I will always love you! 作:リアム
けれど、ほんの少しだけ寄り道を。
私がサブカルチャーというものが好きになったきっかけはきっと、昔見た子供向けのアニメーションだ。
現代と比べ分厚くて小さな画面だったテレビの中に映る可愛い女の子達が目標に向かって直向き努力する物語が、私は大好きだった。放送日になると友人と遊ぶ事もせず真っ直ぐ家へ走ってテレビの前に座り、心を躍らせながら自分もその世界に行けたらと何度も考えた。
そして、大好きなアニメーションから始まり成長と共に触れる様になったインターネットで出会ったのが「声優」というお仕事だった。
当たり前ではあるが、私は憧れた女の子達と同じ世界では生きられない。でも、その世界を支える一つになる事は出来る。
しかし、インターネットで声優を調べる度に厳しい世界なのだと理解させられた。数ヶ月毎に変わるアニメーションの作品に名を連ねている方は一部の上澄みも上澄みで、主人公に相当するキャラクターなんて何年も同じ人が作品を飛び越えながら担当している事もザラ。私なんかが今から声優になろうと行動しても、死ぬ前までに名前の無いキャラクターを担当できれば御の字といった所だろう。
だから、私は高校から先の進学先に声優の専門学校を選ぶ事は無かった。両親は「好きな事をやりなさい。特に、身体が元気な内は特に」と言ってくれたけど、声優に憧れはすれど、夢は見れない私に勇気は無かった。
私は自分の身の丈にあったレベルの中から興味がある学科の大学に進学して、バイトなんかをしながら、サークル等で演劇をしようと思っていた。
きっかけは声優発掘オーディションをWeb広告で見つけ、興味関心のままに参加したこと。
声優という職に夢は見ていない。それは本心で変わらない考えである。
だけど、体験をする事に人生のマイナスとなる要素は無いだろうと思って有名な人も所属している事務所が主催しているオーディションに挑戦した。
「未経験でも大丈夫」と謳われてはいるものの、私以外の応募者はきっとボイストレーニングや演技のレッスンを受けているのだろうと思いながら、書類を送る。
最終審査まで行って、合格して、特典として紹介されている事務所所属とか養成所特待生なんて栄誉が掴めてしまったらと、期待をしていない割にもしもを考えてみたら少しだけワクワクした。
一次審査を通過したメールが届いて私の眠れる才能が?とほんの少し飛び跳ねた。二次審査では面接もあり、自分の意思ははっきりと伝え対応してくれたスタッフさんとも和気藹々とした雰囲気でコミュニケーションを取れたと安心しながら思い出として心に刻み込んだ。二次審査が終わって暫く、最終審査へお越し下さいという内容のメールが届いた時、思わず携帯を落としそうになって、なんの技術も無い私が本当に良いのですか?と心配になった。
確かに、趣味として沢山の映像作品を見ていたから、サンプルとして読む台本に込める感情のイメージは付け易かった。
それでも、なんて自己嫌悪に似た感情を持ちながらもやれる所までと私は完全素人のまま、付け焼き刃の滑舌トレーニングをして最終審査へと踏み出した。
とある日に届いた文章を何回も読んで、送り先を間違えていないのかと確認して、本当に私で良いのかと「間違えました」のメールを何日も待った。
それでも、私が生きる世界は現実だから結果が変わる事は無い。
想像していなかった結果を得た時、人間はどうしようという感覚に襲われる。こんな事になるとは思っておらず、大人と形容される年齢だから良いかとオーディション関係の話を何も共有していなかった両親へ急いでメッセージを送った。そして、帰ってきた言葉はおめでとうの明るい反応と「やってみれば良いんじゃない?」だった。
声優という仕事をあまり知らないからこその言葉なのか、それとも過去に言ってくれた「好きな事をやりなさい。特に、身体が元気な内は特に」というスタンスが今でも変わらないからなのか、娘が突然言い出したよく分からないものに対しても両親は大きな懐で受け止めてくれた。
だからこそ私は、両親の優しさを存分に貰って挑戦をしてみようという決意と、声優を辞めるリミットを決めた。
25歳を過ぎた頃に何も成し得ていなかったら廃業する。
