
例え幻だとしても僕を救ってくれたヒトヘ“有難う”を。
夢の中、
僕に言ってくれた言葉への答えを。