I will always love you!   作:リアム

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My run.

 

今日は日本中が少しソワソワとしている。その理由は、間違いなく暮れの大レース『有馬記念』がこれから行われるからだろう。

俺も、今日はよく眠れなかった。

一度体験した事のある空気感とは言えど、きっと慣れる事はない。

鏡の前に立って確認し切った身なりを再び確認して、気持ちを落ち着ける為にも首筋に練り香水を付けて控え室へと歩く。

 

「……今、大丈夫か?」

 

ノックを4回。扉越しに声を掛ければ、くぐもった声で入室を許可する合図。静かに部屋の中へと入れば、汚れ一つない綺麗な勝負服を見に纏ったデイヴィッドが立っている。

問題はないなと確認した所で、気付く。靴が違う。

宝塚記念の時に履いていた靴ではなく元々、勝負服に合わせられていた規定通りの靴。本当なら何も可笑しくはないけれど、頭にあるイメージとは違ったからと聞いてみたら、練習で履き潰してしまったのだとデイヴィッドは言う。

それはそうだ。と思う。6月に使い始めて、今はもう12月だ。毎日履いていなかったとは言え消耗品なのだから、使えなくなって当たり前。逆に、俺のプレゼントを使えなくなるまで履いてくれた事が嬉しい。

靴は慣らしてあるか?と聞けば、問題ないと返される。確かによく目を凝らせば少しの使用感を感じる跡が付いていた。

 

「それなら、準備は大丈夫そうだね」

「うん。バッチリだよ」

 

自身ありげに笑うデイヴィッドに釣られて緊張が解けていく。何があったのか数日前からデイヴィッドはより一層感情を表に出して、やる気を漲らせていた。

どうしたんだ。なんて聞いてみれば、有馬記念のレースを一番見せたい人を思い出したのだと言う。

今日も見に来てくれる愛する家族や、助けてくれた千萱さんともう一人、これまで顔すら分からなかった人。その昔、教えてくれた“彼”に出会えたのだと言う。

 

「君の走り、沢山の人に見せつけてやろう。この大舞台で」

「うん……!私の走りを、届けてみせる」

 

コツンとお互いの拳を合わせる。レース前にやっているいつものおまじない。

出会った頃、笑う事のなかった彼女が少しでも走る事を楽しんでくれたらと使い始めた言葉。捻りもなくストレートに「楽しい時間を過ごしてね」という願い。

 

「Have a Blast.デイヴィッド」

「Have a Blast.トレーナー」

 

俺は、スキルも経験も足りない新人トレーナーだ。

でも、こんな俺と契約してくれた彼女を大舞台に立たせる事ができた。

運が良かったのかもしれない。偶々かもしれない。本当は俺の力なんて何もなくてデイヴィッド一人の力かもしれない。

でも、この場所に来るまでほんの少し俺が手伝った事実は変わらない。

 

「7枠14番。外枠だと惜しい結果が多い有馬記念だけど、いつも通り落ち着いてやっていこう」

「逆に私の姿がお客さんに見て貰い易くて助かるね」

「ははっ!言うじゃねぇの!」

 

緊張なんてしない。

後はもう、楽しむ気持ちだけだ。

地下道から歩いて行くデイヴィッドの背を見送って、観客席へと歩く。

一人の人間が、指揮棒を振り上げ音楽が奏でられる。

あぁ。始まる。

 

彼女の大舞台が。

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