万が一に定めたタイムリミットギリギリで役に選ばれたその時は、その子がゴールテープを切るまで副業をしながらでも必ず面倒をみる。
私はアニメーションのキャラクターに憧れた。
声に憧れたのでは無い、キャラクターに憧れた。
だから、目標とする声優はいないし、表現の一つとなってきている歌って踊るという事もしたく無かった。個人的に歌って踊るのはキャラクター本人としてステージに上がれる人だけだと思っている。私は、憧れるだけでキャラクター本人になれると思えないから、きっと、ステージに上がれない。
そんな私の大きな挑戦と、人生における少しの寄り道を。
声優、となって早一年。オーディションでのやり取りで良い印象を持って頂いたのか、今の所ガヤとしてある程度の作品に参加していて、エンディングに私の名前がある事を喜びながら声優人生を歩んでいた最中、ちょっとした用事があり、事務所へと赴いたタイミングで私の事をよく気に掛けて下さるスタッフさんに声を掛けられ、脚を止める。
「浅葱さん。とあるゲームキャラクターのオーディションがあって、参加するかどうかの確認をしても良いかな?」
「ゲームのキャラクター……はい、参加したいです。お願いします」
「分かった。後で書類を送るから確認をしておいてね」
「分かりました。有難う御座います」
ゲームのキャラクター。これまでに参加してきたのはアニメのオーディションが主だったから、新しい経験を積めるのはとても楽しみだ。
「……それじゃあ、台本のセリフを読んでくれるかな」
「はい」
オーディション当日、マイクの前で所属と名前、台本に書かれたセリフを読む。
私が一際ゲームに疎いだけで世の中ではとても人気のあるタイトルらしく、事前に作品を調べた時の熱量で胃もたれを起こしそうになりながらも作品への敬意を持ってマイクの前に立つ。
台本には見慣れたフォントで少しの台詞が印刷されているばかりで大きな情報を得る事は出来ない。
それでも、まだ文字でしか存在していないこの子は、か細い呼吸しか出来ないくらい繊細で、直ぐに自分という糸が切れてしまいそうな存在が薄い雰囲気の女の子。
私はそのイメージを大切に“自分”という存在を希釈する。目の前に立つ相手に声は聞こえるけれど、雑音となって第三者には届かない。感情はあるけれど、それは最低限、今は髪の毛分の太さ程で良い。
事務所に載っている私のボイスサンプルは憧れたキャラクターと同じで元気が第一印象。でも、この子は、それと正反対。オーディションを担当している方を温度差で椅子から転げ落としてしまうくらいのイメージで、薄氷を隔てて激情が透ける程度に。
オーディションを受けてから数ヶ月後。
誘ってくれた時と同じスタッフさんが嬉しそうに封筒を渡され、おめでとう!と言われる。
その言葉の理解が出来ないまま促されて封筒の中身を見る。
「合格……ですか?私が?」
「そうだよ!あらためておめでとう!」
「有難う、御座い、ます……。誠心誠意、責任を持って担当させて頂きます……!」
「浅葱さんとしては初めての名前があるキャラクターだから、これからお披露目までドキドキだね」
「……そう、ですね。はい。とっても」
受かってしまった。激しく心臓が動き、困惑と嬉しさが同時にやってくるこの感情と出会うのは、オーディションに合格した通知がきた日以来だ。
私の声を選んで頂いた。大変喜ばしい。
だが、私は大きな感情が湧き上がった事で失念していた。
私が受けたオーディション、つまりこれからお世話になる作品である『ウマ娘プリティーダービー』は、ライブイベントをしているコンテンツだ。
勿論、私がライブイベントに出るのかと言われれば、分からない。それは作品に携わる偉い人が決める事だ。
だけど、可能性はある。
私はキャラクター本人としてステージに上がれるだろうか。喜びから一転、不安に襲われる。
けれど、結局辿り着く答えは簡単で、悩んでいようが、不安になろうが、人生、やってみなきゃ分からないのである。
◯浅葱永羽
本日12:00より、私がボイスのお手伝いをしました『ウマ娘プリティーダービー』に新しくウマ娘「デイヴィッド」が登場しました。
トレーナーの皆様とご縁がありますように。
彼女と歩む時間を楽しんで下さいね。
どうぞ、宜しくお願い致します。