I will always love you!   作:リアム

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とある牧場の話です。
朝、パソコンのフォルダに一通のメールが届いていました。牧場は求人を出していたのでそれについてかと思いましたが、子供が文字を打ったかの様な有り様で悪戯かと思いました。
だけど、その内容はあまりにも危機迫る事を伝えてきていました。
「話だけでも聞いてみようか」
メールを読んだ中年の男はとてつも無く、お人好でした。
 


I didn't know.

 

Her secret?

 

一つの机の上に書類を広げ、向かい合わせで書き込んでいく。

俺の良く言えば癖のある、普通に言えば読み辛い字と違って、デイヴィッドの字は綺麗だけどその雰囲気と変わらない繊細さがあった。

 

「……うん!これで全部かな。有難う。改めて、本当にごめん。でも……!君を全力でサポートするから、宜しくね」

 

受け取った書類を大切にファイルへと挟み、コピーを目の前のウマ娘へと渡す。それを鞄の中へ仕舞う仕草の中にも相変わらず表情の違い無いし、言葉を交わす事も無い。

BGMなんて流れていない、外からトレーニングをするウマ娘や他のトレーナーの声ばかりが部屋に流れて、この場所はお互いの呼吸音だけが残っている。

 

「えっと、それじゃあ定型文の質問ではあるんだけど、君は、デイヴィッドはどんなレースに出たいかな?」

「……わ、分かり、ま、せん」

「うん。まぁ、最初はそうだよね。なら、得意な距離でレースを探してみよう。ザックリで大丈夫なんだけど、短距離・中距離・長距離だとどこが得意とかはある?」

「分か、ら、無い。で、す」

「成る程。最初はそうだよね。じゃあ、まずはグラウンドで走ってみようか。そこから得意な距離とか、トレーニングで伸ばせる距離をみつけていこう」

「……はい」

「良し。じゃあ今から軽く走ろっか、ジャージに着替えてグラウンドに集合。時間とか予定は大丈夫そう?」

 

ほんの少し、髪の毛が緩く揺れるだけの頷き。

それを確認して俺はストップウォッチや、バインダー、筆記具など諸々を手にして先にグラウンドへと歩く。

プラスチック製のカゴの中に入れた道具セットを端に置いて怪我に繋がりそうな危険物が落ちていないか、グラウンド上に不備が無いかを歩いて確認する。

丁度一周回ってゴール地点へと戻って来れば、タイミング良くジャージに着替えたデイヴィッドが立っているのが見えて、そのまま流れ作業で記録用紙を挟んだバインダーを持ち、ストップウォッチを首から下げる。

 

「えっと、取り敢えず1200から始めよう。それが終わったら休憩を挟みつつ1600、2000、2400、3000って感じで実際にレースで使われる距離を走っていこう。2400と3000は疲れの事も考えて、別日でも大丈夫だから辛かったら気兼ね無く言ってね」

 

頷き。

了承が取れた所でストレッチをして貰い、スタート位置にデイヴィッドを向かわせる。

デイヴィッドから少し離れたスタート位置の端に俺は立ち、ストップウォッチを片手に手を挙げる。

 

「じゃ、準備は良いね。

 

 

よーい……ドンっ!」

 

俺の合図と共にデイヴィッドは緑の地面に蹄鉄を突き刺しながら走り始めた。

画面の中で数字が刻まれていく。

入学したて、もしくはジュニア級には到底思えない綺麗なフォームでデイヴィッドは走っていた。

 

1:07.8

1:33.6

1:58.9

2:22.7

3:04.6

 

真っ白な紙に写った黒い線が表すそれは、まだトレーナーになって直ぐの俺には理解ができなかった。

 

「ねぇ、デイヴィッド。今まで走りを習っていた事はある?」

 

 

「じゃあ、私と出会う前、チームに所属していた事は?」

 

 

 

「……なら、これは君の、能力なの、か」

 

俺もトレーナーの端くれとして歴史に残る様々なレースを見てきて、学んで、理解してきたつもりだった。

これは、デイヴィッドが出したタイムは全て本番のレースでのレコードに迫るものだ。それがメイクデビュー前、少なくとも走っていた記録が無いウマ娘に出せるものなのか?それも、こんな幅広い距離で。

ゾクリと恐怖にも似た感情が背筋を走る。こんな数字、見た事が無い。これが偶々の偶然なら珍記録的なものとして受け入れられるだろう。でも、彼女の能力が「そう」なのだとしたら?

 

「……デイヴィッド。これは提案なんだけどさ、“クラシック”を目指してみないか?」

 

考える余地も無く起こる頷き。

それを見て自分の中に数多くのプランが浮かび上がる。この子なら、デイヴィッドならきっとクラシック三冠だって夢じゃない。今、こうして走って貰った記録だけでも抱えている才能は未知数で、夢がある。

まずは、理事長へのクラシック出走届を出さなくてはいけない。確か、最初の受付が開始されていた筈だ。

クールダウンの諸々を終わらせ、デイヴィッドと別れた後出走届に全てを書き込み、理事長室へと走った。

 

 

 

 

 

「陳謝ッ!我々はこの書類を受け取る事が出来ないッ!」

「な、ど、どうしてですか?もしかして書き損じが……?」

「嫌。そうでは無くて、だな……」

 

いつもは溌剌とした姿である事が多い理事長の珍しく言い淀む姿。書類の書き損じで無いとするならば、何故なのだろうか。しっかりとカレンダーを確認して、クラシック出走届の提出期間には間に合っている事は分かっている。

 

「トレーナーさん。落ち着いて聞いて下さい」

「……たづなさん?」

 

申し訳なさそうな理事長の事を気遣ってか、秘書のたづなさんが前に出る。

真剣な顔で落ち着いて下さいねと言われたその雰囲気に思わず背筋が伸びる。

 

「その、ですね。大変申し上げにくいのですが、貴方が担当するデイヴィッドさんは既にクラシック級が“終わっている”んです」

 

「………………へ?」

 

たづなさんからの言葉に思わず間抜けな声が漏れたのが分かった。

それでも、俺のこんな姿に笑う事も無く言葉を続ける。

 

「ですので、書き損じでは無く、受け取る事自体、出来ないんです」

 

 

 

俺の叫び声が理事長室の中に響き渡った。

 

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