俺の親友はスカートを履くらしい   作:ガンガンいこうぜ!

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俺の親友はスカートを履くらしい

「ど、どう……かな?」

 

「……」

部屋に入って、一番に頭を埋め尽くしたのは驚愕だ。

まず、状況を整理しよう。

最近不登校気味の親友から呼び出され、親友の部屋に行ったら、親友がスカートを履いていた。

言葉だけ見れば、別に驚愕するような状況ではないだろう。それはあくまで、言葉だけ見ればの話だが。

これに、視覚と事前の情報が加われば、俺が驚愕に埋め尽くされたことにも納得がいくだろう。

まず、俺の親友の部屋は、こんなに女子っぽくなかった。

前の部屋にも、姉から貰ったらしい可愛い人形や、レースが付いたクッションがあった。

それでも、男子中学生の部屋というくらいには、男子中学生らしいさというものがあった。

だが、今の部屋は、完全に女子の部屋だ。なんかいい匂いするし。

部屋には、何も入らないような小さなバックや、どこかのファッションブランドの箱が、壁の棚に飾られていた。

そして、何よりも大事なことは目の前にいる親友の性別だ。

俺の間違いじゃなければ、親友の性別は男のはずだ。

制服も、普段着も、水着も、俺が見てきた中では、すべて男用だった。

……予兆がなかったわけではない。

中2の……冬ぐらいか?

その時から急に髪を伸ばし始めたし、部屋に可愛いものが増えた気がする。

……それにしても、スカート似合ってるな。こいつが男だってこと忘れそう。

 

「あ……」

掠れた声が、部屋に響く。

それは、俺が沈黙していたせいか、よく響いた。

諦めたような、失望したような、悲しいような、そんな声が俺の鼓膜を叩いた。

 

「ご、ごめんね。変なの見せちゃって……す、すぐ片付けるから……一回、部屋から出てもらっていい?」

俺に顔を背けて言った親友の声は、少し湿っていて、俺のことを拒絶している声色だった。

 

「いや、似合っていると思うぞ」

かけるには遅すぎた言葉を親友に言った。

だが、彼は背を向けたまま、

 

「いいよ別に、気を使わなくても。どうせ他の人と同じで、気持ち悪いって思ってるんでしょ?」

ああ……やっと、わかった。何で最近、不登校気味なのか。

 

「ねぇ……いつまで、そこにいるの?早く出てってよ……」

 

「……瑞希」

 

「もう喋りかけないで……」

明確な拒絶。これ以上の対話は不要とばかりに、俺を部屋から追い出そうとする。

でも、この部屋から出てはいけない気がするんだ。

何か取り返しのつかないようなことが起きる。そんな予感がして。

 

「瑞希、俺は本当に……」

 

「黙ってよ!」

そう言って瑞希は振り返った。

その顔は、泣いていた。

瞳は涙で揺れ、口は理不尽を噛み締めるように震えている。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

みんな、みんな、うるさいんだよ……!

なにさ!あれが好き!これが好き!みんなにもあるでしょ⁉

なのに、ボクが言ったら『気持ち悪い』『扱いに困る』『異常』って、全員口を揃えて言う!……どうしてなの?ボクはただ、わかってほしいだけなのに……」

せきを切ったように吐き出される瑞希の心中。

俺は気が付いたら、瑞希を抱きしめていた。

 

「なんだよ……離してよ……」

 

「……ごめんな。こうすることしかできなくて……」

今の俺の言葉で、瑞希の救うことはできないから。

 

「俺で良ければ瑞希の抱えてること、一緒に抱えさせてくれないか?」

俺にとって瑞希は親友なんだ。

俺は、親友の悩みも痛みも一緒に抱えたい。

かつて、瑞希がそうしてくれたから。

 

「嘘だよ……そんなこと言って、陰でボクのこと笑うんでしょ?」

瑞希は俺の胸に顔を埋め、くぐもった声で言う。

その声は、不安と恐怖に染まっているような気がした。

 

「嘘じゃない」

その言葉に瑞希は顔を上げ、俺を見た。同じくして俺も瑞希を見る。

俺を見る瑞希の目は不安で揺れている。

 

「……本当に?信じてもいいの?ボクのこと裏切らない?」

 

「ああ、絶対に」

 

