王国の歴史を振り返ると、過去にユリアスの討伐隊を出した事が幾度かある。唯一の討伐成功例が、数代前の国王、バルタザールが単独でユリアスを討伐し、ユリアスの封印に成功している。
しかし、それ以外の討伐隊は、どれもが皆殺しにされた上、その責任は国王にあると国民から見なされ、国王の支持率の低下を招き、クーデターや反乱のきっかけに繋がっている。ユリアスに手を出すと災いに繋がると恐れられ、それ故にユリアスに対しては不干渉を貫いてきた。(※1)
そのため、今回はユリアスを討伐したいが、仮に失敗したとしてもあまり大々的したくない思惑もあり、大規模な部隊ではなく、単独の騎士にユリアスを討伐させる事にした。そして、そのため、王国軍最強の騎士であると皆から称されているエリカに白羽の矢が立った。
エリカは王国の騎士であると同時に姫直属のメイドでもあった。そのため、基本的には命令は姫から下される。だが、ちょうど姫が外遊中(※2)であったため、その機会を見計らって国王はエリカを呼びつける。
「王よ、私に何のご用でしょうか?」
「エリカよ。お前に討伐命令を下す」
「討伐命令、ですか?」
「うむ。古から災いをまき散らすヴァンパイア、ユリアス・フォルモンドに多くの国民が騙され、群がっている。このままではいつどんな惨事に繋がるか想像もつかない。そのため、お前にこのヴァンパイアを討伐してきて欲しい」
「お言葉ですが王よ、私はユリアス・フォルモンドとは一時期、行動を共にした事があり、わずかではありますが、彼の事を知っています。彼の興味は力と闘争だけです。戦う力のない者に不必要に自身の力を誇示するような趣味はありません。恐らく、今の状態も問題ないと思われます」
「いいや分からぬ。ヤツは人間じゃない、ヴァンパイアなのだぞ。いつどんな心変わりがあるか全く想像がつかん。さっさと始末してしまうのが王国のためなのだ」
「ですが、今の彼は民の役に立っている様子で、むしろ好ましい傾向かと思われますが?」
「問答無用、王に意見するなど許さぬ、身の程を
「はっ、申し訳ありませんでした・・」
そうしてエリカは不本意ながらユリアスを討伐する命令を受ける事になった。しかし、まともに闘ってもユリアスに勝てない事はエリカ自身が身をもってよく分かっていた。しかも、仮に討伐が失敗に終わった場合、恐らくエリカはその責任を取らされるだろうと感じた。
王にはどうあっても逆らえない。逆らえば反逆罪、討伐に失敗しても責任を取らされる。かと言ってユリアスに勝てる可能性など微塵もない。
ましてや、今のユリアスの国民への治療行為に対して敬意は抱いても、憎悪の念は一切ない。そんな気持ちでユリアスに刃を向ける事ができるのだろうか。
何がどう転んでも、処刑される未来しか見えない。エリカはただ、死を覚悟した。
(姫様に、最後に一目、お会いしたかった・・)
そして翌日、エリカは馬に乗り、従者を一人伴って、ユリアスの屋敷に向けて出発したのだった。
続く☆
※1 不干渉を貫いてきた
正確には、バルタザールに封印された後、ユリアス覚醒以降に一度エリカがユリアス討伐に赴き返り討ちにあっている。
※2 外遊
視察や外交などを目的に外国へ行くこと。決して遊んでいる訳ではない。