I will always love you!   作:リアム

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Arima Kinen.

 

I'm a joy to run.

 

【宝塚記念に続く2度目のグランプリ“有馬記念”は晴天にも恵まれましてバ場状態は良の発表となりました!観客席にも多くのファンが来場しています!】

 

スピーカーから流れるアナウンスを聞きながら、芝の上に脚を乗せる。踝までを覆うそれは数多の勝負を支えてきた形跡はあるけれど、しっかりと整備されていて最高級の舞台を用意して貰ったのだと分かる。

ゲートまで向かう途中に私の名前が紹介され、お客さんの中から「頑張れ」と声がする。

とても、嬉しいと思う。

昔は感じる事のなかった喜び。沢山のウマ達が望む舞台に立っている事への有り難さ。

 

「……大丈夫、勝とう」

「お!なになに?またワタシを差し切るって?」

 

背後から突然抱き付かれて、尻尾が上がる。

顔だけで振り向けば前回、宝塚記念の時に最後まで競り合ったグラジオアイビーさんが立っていた。表情や口調は明るいけれど、瞳の奥は何か熱いものが燃え盛っている。

 

「今回、ワタシはもっと精度を上げてきたぞ?ワタシだけじゃない、ここにいる奴ら全員だ。今回も前回と同じになると思うなよ」

 

息が詰まるかの様な重圧感。

G1レースの常連とも言えるグラジオアイビーさんの言葉は重く、それ故に生々しい。つい最近走り始めた私なんかの心では太刀打ちなんて出来るはずがない。

 

「それでも勝ちます。今回も、私が」

「……良いね。その勝手さ、ワタシと同じだ」

 

良い試合にしよう!

小走りで前へ行ってしまう彼女の背を見る。私はこの場所に立つ皆と比べて誰よりも抱えているものは少ないだろう。気持ちだって心の中の多くを占めるのが「この世界にいない誰かに向けての勝利」なんてふざけているけれど、これが私だ。デイヴィッドなんだ。

 

「……ま、間に合ったのだ!頑張るのだー!!!」

 

いつの間にか終わっていたアナウンスのお陰で少し静まったレース場の中に、聞き馴染みのある声が響く。

用事があるから来られるか分からないと申し訳なさそうにしていた大好きな親分の姿。

 

「!……頑張り、ます!」

「勝つのだ!デイヴィッド!」

「はい!」

 

親分が私に向けたサムズアップを、私も同じ様に返す。

トレーナーとのおまじない。家族からのハグ。おじさんからの差し入れ。ネオユニヴァースからの激励。親分からの応援。

沢山貰った。今の私は絶好調だ。

これで勝たなきゃ、魂が廃るってものだ。

 

【運命の瞬間に向けて、第 回有馬記念。今、スタートしました!!!】

 

 

 

その昔、ハヤタさんやアサカワさんと休憩時間に話している時、聞かれた事がある。

「“もしも”でしかないが、デイヴィッドがちゃんと走れたらどれくらい強かったのだろう」と。フランクなテンションで聞かれてはいるものの、その表情はとても真面目だ。

 

「そうだな。三冠に、トラヴァーズ、ブリーダーズカップ……数々のレコードを記録して、海外に遠征して……流石に欲張り過ぎか?」

 

俺の言葉にハヤカワさんはそんな事ないよ!と叫んで、ハヤタさんは言うのはタダだぜと笑う。

 

「しかし、こんな事言うのもなんだが、俺はレースの成績で優劣を決める事はできない。そもそも、どんなレースに勝つと凄くて、何をすれば栄誉なのかよく分かっていないんだ。今だって有名な名前を出しただけで、昔は、生きるので手一杯だったから仕事以外には意識が向かなかった」

 

あの子がダートに脚を乗せる時、常に考えていたのは“無事”だった。日常的に苦しい毎日を過ごしているのにレースでも何か起こったら耐えられる気がしなかった。

だからこそ、あの子が一着になったあの瞬間は誰よりも声を上げて、周りの奴らに“なんだこいつは”と笑われた。でも、うれしかったんだから仕方ない。

 

もしもの話だ。

あの子が、デイヴィッドが健康に元気良く走れたとして、アメリカに留まらず世界へ挑戦したとしよう。

その時は、ゲームの様な成績を残したのだろうか。デイヴィッドはダートをよく走っていたから、難しいか?