「……わかった、信じるよ」

体感としては数分経った頃だろうか。

瑞希から返ってきた答えは、肯定。つまり、認めてくれたということ。

 

「でも一つだけ、約束して」

瑞希は俺に抱きついたまま、絞り出すように言う。

 

「何だ?」

 

「ボクに噓、つかないで」

 

「もちろんだ」

何を当たり前のことを。

 

「うん。ならいいや」

瑞希は安心したような顔を浮かべ、俺に体重を預ける。

俺は瑞希の体を傷つけないように、尻もちをつくようにしてカーペットに腰を下ろす。

瑞希の僅かな重みと人肌のぬくもりを感じる。

 

「もう少しだけ、このままでいい?」

俺の胸部にしなだれかかり、俺を見上げ、上目遣いでそう言ってくる瑞希。

 

「ああ、いいぞ」

 

「フフッ、ありがとう」

目を瞑り、俺に体重を預ける瑞希。

3分経った頃だろうか。

スースーと、静かな寝息が聞こえてくる。

寝息の発生源に目を向けると、安らかな顔をした瑞希が俺を抱き枕にして寝ていた。

……起きるまで、このままでいるか。

少し伸びた前髪が、目に入りそうになっていたのを見つけ、撫でるように払う。

段々、俺も眠くなってきた。

そのまま、流れるように意識を落とした。

 

***

 

俺が目を覚ましたのは日が落ちた頃の時間だった。

目を覚ますと瑞希はおらず、部屋に残っていたのは、わずかにだるい体だけだった。

しばらく呆然としていると、どこからか、食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。

その匂いにつられて、部屋を出る。

リビングに近づくにつれて、匂いが増していく。

腹の虫を小さく鳴かせながら、リビングに続く扉に手をかけ扉を引く。

 

「あ、起きたんだ。もうすぐご飯できるから待っててね」

リビングの扉は開いたことに気が付いた、瑞希がこちらに振り向いて言う。

 

「……スカート脱いだんだな」

瑞希の服装は、さっきまでのスカートではなく、ズボンになっていた。

 

「まだ、ちょっと怖くて……」

 

「そっか。……似合っていたのに残念だな」

俺が呟いた言葉は、届かなかったのか料理に集中し始めた瑞希。

しばらく無言が続く。

何となく嫌だったため、瑞希に会話を振る。

 

「ていうか、俺がごちそうになってもいいのか?ご両親は?」

 

「んー?今日遅いって言ってたから、平気だよ。うん……こんな感じかな

できたよ。さ、一緒に食べよ」

瑞希が2人分の料理を机に乗せる。

 

「いただきます」

料理を口に運ぶ。

……美味しい。

 

「どう?おいしい?」

俺の目の前に座った瑞希は、期待半分不安半分といったような目をして、俺に聞いてくる。

 

「すごくおいしい。毎日、食べたいくらい」

 

「ほんとに⁉良かった……」

ほっとしたように、胸をなでおろす瑞希。

だが、すぐにバツの悪そうな顔をする。

 

「どうした?」

 

「えっと、さ……色々、ごめんね。八つ当たりしちゃって」

瑞希の表情に影が差す。

 

「別に気にするな。誰だってあることだ」

 

「うん」

まだ、影が差してる。

 

「……俺は、嬉しかった。お前が色々話してくれて」

そう言うと驚いた表情でこちらを見つめる瑞希。

 

「いつも、お前は一人で抱え込む。誰にも悟らせないように。俺はそれが悲しかった。俺たちは親友のはずだろ?そういうことを一緒に乗り越えるために親友っているんじゃないかって、ずっと思っていた。だから、こうやって、お前が行動してくれたことが嬉しかった。

だから、あー……えっと、つまり、何が言いたいのかって言うと……」

 

「お前は一人じゃない。俺がいつでも傍にいるから、遠慮なく頼ってほしいみたいな?」

 

「フフッ……うん。そうだね。ありがとう」

瑞希の表情はさっきまでの影が晴れ、憑き物が落ちたような、そんな顔になっていた。

 

「じゃあ、早速聞いてほしいんだ。ボクのこと」

そう言って話し始める瑞希の顔は軽やかで、少しだけ照れているような、それでいて最高の笑顔だった。




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