I will always love you!   作:リアム

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独白

 

麝香撫子の愛

 

私には絶対に揺るがない大切なものが2つある。

1つは世界に1人しかいない愛する旦那さんと、1つは世界に1人しかいない愛娘。

数十年前はレースが一番でそれ以上に愛せるものなんて思っていなかったけれど、価値観というものは様々な要因によって変わる。現に私が変わってしまった。

 

今でも覚えている。忘れる訳が無い。

旦那さんの手を壊してしまうのではないかと心配になる程握り締めて、ほんの少し時間を掛けて生まれてきてくれた子。

最初、息をしていないなんて先生達が口にした時、本当に世界の音が無くなって時間が止まった様だった。でも、直ぐに息をしてくれて泣き声が響き渡った時全員で安心して、タオルに包まれた小さな身体を見て自然と涙が溢れていた。

 

生まれてきてくれた娘、デイヴィッドはとても明るくて優しくて、全身で感情を表現して走るのが大好きだった。

保育園で行われたウマ娘かけっこ大会で一位になった時なんて「未来のG1バね」と笑い合った。

時間を重ねて、全身で感情を表現するのは年相応に落ち着いてしまったけれど、それでも明るくて元気な部分は変わらなくて、頑張ってトレセン学園に行くんだって話していたある日、彼女は不可解な現象に悩まされる様になった。

 

「怖い夢を見るから眠るのが怖い」

 

まるでホラー映画を見た後の様な沈んだ顔で言われた時、私はまだそうなのねと思うだけだった。じゃあ、久し振りに一緒に寝てみようかと言って川の字に寝転んだ後、漸くデイヴィッドの苦しさを理解した。

あれは、例えるなら命乞いだ。

辞めて、御免なさい、眠りながら身体を必死に小さくして叫ぶデイヴィッドは正に異様で、直ぐに学校を休ませて話を聞いた。理由が分からないと泣く彼女を専門知識の無い私達には治療ができないからと病院にも行った。でも、回復するばかりか症状は徐々に悪化するばかり。

 

トレセン学園から合格通知が届いた時にはデイヴィッドの心はギリギリだった。提案するのも苦しかったけれど、受験を辞めようか?と聞いた時の痩せた頬を無理矢理笑わせて大丈夫だよと言う姿を見て、どうして私は何も出来ないんだと当事者でもないのに苦しくなった。それでも合格できる高いレベルの成績を本番で出せたのはきっと、執念もしくは火事場の馬鹿力と言うのだろうか。

 

「おはよう!デイヴィッド!」

 

せめて私達は明るくあれと昔と変わらない声色で挨拶をしてデイヴィッドの顔を見た時、どうして。と思った。

挨拶が返ってこなくなった。

毎朝お代わりをするくらい沢山食べる子だったのが、食べて良いんだよと言わなければ食べなくなった。お代わりもしなくなった。

キラキラした晴れた空みたいな綺麗な瞳は、色を変えた。

ゆっくりと、時間を掛けて小さな心に掛かり続けたストレスをデイヴィッドは受け止めきれなくなった。

 

ピカピカの制服を見に纏う満開の笑顔を咲かせた同級生の中で、同じピカピカの制服を見に纏う無表情のデイヴィッド。

何か、彼女の運命が変わる事を願ってトレセン学園での生活を見守る事にしたけれど、本当は気が気でなくて毎日の様にメールや手紙を送ってしまった。

 

何も変わらず、返事もこないまま時間が経った。

デイヴィッドが入学してから模擬レース、公式のレースに出走するウマ娘を確認しても彼女の名前が載る事は無かった。

 

ほんの少し、日常が変わったのはデイヴィッドの同級生である子達がクラシックレースを走り終わって少し経った後、新入生と混じってメイクデビューレースに確かに「デイヴィッド」と名前が載っていた。

お昼寝をしていた旦那さんを思わず揺り起こして2人で嘘じゃない!と騒ぎ合って、良かったと旦那さんと手を繋ぎながら泣いた。メイクデビューで無事出走した姿を見てまた泣いて、一番にゴールを通り過ぎたのを見てまた泣いた。

彼女の心を掬い上げてくれるトレーナーさんがいたのだと安心した。

 

「……あの子、次は、有馬記念だね」

「あぁ。楽しみだね」

 

画面に映るランキング。思わずスクリーンショットもしてしまった有馬記念の人気投票結果。前回の宝塚記念から2倍以上、10万人に夢を託されて10位の位置にデイヴィッドの名前があった。私も出走した事のない大舞台。

彼女は変わった。

レースで勝利して、大晦日なんて久しく見れなくなっていたけれど私達にとっては見慣れた笑顔で顔を出してくれた。

ウマ娘として、目指すのは勝利ではあるけれど、実は私が望む事はもう無い。だって、愛する娘の笑顔と、生き生きとした姿をもう一度見る事が出来ているのだから。

 

「だから、自分らしく走っておいで」

 

貴方によく似合う青空を背に、がんばれ、頑張れ、デイヴィッド。

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