I will always love you! 作:リアム
Memories of the past.
A dream I had at Christmas.
日本のとある県にある牧場で働く男は、扉を開いた馬房の中で水を飲む一頭の馬に赤い帽子を被せる。帽子には先端に白いふわふわとした飾りが付いた、所謂サンタ帽と呼ばれるもので帽子を被せた男は満足げに頷く。
帽子を被せられた栗毛の馬は突然の異物に驚く事も、振り落とす事もせずにされるがまま、水桶から顔を上げた後もジッとしている。
男は、乱雑に地面へ置いたバッグからフィルムカメラを取り出すと「adorbs!」と軽い音を響かせる。
馬房の扉、ぶら下げられたプレートに書かれたデイヴィッドという名前の馬は、強い信頼を寄せる男、リアム・ベネットから褒められているのだと理解し、尻尾を何度も揺らす。
「Dear Dave. This time, can I be in the picture too?」
リアムが言えば、デイヴィッドは勿論と言いたげに身体を寄せる。デジカメとは違い、どう写っているのか、撮った後にどうだったかを確認出来ないフィルムカメラのレンズをリアムは自身と、デイヴィッドが写る様に向けると器用にシャッターを押す。大丈夫か不安だからと、2回、3回と続けた後、リアムはカメラを仕舞う。
そして、今までの趣味の撮影を終え今度は同じバッグからデジカメを取り出すと、デイヴィッドの生活費を出してくれている有志である「カランコエの会」に向けたインターネット公開用のデータを撮る為に、音の出ないシャッターを押す。
「Thanks.気になりましたですね、外せますよ」
被せた帽子を取るとデイヴィッドは頭を振る。リアムは笑うと、首筋を軽く叩き、バッグを手に持つとゆっくり歩いて行く。
すると、デイヴィッドは何を言わずともその後を歩幅を合わせ歩き始める。この牧場では見慣れた光景であり、リアムとデイヴィッドにとっては当たり前の行動だった。
春の穏やかさ、夏の激しさ、秋の彩りが過ぎ、世界を鋭さが突き刺す冬。リアムは一度、身体を震わせると上着のジッパーを上まで上げ再びデイヴィッドの首筋を叩く。
デイヴィッドは、先程リアムが身体を震わせたのを理解したのか、先程よりずっと身体を密着させてリアムの隣を歩く。
「有難う。寒くなくなったみたいだね」
歩き辛くとも身体を寄せ合い、都心部からは随分と離れた静かな牧場の中を歩く。
放牧地にはデイヴィッドを待つ友人とも呼べる他の馬もいて、行っておいでとリアムが放牧地の柵を動かしても、デイヴィッドは動かない。
「本当に、もう寒くないや」
白い息を吐きながら言ったリアムの言葉に、デイヴィッドは酷くゆっくりとした動きで歩き始める。何歩か進んで振り向き、何歩か振り向きを繰り返し、漸く「大丈夫」を納得出来たのか馬の群れに小走りで近付いて行った。
リアムは柵の上に肘を置き、デイヴィッドの姿を見つめる。距離があるからか、歳の所為か、本来人間よりも大きな体格を持つサラブレッド達は今や滲んだ姿にしか見えないが、不思議とデイヴィッドの姿だけは群れに紛れても見つける事が出来た。
ずっとこの場所で見ていたい。
溢れる気持ちに蓋をして、後ろ髪を引かれながらもリアムは踵を返す。昔と違い、リアムにはデイヴィッド以外にも世話を任された他の馬達がいる。
「またあとでね」
聞こえなくても軽く手を振り放牧地から離れて行くリアムの事を感じ取ったのか、デイヴィッドは顔を上げ同じく豆粒サイズの背中が離れて行くのを見つめていた。
何度も聞いて、覚えてしまった足音を鳴らして僕のベイが来てくれる。その時の僕は水を飲んでいたから直ぐに顔が上げられなかったけれど、何か頭に乗せられたのが分かった。
乗せられたものがどういうものなのか、僕には分からないけれど、ベイがやる事だから怖くはなかった。それに、顔を上げた僕に小さな四角を向けて可愛いと言われたから、見えなくてもなんだか嬉しい。
四角を向けられて、今度はベイが側に来てくれる。僕は、それだけで幸せになってしまうから、その身体に近付いてしまう。ベイはいつも、なんだか不思議な匂いを付けている。例えるならそう、遠くで葉っぱとかを燃やした時みたいな。僕に言葉があれば、聞けるのに。
ベイが僕に向けていた四角を仕舞って歩いて行く。僕はそれに着いて行く。
ベイは変わった空気に身体を震わせていたから、僕はまた身体を寄せる。ベイが昔、僕にしてくれた事を、僕もやる。ベイが僕に笑顔をくれて、僕も嬉しくなる。
一緒に歩いて、お友達がいる場所に辿り着く。ベイとまだ一緒にいたくて、何度もベイの顔を見る。でも、ベイはさっきみたいに身体を震わせていなかったから、僕はお友達の所へ向かう。
この場所のお友達は皆、優しい。僕が何も出来なくても、理由もなく怖がってしまっても、意地悪な事をしなかった。大丈夫って聞いてくれた。仲間に混ぜてくれた。
今日も、僕が近付いたらこんにちはって挨拶をしてくれて、僕もこんにちはって挨拶をする。
一緒に歩いたり、地面に寝転んだり、少なくなってきた草を食べてみたり。遊んでいれば、ベイの声が聞こえた気がして顔を上げる。
ベイは僕がいた家の方に戻って行ってしまった。きっと、オシゴトがあるのだと思う。
少し寂しいけれど、ベイの邪魔はしたくないから、頑張れって言いながらその背中を見送った。
目覚まし時計の音に導かれ、ウマ娘のデイヴィッドは目を開ける。季節柄か、酷く大きく聞こえる目覚ましから流れる騒がしい音を消すと、シンと世界は静まり返ってアンバランスに感じる。
デイヴィッドは未だ薄暗い部屋の中、キュッと胸の辺りを握る。
幸せな夢を見た。内容は覚えていないけれど、全身に残る幸せな感覚から覚めないで欲しいとも思ったかもしれない。
「Happy Christmas……だね」
今日という日が招いた奇跡なのだと、部屋に掛けられたカレンダーを見つめながら、デイヴィッドは嬉しそうに笑った。