いや、日本の馬で二刀流と称された芝もダートも走れるサラブレッドを知っている。

きっと、デイヴィッドならその二刀流とやらになれるはずだ。

 

「……流石にオヤバカだな」

 

 

 

【有馬記念は残り1000メートルを通過して未だ先頭はグラジオアイビー!後続には10バ身以上の差があるが、表情にはまだ余裕があるぞ!?!?レースが動き始める勝負所ではありますが、後ろのウマ娘達は届くのか!!!2番手にはコンシャアゲートが追走する形!!!】

 

遥か彼方を走る彼女の背に追い付く為に、溜め込んだスタミナを使って前に出る。沢山練習した小回りのコースを最大限に活かす回り方でロスの無い、完璧な状態で走ってこれた。

中山レース場は他のレース場と比べて早い位置からレースが動く。私の様にスタミナに自信のある子達が仕掛けて、短い最終直線と反比例する長い長いスタミナ勝負。

1人、2人、3人、と外から抜いて行き徐々に彼女の背に近付く。しかし、グラジオアイビーさんは2つの冠と複数のタイトルを持った強者だ。私の動きは離れていてもバレているだろうし、ラストスパートに使う力だって残している筈。

 

あぁ!楽しいな!

 

今まで感じることのなかった感情。ビリビリと痺れる感覚。ほんの少し、髪の毛程の歯車がズレた瞬間、私は負ける。

最後のコーナーを回る。後は300メートルの直線とキツい上り坂。

トレーナーと何度も話し合って、後悔しないからと決めた作戦。

全ての力を使って踏み込む。泣いても笑っても最後なら、血の一滴も流れない程に全力でぶつかろう。

 

リトル・レッドはTHxと鳴く

 

世界の色は、今だけいらない。残りの数十秒は純粋無垢ながむしゃらな全力勝負。ピッタリと横にいて、追い抜かす事のできないオレンジ色の影。私と、同じ色を持つ彼女の楽しそうな顔。無色透明な中、唯一あの人と見上げた青空だけが主張する。

勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい!

 

届け。いや、届かせるッ!

 

 

 

【残り300メートル!先頭はグラジオアイビーだがあの大きな差はなくなってきている!これからは上り坂!14番デイヴィッドと16番アトラース大外枠の2人が猛追!!!コンシャアゲートは少し苦しいか!!!】

 

どこかの世界で「さぁ、夢を見よう」とキャッチコピーが使われたテレビCMが放送された様に、今日、中山レース場には数多くの夢を見た人間やウマ娘達が押し寄せている。

例えば応援する子を見に来た。例えば友達が出走している。例えばいつか自分もこの場所にと。例えば家族の勇姿を見に。

様々な感情を剥き出しにレース場が揺れる。

 

掲示板越しにしか見えなかったウマ娘達がコーナーを回り蹄鉄を地面に突き刺す音が響く。

先頭は明るいオレンジの髪を靡かせた二冠ウマ娘「グラシオアイビー」。

それを捉えんとするのがグランプリウマ娘の「デイヴィッド」と生粋のステイヤーでありながらグラジオアイビーとライバル関係の「アトラース」。

出走メンバーの内、半分以上がG1のタイトルを獲った経験のあるあまりにもハイレベルな戦い。

 

「頑張れ、いけ、デイヴィッド!!!!」

「デイヴーっっっ!!!!頑張れーーー!!!!!」

「デイヴ……!」

「デイヴィッド!お前ならやれるのだー!」

 

歓声に紛れて叫ぶ。

けれど、この場所でそれを咎める者なんていない。全員が其々の夢を応援している。

 

「やらせねぇ!やらせねぇ!やらせねぇ!!!」

 

「僕が勝つんだ!!!」

 

「行かせ、ない!」

 

何万人という観客に見られている事なんて気にせず、必死の形相でフォームもウイニングライブも明日の事も考えていない走り方。

ほぼ横並び状態の3人と、誰にも譲らないと最後まで諦めずその背中に噛み付き続けるウマ娘達によってほぼ一団となった状態で彩られたゴールを通過する。

世界がやっと呼吸の方法を思い出す。

また息の詰まるビデオ判定のアナウンス。

 

5分、10分、15分、どれだけの時間が経ったのか。

祈り続ける人、結果は気にしない人、誰々が勝つと声を荒げる人、様々な人が其々の方法で時が過ぎるのを待つ。

ジジッとスピーカーから音がして、男性の声が淡々とレース結果を告げる。

ターフの上で何人かのウマ娘達が一斉に電光掲示板を見上げる。

 

V 5

IV 3

III 16

I 14

I 2

 

「……同着、同着だっ!」

 

観客の中、誰かが興奮した様に声を上げる。

たっぷりと時間を使って何偽りなく出た答え。誰も反論する事の無い結果。

 

「オイオイオイ!同着だってさぁ!本来ならスパッと順位が分かるのが最高だが、こんな晴れ舞台での同着も珍しい……って、泣いてんのか?」

 

グラジオアイビーがデイヴィッドの肩に腕を回し興奮した様に話し掛けるが、その声は溢れた嗚咽によって止められてしまう。

ボロボロと涙を流しながら、意味が分からないと言わんばかりの困惑を浮かべてデイヴィッドはゴシゴシと目の周りを擦る。

 

「オイ……そんな事をするもんじゃねぇぞ」

 

グラジオアイビーはデイヴィッドの手を掴み、汚れのない綺麗な袖を優しく目元に押し当てる。

そして、力強くその身体を抱き締めて「またやられたな」と笑った。

 

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