第1話~煌めきはあまりにも眩しい~
小さな頃から、ずっと思っていた。
「マンマル、つつく!」
「ホッホー!」
私はポケモンが好き。バトルが好き、ずっと、ポケモンと一緒にいたい。ポケモンと一緒なら、遠い空をどこまでも飛んでいける気がする。暗い悩みも、荒んだ気持ちも、全部、力に変えて、前向きになれる。いつだって、ポケモンと一緒にいたい。
「私の名前は、
その、ハズだったのに……
「ガッ……ガマガル! “マッドショット”!」
「ガマ…」
「ねっ、ねぇ! 言う事を聞いてよ!」
「モロバレル、”ギガドレイン”」
「バレーッ!」
「あっ……!」
***
『バシャーモ、“ブレイズキック”ですっ!!!』
『シャモーッ!』
『さぁ、チャンピオンせつ
画面の向こうで、蹴撃と一緒に炎が踊っている。
『まだまだっ、いくよウーラオス! 愛さん達のパワー、見せてあげる! キョダイマックス!!!』
『ならばこっちもです! バシャーモ、私達の大好きを滾らせましょう!! メガシンカッ!!!』
両者のポケモンを包む光が、私の目を灼く。その煌めきは……私にとっては眩しすぎて。嫌気が差した私は、そこでスマホを放り投げた。
「……ばぁーか」
誰に言ったわけじゃない愚痴が、部屋に溶けていく。ポケモンに嫌われちゃうような私にか、はたまた、私を嫌うポケモンにか。後者はなんか自分勝手な気もするけど……でも、もしそうだったら。私にはどうすることもできないじゃん。
「お姉ちゃん? お姉ちゃーん!」
ドアの向こうからドタバタと音がしたかと思ったら、妹―ありあが、部屋のドアから顔だけ覗かせる。
「もう、いるんだったら返事してよ」
「はいはい……」
「はいは1回! 今日入学式でしょ!? 遅刻するよ!」
「わかってるってば……朝からうるさいなぁ」
「は~や~く~! 千砂都さんも来てるんだから!」
「は~い……」
そっか。ちぃちゃん、遠いのにわざわざ迎えに来てくれたんだ。ちぃちゃんを待たせるのは流石に悪いか、と私はのそのそと起き上がって制服に着替え始めた。
通学鞄のリュックサックに適当に荷物を詰め込んで、準備OK。最後に、机の片隅に転がっているモンスターボールに手を伸ばしたけれど……これは、今の私には必要のないモノだ。手を引っ込めて、リュックサックのチャックを閉める。
それじゃあ、私も早く行かなきゃ。
***
「マンマル~。キミの瞳は進化しても、やっぱりマンマルだねぇ」
「ピイィーッ」
「おはよ、ちぃちゃん」
「あ、かのんちゃん! うぃっすうぃっす~!」
「マリリー」
階下に行くと、私の幼馴染のちぃちゃんがマンマルに挨拶をしていた。
私の実家はここ、ガイエンタウンで小さな喫茶店を営んでいる。マンマルはその看板ポケモン。マンマルは、ホーホーの頃から面倒見てるからか懐いてくれてるんだよね。
そして、そのマンマルにお熱になっているお団子ヘアーの幼馴染みは、ちぃちゃんこと
私にはまぁるいモノの魅力はわからない……でも、ちぃちゃんの肩に乗ってるマリルは可愛いと思うよ?
「かのん、おはようは?」
「今したじゃん」
「それはちぃちゃんにでしょ? お母さんにもしなさい」
「……おはよう」
「朝ご飯いいの?」
「いらない」
投げやりな返事をお母さんに返す。カウンターに置かれた朝ご飯……今日の献立は、カフェオレ、そしてヒメリのジャムがたっぷり塗られたパン。どっちも私の大好物、なんだけどなぁ……食べる気にはなれなかった。
「こぉ~ら、かのんちゃん。朝ご飯はしっかり食べないとめっ、だよ?」
「ん……じゃぁ、ちょっとだけ」
「ごめんね、ちぃちゃん。私が言っても効かなくて。こうかは ないようだ、なんてね」
「いえいえ」
別にちぃちゃんの言葉が私にこうかばつぐんってワケじゃないけど……もそもそとスロースタートに朝食を食べ始める。5ターン経ったら早くなる、なんて事はありません。
ちょっとだけなんて言いつつも、渋味のないヒメリのジャムが塗られたパンは自然と手が口へと進む。最後の一欠片を口に放り込んで飲み込んでちぃちゃんの方に向き直ると、こちらに手でマルを作っていた。
「うんうん、ちゃぁんと朝ご飯を食べれて偉いよっ! それじゃ、行こっか」
「……うん。マンマル、行ってくるね」
「ホッホ?」
マンマルに挨拶してから、玄関の扉に手をかける。
「かのんっ」
すると、お母さんが私の事を呼び止めた。
「似合ってるわよっ、制服」
「……似合ってないっ」
何を言うかと思えば、そんな事か。私はウンザリとした手つきで玄関のとびらを開けきって、外へスルリと抜け出した。
「それじゃあおばさま、行ってきますっ」
「行ってらっしゃい。ちぃちゃんも似合ってるわよ」
「ありがとうございます!」
ちぃちゃんも、私の後に続く。玄関の扉を閉めると、
「まだ受験の失敗引きずってるの?」
「あの子、ポケモンの事になると繊細だから……」
なんてくぐもった声で聞こえてきた。余計なお世話だ。
「それじゃ、かのんちゃん」
「うんっ……いこっか」
明るい声色で跳ねるちぃちゃんと一緒に、私は最初の一歩を踏み出した。
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