I will always love you! 作:リアム
可愛らしい蝶々のアップリケが付いたエプロンを身に付け、ショートカットの黒髪を揺らしたウマ娘が両腕を上げてギュと伸びをします。
このウマ娘が府中から九州にやって来てからほんの少しの時間が経ち、コミュニケーションも上手く出来るようになってきました。
「おーい、デイヴちゃーん!休憩終わるよー!」
「はーいっ!」
投げ掛けられた声にデイヴと呼ばれたウマ娘は笑顔で答え、歩いて行きます。
その最中、デイヴはポツリと言葉を溢します。
それはどこかの世界にいる誰かへ向けた言葉なのかもしれません。
今日も、ウマ娘の髪を優しい風が揺らしています。
これからも続いていく、
プラスチックのバケツの中にカップで測りながら飼料と、好みに合わせて小さく切った人参やリンゴなどを入れて軽く掻き混ぜる。それを台車の上に乗せて、壁を叩いたり嘶いたりしながらサイソクしてくる馬達の元へ届ける。
変わらないルーティンと、いつもと変わらない優しい風が頬を撫でる。何でも無い日ではあるけれど、俺個人の話題で言うなら今日はデイヴィッドの命日だった。
そして、有難い事に天気予報では曇りと言われていた今日は、奇跡的に晴天となった。
休憩時間、デイヴィッドの墓の前で手を合わせる。日本に来る前は墓参りなんて習慣も、そもそも埋葬の瞬間にすら殆どいなかった俺も、今や日本式のトムライカタが身に付いている。
閉じていた目を開ける。人間の物と比べると簡素な印の先に記憶によく焼き付いている明るい栗毛の影が揺れる。一瞬驚いた後、肩の力を抜いて、もう一度身体を強張らせる。
デイヴィッドの墓の向こう、そこは只の林となっていて、放牧地なんて場所では無い。考えられるのはただ一つ。
「やばいっ!……って、あれ、」
一歩踏み出した瞬間に、目を離していなかったにも関わらず、まばたきした次の瞬間に栗毛の影が消える。いくらサラブレッドといえど、まばたき程度の時間に姿が消えるなんて事は考え辛い。林だって向こう側が見える程度には隙間がある。
「……ゴースト、か?」
まさか、こんな歳にもなってゴーストを見るとは思わなかったが、先程の影はそう考えなければ、説明がつかない。
でも、もしかしたらと違う考えも浮かんでくる。
「会いに、来てくれたのか」
日本には一年の中で死んだ人がやって来るというイベントがある。サラブレッドもそれをやってくれるのかは分からないけれど、優しいデイヴィッドなら、遊びに来てくれたのかもしれない。
どうせ見間違いか勘違いなのだろうけど、俺はそんな夢を信じたい。
遠くでまだ柔らかい嘶きが響く。俺が今担当している今年生まれた仔馬の一頭。
何度も見た、何度も触れた、何度も共に歩いた、明るい栗毛を持つオトコノコ。
姿と性別だけが似ているだけで、デイヴィッドとは全く違う。あの子は人懐っこい性格だけど、新しく生まれた子はどちらかと言えば落ち着いていてクールな性格だ。
それでも、俺の言う事をよく聞いてくれて、この牧場の中でも手の掛からないズイイチの子だ。
「今、行くよー!」
聞こえる事は無いだろうと思いつつ、声を上げる。そうしたら運良く柔らかい嘶きは止まる。
ザクザクと豊かな色をした地面を長靴で踏んで、呼ばれた方へ歩く。
デイヴィッド。見ているかい?
俺は、今年も新しい愛に出会ったよ。
君に土産話が出来るように、生きているよ。
いつまでも変わらない、俺の、大好きなデイヴィッド。
もし、そうなのだとしたら、また、会いにきてね。